2022年11月4日更新

映画『運び屋』実話をもとにした最高傑作を解説【クリント・イーストウッド監督・主演】

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運び屋、映画、クリント・イーストウッド
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クリント・イーストウッドが10年ぶりに監督・主演を務めたサスペンス映画『運び屋』。伝説の90歳の運び屋の実話をもとにした本作は、「人生は何回でもやり直せる」というメッセージが胸に響きます。 この記事では、映画『運び屋』のあらすじや見どころ、キャストなどを紹介していきます。

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映画『運び屋』のあらすじ【高齢の白人がドラッグの運び屋に……】

とある農園でデイリリーという高級なユリを栽培していたアール・ストーン。品評会でも高評価で、日々栽培に集中していたアールでしたが、家族を省みることができませんでした。数年後、インターネット販売が主流となったにも関わらず、その流れに対応できなかったアールは農園を廃業します。 孫娘の開いたブランチパーティに出席するも、これまで家庭のことなど考えていなかったアールに誰もいい顔はしません。居心地の悪いパーティから抜け出したアールに、とある男が「あんたにピッタリの仕事がある」と声をかけます。 最初は警戒していたものの、虚しさや寂しさから男に教えられたタイヤ工場へ向かうアール。そこで彼は、荷物を車で運ぶよう指示されました。しかし、ただ1つだけ「荷物の中身は覗かないこと」という決まりがあったのです。 言われた通りに荷物を運び、大金を手に入れるアール。その頃麻薬捜査官のコリン・ベイツは、相棒のトレビノと共に麻薬組織の捜査を開始しており……。 実在した90歳の運び屋がなぜこの仕事を選んだのか。彼が抱えていた孤独や悲哀、そして家族との絆などを描いた名作です。

本作はロードムービー?運び屋なのに鼻歌を歌いながらドライブ 

『運び屋』は、90歳の老人が大量のコカインの運び屋を行っていたという実際の報道をもとに製作されました。そのため、主人公・アールが麻薬を運んでいるシーンが中心となっていますが、ドライブシーンはまるでロードムービーのような雰囲気も醸し出されています。 『運び屋』にはサスペンス要素も含まれながらある種の軽やかさもあるのは、主人公・アールの明るさやコメディ性も輝いているから。 アールは誰にも気さくに話しかけられるような陽気な人物ではありますが、家族からは距離を置かれており、彼の中の孤独が運び屋の仕事でさえも魅力的なものにしています。それが彼に残された数少ない居場所だったからです。 ただのサスペンス映画ではない魅力が、この作品には詰まっています。

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アメリカの礎を築いたグレイテストジェネレーションの苦悩 

『運び屋』のアールは、グレイテストジェネレーションと呼ばれる世代の人物。グレイテストジェネレーションとは、第二次世界大戦を経験した後、現代アメリカへと続く基礎を築いてきた世代です。 この世代の人々は稼ぎや国のために仕事を優先せざるを得ず、家族を蔑ろにしてしまうことが少なくありませんでした。アールもその内の1人です。 同じくクリント・イーストウッドが演じた『グラン・トリノ』の主人公コワルスキーもまたグレイテストジェネレーションの1人であり、一心に働いてきたばかりに周りが見えず、孤独な日々を送ることになってしまいます。 彼らの価値観が今では時代遅れとなってしまっており、時代と自分とのズレを感じながらも、自らが犯してきた罪も受け入れていかなければなりません。

グラン・トリノが気になる方はこちら!

“人生は何回でもやり直せる”『運び屋』のメッセージが心に刺さる……! 

アールが運び屋の仕事を続けたのは、孤独な彼にとっての居場所であっただけでなく、またやり直せる唯一の手段であると思わせたから。 その証に、運び屋の仕事で得たお金は、姪の結婚式や学費、お世話になっていたお店の修復費用など、自分ではなく周囲の人々に対して使用しています。それは周囲の人々を幸せにすることによって、再び家族からの信頼を得たかったことを意味しているのです。 高齢となってしまってからもなお「やり直したい」という気持ちを持ち、信じて運び屋の仕事を続けていくアールの姿からは、「人生は何回でもやり直せるのだ」という励ましのメッセージが伝えられているでしょう。

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『運び屋』主人公とイーストウッドの多すぎる共通点

主人公のアールと、アールを演じたイーストウッドは多くの共通点を持っています。2人の年齢や、老いを気にせず進み続けるスタンス、実際には謙虚で穏やかであるというところ、さらには娘との関係性など、イーストウッド自身と重なる点が少なくありません。 『運び屋』が俳優・イーストウッドの集大成としてもっとも自然な演技を見せていると言われているのも、2人の間に分かり合える共通点が数多く存在したからなのでしょうか。

『運び屋』は衝撃の実話サスペンス!イーストウッドは実話映画のプロ?

先にも軽く触れた通り、『運び屋』は実際にあった報道をもとに製作されている映画です。実在の運び屋レオ・シャープが逮捕された記事がニューヨーク・タイムズに掲載されたことをきっかけに、彼を主人公とした作品『運び屋』が動き始めました。 イーストウッドは他にも、『リチャード・ジュエル』(2019)、『15時17分、パリ行き』(2018)、『ハドソン川の奇跡』(2016)、『アメリカン・スナイパー』(2014)など、実話を元とした作品を数々手がけています。 映画を通じて実話を描くことにより、誰もをその出来事の目撃者にしてきたイーストウッド監督。彼は実話映画のプロとも言えるのではないでしょうか。

錚々たる製作陣!超豪華キャストたち 

監督・主演:クリント・イーストウッド

主演を務めたのは、『半魚人の逆襲』(1955)で映画デビューを飾り、『ダーティハリー』(1971)では製作・主演の双方を務めてスターの座を確立したクリント・イーストウッド。『ミリオンダラー・ベイビー』(2005)ではアカデミー作品賞・監督賞を受賞しています。 本作『運び屋』では監督・主演を務めましたが、自身の作品で主演を務めたのは約10年ぶり。10年の時を経てさらに熟成されたイーストウッドの演技と、これまでの集大成とも言えるような自然な演技が多くの話題を呼びました。

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ブラッドリー・クーパー

ドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」(1999)でデビューし、『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009)で一躍大人気に。 『世界にひとつのプレイブック』(2012)ではアカデミー主演男優賞に初ノミネートを遂げ、イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』(2014)では主演を務めました。 『アリー スター誕生』(2018)では監督デビューを飾り、アカデミー作品賞や脚色賞などにノミネートされています。

マイケル・ペーニャ

『ランニング・フリー アフリカの風になる』(1994)でデビューし、人気テレビドラマ「フェリシティの青春」(1999-2000)や「ER 緊急救命室」(2003)などに出演。 イーストウッド監督作品『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)にも出演し、その他には『エンド・オブ・ウォッチ』(2012)や『セザール・チャベス』(2014)などでも活躍しています。

ローレンス・フィッシュバーン

『Cornbread, Earl and Me』(1975)でデビューを飾り、『地獄の黙示録』(1979)や『ランブルフィッシュ』(1983)、『コットンクラブ』(1984)などコッポラ監督作品の常連に。 『ボーイズ’ ン・ザ・フッド』(1991)で人気を集め、『ティナ』(1992)ではアカデミー主演男優賞にノミネートしました。大人気映画『マトリックス』(1999)のモーフィアス役でも知られています。

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アンディ・ガルシア

テレビドラマ「ヒルストリート・ブルース」(1981、1984)、映画『800万の死にざま』(1986)で人気を集め、『アンタッチャブル』(1987)や『ブラック・レイン』(1989)などに続々と出演。 『ゴッドファーザーPARTIII』(1990)ではビンセント・マンチーニ役を演じ、アカデミー助演男優賞にノミネートされました。大人気の「オーシャンズ」シリーズ(2001~07)にも出演しています。

ダイアン・ウィースト

ウッディ・アレン映画の常連として知られる名女優。『ハンナとその姉妹』(1986)と『ブロードウェイと銃弾』(1994)ではアカデミー助演女優賞を受賞し、その他には『セプテンバー』(1987)や『バックマン家の人々』(1989)、『シザーハンズ』(1990)、『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)など数々の名作に出演しています。

脚本家ニック・シェンク

イーストウッドが主演、監督を務めた『グラン・トリノ』(2008)で映画脚本家デビューを果たし、ロバート・ダウニー・Jrとロバート・デュヴァルが親子役を演じた『ジャッジ 裁かれる判事』(2014)でも脚本を務めました。 2021年に公開予定のイーストウッド監督作品『クライ・マッチョ』でもN・リチャード・ナッシュとともに脚本を務めています。

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監督自らが主演『運び屋』は人生の苦悩を丁寧に描いた名作

実在した麻薬の運び屋を描いた作品『運び屋』。サスペンス映画の要素はしっかりと取り入れながらも、グレイテストジェネレーションが抱える孤独や悲哀、捨てきれぬ希望などを丁寧に描き、誰もの心に刺さる作品となっています。 人生はこれからもやり直せるのだろうか?と少し後ろ向きになった時、背中を押してくれる1本です。