映画『エンゼル・ハート』の魅力をネタバレありで解説!【ゆで卵が意味するものとは?】
『エンゼル・ハート』は衝撃のカルトミステリー映画【悪魔のバイブル】
1987年に公開された映画『エンゼル・ハート』。原作であるウィリアム・ヒョーツバーグによる小説『墜ちる天使』は、凄惨な描写があることからアメリカでは廃刊運動が巻き起こり、「悪魔のバイブル」とまで呼ばれました。 名匠として知られるアラン・パーカーが監督を務め、私立探偵のハリー・エンゼル役をミッキー・ロークが、彼にとある調査を依頼する謎の男をロバート・デ・ニーロが演じています。 ※この記事は映画『エンゼル・ハート』のネタバレを含みますので、読み進める際は注意してください。またciatr以外の外部サイトでこの記事を開くと、画像や表などが表示されないことがあります。
映画『エンゼル・ハート』のあらすじをラスト直前まで解説!
謎の紳士から受けた依頼でハリーが巻き込まれる不可解な事件
舞台は1955年のニューヨーク。ブルックリンに探偵事務所を構える私立探偵ハリー・エンゼルは、ある日謎の紳士サイファーから依頼を受けます。 サイファーは、戦前まで歌手ジョニー・リーブリングに目をかけていました。しかしジョニーは戦地で大怪我を負い記憶喪失に。サイファーは彼の帰国後もジョニーが入院した病院から生存証明を毎年受け取っているものの、本当に存在しているのかが怪しく思ってハリーに捜索を依頼したのです。 ハリーは、ジョニーが入院していた病院へ。何者かが書類を偽装していることが分かり、ハリーは主治医のファウラーのもとへと向かいます。すると、ケリーと名乗る男とその連れの女により、ジョニーは病院から連れ去られていたことが判明しました。 一旦ハリーはファウラーの家を離れるものの、再び訪れると彼は亡くなっていたのです。
目的の人物を追って、ハリーはさらに遠くへ……
ハリーは、ジョニーが『スパイダー楽団』に所属しており、ギタリストのトゥーツと親しかったという情報や、婚約者・マーガレットがいたことを知ります。さらに、彼にはイバンジュリンという名の愛人がいたことも明らかとなりました。 ハリーはマーガレットに会いにいくも、話を聞かせてもらえません。また、イバンジュリンはすでに他界しており、ハリーはその娘・エピファニーに接近します。
【衝撃のどんでん返し】ラストシーンを詳しく解説!
その後トゥーツが出演するクラブへ行き問い詰めるも、警備員たちに外へと締め出されるハリー。店を出たトゥーツを追うと、とある儀式でエピファニーが巫女として待っているのを目撃してしまいます。 翌朝ハリーがホテルで寝ていると、トゥーツが何者かによって殺されていることが判明。その後彼がマーガレットのもとを再訪するも、マーガレットも亡くなっていました。そして、ハリーが再びエピファニーのもとを訪ねると、ジョニーがエピファニーの父親だと分かります。 ハリーは、連れ去られたジョニーがかつての知人を次々と殺していると推測し、サイファーに報告。その後ホテルへ戻り、エピファニーと一夜を共にしますが、翌朝にはマーガレットの殺害に関して警察が事情聴取にやってきました。しかしハリーはしらばっくれます。 その後、ケリーの正体はイーサンだと見抜いたハリーは、12年前にジョニーを連れ出した理由を問い詰めます。イーサンは、マーガレットからジョニーを引き離したかった故にジョニーを誘拐。そして彼をニューヨークに置き去りにしたと語ります。
ジョニーは悪魔崇拝者であり、歌手として有名になるために悪魔に魂を売っていました。しかし戦争で大怪我を負ってからは、人生を取り戻したいがために自分と同い年の男性を生贄として捧げていたのです。 その生贄は戦地から戻った兵士、ハリー・エンゼル。ジョニーは、ハリーという男の人生を乗っ取っていました。マーガレットやイーサン、トゥーツ、エピファニーたちも同じく悪魔崇拝者で、ジョニーの秘密を隠していたのでした。 イーサンの話で自分がジョニーであることに気付くハリー。彼がショックによってトイレで嘔吐している間に、イーサンも何者かに殺害されます。 その後、自分がジョニーであることに絶望しているハリーの前にサイファーが現れました。サイファーの本名、「ルイ・サイファー」は魔王「ルシファー」のもじり。サイファーは悪魔だったのです。 そしてこれまでの殺人は、ジョニーの人格となったハリーによるものでした。 サイファーは姿を消し、ハリーがホテルに戻るとエピファニーの遺体を発見します。その後、現場捜査を始めていた刑事がハリーを逮捕し、彼は連行されていきました。
「ゆで卵」は何を意味していた?ラストシーンにつながる伏線を解説
ジョニーを探す依頼主、ルイス・サイファーの秘密
ジョニー捜索の依頼主であった謎の紳士、ルイス・サイファー。その正体は魔王・ルシファーでした。 実は、彼が序盤から逆五芒星の指輪をつけているのも、彼の正体を解き明かすヒントです。逆五芒星とは五芒星(ペンタグラム)を上下逆さまにした図で、悪魔の象徴とされており、デビルスターとも呼ばれています。
「ゆで卵」は何を表していたのか?
作中、サイファーは「ある宗教では卵は魂のシンボルだ」と言い放った後にゆで卵を食すシーンがあります。卵=魂をなんの躊躇いもなく食べるその姿は、彼が何者かであることを示唆しているのです。
血まみれの壁を拭く老婦人に惹きつけられるのはなぜ?
サイファーからの依頼を受けて呼ばれた場所へと向かう途中、ハリーは血まみれの壁を拭いている老婦人になぜか目を奪われてしまいます。 ハリーにサイファーを紹介した弁護士・ワインサップからは「この老婦人の夫が頭を撃って自殺したんだ」と説明を受けるものの、その光景にハリーは惹かれざるを得ませんでした。 ハリーがなぜか人の死に惹かれてしまうのは、本当の彼自身はジョニーであり、若き兵士であったハリー・エンゼルを殺し、その肉体を乗っ取ったという事実が想起されるからです。
ダイナーでハリーの頭の中に流れていた曲は?
ダイナーでハリーが食事をとるシーンでは、ハリーの頭の中にはとあるピアノの旋律が流れています。ここで流れている曲は、実は歌手であったジョニーのヒット曲。ハリーとジョニーが同一人物であることの伏線となっているのです。
ミッキー・ロークとロバート・デニーロの表現する絶望と狂気
主人公の私立探偵、ハリー・エンゼルを演じたのはミッキー・ローク。その甘いマスクの下に隠された悲哀や孤独、凶暴さなどが魅力となり、アメリカのセクシーシンボルとまで言われ多くの人気を集めていました。 『エンゼル・ハート』では単なる二枚目俳優ではなくその演技力が光っています。自分こそがジョニーであり、殺めてきた犯人も自分自身であると気付いたハリーの演技は見所の1つでしょう。 また、「デ・ニーロ・アプローチ」とも呼ばれる役作り法も有名なロバート・デニーロの演技は流石のもの。ゆで卵を食べるシーンだけでも恐ろしさが滲み出ています。 また、ハリーが過去に交わした悪魔の契約を思い出していくシーンでは、上品な紳士的態度でありながらも、顔には悪魔のほほえみが。人の不幸を心から楽しんでいる様子に、思わず身の毛がよだつでしょう。
過激すぎ?アラン・パーカー監督による唯一無二の演出
天井から降り注ぐ血液!『エンゼル・ハート』の強烈なグロテスクシーン
『エンゼル・ハート』は、原作の『墜ちる天使』を見事に映像化した作品。作中では冒頭で現れる黒人死体に始まり、回る換気扇やめまいのするようなアパートの螺旋階段、落ちていくエレベーターなどの映像が繰り返されます。 一見すると意味のないそれらの映像によって、違和感や不安が増大していくのです。 また、ラブシーンと共鳴するかのように天井から降り注ぐ生々しい血液など、ショッキングな映像の数々も衝撃のカルト・ミステリーと言われるポイント。超自然的な「悪魔崇拝」の世界を、シリアスな探偵ものとして描き切っています。
映画を形作る「光と影」が駆り立てる恐怖と圧倒的緊迫感
全体を通して光と影のコントラストが強調されているため、より不可解で奇妙な映像に仕上がっているのも『エンゼル・ハート』の魅力。映画を観る人々の恐怖感をより一層掻き立てています。 光と影のコントラストが強調されたゴシックな映像は、ハリーとジョニーといった一人の人間の光と闇、そしてその先に待つ破壊の暗示とも言えるでしょう。
『エンゼル・ハート』の描く奥深い恐怖と妖しい世界観
『エンゼル・ハート』は、アラン・パーカー監督によって原作小説が見事に映像化された、唯一無二のカルト映画です。その独特の世界観とミッキー・ローク、ロバート・デニーロの怪演を楽しみたい人は、ぜひお見逃しなく。