2021年3月22日更新

映画『プリズナーズ』ラストシーンの意味をキリスト教的にネタバレ考察!

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プリズナーズ
©︎Warner Bros./Photofest/Zeta Image

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【ネタバレ】単なるサスペンス映画?映画『プリズナーズ』を深掘り解説!

2014年公開、ドゥニ・ビルヌーブ監督作品の『プリズナーズ』。 『グレイテスト・ショーマン』(2018年)のヒュー・ジャックマン、『ブロークバック・マウンテン』(2006年)のジェイク・ギレンホール、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2012年)のヴィオラ・デイヴィスなど、実力派オールキャストで挑んだ本作品は、サスペンス映画の枠には留まらない深い魅力に富んだ作品です。 この記事では、少女誘拐事件があぶりだす人々の苦悩とそこからの解放について、キリスト教の視点を交えてネタバレ解説します。 ※この記事では、結末のネタバレを含んでいます。未視聴の場合はご注意ください。

『プリズナーズ』のあらすじを最後まで紹介

プリズナーズ
©︎Warner Bros./Photofest/Zeta Image

ペンシルベニアの田舎町で工務店を経営するケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)は、妻のグレイス、長男のラルフ、娘のアナと共に、近くに住む友人のフランク・バーチ(テレンス・ハワード)の家を訪れ、感謝祭を祝っていました。 パーティーの途中でアナはバーチ家の次女ジョイと連れ立って、父に貰ったホイッスルを探しに自宅へ戻ることに……。幼いアナとジョイが2人だけで外に出てしまったことに気がついた大人たちは、近所を探し回りますが、彼女たちの行方は掴めません。 少女たちが失踪する直前に、付近で怪しいキャンピングカーを見かけたというラルフの証言を聞いたケラーは、即座に警察に通報。車を運転していたアレックス・ジョーンズ(ポール・ダノ)が逮捕されます。

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容疑者が証拠不十分で釈放……父親の暴走が始まる。

地元の刑事ロキ(ジェイク・ギレンホール)はアレックスを取り調べたものの、事件につながる証拠を見つけられないことから彼を釈放。 アレックスのIQは10歳程度と推定され、同居する伯母ホリー(メリッサ・レオ)の手助けなしでは自分の名前も書けない彼に高度な犯罪を実行する能力はないと結論付けられました。 納得がいかないアナの父親ケラーは、アレックスを誘拐・監禁し、激しい暴力を以って口を割らせようと試みます。娘を思うあまりに善悪の一線を超え、ケラー自身も誘拐事件の犯人へと身を堕としてしまったのです。

神父の家の地下室にミイラ!第2の容疑者との関連は?

一方、小児性愛の前科がある者を中心に聞き込みを行なっていたロキは、聴取に訪れた神父宅の地下室にダクトテープで拘束された状態のミイラを発見。 神父の告白によると、ミイラの正体は、16人の子供を殺した罪を告解に訪れた男性であると言います。ミイラは、迷路を象ったネックレスを身につけていました。 ロキはその後、事件解決を願うキャンドル・ナイトにて不審な動きをしたボブ・テイラーという男を第二の容疑者として逮捕。彼の自宅のコンテナからは、何十匹の生きた蛇に加えてアナとジョイの衣服が見つかり、事件は大きく進展したかのように思われました。

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「迷路を全部解いたら帰っていい」少女たちの行方は謎のまま。

取り調べ中に隙を突き、ボブは拳銃自殺を遂げてしまいます。ロキは、ボブが残した迷路の落書きとミイラのネックレスが酷似していることに気が付きますが、迷路と事件との関連性に合理的な説明をつけることができず、苦悩します。 その後、ボブの家から押収した衣服が盗んだものであることがわかり、ボブの誘拐容疑は晴れることになりました。 生前、「迷路を解いたら出してやる。」という走り書きを残していたボブ。最初に容疑者とされたアレックスも拷問の末、「迷路にいるよ。」という言葉を吐いており、それを聞いたケラーがアレックスの伯母ホリーの家に向かいます。この時真相を確かめようとしますが、徒労に終わるのでした。

バーチ家のジョイが保護される!彼女の証言を聞いたケラーが向かった場所は?

監禁場所でケラーの姿を見たと言うジョイの証言を聞いた彼は、警察の制止を振り切りホリーの家に急行。ジョイが保護される直前に自分が訪れていたホリー宅こそが、少女たちの監禁場所と気がついたのです。 そしてアレックスの伯母のホリーの正体が、夫と共に児童誘拐を繰り返してきた真犯人であることが明らかになります。神父宅の地下室で見つかったミイラはホリーの夫であり、アレックスとボブは夫妻による誘拐被害者なのでした。

単純な児童誘拐事件の話では終わらない。

ケラーはホリー宅の庭の穴へと監禁されてしまいます。仄暗い地中深くで彼が見つけたもの……それは娘のホイッスルでした。 ケラーを追うロキは、ケラーが所有する廃屋に向かい、監禁されたアレックスを発見。そしてアレックスの保護を伝えるためにホリーの家を訪れたところで、アナを手にかけようとするホリーの姿を目撃します。 銃口を向け合うロキとホリー。地中で神に祈りを捧げるケラー。 この破滅的な状況から救われる条件が「悔い改め」というキリスト教の概念であることが暗示され、映画は幕を閉じます。

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宗教的な役割を持つ各登場人物を考察

ケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)

ヒュー・ジャックマン
WENN.com

車のミラーには十字架を掛け、車体にキリスト教のイクトゥス(魚)のステッカーを貼り、信仰と共に生きる良き父親でしたが、無実のアレックスを誘拐し、非情な暴行を加えるという罪を犯します。 ケラーの職業はキリストの家業と同じく、大工。マリーという名前の母親を持つこと、そして1度葬られてしまうこともケラーとキリストの共通点です。

ホリー・ジョーンズ(メリッサ・レオ)

プリズナーズ
©︎Warner Bros./Photofest/Zeta Image

息子を病気で亡くすという悲しい過去に囚われたのち、神に対する戦いと称して、夫と共に児童誘拐に手を染めるようになったホリー(画像左)。 誘拐事件をきっかけにケラーの良心を揺さぶり、神への裏切りへと誘う狡猾な存在として作中に君臨するその様は、さながら旧約聖書で無垢なイブを欺く蛇のよう。連戦連勝の刑事をも出し抜きます。

ロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)

北欧神話の神でトリックスター的存在のロキと同じ名前を持つロキ刑事。フリーメイソンの指輪を身につけ、十字架や星座、イシュタルの星のタトゥーを施すなど、多神教的な要素を持ちます。 合理的に事件を読み解こうとする傍ら、干支の性格診断やキリスト教ではNGとされる占いにも興味がある模様。神話のロキ同様、多面性を秘めた存在です。

ロキは、担当した事件は全て解決してきたというタフな刑事ですが、罪を犯して少年院に「囚われていた過去」を持ちます。更生し、市民を救う道に進んだ彼は、“罪を悔い改め、神の救いを得る”というキリスト教のプロセスを体現した象徴として作品に登場しています。 そして誘拐や暴行という重い罪を犯したケラーとホリーが己に向き合い、悔い改めるという活路を見つけることが出来るかどうかが、物語の鍵となるのです。 ちなみに、ロキ刑事の右手の指に彫られた星座のタトゥーは、見方によってはアルファベットで「MAZE」=「迷路」と読めるような……。あなたにはどう見えますか?

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『プリズナーズ』というタイトルの意味は?映し出される本作のメッセージ

各登場人物にとって「迷路」が意味するものとは?

作品の根底には、「囚われ」=「迷路」と向き合い、自ら解くことで、自由を獲るという考え方があります。 善悪の迷路に堕ちたケラー。無秩序と秩序の迷路で奮闘するロキ。迷路を解かなければ、解放されない少女たち……。不幸な喪失という迷路に苦しむホリーは、活路を見出せず、行き止まりで自暴自棄に陥っているように思えます。

囚われの人たち:物理(子供たち誘拐)と精神(みんな)

娘を救いたいという思いに囚われ、無実の青年を誘拐し暴行するという罪を犯した父親。息子を失った悲しみに囚われ、連続児童誘拐事件に手を染める母親、そして囚われた人々を救うという自らの役割に苦悩する刑事。 精神的に囚われてしまった大人が三すくみとなり、物理的な囚われの身の少女たちを取り巻くという構造を持つ本作品ですが、そのタイトルが意味するところは、人は誰もが何らかの迷路で苦悩しているというメッセージなのかもしれません。

ケラーは助かった?意味深なラストシーンをキリスト教的に考察!

キリスト教

備えろ、しかし救いは主による。

劇中では、ケラーの父の教えとして「常に備えろ。」という台詞が繰り返し語られます。ラストシーンでロキも口にするこの言葉ですが、これは旧約聖書の「馬は戦いの日のために備えられる。しかし救いは主による。」という一節を示唆していると読み解くこともできます。

己に向き合い、乗り越えた者に救いが訪れる。

銃口を向け合い、同時に発砲したロキとホリー。罪と向き合い、悔い改めた者に救いが訪れるというキリスト教的な概念を念頭に起くと、どちらが助かったのかは容易に想像できると思います。 映画の最後には、警察が引き上げた後にホリーの庭に佇むロキが映し出されます。この時点でケラーは庭に埋まったまま。どこからか漂う不思議な音に、ロキが訝しげな表情を見せたところで作品は幕を閉じます。 おそらくケラーは穴の底で見つけた娘のホイッスルを吹いており、それがロキの耳に届いたのでしょう。ロキはこれまで事件を全て解決してきた有能な刑事。回心の祈りを込めた笛の音が地上に届き、ケラーは救出されたと筆者は考えます。

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『プリズナーズ』は囚われた人々の物語だった

プリズナーズ
©︎Warner Bros./Photofest/Zeta Image

この世は皆、迷路に囚われている。課せられた迷路に真摯に正対した者には、救いが訪れるーー。 『プリズナーズ』は単なるサスペンス映画ではなく、また、映画が打ち出す主題も決してライトではありません。しかし、“迷路に挑めば救いがある”という一抹の希望も提示しており、現在何らかの深い悩みや大きなプレッシャーを抱えている人に、おすすめしたい作品です。