『市民ケーン』を徹底解説!傑作と呼ばれるその理由と意味深な「バラのつぼみ」について考察!
公開から80年!現代でも色あせない名作『市民ケーン』【ネタバレ注意】
1941年に公開されたオーソン・ウェルズによる映画『市民ケーン』。実在の新聞王をモデルとした本作は、現在でも映画史上最高傑作として知られています。80年も前の映画がこれほど高評価を受けているのはいったいなぜなのでしょうか。 この記事では、『市民ケーン』の概要から傑作とされる理由、そして2021年アカデミー賞にノミネートされている『Mank/マンク』との関連について解説します。 この記事には『市民ケーン』に関するネタバレがあります。未見の人は気をつけてください。
『市民ケーン』は50年のあいだ史上最高映画に輝く名作
当時弱冠24歳のオーソン・ウェルズが共同脚本・監督・主演を務めた『市民ケーン』は、「新聞王」チャールズ・フォスター・ケーンの生涯に迫る劇映画です。 実在の、しかも当時存命の人物(後述)をモデルとし物議を醸した本作は、公開から80年が経った今でも映画史に残る傑作として知られています。 『市民ケーン』は英BFI発行の『サイト&サウンド』誌が10年に一度発行している「史上最高の映画」アンケートで、長年1位に君臨。また2020年には英BBCによる「史上最高のアメリカ映画100本」では1位に選ばれました。 まさに金字塔的な作品で、映画好きなら必ず一度は観ておきたい作品です。
名匠オーソンウェルズの処女作にして最高傑作
16歳で舞台デビューを果たしたオーソン・ウェルズは、3年後にはラジオドラマのディレクター兼俳優になりました。その後、彼はシェイクスピア劇や自作の舞台で成功を収め、若き天才として知られることに。 当時の彼の仕事でもっとも有名なものの1つは、1938年に放送されたラジオドラマ『宇宙戦争』ではないでしょうか。H・G・ウェルズの同名SF小説をドキュメンタリー調に翻案したこの作品は、放送を聞いた人々が火星人来襲を真実だと思い込み、パニックを引き起こしました。 そんな彼は、24歳で初めて映画を制作することになります。それが『市民ケーン』だったのです。 オーソン・ウェルズの幻の遺作が気になる人はこちら
なぜ名作と言われているのか?その革新性を徹底解説
巧みな脚本と斬新な撮影技法
『市民ケーン』が傑作とされる理由のひとつには、その脚本の大胆さがあります。本作はケーンの葬式のシーンから始まり、彼が遺した謎の言葉「バラのつぼみ」の真相を探るため、関係者に取材を重ねていく記者が描かれます。この「取材」の内容はすべて回想シーンで、時間軸が行ったり来たりする構成になっているのです。 時間軸の操作は現在では珍しくありませんが、当時は画期的な脚本としてアカデミー賞脚本賞に輝きました。 またその撮影技法も、当時では考えられないほど革新的なものです。手前にいる人物と遠くにいる人物の両方にピントをあわせるパンフォーカス、看板を通り抜けるようなショット、ケーンの口元の超クローズアップなどが、当時の映画では通常使用されない機材や特撮の技法などを使って表現されました。 またケーンの尊大な雰囲気を出すため、地面に穴を掘って撮影したローアングルショットも多用されています。通常、映画のセットは照明を吊るすために天井はありませんが、『市民ケーン』には天井が映るシーンが多くあります。 これらの斬新な演出は、ウェルズが映画制作の初心者だったために実現できたと言われています。慣習やそれまでの常識に縛られず、やりたいことをどう実現するかを考えた結果、このような革新的な映像が生まれたのです。
『市民ケーン』が後世に与えた影響
画期的な脚本や撮影技法でその後の映画づくりを変えた『市民ケーン』。当然、多くの作品が本作に影響を受けています。 『市民ケーン』のように回想シーンを多用する演出は、黒澤明の『羅生門』(1950年)でも見ることができます。またデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)では回想シーンに加えて、ソーシャルメディアの力で登りつめていく主人公と、その孤独が描かれるという脚本にも類似点があります。 独特の世界観で人気のウェス・アンダーソンも、『市民ケーン』およびオーソン・ウェルズに多大な影響を受けているようです。『天才マックスの世界』(1998年)や『ザ・ロイヤルテネンバウムズ』(2001年)には、本作のワンシーンとよく似た構図のシーンがいくつもあります。
ケーンの意味深な最期の言葉「バラのつぼみ」とは?
『市民ケーン』の最大の謎である「バラのつぼみ」とは、なんのことなのでしょうか。 新聞社やラジオ放送局を次々と手に入れたケーンは、メディアの力で世論を操作することさえできる権力を手に入れました。しかし彼は決して満たされることがなく、孤独な人生を歩んでいたのです。彼はなによりも愛されることを望んでいましたが、それだけはお金や権力で手に入れることができませんでした。 彼にとって「バラのつぼみ」とは、手に入れることのできなかった「愛」なのです。また、つぼみはいつか花開き、その形を変えてしまうため、永遠に手元に置いておくことはできません。 すべてを手に入れた男が唯一手に入れることができなかったもの、それが「バラのつぼみ」=愛でした。
アカデミー賞9部門ノミネート!しかしモデルの「新聞王」の怒りを買ってしまい……
ケーンのモデルとなったのは当時の新聞王、ウィリアム・ランドルフ・ハーストです。新聞が市民にとってほぼ唯一の情報源であった当時、彼は絶大な権力を持っていました。 ハーストは映画の中のケーンと同じように、公人の汚職の暴露やでっち上げ記事などで新聞の購読者を増やします。その扇動的な記事は、アメリカにスペインとの戦争を起こさせるほど影響力を持っていました。 『市民ケーン』が自分と愛人のマリオン・デイヴィスをバカにしていると考えたハーストは、同作の広告を新聞に掲載することを拒否。さらに批判的な評論を書かせたり、映画館に圧力をかけて上映させなくしたりと、さまざまな妨害を行います。 結果『市民ケーン』は、アカデミーに9部門ノミネートされていたにも関わらず、受賞したのは脚本賞のみ。その後、オーソン・ウェルズの映画監督としてのキャリアは不遇なものになってしまいました。
D・フィンチャー最新作『Mank/マンク』との繋がりと見どころ
『市民ケーン』の脚本家を主人公とした『Mank/マンク』は、2021年のアカデミー賞で主要部門を含む最多10部門にノミネートされています。 脚本家のマンクことハーマン・J・マンキウィッツは、若き天才オーソン・ウェルズに振り回され、アルコール依存症に苦しみながらも『市民ケーン』の脚本の仕上げに取り掛かります。 監督は先ほど紹介した『ソーシャル・ネットワーク』と同じデヴィッド・フィンチャー。主人公マンクを演じるのは名優ゲイリー・オールドマンです。回想シーンの多用など、『市民ケーン』へのオマージュをふんだんに散りばめながら、名作映画誕生の舞台裏が描かれます。 『市民ケーン』を知っていると、より楽しめるでしょう。
『市民ケーン』『Mank/マンク』シネフィルなら要チェックの名作
その革新的な撮影技術と画期的な脚本で、以降の映画制作を変えてしまった『市民ケーン』は、いまや映画史に残る金字塔となっています。そこには天才オーソン・ウェルズのアイディアと、それを実現するために型破りな撮影方法を編み出したスタッフの努力がありました。 また、その舞台裏を描く『Mank/マンク』も同作のオマージュが多く盛り込まれた名作となっています。2021年アカデミー賞の行方にも注目したいですね。