映画『1917 命をかけた伝令』のあらすじ考察とワンカット撮影の裏側を紹介!
第一次世界大戦の西部戦線を描いた『1917 命をかけた伝令』
映画『1917 命をかけた伝令』(2019年)は第一次世界大戦の西部戦線を舞台に、1600人の将兵の生命を左右する重要な命令を届けるため、2人の兵士が地獄の戦場を横断する物語。アカデミー撮影賞、視覚効果賞、録音賞の3冠を獲得した大迫力の戦争映画です。 監督を務めたサム・メンデスが、第一次世界大戦に従軍した祖父の体験をもとに脚本を執筆。全編のほぼ中間で一時中断されるだけ、ワンカットで撮影されたような編集で緊迫感を高めた演出が斬新な作品です。 この記事では、そんな戦争映画『1917 命をかけた伝令』のあらすじや考察、ワンカット撮影の裏側を紹介します。 以下、あらすじ紹介にはネタバレを含んでいますので注意してくださいね。
【ネタバレ注意】史実に基づく映画『1917 命をかけた伝令』のあらすじ
第一次世界大戦3年目の1917年春、英仏連合軍に押し返されたドイツ軍は戦略的撤退である「アルベリッヒ作戦」を行って守備を固めていました。 この撤退を無秩序な敗走と勘違いしたマッケンジー中佐率いるイギリス軍1600人の将兵はドイツ軍を追撃。罠を仕掛けて待ち構えるドイツ軍に対して、全滅不可避の突撃を敢行しようとします。 この危険な状況を飛行機の偵察で把握したイギリス軍司令官は、マッケンジー中佐の攻撃を中止させるため伝令を派遣することにしました。 その重要任務に選ばれたのが、マッケンジー中佐のもとに兄が勤務するブレイク兵長と彼の戦友・スコフィールド。2人は1600人の命を救うため、地獄の戦場を横断する決死の伝令に出発します。
ドイツ軍が放棄した陣地を何とか突破した2人ですが、途中農家にたどりついたところでドイツ軍の戦闘機が墜落してきました。 燃えさかるドイツ軍機からとっさに搭乗員を救出するブレイク。しかし恩知らずなドイツ人パイロットがブレイクをナイフで刺し殺したところをスコフィールドに射殺されます。 独りぼっちになったスコフィールドは、目的地近くの街にたどりついたところでドイツ軍のスナイパーと交戦。彼はスナイパーを仕留めたものの、ヘルメットに相手の銃弾があたって気を失います。 しばらくして意識を取り戻したスコフィールドは、ドイツ兵がうろつく街を脱出してなんとか翌朝マッケンジー中佐のもとに攻撃中止命令を届けました。 野戦病院でブレイクの兄に彼の戦死の様子を伝えたスコフィールドは、悲しみに暮れながらも、ようやく木陰で一休み。彼はポケットからケースに容れて大事にしまっていた妻子の写真を取り出して見入るのでした。
少年兵が担う重要任務とは?徹底考察!
ここからは本作のストーリーの主軸となる2人の兵士に課せられた、軍隊の重要なメッセージを伝える「伝令」という任務の背景を考察します。
決死の伝令は事実だった?
本作に登場する人物はすべて架空のものですが、ストーリーの背景は歴史的事実をベースにしています。 本作のモデルとなった「アルベリッヒ作戦」とは1917年初頭に実際に行われた、イギリス軍戦線の中に突入して残留していたドイツ軍部隊が後方に撤退する作戦でした。ドイツ軍は戦線を短縮することで背後の陣地の防御を強化し、迫りくるイギリス軍の攻撃を頓挫させようという計画です。 そのドイツ軍を無謀に追撃するイギリス軍のマッケンジー中佐は架空の人物で、突破不能のドイツ軍陣地への自殺的突撃もフィクションです。 創作と1917年の歴史的戦況をうまく組み合わせることで、2人の兵士が生命の危険を冒して友軍に攻撃中止命令を届けるという本作の物語の枠組みを形成しています。 とはいえ、人や馬の死骸が至るところにある無人地帯を横断したり、ドイツ軍に見つからないよう少人数で隠密に行動したりする伝令のストーリーは、事実にもとづいたもの。 メンデス監督は、第一次世界大戦でイギリス軍の伝令をしていた祖父から聞いた体験談をもとに、本作を製作したそうです。
ブレイクとスコフィールドの関係について
先にネタバレで書いたように、伝令の1人・ブレイクは物語の前半で命を助けようとしたドイツ人に、逆に殺されてしまいます。このときからスコフィールドにとって、ブレイクの兄に彼の死を伝えるというミッションが伝令の任務に加わりました。 この2人の関係を、イエス・キリストと彼の教えを伝えるために各地へ散っていった使徒たちの関係になぞらえる人もいます。メンデス監督からの直接の説明はありませんが、興味深い考察といえるでしょう。
2人の生死を分けたものとは
スコフィールドは、ブレイクよりは少し年上で、前年のソンムの激戦を経験しており、戦場で生き延びるためのメンタリティーを身につけた古参兵です。 一方、前線に来て日の浅いブレイクは、兄を救うという「家族への愛」を第一に考えたり、とっさに敵を助けたりするナイーブなところがあります。 極限状態に置かれた兵士の心を惑わせる家族や他人への愛情や思いやりの気持ち。それを押し殺して瞬間的に冷徹な決断を下せるかどうかが、2人の生死を分けたポイントです。 スコフィールドは任務終了まで、妻子の写真を隠していて故郷に家族のいることは誰にも言いません。こういったことから戦場の兵士たちにとって家族への愛は、聖書において人間を堕落させる禁断の果実のようなものであった、と考察する人もいますが、それも1つの解釈と言えます。
ロジャー・ディーキンス渾身の撮影技法とは?
本作の撮影監督を務めたロジャー・ディーキンスがメンデス監督と一緒に仕事をするのは、2005年公開の映画『ジャーヘッド』を皮切りに本作が4作目です。 この映画では、緻密に計算されたカメラワークで、全編が2つの長回しのカットだけで構成されているような印象を観客に与える映像を作り出しています。ディーキンスは本作で2度目のアカデミー撮影賞を獲得しました。 ここからは、そんな本作の革新的な撮影技法を解説しましょう。
119分の手に汗握るワンカット撮影のすごさ
内外の多くのメディアで本作はワンカットしかないと書かれています。しかし実際にはネタバレで説明したように、上映時間約1時間7分目でスコフィールドが気を失って暗転するため、2つの長回しのカットで構成されています。 メンデス監督の話では、これには午後から夕暮れまでと、未明から早朝までの2部構成の物語にする狙いがあったそうです。 長回しのカットの撮影は、途中でミスがあるとすべて最初から撮り直しになるため、役者やスタッフには普通の撮影よりも一層入念な準備と集中力が求められます。 本作はデジタル撮影で、途中編集やつなぎも入っているようですが、それでも通常よりはカメラを長く回している点は革新的でした。 さらに本作は、アリ社のアレクサ・ミニ・デジタル・LF・シネマカメラを初めて撮影に使用したことでも知られています。長回しで兵士の動きを追うカメラワークを可能にするこの小型カメラの試作品が届けられたのは、クランクインの2カ月前だったとか。 撮影監督のディーキンスは広い平原と狭い塹壕や室内などを分けて撮るため、このカメラに3種類の異なるレンズを組み合わせたそうです。
臨場感たっぷりなワンカット撮影の効果
映画を鑑賞する側に立つと長回しのワンカットの魅力は、観客が主人公とリアルタイムで動きを共有する感覚を味わえることにあります。細かいカットをつなぎ合わせた目まぐるしい展開とは異なる、重厚な迫力のある臨場感がすごいです。 特に本作は劇場の大きなスクリーンで鑑賞すると、家庭用テレビで味わえない第一次世界大戦の戦場やヨーロッパの春の美しい自然を体感できます。 すでにイギリスではリバイバル上映が行われているため、日本でも今後ふたたび映画館で鑑賞できるチャンスがあるかもしれませんね。
映画『1917 命をかけた伝令』をいつか大スクリーンで観てほしい!
この記事では大迫力の戦争映画『1917 命をかけた伝令』のあらすじなどを考察し、迫真のワンカット撮影の裏側を紹介しました。 この映画の重要なテーマの1つは家族への愛ですが、日常で当たり前の感情さえも生死を分ける要因になる非情な戦場が見事に描き出されています。 長回しのワンカットの心理的効果を最大限引き出した本作の醍醐味は、劇場の大スクリーンでしか体験できない臨場感にあると言えるでしょう。 リバイバル上映があったときは、未見の方はもちろん、すでに鑑賞済みの人もぜひ映画館に足を運んで鑑賞してみてくださいね!