映画『グエムル-漢江の怪物-』コメディ要素のなかに秘められた社会批判を徹底解説!
映画「グエムル」をネタバレありで解説!作品に込められたメッセージとは?
映画『グエムル-漢江の怪物-』は、漢江から出現した巨大生物に中学生の娘をさらわれた一家が、彼女を救出しようとする物語です。 2006年に公開された本作は、韓国で1,300万人という歴史的観客動員数を記録。監督を務めたポン・ジュノの韓国を代表する映画監督の地位を不動のものとしました。 この記事では、このような映画『グエムル-漢江の怪物-』に込められた社会批判の要素を解説します。
映画『グエムル-漢江の怪物-』あらすじ紹介【ネタバレ注意】
2006年のある日、漢江から両生類のような巨大生物が上陸して川岸の人たちを襲い始めました。川辺の露店の男・カンドゥ(ソン・ガンホ)はこの怪物に娘のヒョンソをさらわれてしまいます。 怪物の巣に連れて行かれたヒョンソは、そこでホームレスの少年と一緒に怪物に飲み込まれることに。しかしその前に彼女は携帯電話で父親カンドゥとコンタクトをとりました。 その電波を頼りに彼女の居場所を突き止めたカンドゥ一家。米軍の生物兵器で怪物が弱ったところで、カンドゥはヒョンソと少年を怪物の口から救出しますが、ヒョンソは息を吹き返しません。 怒り狂ったカンドゥは鉄柱で怪物を串刺しにして止めを刺したのでした。
『グエムル-漢江の怪物-』は『ゴジラ』の影響を受けている!
本作の監督であるポン・ジュノは子どものときから米軍向け放送でゴジラやウルトラマンを観ており、怪獣映画を撮ることへの思いがあったそうです。 確かに『ゴジラ』(1954年)も『グエムル-漢江の怪物-』も、アジア・太平洋における米軍の無責任な行動が怪物を生み出すという点で似ています。ビキニ環礁におけるアメリカの水爆実験が『ゴジラ』を生み、後述するように在韓米軍が下水にホルムアルデヒドを捨てたことが『グエムル-漢江の怪物-』を生みました。 ゴジラのような超巨大怪獣ではなく両生類型の怪物になったのは、漢江で実際に背骨がS字に曲がった魚が捕獲されたことから着想を得たからだとか。 さらに韓国映画で怪獣は人気がないので、日本ほど怪獣映画の伝統がないことも影響しているようです。
ヒョンソは死んでしまったのか?ラストシーンを考察!
怪物の口から意識を失ったまま救出されたカンドゥの娘・ヒョンソ。ラストシーンに彼女は登場せず、カンドゥがヒョンソと一緒に救出されたホームレスの少年と夕飯の食卓につくシーンで映画は終了します。 このためヒョンソを失ったカンドゥはホームレスの少年を引き取って育てることにした、という意見が一般的です。 しかしながら、ヒョンソの死が映画のなかで確認されていないので、ヒョンソは生きていて別のところで暮らしている、と考える人もいます。 映画やTVドラマの世界では、死んだと思われていたキャラクターが実は生きていたということは珍しくないので、この説も完全に否定することはできません。
グエムルの正体に込められた社会批判 ポン・ジュノ監督が伝えたかったメッセージ
※画像はポン・ジュノ監督 『グエムル-漢江の怪物-』は愛すべきキャラクターや怪物の引き起こすパニックの背後に韓国社会への批判が見られる作品です。 ここからはこの作品でポン監督が伝えたかったメッセージを考察します。
『グエムル-漢江の怪物-』は反米映画なのか?
「グエムル」には反米的とは言えないものの、ポン監督も認めるように、アメリカに対するあてつけや政治的メッセージが込められています。 まずオープニングで、在韓米軍の軍属が死体安置所の韓国人職員に有毒なホルムアルデヒドを下水に処分するように命じたシーン。これは2000年にソウルの在韓米軍基地で実際に起きた事件にもとづいています。 さらに怪物相手に投入される米軍の新兵器「エージェント・イエロー」。その名称は米軍がベトナム戦争のときに使用した枯葉剤「エージェント・オレンジ」を想起させます。 そればかりでなく、この新兵器はイラクなどの生物兵器に対抗するために開発されたという設定なのです。
浮き彫りになってくる韓国の社会問題
本作では、アメリカに対する批判ばかりでなく、経済格差といった韓国の社会問題も浮き彫りにされています。 それというのも本作の主人公であるカンドゥの家族は、韓国の経済成長に取り残された人たちと言えるからです。 カンドゥの父は、カンドゥが子どものときにタンパク質を十分に食べられなかったので知能が充分に発達しなかったと悔やんでいます。一方、カンドゥの弟は大学を卒業したものの、1997年アジア通貨危機の影響で就職できないままです。 こういったことから、グエムル/怪物の正体は在韓米軍や経済格差といった韓国の社会問題を具現化したものであるように感じられます。
コメディ×社会風刺『グエムル-漢江の怪物-』はメッセージ性の強い名作
少し間の抜けた親しみのもてるキャラクターたちのコメディ要素が息抜きとなっている怪獣パニック映画『グエムル-漢江の怪物-』。この記事ではこの作品に込められた社会批判の要素を解説しました。 本作を手掛けたポン・ジュノ監督は、コミカルなキャラクターを使って格差などの社会問題を浮き彫りにした『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でアカデミー賞の栄冠に輝きます。 このスタイルを韓国には伝統のない怪獣映画というジャンルにも適用していた『グエムル-漢江の怪物-』は、『パラサイト』と同じように強いメッセージ性をもった名作と言えるでしょう。