映画『グッドフェローズ』が名作たる理由は?注目すべきシーンを解説!
映画『グッドフェローズ』はマフィア街道を駆け抜ける男たちの物語
アメリカの映画評論家・ロジャー・イーバートが「史上最高のギャング映画」と絶賛したマーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(1990年)。 実在したギャングスターたちをモデルに、マフィア街道を駆け抜けた男たちの波乱万丈な半生をリアルに描いた物語です。 この記事では、「ゴッドファーザー」3部作を超えるとさえ言われる本作の名作たる理由と注目すべきシーンの見方を解説します。
映画『グッドフェローズ』のあらすじを紹介
映画『グッドフェローズ』は実在のギャングスター・ヘンリー・ヒルの、1955年から1980年までの半生を描いた作品です。 ニューヨーク・ブルックリンの労働者街で物心ついた頃からギャングになることを夢見ていたヘンリー。彼は地元マフィアの副支部長(カポレジーム)であるポーリーの手下として働き始めます。 やがてヘンリーは、彼と同じくアイルランド人の血が流れるジミーやイタリア系のトミーと組んで、マフィアの世界でのし上がっていきます。 しかし、暴力事件で投獄されたヘンリーは家族を養うためにポーリーの忠告を無視して麻薬取引に手を出すことに。その頃からヘンリーの人生は急速に下り坂になっていくのでした。 主人公のヘンリー役には当時駆け出し俳優であったレイ・リオッタを起用。彼の仲間であるジミーとトミーは、スコセッシ監督の『レイジング・ブル』(1980年)で兄弟を演じたロバート・デ・ニーロとジョー・ペシのコンビが演じました。 なかでもペシは本作の演技でアカデミー助演男優賞に輝いています。
映画『グッドフェローズ』が名作たる理由を解説!
ここからは『グッドフェローズ』がフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」3部作を超える傑作とさえ言われる理由を解説します。
伝説のゴッドファーザーとは対極に位置するギャング映画
『グッドフェローズ』がギャング映画の名作と言われる最大の理由は、この作品が「ゴッドファーザー」3部作とは対極に位置することです。 イタリア移民であるヴィトー・コルレオーネがニューヨークで築き上げたマフィア一家の歴史を描く「ゴッドファーザー」3部作。ヴィトーの孫の代まで100年近くにわたる家族の歴史は壮大な叙事詩にたとえられます。 この「ゴッドファーザー」3部作の主要登場人物がマフィアの上流社会に属していたのに対して、『グッドフェローズ』の主人公たちは下層のギャングスターです。 満たされない物欲に突き動かされて暴力の世界で生き残ろうとする彼らは、より庶民的なキャラクターと言えるでしょう。 「ゴッドファーザー」3部作が高尚な文学であるとすれば、『グッドフェローズ』は日常をありのままに映し出すドキュメンタリーのような作品なのです。
音楽を巧みに使ってシーンの雰囲気を作る
子どもの頃から音楽に囲まれ、スイング・ミュージックで育ち大学では音楽史も勉強したというスコセッシ監督。このような彼にとって音楽は映画作りに欠くことのできない要素です。 本作では、40曲以上のポップ音楽のヒット曲がギャングスターの破天荒な生き方に彩りを添えました。テンポの良いヒット曲をひっきりなしに流し続けることで、いつも走っているマフィアの男たちのスピード感が伝わってきます。 スコセッシ監督は、音楽で時代の雰囲気を伝えるばかりでなく、場面にあった歌詞の曲を選ぶことでナレーションのような効果も出しています。 たとえば冒頭、静止画からメインタイトルに変わる場面で流れるトニー・ベネットの「ラグズ・トゥ・リッチズ」。この曲は貧困から豊かな生活にのし上がろうとしたヘンリーの野望の象徴といえるでしょう。
アカデミー賞獲得俳優らによる引き込まれる演技
※画像は『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロ(左から3人目)とジョー・ペシ(左から4人目) 演技力豊かなキャストをそろえたことも本作の大きな魅力です。この主要キャストで最初に決定したのは、ジミー役のロバート・デ・ニーロでした。 長年スコセッシ監督と親しく、同監督の『レイジング・ブル』(1980年)でアカデミー主演男優賞を獲得したデ・ニーロ。スコセッシ監督から本作の脚本を見せられてどの役をやりたいか聞かれた彼は、即座にジミー役を選んだそうです。 主役のレイ・リオッタは当時あまり知られていませんでしたが、『サムシング・ワイルド』(1986年)での演技に感銘を受けたデ・ニーロが彼を推薦したため出演が決まりました。 しかし、この映画で最も引き込まれる演技を見せたのは、次に解説するアドリブシーンを演じたジョー・ペシでしょう。彼は本作でアカデミー助演男優賞に輝きました。
ここが見どころ!特徴的なシーンの見方を紹介
暴力に満ちた飾らないギャングの世界
『グッドフェローズ』のメインテーマであるむき出しの暴力と欲望に満ちたギャングの世界。そこに生きる男たちはいつもピリピリしています。 この一触即発の雰囲気を見事に表現したのが、ペシとリオッタのナイトクラブでのシーンです。 ペシが演じるトミーの声が甲高く子どもっぽいということで、クラブで仲間は大ウケ。しかしヘンリー(リオッタ)の「おもしろい」という言葉を耳にしたトミーは突然「何がおもしろいのだ!」と真顔になります。それまでの和やかな場面は一転、今にも殺し合いになりそうな雰囲気に変わります。 実はこのシーンは原作や脚本には書かれていませんでした。ペシが実際にレストランで目撃した光景をアドリブで再現した演技に感銘を受けたスコセッシ監督が、後から映画に取り入れたものなのです。
カメラワーク
個性豊かな俳優陣の演技をさらに引き立てるのが、静止画や長回しを効果的に使うスコセッシ監督の考え抜かれた撮影テクニックです。 本作はヘンリーや彼の妻・カレンの回想がナレーションで随所に挿入されるのですが、そのとき画面は静止します。 この静止画の使い方は、フランス・ヌーベル・バーグの巨匠・フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく ジュールとジム』(1962年)の影響を受けた技法です。『グッドフェローズ』でこの技法は、原作から重要なエピソードを取り出してスムーズにつなぎ合わせていくのに利用されています。 一方、コパカバーナ・ナイトクラブにおけるワンショットの長回しのシーンも本作のエッセンスが凝縮された印象的なものです。 恋人のカレンを連れたヘンリーが、クラブの前の行列に並ばず、裏口から厨房を通ってクラブの最前列のテーブルに座るまでをワンカットで撮影したシーン。マフィアの世界でのし上がって望みは何でもかなうようになったヘンリーの絶頂期を象徴しています。
『グッドフェローズ』はどこまで実話なのか?
ノンフィクションを原作にした本作の登場人物は、全て実在した人物をもとにしています。 ここからは、『グッドフェローズ』がどこまで実話なのか、主要登場人物の人生を例に解説しましょう。
本人の半生を描いた小説を元に人生を再現
映画『グッドフェローズ』は、犯罪ジャーナリスト・ニコラス・ピレッジのノンフィクション『ワイズガイ(原題)』をもとに、実在のギャングの半生を忠実に再現したものです。 原作と映画の主人公であるヘンリー・ヒルは1943年、アイルランド系の父とイタリア系の母の間に生まれました。 マフィアの店の使い走りから始めたヒルは、やがてルッケーゼ一家の副支部長ポール・ヴァリオ(本作のポーリーのモデル)や彼の弟のもとで働いて稼ぐようになり高校を中退します。 1965年、ヒルは後に彼の妻となるカレンと付き合い始めます。コパカバーナ・ナイトクラブでのデートのシーンも実話にもとづいているようです。 その他、本作で描かれるニューヨーク・ジョン・F・ケネディ国際空港貨物ターミナルの強盗事件も、実際に起きた事件を再現したものです。 1980年に麻薬取引で逮捕されたことで裏稼業から足を洗ったヒル。その後はレストランを経営したり、本や映画で有名になってインタビューを受けたりするなど落ち着いた人生を送ることに。2012年にロサンゼルスで69年の生涯を終えました。
主要登場人物は全て実在した人物
ヒル以外の『グッドフェローズ』の主要登場人物も名前は変えられていますが、全て実在した人物です。 ロバート・デ・ニーロが演じたジミーは、ジェームズ・バークという実在のギャングスターをモデルにしています。バークは1985年に殺人罪で終身刑に処せられ、1996年に64歳で病没しました。 一方、すっかりジョー・ペシのキャラクターになってしまったトミーも、トーマス・デシモーネという実在のギャングがモデル。映画でトミーはマフィアの復讐で殺されますが、実在したデシモーネも1978年末に行方不明になっており、マフィアに殺されたと言われています。
『グッドフェローズ』は生々しいギャングの生き様を描いた名作
この記事では、史上最高のギャング映画とさえ言われた『グッドフェローズ』が名作とされる理由や、映画の注目すべきシーンなどを解説しました。 崇高な叙事詩のような「ゴッドファーザー」3部作と対照的に、底辺のギャングのリアルな生き方をポップに描いた『グッドフェローズ』。『レイジング・ブル』と双璧をなしてスコセッシ監督の最高傑作の1つにあげられる名作と言って間違いないでしょう。