『LAMB ラム』ネタバレあらすじから結末まで徹底解説!アダの父親の正体やラストシーンも考察!
若手監督の意欲作を次々と製作・配給し、世界中から注目を集めているA24。その最新作が、アイスランドの新鋭ヴァルディミール・ヨハンソン監督によるネイチャーホラー『LAMB/ラム』です。 厳しくも雄大な自然のなかでくり広げられる不条理な物語を、ネタバレありで解説していきます。 ※この記事には『LAMB/ラム』の結末までのネタバレがあります。ご注意ください。
映画『LAMB/ラム』の作品概要
タイトル | 『LAMB/ラム』 |
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日本公開日 | 2022年9月23日 |
上映時間 | 106分 |
監督・脚本 | ヴァルディミール・ヨハンソン |
キャスト | ノオミ・ラパス , ヒナミル・スナイル・グズナソン , ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン |
映画『LAMB/ラム』の評価・口コミ
見終わって、は??どういうこと?!?!と思ったけど、最初の静かすぎる感じから徐々に背景や感情が現れ出し盛り上がってきたところでのラスト、なかなかパンチのある終わり方で後味爽快だった。エンディング曲が正にこれしかないだろってやつで笑っちゃった……
アイスランドの雄大な自然は美しく、出演された動物たちの表情や演技がうまい、中でもアダちゃんは可愛い...。結局一番怖いのは、異形のものより人間。冒頭から不穏な雰囲気で、見終わった後も余韻が残る、奇妙な作品でした。
映画『LAMB ラム』ネタバレあらすじを結末まで解説
【第1章】生まれたのは、羊ではない“なにか”
吹雪が荒れ狂う冬の夜。大雪原を歩いてきた“なにか”が、羊小屋にたどり着きます。怯えた数頭のヒツジが柵から飛び出しますが、1頭はなぜかその場に転倒。そしてその“なにか”が去ると、ヒツジたちは小屋から出ることもせず吹雪のなかを見つめていました。 羊飼いのマリアとイングヴァルの夫婦は、2人きりで静かに暮らしていました。ヒツジの出産ラッシュの時期、マリアたちは異形の仔ヒツジを取り上げます。 2人はそれを「アダ」と名付け、自分たちの子どもとして育てることに。夫婦はアダとしあわせな日々を送りますが、彼女を生んだ母ヒツジは、アダのいる夫婦の寝室に向かって鳴くようになりました。 そんなある日、アダが行方不明になってしまいます。夫婦は必死に探し、家から遠く離れた場所で母ヒツジとともにいるのを発見。マリアが優しく抱き上げたアダは、首から下は人間の赤ん坊のようでした。
【第2章】しあわせな生活を乱すもの
春が訪れたあるとき、ある集団が平原の真ん中で車のトランクからイングヴァルの弟ぺートゥルを引っ張り出し、道端に捨てて立ち去ります。 マリアが悪夢から目覚めると、またアダの母ヒツジが寝室に向かって鳴きつづけていました。マリアは納屋から銃を持ち出し、母ヒツジを射殺。彼女は雨のなか死体を引きずり、少し離れたところに埋めます。その異様な光景をぺートゥルが見ていました。 翌朝納屋で目を覚ました彼は、兄夫婦からアダを紹介されます。彼女が半人半羊であることを知ったぺートゥルは兄に「あれは子どもではなく、動物だ」と言い放つのでした。 早朝、イングヴァルとマリアが寝ている間に、ぺートゥルは銃を持ってアダを外に連れ出します。アダがベッドにいないことに気がついたマリアが不安になって家の中を探すと、アダはぺートゥルに抱っこされて眠っていました。
【第3章】家族を襲った悲劇
仲良くなったアダとぺートゥルは、あるときトラクターに乗って釣りに行きます。しかし帰り道でトラクターが動かなくなってしまい、歩いて帰ってきました。 ある夜、家でのサッカー観戦中に大人たちが酔っ払ってしまいます。暇を持て余したアダは犬に会いに外へ。しかし何かの気配を感じた犬はそれに立ち向かい、殺されてしまいました。 怯えたアダは慌てて家に入り、酔いつぶれたイングヴァルのもとへ。ぺートゥルはマリアに、彼女がアダの母ヒツジを殺したことを知っていると言って関係を迫りますが、納戸に閉じ込められてしまいました。 翌日マリアはぺートゥルに出ていくようにとお金を渡し、バスに乗せます。イングヴァルは、アダとともにトラクターが置き去りになっている場所へ向かっていました。家に帰ろうとしていたマリアは、突然響いた銃声を聞いて不安になり、様子を見に行きます。
イングヴァルは、ヒツジの頭とヒトの体を持つ雄羊のような謎の生き物に銃で撃たれました。アダは倒れたイングヴァルに抱きつき涙を流していましたが、その謎の雄羊に手を引かれ、どこかへ連れて行かれてしまいます。 瀕死の夫を見つけたマリアは、彼を抱きかかえアダの居場所を訪ねますが、イングヴァルはそのまま息絶えてしまいました。周囲を見渡してもアダは見つからず、彼女は天を仰ぐことしかできませんでした。
【考察①】マリアはなぜ母羊を殺したのか?
アダの母羊はマリアたちに子どもを奪われてから、しつこく家の中に向かって鳴き続けていました。アダもそれに反応するような素振りを見せていたので、マリアは面白くなかったのでしょう。 自分こそがアダの母親であると考えていたマリアには、母羊は邪魔な存在だったのです。また母羊はアダが人間ではないことを思い出させる存在でもあります。アダを人間のように、本当の自分の子のように育てようとしていたマリアにとって、それは考えたくないことでした。 母羊を殺し、排除することで、マリアは自分が唯一で絶対のアダの母親になれると思ったのです。
【考察②】アダの父親の正体は?冒頭の伏線をラストシーンで回収!?
アダの父親は、ラストシーンで現れた半人半羊の雄羊のような謎の生き物です。彼は映画冒頭で吹雪のなかマリアたちの羊小屋にたどり着き、1頭の雌羊を妊娠させたのでした。 人間に娘を奪われ、子の母親は殺された父親は、その復讐にやってきたのでしょう。彼は娘を奪った人間を殺し、娘とともにどこかへ去っていきました。 その不気味な姿は、ヤギの頭を持つ異教の神(悪魔)バフォメットのようです。しかしキリスト教ではイエス・キリストのことを「神の子羊」と呼ぶこともあり、本作においては聖なるものの意味合いのほうが強いようにも思えます。 山間で自然の恵みを受けて暮らしていたマリアたちは、アダを母ヒツジから奪ったことで自然に反する罪を犯してしまったのです。彼は超自然的な神のような存在として、人間の傲慢さを諌めに来たのかもしれません。
【考察③】映画『LAMB ラム』の元ネタとは?
監督のヴァルディミール・ヨハンソンは、常に民話をもとにした物語や、自然と人間の関係性を映し出す作品を作りたいと考えていたとか。 「ラム」には多くの北欧の民話が織り交ぜられていますが、具体的な原作はないと監督は語っています。 本作に取り入れられている民話の1つは、「クリスマス・イブの夜、民家には得体のしれないものがやってくる」というもの。多くの人が朝までミサに参列するため、無人となった民家には“魔”が訪れるといわれています。それが本作の雄羊のような謎の生き物のインスピレーションの1つになっているようです。
映画『LAMB/ラム』の見どころ
①とにかくアダちゃんがかわいい!
マリアとイングヴァルが愛情を注いで育てる半人半羊の女の子アダ。一見不気味なようですが、そのかわいさに、当初は彼女を殺そうとしていたぺートゥルも心をつかまれてしまいます。 動物の頭と人間の体を持つキャラクターは、漫画やアニメ、映画にも頻繁に登場するので、強い違和感を抱く人は少ないかもしれません。言葉を話さないアダちゃんですが、そのちょっとした仕草や歩き方などがとにかくかわいい! ヨハンソン監督も「たとえ彼女が異質なものであっても、アダは愛らしくなければなりませんでした」と語っています。そんな愛らしいアダちゃんは、パペットや10人子どもたち、さらに本物の複数のヒツジ4頭を使って撮影し、VFXで仕上げられたそうです。
②絶景!アイスランドの大自然
見渡す限り平原と山しかないアイスランドの雄大な自然を映しているのも、本作の見どころの1つ。日本で暮らしていれば見ることはないほどの大自然は、美しくもあり恐ろしくもあります。 厳しい冬の吹雪のシーンも、穏やかな日差しの春のシーンも、雄大な自然が美しく切り取られています。ひろびろとした平原で羊たちが放牧される様子や山間にポツンと佇むマリアたちの家や羊小屋など、趣のある映像に仕上がっています。
③ノオミ・ラパスの不穏さ漂う演技に注目
本作の主演を務めるのは、「ミレニアム」シリーズや『プロメテウス』(2012年)などで知られるノオミ・ラパス。スウェーデン出身の彼女は、5歳から15歳まではアイスランドに住んでいたそう。アイスランド語での演技は今回が初めてとなりますが、その存在感や空気感は健在です。 シリアスなサスペンスを得意とする彼女が演じるマリアは、不穏な空気のなかに身を置き、自ら破滅を呼び寄せてしまいます。かつて幼い娘を亡くした心の穴を、“新たなアダ”で埋めようとするマリア。手に入れたしあわせを守ろうとする彼女は必死ですが、冷徹で残酷な決断もためらいません。 マリアのそうした態度は、自然に反する人間の傲慢さを現しているのでしょう。そしてラストシーン、彼女は自然(あるいは超自然)から反撃を受け、混乱や絶望、さまざまな感情が入り混じった表情を見せます。
ネイチャー・ホラー映画『LAMB/ラム』をネタバレあらすじから徹底考察!
羊から生まれた“なにか”との生活によって、1組の夫婦が破滅へと向かっていくネイチャー・ホラー『LAMB/ラム』。主演のノオミ・ラパスの演技や半人半羊のアダなどが見どころの本作ですが、やはり最大の見どころは呆気にとられる結末でしょう。 そこにどんな感情を抱くのか、自分のなかで掘り下げていくのも面白いかもしれません。