2024年2月16日更新

【ネタバレ】映画『哀れなるものたち』あらすじを解説・考察!r指定の性描写に込められた意図とは?

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『哀れなるものたち』
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

オリヴィア・コールマンがアカデミー賞主演女優賞を獲得した『女王陛下のお気に入り』(2018年)などで知られるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『哀れなるものたち』が、2024年1月26日に公開! ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した本作は、ランティモスが『女王陛下のお気に入り』でもタッグを組んだエマ・ストーンを主演に迎え、1人の女性の不思議な旅を描きます。 この記事では、『哀れなるものたち』のあらすじやキャスト、海外での評価を紹介します!

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映画『哀れなるものたち』あらすじ・作品概要

『哀れなるものたち』
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
タイトル 『哀れなるものたち』
公開日 2024年1月26日
上映時間 141分
監督 ヨルゴス・ランティモス
キャスト エマ・ストーン , マーク・ラファロ , ラミー・ユスフ , ウィレム・デフォー

自ら命を絶ったある不幸な女性は、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって自らの胎児の脳を移植され、大人の体に新生児の脳を持つ女性ベラ(エマ・ストーン)として奇跡的に蘇生します。 ゴッドウィンの指示で彼女の観察記録をつけることになったマックス(ラミー・ユスフ)は、彼女を愛し、結婚することにしますが、その契約のためにゴッドウィン邸を訪れた遊び人の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われ、ベラは「世界を自分の目で見たい」と2人のもとから旅立ちます。 なにものにも縛られないベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていくのでした。

【ネタバレ】映画『哀れなるものたち』の結末までのあらすじ

【起】ベラの旅立ち

『哀れなるものたち』
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ある夜、不幸な女性が橋から身投げをし、自ら命を絶ちます。 ロンドンに住む若き医師のマックスは、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスター(通称ゴッド)から助手にならないかと誘いを受け、喜んでその申し出を受け入れます。彼に与えられた仕事は、不思議な女性ベラの観察記録をつけることでした。 実はベラは、自殺した女性に、彼女が身ごもっていた胎児の脳を移植して作られた人造人間だったのです。ベラの学習スピードは凄まじく、様々な物事を驚異的なスピードで吸収していき、それは性的な事柄にも及びました。 ベラを愛するようになったマックスは彼女との結婚を許してくれるよう、ゴッドに頼みます。ゴッドはそれを承諾しましたが、1つ条件が。それは、結婚してもベラと一緒にゴッドの屋敷に住みつづけるというものでした。 契約書を作成するため、ゴッドは弁護士のダンカンを家に招きます。遊び人の彼はベラを一目で気に入り、一緒に外の世界を旅しようと誘います。家に閉じ込められていることに不満を感じていたベラは、ダンカンと一緒に旅立ちました。

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【承】新しい世界を知り、成熟していくベラ

『哀れなるものたち』
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ダンカンとともにポルトガルのリスボンを訪れたベラは、外の世界を知っていきます。一方で、性的な事柄に強い興味を持ちながらも貞操観念のない彼女の奔放な行動に、心を乱されるようになるダンカン。 ついに彼は彼女を独り占めするため、ベラをトランクに入れ、無断で豪華客船での船旅にくり出します。しかし船内である老婆とハリーという男性に出会ったベラは、知的な彼らの影響を受け、急速に成熟していきます。セックス以外に強い興味を持つようになり、束縛を嫌う彼女の態度に絶望し、ダンカンは酒浸りになり、ギャンブルにふけるようになりました。 そんなあるとき、ハリーはベラをアレクサンドリアの町を見せます。そこでは貧しさから命を落とす子どもが数多くいました。厳しい現実を目の当たりにしショックを受けたベラは、ダンカンがギャンブルで勝った金を「貧しい人たちのために使ってほしい」と、すべて船員に渡してしまいます。 無一文になった2人はパリで船から放り出されることに。ベラはゴッドが持たせてくれていた緊急用の金をダンカンに渡し、帰国するように言います。そして自分は娼館で働くことを決意します。様々な人との交流を通してベラはますます知識をつけ、聡明な女性になっていきました。

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【転】思いもよらない再会

『哀れなるものたち』
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ゴッドが危篤との知らせを受けたベラは、ロンドンに戻ります。彼女はゴッドから自分がどのようにして生まれたかを聞き、マックスとの結婚を決意。しかし結婚式に思わぬ人物が乱入してきます。それは、ベラとして生まれ変わる前のヴィクトリアの夫アルフィーでした。 ベラに裏切られたと思ったダンカンが、船で見知らぬ人がベラに「ヴィクトリア」と声をかけたことを思い出し、彼を探し出したのです。アルフィーに促されたベラは、生まれ変わる前の人生も見てみたいと彼についていくことにします。 しかしアルフィーは残酷な性格で、使用人たちを銃で脅して楽しむような人物でした。ベラに対しても抑圧的で、彼女に自分の子どもを産ませたいアルフィーは、医師に彼女のクリトリス切除手術を頼みます。その事実を知ったベラは屋敷から逃げようとしますが見つかってしまい、アルフィーの銃を奪って彼の足を撃ちました。

【結末】自由を勝ち取ったベラ

『哀れなるものたち』
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アルフィーをゴッドの家に運び、マックスに彼を助けるよう頼むベラ。彼女は、アルフィーがどんなに残酷な人物でも、そのまま死なせるのは良くないと考えていました。ゴッドを看取ったベラは、自分も医師になることを決意します。 その後ベラは、彼女と同じような手術で生まれたフェリシティーとメイド、パリの娼館で出会った友人、そしてマックスとともに優雅に暮らしていました。 医学生となったベラは、翌日に解剖学のテストを控えています。不安がるベラにマックスは、「何度も練習したから大丈夫」と声をかけます。庭では、頭部に手術跡のあるアルフィーが動物のように四つん這いで移動しながら、草を食べていました。

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『哀れなるものたち』はセックスシーンが多すぎる?意図を考察

『哀れなるものたち』
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自死した女性の体に、その女性の胎児の脳が移植され、生まれたベラ。『哀れなるものたち』は、そんなベラが、自らのアイデンティティを形成していく物語となっています。R指定の本作において、特に強烈なのが、数多くのセックスシーン。「性的関心=隠すもの」という規範に慣れた多くの観客にとって、衝撃的だったはず。 多すぎるとも思われるセックスシーンですが、エロティシズムとしてではなく、ベラの成長の通過点としての側面が強調されていたと考えられます。ベラがダンカンと旅立ったばかりのころ、ベラにとって性的な事柄は単に快楽を得る方法の1つという認識でした。 その後、ベラはパリで娼婦として働き始めます。ここでもまた、ベラにとって、性的な事柄は、金銭を得る方法として描かれています。しかし、次第に、自らの体と意識の繋がりを強く自覚するようになるのです。客が娼婦を選ぶのではなく、娼婦が客を選ぶべきと主張するシーンをはじめ、「私の体は私が決める(My body my choice)」というメッセージを体現していると言えそうです。 このように、セックスという自らの身体と深くかかわる事柄を通して、ベラのアイデンティティの変遷を描いているのではないでしょうか。

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「哀れなるものたち」とは誰なのか?タイトルを考察

『哀れなるものたち』
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

本作のタイトルである『哀れなるものたち』とは一体なにを指しているのでしょうか。 『哀れなるものたち』の原題である「Poor things」における「Poor」には可哀想といった意味も含まれています。また、メインのポスター画像をよく見ると、ベラのアイシャドウやリップには作中に登場した男たちが隠れており、無知で無垢だったベラが彼らによって女性という規範に当てはめられているようにも見えます。 ここから、「哀れなるものたち」とは、ベラを我が物にしようとする男たちと、なすがままで受け入れていた頃のベラ自身を指しているのではないでしょうか。映画を通して1人の人間として自立したアイデンティティーを獲得したベラが、「男」や「女」という枠組みにとらわれていた自分たちを俯瞰して、哀れと表現しているのかもしれません。

ベラを巡る4人の男性から紐解くフェミニズム

『哀れなるものたち』
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

本作には、ベラを巡って4人の男性が登場します。ベラの創造主であるゴッド、彼女に一目ぼれした医学生のマックス、遊び人で女好きのダンカン、そしてベラのかつての夫・アルフィーの4人です。この4人はそれぞれに、ベラを通して満たしたい欲求があり、ある意味ではそのための手段としてベラを見ています。 まず、ゴッドは、当初ベラを通して、父親の虐待じみた愛情を理解し、受け入れられたいという承認欲を満たそうとしていたと言えるでしょう。さらに、マックスは彼女を我が物にしたいという所有欲、ダンカンは性欲、アルフィーは支配欲といった具合に、彼らは当初、ベラ自身に真に目を向けることはありませんでした。 物語を通し、ベラが学び成長していくなかで、彼女はこういった「欲求のはけ口」という立場から自らを開放し、主体性を獲得したのではないでしょうか。決められた枠組みから自由になり、彼女が1人の人間としてアイデンティティを確立させてゆく過程は、女性へのエンパワーメントというメッセージが色濃く反映されていると考えられます。

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映画『哀れなるものたち』の感想・評価

哀れなるものたち
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
哀れなるものたち』の総合評価
4.5 / 2人のレビュー
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40代女性

このフェミニスト・フランケンシュタイン映画は、ランティモスの風変わりでディストピア的なフィルモグラフィーの入門にぴったり。スマートでウィットに富んでいて、力強い女性以前の存在へのメッセージとねじ曲がった運命のぎこちない魅力に満ちている。

吹き出し アイコン

40代男性

全てにおいて『哀れなるものたち』は楽しく、時折主演2人の素晴らしいパフォーマンスによって魔法にかかったように流れていく。個人的にはもっと先まで描いてほしかった。映画を見ながら、ベラのように様々なことに興味をそそられて、面白がり、しかし次の冒険への準備もできていた。

映画『哀れなるものたち』のキャスト・俳優

ベラ役/エマ・ストーン

エマ・ストーン
Adriana M. Barraza/WENN.com

ベラは、妊娠中に自ら命を絶ち、天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって胎児の脳を移植された女性です。大人の体に子どもの脳を持つ彼女は、当初はぎこちなく歩き、少ない語彙で話すなど、まさに子どもそのもの。しかし急速にさまざまな物事を学習し、成長していました。 ついには「親」であるゴッドと婚約者のマックスを残して“自分の目で世界を見る”ため、旅に出ることに。ゴッドの家に閉じ込められていたときには知らなかった世界を目撃し、さらに成熟していきます。 演じるのは、『女王陛下のお気に入り』にも出演していたエマ・ストーン。彼女は本作での演技を絶賛されており、アカデミー賞有力候補と言われています。

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ダンカン役/マーク・ラファロ

マーク・ラファロ
©️Patrick Hoffmann/WENN.com

ベラを旅へと連れ出す弁護士のダンカン。ベラとマックスの結婚にあたって、ゴッドウィンが出した条件を法的な書面にするため、彼の屋敷にやってきました。遊び人の彼は、美しいベラを一目で気に入り誘惑します。彼女を連れ出したはいいものの、次第に成長していくベラに困惑し、また彼自身の気持ちも変化したことによって関係がうまくいかなくなっていきます。 ダンカンを演じるのはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のハルク/ブルース・バナー役や『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)などへの出演で知られるマーク・ラファロです。

ゴッドウィン・バクスター役/ ウィレム・デフォー

ウィレム・デフォー
©Van Tine Dennis/ABACA/Newscom/Zeta Image

不幸な女性の遺体を引き取り、手術によって「ベラ」として蘇らせた天才外科医のゴッドウィン・バクスター。通称ゴッド。風変わりな人物として知られる彼は、医学界でも爪弾き者でしたが、一部の若い医者の中には、彼を崇拝する者もいます。 自らの創造物であるベラを愛していますが、彼女を実験体として突き放して見る冷静な目も持つ、矛盾した状態に陥っています。 ゴッドを演じるのは、『プラトーン』(1986年)や「スパイダーマン」シリーズのノーマン・オズボーン/グリーンゴブリン役などで知られるウィレム・デフォーです。

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マックス・マクキャンドルス役/ ラミー・ユセフ

ラミー・ユセフ
© Adriana M. Barraza/WENN/Zeta Image

ゴッドに心酔し、彼の誘いでベラの観察記録をつけることになる若き医師マックス。風変わりなベラに魅せられ彼女と婚約しますが、ゴッドとの約束で結婚後も現在の家に住みつづけるという約束を交わします。 マックスを演じるラミー・ユセフは、ドラマ『ラミー:自分探しの旅』(2019年〜2022年)で注目を集めた若手俳優。ディズニー映画『ウィッシュ』(2023年)では、主人公アーシャの友人のうちの1人、サフィを演じました。

映画『哀れなるものたち』の監督・スタッフ

監督:ヨルゴス・ランティモス

本作の監督は、ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスです。 2015年のSF恋愛映画『ロブスター』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、注目を集めた彼は、つづく『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017年)もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。パルム・ドールを争いました。 2018年の『女王陛下のお気に入り』では、証明を使用せず自然光のみで撮影するという斬新な手法で絶賛されました。

脚本:トニー・マクナマラ

トニー・マクナマラは、オーストラリア出身の脚本家です。 『女王陛下のお気に入り』でも脚本を手掛け、2021年公開の『クルエラ』の脚本も担当しており、エマ・ストーンとは今回3回目のタッグとなりました。

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原作は同名のゴシック小説

映画『哀れなるものたち』は、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を原作としています。 ゴシック小説とは、18世紀から19世紀のイギリスで流行した、中世ゴシック建築の屋敷、城、寺院、修道院などを舞台に超自然的な怪奇を描く作品のことです。 原作は「知的な仕掛けと奇想によって蘇るゴシック小説の傑作」と言われており、映画と同様に女版フランケンシュタインであるベラの冒険が紡がれています。

映画『哀れなるものたち』のあらすじをネタバレ解説しました

純真無垢なベラが世界を目にし、成長していく姿を描く『哀れなるものたち』。圧倒的な世界観とともに、主演のエマ・ストーンの演技も絶賛されており、賞レースでも注目される快作です。 『哀れなるものたち』は、2024年1月26日日本公開です!