2024年10月15日更新

【ネタバレ考察】『シビル・ウォー アメリカ最後の日』衝撃のラストの意味を解説!日本人には意味不明なのか

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映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のあらすじ・作品概要

公開年 2024年10月4日
メインキャスト キルステン・ダンスト , ケイリー・スピーニー , ワグネル・モウラ
監督・脚本 アレックス・ガーランド
製作スタジオ A24

『エクス・マキナ』(2015年)のアレックス・ガーランドが監督し、気鋭のスタジオ「A24」が製作した話題作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。 アメリカで「シビル・ウォー」といえば、1861年に起こった南北戦争のこと。奴隷制維持の南部と奴隷制撤廃の北部が国を2つに分けて戦った、アメリカ唯一の内戦です。本作がアメリカ公開日を南北戦争が始まった4月12日にしたことにも重要な意味があります。 独裁する大統領が率いる連邦政府と連邦から離脱した西部勢力が戦う内戦を、ジャーナリストたちが追うドキュメンタリータッチの近未来フィクション。「もしアメリカが分断の末に内戦に陥ったら」というIFの物語です。アメリカ特有の事情など、日本人には馴染みのない部分があるため事前に知っておくべき知識もあります。

【ネタバレ】映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の結末までのあらすじ

「シビル・ウォー」鑑賞における4つのポイント
  1. 「大統領が3期目」は何が異例?本来アメリカの大統領の任期は4年で、憲法で2期8年までと制限が加えられています。劇中の大統領は憲法に違反して3期目に就任したことから、国民の反感を買ってしまいます。
  2. FBIの解散で何が変わるのか?冒頭で大統領が国の司法機関であるFBIを解体。三権分立のパワーバランスが崩れ、大統領による独裁的が可能になっています。
  3. 西部勢力(WF)の中心2州は非現実的?西部勢力(Western Forces)は、リベラル派の民主党と保守派の共和党の2大政党が組むという、普通では考えられない同盟軍。それほど大統領の独裁に業を煮やしたということでしょうか。
  4. 作中で登場するアメリカ地理西部勢力はホワイトハウスがある首都ワシントンD.C.まで200kmの地点「シャーロッツビル」まで進軍しています。一方ニューヨークからワシントンD.C.を目指すジャーナリストの一行は1379kmの道のりを向かっていました*西部勢力はあと少しで首都制圧するところまで来ているんですね。

【起】内戦を取材するジャーナリストたち

独裁政治を続ける大統領(ニック・オファーマン)に反旗を翻し、19もの州が連邦政府から離脱したアメリカ。テキサス州とカリフォルニア州は同盟を組んで西部勢力となり、大統領率いる連邦政府の正規軍との内戦が続いています。 大統領は憲法を無視して3期目に就任し、FBIを解体して独裁的な地盤を固めており、国民に向けて空爆するという暴挙にも出ていました。しかし西部勢力は首都ワシントンD.C.まであと200kmという地点にまで進軍しています。 戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)は記者のジョエル(ワグネル・モウラ)とともに、大統領への単独取材を計画していました。ニューヨークで出会った若手カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)とリーの恩師でありベテラン記者のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)も同乗し、4人はワシントンD.C.へ向かいます。

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【承】ベテランと若手、2人の戦場カメラマン

州間高速道路は寸断された状態で、一行は一般道を迂回することに。ニューヨークから出発し、ペンシルバニア州を横断してピッツバーグまで進みます。 その途中、ガソリンスタンドに立ち寄りますが、そこで吊るされている男性2人を発見。スタンドにいる武装した男たちに拷問されたようで、男性を「略奪者」と呼んでいました。リーはその場で冷静にシャッターを切りますが、ジェシーは動揺して何もできなかったことを悔やみます。 翌日は武力衝突している民兵たちに密着取材。ジェシーは果敢に撮影に挑み、そこで撮った写真をリーに褒められて自信を付けていきます。避難キャンプで一夜を明かし、一行はウェストバージニア州へ。 まるで内戦などないような“時間が止まったような”ある小さな町に入ったリーたち。アパレルショップの店員に「内戦を知っているか?」と聞くと「関わらないようにしている」と返されます。奇妙な感覚を覚えた一行ですが、建物の屋根の上に民兵らしき影を見て戦慄します。

【転】サミーの死と政府軍の降伏

バージニア州に入り、ワシントンD.C.に近づく一行は、その道すがら記者仲間のトニーとボハイに再会。 しかし先に行ったジェシーとボハイが武装集団に拉致されてしまいます。 武装集団は大量の民間人の遺体をトラックから穴に落として「処分」している模様。絶体絶命のジェシーたちを助けに、サミーを除く全員が向かいました。 ジョエルが丁寧に言葉を選んで解放を促しますが、赤いサングラスをかけた民兵(ジェシー・プレモンス)が「お前はどの種類のアメリカ人だ?」と問いかけます。「香港」と答えたボハイがその男に射殺され、凍り付く一行。さらにジョエルの後ろに隠れていたアジア系のトニーも問答無用で射殺されてしまいました。 その時、1人待っていたサミーが車で突っ込んできて、リーたちを乗せて走り去ります。しかしその時の銃撃で受けた傷により、サミーは絶命。一行は西部勢力の最前線基地があるシャーロッツビルに到着し、そこで政府軍が降伏したことを知ります。

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【結末】戦慄のラスト!独裁政権最後の日

もはやワシントンD.C.の陥落は目の前。大統領への単独取材を諦めたリーたちは、西部勢力の同盟軍とともに首都入りします。目の前で繰り広げられる激戦を次々と激写していくジェシーの横で、リーはこれまでに感じたことのない恐怖と戦っていました。 大統領が立てこもるホワイトハウスへ着いた一行は、激しい銃撃戦の中で大統領が専用車に乗って逃げ出した様子を目撃。しかしそれはフェイクで、「大統領はまだホワイトハウスの中にいる」とベテランの勘でリーが動きます。 ホワイトハウスの中で大胆に飛び出したジェシーを庇ってリーが撃たれ、その様子を反射的に写し取ったジェシー。西部勢力の兵士たちが大統領を執務室で発見し、射殺します。ジェシーはその様子をしっかりとカメラに収めたのでした。

【ラストの意味】 大統領のあっけない最後を解説

アメリカ大統領が登場するアメリカ映画といえば、大統領がヒーローのように活躍したり、民衆を演説で団結させたりと、どちらかというと良いイメージが多いでしょうか。そういう意味で独裁的な大統領が登場すること自体が珍しいといえます。 さらに大統領がラストであまりにもあっさりと射殺されたため、あっけない結末と思った人も多いのでしょうか。しかしこのラストは今後の政治的にもかなり重要な意味を持っています。 大統領を射殺した兵士は黒人女性でした。これでピンとくるのは、11月に控えるアメリカ大統領選挙で民主党候補として出馬している現副大統領のカマラ・ハリス。独裁的な大統領とはトランプ元大統領を暗喩していると考えられ、本作がただの近未来IFの物語ではないと示しているのです。

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【考察①】現実で「シビル・ウォー」が起こったら?

独裁的で分断を煽る大統領といえば、もはやトランプ元大統領しか思い浮かばないほどですが、劇中冒頭の演説や3期目就任などその姿を彷彿とさせる演出も。そして何より、本作がIFの話なのにリアリティをもってアメリカ国民に受け入れられた所以に、これまでの現実社会とのリンクが挙げられるでしょう。 そもそも2020年の大統領選挙での不正を主張したトランプ元大統領は、自分の支持者を扇動して2021年1月にバイデン大統領就任を阻止しようと議会襲撃を行わせた責任を追及されています。 トランプ支持者にとっては彼は救世主ですが、不支持者にとってはもし2024年の大統領選で再びトランプが選ばれるようなことがあれば、まさに本作はIFの物語ではなくなるかもしれないと危惧しているのです。 その一方で、内戦に無関心な町の人々も劇中で描かれましたが、これも現実から目をそらしている一定の層を映し出しているといえるでしょう。

意味不明で全体像を掴ませないからこそのリアルさ

アメリカの歴史や文化に興味がなければ、この作品の意図や目的がわからず、なぜ内戦が起きたのか意味不明に思うかもしれません。実際に劇中では内戦勃発の明確な理由は語られていませんでした。 政治面や精神面で州の独立性が高いことがアメリカ合衆国の特徴ですが、それ故に同じ目的で州同士が同盟を組んだり、連邦政府から離脱独立するというシナリオはまったくの空想ではないといえます。保守のテキサス州とリベラルのカリフォルニア州が組むのは突飛なアイデアではありますが、それこそそうまでして倒したい政府であることが示唆されているのです。 いわゆるWASP(アングロサクソン系白人でプロテスタント)でないアメリカ人が劇中で一番戦慄するのは、一般人を虐殺している民兵集団が問う「お前はどの種類のアメリカ人だ?」の問答シーンでしょう。明らかに非白人系アメリカ人である2人を躊躇なく射殺し、出身を中西部のコロラド州とミズーリ州だと答えたリーとジェシーには「それこそアメリカ人だ」と満足気でした。 おそらくこの分断対立の構造は、トランプVSハリスの構図に似ています。だからこそ、この作品を観たアメリカ人は内戦をリアルなものに感じているのでしょう。

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【考察②】問われるジャーナリズムの在り方

本作は戦場ジャーナリストを目指す若きカメラマンとベテランの戦場カメラマンの継承の物語でもあります。それをロードムービーにして、ジェシーの成長譚としても描いているのです。 初めは残虐な拷問に恐怖して動けなかったジェシーが、旅を通して次第にリーをも追いこすほどの大胆さと記者魂を獲得していきます。その反面で、リーは分断の恐怖を目の当たりにして徐々に意欲を失っていくのです。 ホワイトハウス内での銃撃戦で自分を庇って撃たれたリーを、反射的に淡々と撮影したジェシーを「冷たい」と感じるかもしれません。しかしこの時にジェシーはリーから記者魂を受け取り、ジャーナリズムの後継者となったのです。 ジャーナリズムの継承が本作で描きたいことの要点であり、幼い頃にジャーナリストたちに囲まれて育ったアレックス・ガーランド監督が意図的に表現したことだったようです。ジャーナリズムを軽視する傾向が強まっている現状への危惧を強く感じます。

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』をネタバレ解説・考察でおさらい

日本人にはあまり馴染みのない「アメリカ内戦の物語」ですが、現在の国際情勢や日本とアメリカのつながりを考えると、まったく他人事ではありません!11月のアメリカ大統領選挙に備えて、ぜひ劇場で内戦の行方を目撃してみてください。