【ネタバレ考察】『傲慢と善良』の中で私たちは誰を選ぶのか?映画と原作の違いを踏まえて解説
辻村深月原作、藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演作『傲慢と善良』が、2024年9月27日から劇場公開されています。婚活アプリで出会った30代の男女の恋の行方を描いた恋愛ミステリーです。 この記事では、本作のあらすじをネタバレありで詳しく紹介し、重要なポイントや原作との違いを解説・考察します。 ※ciatr以外の外部サイトでこの記事を開くと、画像や表などが表示されないことがあります。
映画『傲慢と善良』のあらすじ【ネタバレなし】
公開年 | 2024年9月27日 |
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メインキャスト | 藤ヶ谷太輔 , 奈緒 |
監督 | 萩原健太郎 |
藤ヶ谷太輔と奈緒がW主演を務める映画『傲慢と善良』は、『かがみの孤城』や『ハケンアニメ!』などで知られる辻村深月の同名小説が原作。婚活アプリで出会った30代の男女の建前と本音を赤裸々に綴る、現代の婚活事情を描いた作品です。 婚活アプリで出会った西澤架(藤ヶ谷太輔)と坂庭真実(奈緒)。2人は付き合って1年で同棲し、結婚の約束をします。しかし結婚式を目前にして、突然真美が失踪してしまいます。
【ネタバレ】映画『傲慢と善良』の結末までのあらすじ
【起】「婚活は就活に似ている」婚活アプリで出会った架と真美
クラフトビール製造業を営む社長の西澤架(藤ヶ谷太輔)は、長年付き合った彼女にフラれたのをきっかけにマッチングアプリで婚活を始めていました。しかしまるで就活のように同じ手順を踏んでの繰り返しに疲れ始めた頃、控えめな性格の坂庭真実(奈緒)に出会います。 真美は群馬の実家から上京して1年、英会話教室の事務員をしていました。真美の「善良さ」に惹かれた架は彼女と真剣に交際を始めますが、婚活アプリ経由で知り合ったにもかかわらず、交際1年を経てもいまだ結婚に踏み切れずにいました。 真美は高級レストランで架から渡されたジュエリーボックスを見て期待しますが、それは指輪ではなくネックレスで、誕生日プレゼントでした。
【承】「現代の婚活は傲慢と善良」失踪した真美の行方は?
英会話教室を退職し、送別会があった次の日から真美と連絡が取れなくなります。何の前触れもなく、突然の失踪に困惑する架。心当たりは真美がストーカー被害に遭っていたということだけでした。 真美の姉・希実(菊池亜希子)に連絡しますが、ストーカーは群馬での婚活の相手で一緒にいるのでは?と不穏なことを言われます。群馬に住む真美の両親を訪ね、お見合い相手だった2人に連絡を取ってもらうことに。 早速2人に連絡し、会う段取りをしてくれた結婚相談所の小野里(前田美波里)。その時、今は「傲慢と善良」のせいで結婚までたどり着けない人が多いという話も聞かされます。謙遜するのに自己愛は強い、傲慢さと善良さを併せ持つ人々……それはまるで架と真美のことのようでした。
【転】「70%の彼女」真美の嘘と架の本音
お見合い相手の2人がストーカーではないことがわかり、手がかりを失っていた架は、女友達の美奈子(桜庭ななみ)に呼び出されます。美奈子は真美が失踪した前の晩、送別会の後に彼女に偶然会い、ストーカーの件は“架に結婚を決断させたい”真美の嘘だと気付いていることを話したと言います。 それだけでなく、架が真美との結婚を「70%」しか考えていなかったことも暴露。しかも美奈子はそれを「70点の彼女」だと真美に告げたのでした。真美の嘘と自分の本音が暴かれたことに動揺を隠せない架。 その頃、真美は佐賀県唐津市の七山に来て、災害支援ボランティアとして働いていました。飲み屋の2階を間借りし、その店主・よしの(西田尚美)に世話になっていた真美は、そこで自分を見つめ直していました。
【結末】予想外のラスト!2人の最後の選択は
架からの「ストーカーはいなかった、話したい」というメールにようやく返信し、電話で嘘を謝罪して別れを告げた真美。 それから半年経ち、災害ボランティアのリーダー・高橋耕太郎(倉悠貴)とも打ち解け、みかん農家を手伝うようになっていた真美。みかんを使った町おこしアイデアとして地ビールが出た際に架の会社を紹介し、架が七山を訪れることになります。 真美のインスタ投稿を見ていた架は、この町に真美が居ることを察して再会を果たしました。「やり直そう」と切り出す架に応えられなかった真美でしたが、よしのに「大恋愛だね」と背中を押され、インスタ経由で別れの言葉を寄こしてきた架を追って本音をぶつける覚悟を決めます。 何も取り繕わず、お互いに思い切り本音をぶつけ合った2人。晴れ晴れとした顔で改めて結婚の約束を交わすのでした。
【解説】真実の失踪からラストまでが急すぎる?
原作小説では前半7割近くが、失踪した真美を探す架サイドから語られています。第二部で真美サイドから失踪にまつわる真実が明らかになるという構造。しかし映画では架サイドの失踪と捜索の展開が早々に端折られており、真美が七山へ行った理由に触れられていませんでした。 原作では行く当てのない真美が、お見合い相手が行ったことがあると話していた東日本大震災の被災地ボランティアを思い出し、仙台でボランティアに参加しています。群馬の実家に帰ることは、再び母親の支配下に戻ることになるため、絶対に避けたい方法だったのです。 真美の心境は嘘をついた罪悪感と架への不信感が混じり合っていましたが、七山で自分を見つめ直した後に架と再会して吹っ切れたように感じました。架の心境の変化はいきなり失踪から半年後でラストまでが急展開に思えますが、その半年間で彼がいかに真美への想いを募らせていたかが、彼の外見の変化や真美への接し方でわかるようになっています。
【考察】原作と映画『傲慢と善良』はどう違う?その意図とは
前述のように、原作と映画では展開の仕方が違います。原作の方が失踪の種明かしを後の方に配置しており、よりミステリーとしての要素が強いようです。映画は架と真美の恋愛模様に重きを置いていて、2人の心境の変化が同等にわかるように構成されていました。 原作も映画も災害ボランティアが登場し、夢(結婚)が潰えた後の希望として「再生」が描かれていました。原作では写真や地図を復刻・更新するボランティア、映画では土砂撤去とみかん農場の復興。特に映画で強調されていたのは、土砂で根が腐りかけたみかんの木の再生です。 植え替えて半年育てた木から新たに花が咲いたのを見て、真美は架に本気で向き合う覚悟を決めています。「一度潰えたものでも、再生することができる」というメッセージが強く感じられました。
コミックス版が発売に
【感想】「現代の結婚がうまくいかない理由は『傲慢さと偏見さ』にある」?
劇中で結婚相談所の所長・小野里が架に語った「傲慢と善良」。原作にも出てくるこの言葉の由来は、ジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』から。19世紀初頭のイギリスの結婚事情が描かれた恋愛小説ですが、当時は身分の差が男性の高慢さと女性への偏見を生み出して結婚が進まなかったようです。 それに対して現代の日本の結婚がうまくいかない理由は、自己愛による傲慢さと世間知らずな善良さによるものだと、小野里は語っています。その逆に、結婚がうまくいく人には「ビジョンがある」とのこと。 ビジョンがある人の代表として、原作・映画ともに架の元カノ・アユがいます。しかし誰もがアユのように結婚に対して早くからビジョンを持っているわけではないでしょう。結婚に対する架とアユの対照的な考え方こそが男女のすれ違いを生むのです。 架がアユに再会した時ふと「みんなアユのように生きられたらな」と呟きますが、これもリアルな本音。真美のように「傲慢と善良」の間で悩んでいる姿の方がより身近に感じられ、“ぶっ刺さる”ほどの共感を覚えるのでしょうね。
映画『傲慢と善良』をネタバレ解説・考察でおさらい
現代のリアルな婚活事情を描いて多くの共感を得ている『傲慢と善良』。映画を観た後で原作小説を読むと、架と真美のより細かな心情を知ることができ、作品への理解が深まります。映画は劇場で公開しているうちにぜひ!