2026年7月16日更新

吉田恵輔監督に聞く生涯ベスト映画3選―衝撃を受けた2026年公開作とは?【『四月の余白』公開記念】

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人の痛みや社会の常識をうまく理解できない少年たちと、彼らに真正面から向き合う大人たちの姿を描く映画『四月の余白』が、2026年6月26日(金)より公開。『ヒメアノ〜ル』『空白』『ミッシング』の吉田恵輔監督が、自身の記憶をもとに紡いだオリジナルドラマです。 本作の公開を記念して、吉田恵輔監督に映画をテーマにインタビュー。映画の原体験や鑑賞習慣、映画監督としての現在地、さらに生涯ベスト映画を3本選出いただき、その作品の魅力を語っていただきました。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!

映画『四月の余白』作品概要

公開2026年6月26日(金)
監督・脚本吉田恵輔
出演一ノ瀬ワタル , 夏帆 , 上阪隼人 ほか
公式サイト公式サイトはこちら

『ヒメアノ〜ル』『空白』『ミッシング』などで知られる吉田恵輔監督が、自身の記憶をもとに、非行少年たちと彼らを取り巻くコミュニティを描いたオリジナルドラマ。人の痛みや社会の常識をうまく理解できない少年たちと、彼らに真正面から向き合い続ける大人たちの姿を映し出します。 主演は、Netflixドラマ「サンクチュアリ -聖域-」で注目を集めた一ノ瀬ワタル。荒れる子どもたちに本気でぶつかる西を、リアルなアクションとともに体現します。周囲を翻弄する中学3年生・海斗役には新星・上阪隼人。2人を引き合わせる教師・草野冬子を夏帆が演じます。

映画『四月の余白』あらすじ

映画 『四月の余白』ポスター
©2025 N.R.E

元半グレで服役経験を持つ西健吾(一ノ瀬ワタル)は、海の見える地方都市で全寮制更生施設「みらいの里」を運営している。自身の過去を糧に、道を踏み外しかけた子供たちと体当たりで向き合う一方、体罰も辞さない指導方針は批判を浴びていた。 ある日、中学教師の冬子(夏帆)から、問題を抱える海斗(上阪隼人)と鑑別所帰りの悠について相談を受ける。海斗を施設に迎えるが、彼は寮生と衝突して脱走し、傷害事件で逮捕されてしまう。さらに西の前に、若い頃に彼からリンチを受け、左脚に障害が残ったと訴える海斗の父(篠原篤)が現れる。記憶のない過去と向き合う西は、「ひとは変われる」と信じ、海斗の更生にすべてを懸けるが――。

『四月の余白』作品インタビューはこちら

吉田恵輔監督が選ぶ生涯ベスト映画3選

映画 「四月の余白」 吉田恵輔
©2025 N.R.E

ここからは、吉田監督に選出いただいた「生涯ベスト映画3選」ご紹介します。少年時代の原点から、映画監督としての礎になった一本まで——それぞれの作品に寄せる思いを、監督自身の言葉で語っていただきました。

生涯ベスト映画①『鉄男』(1989年)

吉田監督 僕が映画の専門学校に入ったのは90年代前半で、当時は「邦画はダサい」という感覚があったんです。ハリウッド映画がかっこいい、タランティーノがかっこいい、と。 そんなときにクラスメートの塚本晋也監督のファンがいて、『鉄男』を観たら、「日本にこんなにかっこいい映画があるのか」「世界でこれ以上かっこいい映画はないんじゃないか」と衝撃を受けて。自分は邦画というものを全然分かっていなかったんだな、と邦画の可能性に気付かされました。 憧れて塚本監督のような自主映画を作っていた時期もあったのですが、アマチュアの映画祭に出しても落選しまくりで。やっぱり僕が作ると偽物くさいんですよ。師匠である塚本監督にできる世界観と、自分にできるものは違うんだなと気付いて、「じゃあ自分にできるものは何だろう」と向き合うきっかけになった。そのおかげで塚本組に入ることもできたので、人生を変えた1本ですね。

『鉄男』作品概要

『鉄男』は、塚本晋也監督が1989年に発表した日本のサイバーパンク映画の代表作。金属に肉体を侵食されていく男の悪夢を、モノクロ映像と金属的な音響、激しいカット割り、コマ撮りアニメーションを駆使して描き出します。 塚本監督は本作で監督・脚本・撮影・編集・美術、さらに出演までを一手に担いました。低予算ながら圧倒的な熱量と独創性で国内外に衝撃を与え、日本のインディペンデント映画を象徴するカルト作として今なお高く評価されています。

生涯ベスト映画②『グレムリン』(1984年)

グレムリン
GREMLINS and all related characters and elements © & ™ Warner Bros. Entertainment Inc.(s24)

吉田監督 『グレムリン』は子どもの頃に観て、今でもワクワクする一本です。映画館でギズモが登場したときの子ども心のワクワク感が、ものすごく印象に残っていて。可愛いだけじゃなく、ブラックユーモアのセンスがぎっしり詰まっているんですよね。 ただ愛らしいだけの映画ではなく、「なんてセンスのある映画なんだ」と思わせてくれる。今でも大好きな作品です。

『グレムリン』作品概要

『グレムリン』は、ジョー・ダンテ監督が1984年に発表したファンタジー映画。クリスマスの温かな空気と、ブラックユーモアを帯びたホラー描写が融合した異色作です。 青年ビリーが贈られた不思議な生き物“モグワイ”のギズモには、守らなければならない3つのルールがありました。しかしその約束が破られたことで、凶暴な小さな怪物グレムリンたちが街中で大暴れします。愛らしさと不気味さ、毒気のある笑いが同居する、1980年代を代表するアイコニックな人気作です。

生涯ベスト映画③『7月4日に生まれて』(1989年)

7月4日に生まれて、トム・クルーズ
© 1989 Universal City Studios LLC. All Rights Reserved.

吉田監督 生涯ベストはこれまで何度も聞かれてきて、正直そのたびに変えてしまうんですけど(笑)、これだけは絶対に入れたくなる一本です。 僕が理想とする映画のゴールに近いというか。実話ベースではありますが、僕は「人がどう変わっていくか」、その変わる瞬間を切り取りたいと思っていて。トム・クルーズ演じる主人公がどんどん変わっていく姿が、本当に生々しくて、切実で、説得力がある。素晴らしい作品で、何度も観返しています。

『7月4日に生まれて』作品概要

『7月4日に生まれて』は、オリバー・ストーン監督が1989年に発表した社会派ドラマ。ベトナム戦争の帰還兵ロン・コーヴィックの自伝をもとに、彼の半生を描きます。 愛国心から海兵隊に志願した青年ロンは、戦場で負傷して下半身不随となり、帰国後の苦悩を経て反戦運動へと身を投じていきます。主演のトム・クルーズが、怒りと絶望、そして信念の揺らぎを熱演。本作は第62回アカデミー賞で監督賞と編集賞を受賞しました。

【映画の原体験】すべてはジャッキー・チェンから始まった

プロジェクトA ジャッキー・チェン
© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

Q. 映画の原体験をお聞かせください。 吉田監督 僕は昭和50年生まれなんですけど、幼稚園くらいの頃からテレビでジャッキー・チェンの映画をやっていて。だいたい夜9時からの放送で、普段は「もう寝なさい」と言われるんですけど、ジャッキーの映画がやっている日だけは「11時まで起きていていいよ」と。 それでジャッキーの映画をずっと観ているうちに映画が好きになって、幼稚園に入った頃には「映画監督になりたい」と話していたらしいんです。小学校の卒業文集にも「映画監督になりたい」と書いていました。 そこからジャッキーを起点に、SF映画や邦画へと興味が枝分かれしていきました。最初に好きになったのは「蛇拳」「酔拳」系の拳法シリーズで。サモ・ハン・キンポーやユン・ピョウが出てきて……。映画館で作品が始まるときのワクワク感を、その頃から感じていましたね。

【幼少期の劇場体験】新聞のタダ券で通った映画館

Q. 当時から劇場で鑑賞することが多かったのでしょうか。 吉田監督 小学校の頃から映画館には結構通っていましたね。家で取っていた新聞が近所の映画館のタダ券をくれたりして、その券を結構もらっていたので、タダで観られることも多かったんです。

【映画にのめり込んだきっかけ】専門学校での挫折と『鉄男』

Q. 映画にグッとのめり込んだきっかけをお聞かせください。 吉田監督 小学校時代はずっと映画を観ていて、ビデオもたくさん録り溜めて、同じ映画を何度も観ていました。ただ、中学に入るとある種の不良文化のような流れになって、映画からちょっと離れた時期があって。 「映画を観ているのはダサい」という空気もあって、隠れてちょこちょこ観ていました。今思えば、映画以外のいろんな世界を勉強する時期だったのかなと。 ただ、高校を卒業したら映画の専門学校に入ると決めていました。いざ入ってみると、自分の映画の知識がびっくりするほど少ないことに気付いて。小中学校の頃は自分より映画に詳しい人はいなかったのに、全国から集まった同級生たちは僕の知らない話をしていて、慌てて猛勉強しました。その頃に塚本晋也監督の『鉄男』と出会ったことが、大きな転機になりましたね。

【映画を観る頻度】撮影期は一切観ない

Q. 現在は映画をどれくらいの頻度でご覧になりますか。 吉田監督 観る年と観ない年で分かれていて。自分の作品を公開する年は結構観るんですけど、撮影する年はあまり観ないことが多いですね。ここ何年かは、撮影の前後2〜3ヶ月ぐらいは一切映画を観ないようにしています。気にしすぎかもしれないですが、集中力がちょっと削がれるような気がして。だから撮影の期間は観なくなりますね。

【最近印象に残った作品】『ナースコール』の衝撃

映画『ナースコール』
© 2025 Zodiac Pictures Ltd / MMC Zodiac GmbH

Q. 最近ご覧になって一番印象に残っている作品をお聞かせください。 吉田監督 最近ダントツで面白かったのは『ナースコール』で、ものすごく刺さりました。「エンドクレジットが終わっても席を立てなかった」という言葉がありますけど、久々にそれを劇場で味わったなと。客席も結構満員だったんですが、エンドクレジットで立ち上がる人が誰もいなくて。 「ここで立ち上がる勇気はないよな」という全体の空気を感じて。「こういう映画を作れたらいいな」と思わせてくれる作品で、結構衝撃を受けました。

【人生で一番観た映画】『リロ・アンド・スティッチ』は50回

『リロ&スティッチ』(2002年)
© 2025 Disney

Q. 人生で一番多く観ている作品はありますか。 吉田監督 生涯ベスト3本は一時期よく観返していましたが、最近はそこまでではなくて。人生で一番観ている映画は『リロ・アンド・スティッチ』です。たぶん50回ぐらい観ています。というより、CDをかけるようにBGMとして流している感じですね。 魅力は、とにかくリロが可愛いこと。スティッチじゃなくて、ハワイアンの女の子のほうの。あのずんぐりむっくりしたリロのキャラクターが大好きで。

【生涯ベスト3本からの影響】自作へのつながり

Q. これらの3作品が、監督自身の作品に影響した点があればお聞かせください。 吉田監督 『7月4日に生まれて』は、人間の変化そのものを描いていて、そこに社会的なテーマとリアリティが入っている。『グレムリン』は、僕もブラックユーモアを結構入れるので、そのユーモアの部分につながっていると思います。 塚本監督の『鉄男』は、映画作りの基礎や独創性が詰まっている作品で。ただ、塚本監督の世界観はもう真似できないというか、唯我独尊すぎて参考にしづらいので(笑)、こちらは憧れとして見ていますね。

【注目する監督】次世代のオリジナル作品

映画『ルノワール』ポスター

Q. 現在、注目されている監督はいますか。 吉田監督 基本的には若手の監督たちみんなに注目しています。20〜30代の若い子たちが評価されている作品は、なるべく観るようにしていて。僕ももう50なので、次の世代に頑張ってもらわないと困りますから。 特にオリジナル作品を作っている監督の作品はよく観ますね。『ルノワール』の早川千絵監督も面白かったし、中川龍太郎さん、役者もやっている二ノ宮隆太郎さんあたりの監督も結構好きで観ています。

【幸せを感じる瞬間】「生き延びた」という感覚

Q. 映画監督として一番幸せを感じる瞬間をお聞かせください。 吉田監督 作品が手から離れた瞬間ですね。ただ、基本的には嬉しいというより「生き延びた」という感覚なんです。自ら戦場に赴いて生還した、というような。昔は単純に映画作りが楽しいと思っていましたけど、今はむしろ撮影前に悪夢で目が覚めるような、謎のプレッシャーと不安を結構感じるので。 それが無事に撮影を終えて、自分が満足するものができて世に出れば、「ああ良かった、今回も生き延びた」と。お客さんの好き嫌いは十人十色なので気にしてもしょうがないですが、自分が恥ずかしいと思う作品だけは作りたくない。だから「嬉しい」というのは、だんだん無くなってきているのかもしれません。

【作品を世に出した後】次の一本を書き始める

Q. 作品が世に出て解放された後は、何をされることが多いのでしょうか。 吉田監督 解放されたら、次の本(脚本)を書きますね。人生で一番の苦痛は、波風が立っていないことなんです。何か動かしていないと、もっと大きな不安になってしまう。だから何かを作り続けていないと不安だし、作ったら作ったで「これで大丈夫なのかな」という気持ちもある。その繰り返しですね。

▼取材・文:増田慎吾