2019年10月4日更新

【ネタバレ】映画『ジョーカー』(2019)解説&意外な裏話 最凶ヴィランの描かれ方はこれまでと違う?

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ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
©️Supplied by LMK/zetaimage

バットマンの宿敵ジョーカー。コミック時代から多くのファンを獲得し、バットマンの物語には欠かせないキャラクターです。これまでのバットマン映画にもたびたび登場したジョーカーは、バットマンと表裏一体の存在として強烈な印象を残してきました。 そんなジョーカーの単独映画『ジョーカー』が、2019年10月4日に公開となりました。 ホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督で絶賛を集めている本作。今回はそのあらすじやキャスト、DC映画の中での位置づけを紹介しましょう。また、これまでのジョーカーとの違いや本作のテーマなど、ネタバレ解説もお届けします! ※この記事には『ジョーカー』のネタバレがあります!本編を未鑑賞の方はご注意ください。

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『ジョーカー』のあらすじ

『ジョーカー』は、コミックでも様々なパターンが存在し、謎に包まれていたジョーカーのオリジンを描く作品です。 1981年。アーサー・フレックは、派遣のピエロとして働きながら年老いた母の面倒を見て暮らしていました。孤独なアーサーの夢はコメディアンとして成功することでしたが、持病のせいで社会生活にも困難を抱えていました。 ある日アーサーは、看板持ちの仕事中に不良少年たちから暴行を受けたあげく、預かり物の看板も壊されてしまい、弁償させられるはめに。この些細な不幸をきっかけに、彼の人生は大きく変わっていきますーー。

これまでのDC映画との関連は?

スーサイドスクワッド、ジョーカー、ジャレッド・レト
©Supplied by LMK

2008年からマーベルがすべての映画作品をひとつの世界での出来事として成功をおさめた一方、DCは今後ユニバースのつながりを意識しない方針を発表しています。 つまり本作はこれまでの『ジャスティス・リーグ』や『ワンダーウーマン』、『アクアマン』、『シャザム!』といった作品とは無関係なものになるということ。もちろん、本作のジョーカーは『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レトが演じたジョーカーとは別人、ということになります。

DC映画特有のリアリティのある作風に回帰

『アクアマン』や『シャザム!』などで、近年エンターテインメント性の高い路線にシフトしてきたDCコミック映画ですが、本作は久しぶりにリアル路線に回帰。1980年代を舞台に、ひとりの善良で孤独な青年が、“悪のカリスマ”に変貌するまでの過程を描きます。 本作はマーティン・スコセッシ監督の『キング・オブ・コメディ』(1982)などの映画から影響を受けており、社会から疎外された男の人物描写が非常にリアルです。

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ジョーカー/アーサー・フレックを演じるのはホアキン・フェニックス

ホアキン・フェニックス
©Adriana M. Barraza/WENN.com

「ジョーカー」で、のちに“犯罪界の道化王子”へと変貌を遂げる売れないコメディアン、アーサー・フレックを演じるのは、『ザ・マスター』(2012)や『her/世界でひとつの彼女』(2013)などのホアキン・フェニックス。アーサー/ジョーカー役は「キャリア最高の演技」と絶賛されています。 フェニックスは、本作のために大幅な減量を行いました。もともとがっしりした体格の彼は、撮影4ヶ月前から減量を始め、後半の2ヶ月は栄養士とともに“カロリーをとらない”減量に取り組んだそうです。 そんな壮絶な減量で作り上げたフェニックスのほとんど骨と皮だけの肉体は、昨今のアメコミ映画で多くの俳優たちが見せる鍛え上げられた肉体に負けずとも劣らないインパクトです。

自身の代表作とも関連性が?ロバート・デ・ニーロがTV司会者マーリー役で出演

ロバート・デ・ニーロ
WENN.com

本作には名優ロバート・デ・ニーロがマーリー・フランクリンという役で出演します。彼はTV番組の司会者です。予告編ではどうやら彼の番組にジョーカー、もしくはアーサーが出演していると思われるシーンが見られました。 前述の通り本作に影響を与えた『キング・オブ・コメディ』は、売れないコメディアン、ルパート・パプキンが有名コメディアンを熱狂的なファンから救ったことから彼とコネを取り付け、自分はスターになったと思い込んでしまう、という作品です。 マーリーはアーサーの憧れのコメディアンという設定。彼は物語にどんな影響を与えるのでしょうか。

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幼きブルース・ウェインも登場 その他のキャストを紹介

ソフィー・デュモンド/ザジー・ビーツ

ザジー・ビーツ
©Stephen Smith/Sipa USA/Newscom/Zeta Image

『デッドプール2』(2018)でドミノを演じたザジー・ビーツは、本作でアーサーが興味を寄せるシングルマザー、ソフィー・デュモンドを演じます。 アーサーと恋愛関係になる、重要なキャラクターです。

ペニー・フレック/フランセス・コンロイ

フランセス・コンロイ
©️FayesVision/WENN.com/zetaimage

テレビドラマ「アメリカン・ホラー・ストーリー」シリーズなどで知られるフランセス・コンロイは、アーサーの母であるペニー・フレックを演じます。 年老いてあまり外出せず、アーサーに面倒を見てもらっているペニーですが、彼女には秘密があるようで……。

トーマス・ウェイン/ブレット・カレン

ブレット・カレン
© PNP/ WENN.com

ブルース・ウェインの父トーマス・ウェインを演じるのは、数多くのドラマや映画に出演しているブレット・カレンです。 予告編ではテレビで覆面の犯罪者を糾弾する彼をアーサーが見ている描写があり、2人の関係やどのように関わってくるかが気になります。

ブルース・ウェイン/ダンテ・ペレイラ・オルソン

本作には幼いころのブルース・ウェイン、のちのバットマンが登場。彼を演じるダンテ・ペレイラ・オルソンは、2018年の映画『ビューティフル・デイ』でホアキン・フェニックスが演じたジョーの幼少期を演じています。その他にはテレビシリーズ『HAPPY!』(2017〜2018)などにも出演。 予告編では、幼いブルースがアーサーに無理やり口角を上げさせられるシーンがありました。

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アルフレッド・ペニーワース/ダグラス・ホッジ

ダグラス・ホッジ
©️Joseph Marzullo/WENN.com/zetaimage

ウェイン家に代々仕える執事アルフレッド・ペニーワースも登場。本作では映画『レッド・スパロウ』(2018)などのダグラス・ホッジが演じます。

監督は「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップス

トッド・フィリップス
©️WENN/zetaimage

「ジョーカー」の監督を務めるのは、映画「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップスです。多くのコメディ作品で成功をおさめてきたフィリップスの起用は意外かもしれませんが、実は彼は、もともとドキュメンタリー監督としてキャリアをスタートさせています。 近年フィリップスはこれまでの作品とは違うジャンルへの挑戦に興味を示していたことから、本作の監督に就任したのだとか。フィリップスは『8 Mile』(2002)や『ザ・ファイター』(2010)などのスコット・シルヴァーとともに共同脚本も務めています。

各国映画賞で高評価を獲得し、アカデミー賞でも最有力!?

2019年8月31日(現地時間)、イタリアで開催されたヴェネツィア国際映画祭で『ジョーカー』はプレミア上映を迎えました。上映後は8分間におよぶスタンディングオベーションで盛大に讃えられ、観客や批評家からは、絶賛の声が数多く寄せられました。そして、同映画祭の最高栄誉である金獅子賞を受賞。 世界でも最古の歴史を誇るヴェネツィア国際映画祭。その金獅子賞は、作家性/アート性が重視される傾向にあり、ハリウッド大手スタジオの作品が選ばれることは非常に稀です。また、『ジョーカー』はアメコミ映画としては史上初の受賞作となりました。 そんな快挙を成し遂げた本作には、早くも「アカデミー賞最有力候補」との声も挙がっています。今後の賞レースから目が離せません。

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「暴力を誘発する」?ニューヨークの映画館では厳戒態勢も

一方で、善良で孤独な男が犯罪者になるまでの過程を描く本作は、公開前から「暴力を誘発するのでは」「ジョーカーを英雄的に描いているのでは」と危険視する声も挙がっています。 これについて、主演のホアキン・フェニックスはIGNのインタビューに答え、本作はひとつの問いかけであるとし、「まず問いかけることが大切だ」とコメント。「なにがトリガーになるかは誰にもわからない。この質問で怒り出す人もいるかもしれない」と語り、危険性があるからといって全面的に否定したり禁止したりするのはおかしいという見解を示しました。 また、同インタビューで監督のトッド・フィリップスも、「作品を観ないうちから批判している人が多いと思う。観てから言ってほしい」と語っています。 アメリカ・ニューヨークの映画館では、本作の公開初週、10月4日から6日に万一の場合に備えて、制服警官や覆面警官を配置する厳戒態勢を予定しているとのことです。

【ネタバレ解説】“悪のカリスマ”ジョーカーが生まれた背景とは

これまでのジョーカーとの違い

ヒース・レジャー『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

『ジョーカー』がこれまでのバットマン関連映画と決定的に違うのは、アーサー・フレックの存在、つまりジョーカーになる前の彼が描かれていることです。 実写映画では、これまで『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーが語ったデタラメ以外に、彼のオリジンを少しでも覗わせるものはありませんでした。しかし本作は、果敢にもバットマンの最凶の敵が誕生した経緯を詳細に、繊細に描き出しています。 また、コミックおよびティム・バートン監督の「バットマン」シリーズに登場したジョーカー(ジャック・ニコルソン)は、「ある犯罪者が化学薬品(もしくは酸)のタンクに落ち、肌は白く、髪は緑色、唇は真っ赤になり正気を失った」という設定です。しかし、本作のジョーカーは『ダークナイト』のジョーカーと同様に、白塗りのメイクを施しています。

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社会の不寛容がアーサーを追い詰める

ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
© Supplied by LMK/zetaimage

ジョーカーがバットマンにとって最凶の敵である理由は、彼には「なにもない」からです。ジョーカーはスーパーパワーはおろか他人より秀でた能力もありませんが、弱点もありません。家族も恋人もなく、自分の命さえ惜しくない彼に、失うものはなにもないのです。

本作では、心優しい青年だったアーサー・フレックがどのようにしてすべてを無くし、なにに対しても執着することがなくなり、その結果“悪のカリスマ”ジョーカーになった経緯を描いています。 映画冒頭、精神を病み向精神薬の服用とカウンセリングを受けていたアーサーは、市の予算削減によりそれらの医療補助を受けられなくなります。コメディアンを目指しながら、生活のために派遣ピエロとして働く彼は、脳や神経の損傷で突然笑い出す発作を抱え、周囲の人たちとうまく人間関係を築くこともできませんでした。 彼は毎日ネタ帳を書いていますが、そのなかに「精神を病んだ者にとって最悪なのは、周りの視線だ。彼らは“普通にしていろ”と言ってくる」と書かれた箇所があります。精神を病んだ者、つまり“普通”でない者は、つねにプレッシャーにさらされていることを物語っているのです。 アーサーがコメディクラブに出演した際、ネタはさっぱりウケませんでしたが、恋人となったソフィアとは楽しい時間を過ごします。彼女はアーサーの母が倒れたときも病院で付き添ってくれました。しかし、その病室でアーサーは憧れのコメディアン・マーリーがコメディクラブでの自分のスベリっぷりをテレビでバカにしているのを見てしまいます。 さらにアーサーは母が何度も手紙を書いていた相手が市長選に出馬したトーマス・ウェインであることを知ります。彼女を問い詰めると、母はアーサーの父親はトーマスだと言います。手紙の内容は、苦しい生活をしている自分と息子のために援助を求めるものでした。しかし、ウェイン家の執事であるアルフレッドや、トーマス・ウェイン本人から「お前の母親はイカれている」と追い返されるはめに。 アーサーはその後、自分が養子であったことを知ります。そのうえ母は自分の恋人がアーサーを虐待するのを見て見ぬフリをしていました。アーサーの脳の損傷は、そのときの後遺症だったのです。たったひとりの家族と思っていた母を信用できなくなった彼は、病院のベッドで彼女を殺害します。 ソフィアに慰めを求めて会いに行くと、彼女はよそよそしく怯えた様子。実は彼女とのしあわせな時間は、すべてアーサーの妄想だったのです。 精神を病み、経済的にも苦しい立場に置かれたアーサーは、物語が進むにつれどんどん追い詰められ、大切なものを失っていきます。そして、“ジョーカー”となり自分を笑い者にしたマーレーに復讐を果たした彼は、破壊行為の快楽以外にはなににも執着しない、“悪のカリスマ”になったのでした。

本作のゴッサムシティは経済的格差が拡大し、貧困層の若者の非行が進み治安が悪化しています。一方で、ウェイン産業のような大企業に務めるエリートビジネスマンは、選民意識から弱いものに横柄な態度をとります。 その両方の暴力の対象となり、抑圧されつづけ限界を超えたアーサーは、ジョーカーへと変貌を遂げました。

【残された謎】嘘をついているのは誰なのか?

トーマス・ウェインの存在は、ジョーカーの誕生に重要な意味を持っていました。しかし、ひとつ気がかりな描写もあります。

アーサーの母ペニーは、彼の父親はトーマス・ウェインだと言いました。それを信じたアーサーは、ウェインのもとを訪ねますが、彼はペニーのことを「イカれている」と言い、父親であることを認めさせようとするアーサーを殴ります。 その後ウェインの言ったとおり、アーサーは彼女の養子であり、彼が幼いころに虐待されていたという記録も出てきました。これでアーサーは母の嘘を確信し、彼女を殺害するに至ります。しかし映画終盤、ジョーカーが手にしていたのはは若き日のペニーと思われる写真。その裏には「君は美しい」というメッセージとともに“TW”のイニシャルが。 “TW”は、“トーマス・ウェイン”と思われます。もしペニーの言ったことが本当だったとしたら、大富豪であるウェインは、アーサーの養子縁組や彼女を精神病院に入れるなどの隠蔽工作も可能だったのではないでしょうか。 そうなると、ジョーカーとバットマンは異母兄弟ということになります。 製作開始当初から本作に影響を与えているといわれる『キング・オブ・コメディ』では、結末の解釈は観客に委ねるつくりになっていました。本作のアーサーの父親の正体についても、観客の解釈に委ねられているのかもしれません。

映画『ジョーカー』に関するトリビア 衣装のこだわりや音楽にまつわる裏話も紹介

衣装の色づかいやシルエットでアーサーからジョーカーに

ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
© Supplied by LMK/zetaimage

ジョーカーといえば紫色のスーツに緑色のシャツをイメージする人も多いのではないでしょうか。しかし、本作の衣装は、1981年という時代にあった色合いに変更されています。 衣装を担当したマーク・ブリッジスによると、80年代初頭という時代を考えると、仕える色やその組み合わせは限られているのだとか。たとえば、本作では青、茶色、海老茶、薄紫、グレー、紺、カーキを多用しています。 また、アーサーのファッションは基本的なアメリカンカジュアルです。ブリッジスは「アーサーは楽な服装を好み、物持ちがいいので、普段着はどことなく子供っぽいし、古めかしい」雰囲気を目指したと語っています。 アーサーの衣装は、物語が進むに従って“ジョーカー”の衣装へと徐々に変化していきます。コメディクラブのシーンで使った衣装のコーディネートを変えながらほかのシーンにも使い、最終的にジョーカーの装いが完成します。 本作では、アーサーは“悪のカリスマ”になるためにスーツを新調したわけではなく、以前の彼とジョーカーが地続きであるということが衣装でも表現されています。

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音楽とジョーカーに生まれ変わるダンス

監督のトッド・フィリップスは、撮影開始前から脚本の一部を作曲家のヒルドゥル・グーナドッティルに見せて協力を求めていました。フィリップスから、脚本を読んで感じたことを楽曲にしてほしいと頼まれたグーナドッティルは、物語の良さに惚れ込み、よろこんで引き受けたのだとか。 彼は、脚本を読んでアーサーのキャラクターの多面性に衝撃を受けたと語っています。そして、それを表現するためにチェロを主体とした、ごく簡素で単調なメロディの楽曲を作っていきました。 しかし、実は演奏には総勢90人のオーケストラが参加しています。チェロの音色に数多くの音が隠されている本作のサウンドトラックは、一見単純なようで複雑な内面を持つアーサーを的確に表現しています。 またアーサーは、のちにジョーカーとなる自分のなかのなにかが顔を出すたびに踊ります。 この演出が誕生したのは、ある重要なシーンで撮影に行きづまったことがきっかけだったとか。撮影中、すでにグーナドッティルから楽曲を渡されていたフィリップスがその楽曲をかけたところ、音楽にのってホアキン・フェニックスが優雅に踊りだし、印象的なシーンができあがりました。

『ジョーカー』(2019)はアメコミ映画の枠を超えた傑作

これまで謎に包まれていたジョーカーのオリジンを描く『ジョーカー』。ビジュアルや予告編が公開され、ファンの期待も最高潮に高まっていたところにヴェネツィアでの金獅子賞受賞をしたことで、アメコミ映画という枠を超えて、映画ファンの注目を集めています。 ジョーカーの誕生を描く本作は、そのリアルな世界観や人物描写が特徴。とくに「キャリア最高の演技」と絶賛されるホアキン・フェニックス演じるジョーカーから目が離せません。 『ジョーカー』は、2019年10月4日から全国公開中です!