2017年版『オリエント急行殺人事件』犯人は誰?あらすじやキャストを解説【ネタバレ】
『オリエント急行殺人事件』のあらすじやキャストを解説!事件の真相は?
アガサ・クリスティーの代表作『オリエント急行の殺人』を、ケネス・ブラナーが監督と主演を兼任して映画化した『オリエント急行殺人事件』(2017年)。シドニー・ルメット監督による1974年版以来43年ぶりの再映画化として、公開当時大きな注目を浴びました。 この記事では、そんな本作のあらすじやキャストをまとめて紹介。殺人事件の詳細や犯人の正体などについても、ネタバレありで解説していきます。未鑑賞の方はご注意ください!
『オリエント急行殺人事件』のあらすじ
イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗り、ヨーロッパに帰る名探偵エルキュール・ポアロ。外では雪が降っていましたが、列車は季節外れの満席です。 そんな中、オリエント急行に乗り合わせていた一見温和な老人・ラチェットが身の危険を感じ、ポアロに護衛してほしいと依頼します。彼は脅迫状が届いたと言うのですが、その眼光や雰囲気が気に入らなかったポアロは依頼を拒否をしました。 しかしその日の深夜、オリエント急行の寝台でラチェットは刺殺されてしまうのです。なぜラチェットは殺されたのか?どうやって殺されたのか?犯人はいったい誰なのか?予想もできないそのトリックが明かされるまで、目が離せません。
名探偵ポアロ兼監督を務めたのはケネス・ブラナー
映画「ハリー・ポッター」シリーズでギルデロイ・ロックハート先生を演じたケネス・ブラナーですが、実は監督としての顔も持っています。 映画『シンデレラ』(2015年)では監督として、リリー・ジェームズやケイト・ブランシェットと撮影を行いました。そんな彼が、今回の『オリエント急行殺人事件』でもメガホンをとっています。
そして本作の主役であり、世界的に有名な名探偵ポアロもブラナー自身が演じました。監督兼主演という大抜擢です。 王立演劇学校を主席で卒業し、『炎のランナー』(1981年)や『マリリン 7日間の恋』(2011年)などでアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされた彼だからできる業ですね。 エルキュール・ポアロは大きな口ひげを蓄え、「灰色の脳」を持つ名探偵。灰色の脳とは、「灰色の脳細胞が活動を開始した」という口癖に由来します。自ら名探偵を自称する自信家で、2つの卵の大きさが違うことも許せないような几帳面かつ、完璧主義な性格です。 その完璧主義っぷりから、この世には“正義か悪しかない”と唱える二元論者であり、本作ではそうした一面を特に強調して描いています。
オリエント急行に乗り合わせた登場人物たち
実業家ラチェット/ジョニー・デップ
公開当時、アンバー・ハードとの離婚問題などで世間を騒がせたジョニー・デップ。本作では序盤に殺される人物であり、物語のキーマンとなるラチェット役を演じました。ケネス・ブラナーとマイケル・グリーンが書いた脚本を読んで、今回の出演を決めたそうです。 ラチェットは骨董品などを仕入れて販売し、大成功を収めたアメリカ人の実業家です。実は偽物を本物と偽って荒稼ぎしており、過去の悪事が原因で多くの恨みを買っていました。 脅迫状の存在に身の危険を感じポアロに護衛を依頼しますが、彼に断られてしまいます。
ラチェットの秘書 ヘクター・マックイーン/ジョシュ・ギャッド
映画『スティーブ・ジョブズ』(2013年)のウォズニアック役などで知られるたジョシュ・ギャッドが、ラチェットの秘書ヘクターを演じました。ラチェットとは1年ほどの付き合いで、個人的面識はそれほどありません。 アルコール依存症であり、帳簿を管理していることを利用して資金を使い込んでいるという、原作にはない設定が追加されました。
ドラゴミロフ公爵夫人/ジュディ・デンチ
「007」シリーズのM役で知られるジュディ・デンチが演じたのは、ロシアの亡命貴族・ドラゴミロフ公爵夫人。ドラゴミロフ公爵は亡くなっており、夫の財産で大富豪になりました。 愛犬を連れてオリエント急行に乗り込んだ夫人。しかし犬は食堂車のテーブルに乗ったり乗客の食事を勝手に食べたりと、しつけはできていないようでした。
ハバード夫人/ミシェル・ファイファー
映画『スカーフェイス』(1983年)や『恋のゆくえ』(1989年)などで知られるミシェル・ファイファー。彼女が演じたのは、陽気でおしゃべりなアメリカ人女性のハバード夫人です。 ハバード夫人の部屋はラチェットの隣室だったことから、深夜に自分の部屋に犯人らしき人物がいたと証言。なにかとポアロを気にかけます。
宣教師 ピラール・エストラバドス/ペネロペ・クルス
ヨーロッパで活躍し、米西合作映画『それでも恋するバルセロナ』(2008年)にてアカデミー助演女優賞を受賞した実力派女優ペネロペ・クルスも出演。 彼女が演じたピラール・エストラバドスは、原作のグレタ・オルソンに当たるキャラクターです。オルソンはクリスティーの別作品『ポアロのクリスマス』(1938年)のキャラクターで、権利元の許可を得て本作への登場が決定しました。 ピラールはデブナムと同室で、謎めいた雰囲気の女性。かつては乳母として働いていましたが、とある事件を機に信仰にめざめ、宣教師になりました。
教授 ゲアハルト・ハードマン/ウィレム・デフォー
映画『スパイダーマン』(2008年)のノーマン・オズボーン役や、海外版『Death Note/デスノート』(2017年)のリューク役などで知られるウィレム・デフォー。本作では原作のサイラス・ハードマンにあたる、ゲアハルト・ハードマン役を演じました。 サイラスは表ではスカウトマン、裏ではラチェットを護衛する探偵という立ち位置でした。ゲアハルトはオーストリア人の教授で、人種差別的発言が目立つ人物に変更されています。
家庭教師 メアリ・デブナム/デイジー・リドリー
映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)のレイ役で知られるデイジー・リドリーは、家庭教師のメアリ・デブナムを演じました。 原作でも落ち着いていて聡明な雰囲気の女性と言われている通り、律儀で真面目な性格をしています。オリエント急行の乗客の中で、ポワロと初めて出会う人物。ドクター・アーバスノットとは親しい仲に見えますが、なぜか他人だと嘘を付きます。
ラチェットの執事 エドワード・ヘンリー・マスターマン/デレク・ジャコビ
エドワード・ヘンリー・マスターマンはラチェットの執事で、部屋はマルケスと同室。設定はほぼ原作通りで、厳格そうな中年のイギリス人男性です。 唯一原作にないオリジナルの要素として、ガンに冒されており余命わずかという設定が追加されました。
公爵夫人のメイド ヒルデガルデ・シュミット/オリヴィア・コールマン
ヒルデガルデ・シュミットは、ドラゴミロフ公爵夫人に長年仕えているメイド。あまり表情が変わらず、物静かな雰囲気をまとう中年女性です。 ラチェットが殺害された後、ミシェルではない別の車掌を列車内で見かけたと証言をしました。
ドクター・アーバスノット/レスリー・オドム・ジュニア
ドクター・アーバスノットは、原作のアーバスノット大佐にあたるキャラクター。本作では従軍経験がある医師で、ラチェットの死亡推定時刻を導き出します。 「オリエント急行の殺人事件」シリーズに登場する医師といえば、コンスタンティン医師がお馴染みです。彼が登場人物からいなくなった代わりに、アーバスノットと設定が統合されました。
アンドレニ伯爵/セルゲイ・ポルーニン
アンドレニ伯爵はハンガリーの貴族で有能なダンサー。原作では外交官ですが、世界的バレエダンサーのセルゲイ・ポルーニンがキャスティングされたことから、ダンサーに変更されました。 無愛想で喧嘩っ早い人物として描かれており、原作とは違う印象のキャラクターになっています。
エレナ・アンドレニ伯爵夫人/ルーシー・ボイントン
アンドレニ伯爵の妻であり、若く美しいエレナ・アンドレニ伯爵夫人。精神面の不安定さから体調を崩しており、薬を常用しているという設定が特徴的です。 アンドレニ伯爵は妻を事件に関わらせたくないようで、事あるごとに彼女を守ろうとします。
車掌 ピエール・ミシェル/マーワン・ケンザリ
ピエール・ミシェルはオリエント急行の車掌で、フランス人です。乗客にも顔が知られているベテランという設定ですが、本作では少し若い印象になっています。 事件の事情聴取では、深夜にラチェットのうめき声を聞いたこと、死亡推定時刻には見張りをしていたものの犯人らしき人物はいなかったことを証言しました。
鉄道会社の重役 ブーク/トム・ベイトマン
ブークはオリエント急行を運営する鉄道会社の重役で、古くからポアロを知る友人です。列車内で殺人事件が発生したため、居合わせたポアロに事件の解決を依頼しました。 ポアロ以外では唯一アリバイが確かな人物であるため、彼の捜査に協力していきます。
自動車販売業 ビニアミノ・マルケス/マヌエル・ガルシア=ルルフォ
ビニアミノ・マルケスは、原作のアントニオ・フォスカレリにあたるキャラクター。原作ではアメリカに帰化したイタリア人という設定でしたが、本作ではキューバ人に変更されました。 それ以外の設定はほぼ原作通りになっており、キューバで脱獄した後、アメリカで自動車販売業を営む陽気な実業家として描かれています。
発端となった「アームストロング誘拐事件」とは?
事件の謎を解明するうえで、見逃せないとある事件があります。それは「アームストロング誘拐事件」と呼ばれるもの。1932年にアメリカで実際に起きた「リンドバーグ愛児誘拐事件」をもとに、アガサ・クリスティーが創作した事件です。 ラチェット殺害の数年前にアメリカで起きた出来事で、3歳のデイジー・アームストロングという少女が誘拐され、後に殺害されたという残忍な事件でした。主犯のカセッティと名乗る人物は、裕福なアームストロング家から身代金を奪い、ヨーロッパへ逃亡しています。 被害者デイジーの母親ソニアは、事件のショックから身ごもっていた赤ちゃんとともに命を落とし、犯人との疑いをかけられたメイドも自殺。デイジーの父親までもが拳銃自殺してしまうという、悲惨な結末を迎えたのです。
誘拐事件の真相は?登場人物たちの素性も明らかに【ネタバレ注意】
実は殺害されたラチェットこそが、アームストロング事件の犯人であるカセッティでした。カセッティは国外の逃亡先でラチェットと名前を変え、裕福に暮らしていたのです。 この事実が明かされると同時に、ほかの乗客たちも誘拐事件の関係者だったことが明らかになります。謎に包まれた乗客の正体を解説しましょう。
■ラチェットの秘書 ヘクター・マックイーン アームストロング家に仕えていた無実のメイドを、自殺に追い込んでしまった検事の息子。 ■ドラゴミロフ侯爵夫人 誘拐されたデイジーの名付け親。ハバード夫人の親友。 ■ハバード夫人 デイジーの祖母であり、有名女優。 ■宣教師 ピラール・エストラバドス デイジーの世話係である乳母。誘拐された時には眠ってしまっていた。 ■教授 ゲアハルト・ハードマン 自殺してしまったメイドの恋人。 ■家庭教師 メアリ・デブナム デイジーの家庭教師。 ■ラチェットの執事 エドワード・ヘンリー・マスターマン アームストロング家の執事。 ■夫人のメイド ヒルデガルデ・シュミット アームストロング家の料理人。 ■ドクター・アーバスノット デイジーの父親にとっての戦友。 ■エレナ・アンドレニ伯爵夫人 デイジー母親にとっての妹。デイジーの叔母。 ■車掌 ピエール・ミシェル 無実の罪に問われて、自殺してしまったメイドの兄。 ■自動車販売業 ビニアミノ・マルケス アームストロング家の運転手。
明らかになる「オリエント急行殺人事件」の犯人【ネタバレ注意】
実は12名の乗客全員が、かつて誘拐事件の起きたアームストロング家に関わりがある人物でした。ラチェットの刺し傷は12か所。そう、全員がラチェット殺害に関与していたのです。 ラチェットに血縁者や恩人、恋人など大切な人を奪われ、心に傷を抱えて生きてきた12名は彼への復讐を計画し、オリエント急行で実行します。本作独自のキャラクター設定が犯行動機を強固なものにし、より観客の同情を誘いました。 映画の終盤で謎が解明される場面では、容疑者たちが長いテーブルについています。これはレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をモチーフとした、物語の山場でもある1シーンです。 原作小説が古典の名作であり、これまで幾度となくリメイクされてきたことから結末を知っている人も多い作品ではあります。しかし何度観ても、アガサの仕込んだトリックの精巧さに衝撃を受けてしまいますね。
ラストシーンはどういう意味だったの?ポアロの信念が揺らいだ瞬間
事件の真相を明らかにした後、ポアロは「善と悪しかないと思っていた……」と言い、ハーバード夫人に銃を手渡しました。これはポアロを殺して真相を闇に葬るのか、罪を認めるかの選択を犯人に委ねるという描写であり、原作のラストとは異なります。 ポアロが完璧主義であり、二元論者であることは先述しましたが、彼はこの事件で初めて“善か悪か割り切れないこと”に直面したのです。 殺人は間違いなく悪ですが、大切な人を思う善き人々によって悪が裁かれたとも考えられ、今回の事件は単純な悪とは言い切れません。ポアロは自身の信念を大きく揺さぶられ、最後は割り切れないことを受け入れて、犯人たちを見逃すことにしたのでした。
『オリエント急行殺人事件』の魅力は豪華キャストと衝撃的なあらすじ
主演のケネス・ブラナーをはじめ、ジョニー・デップやペネロペ・クルスなどのハリウッドスターが共演した2017年版『オリエント急行殺人事件』。 原作のストーリーをベースにしつつも、迫力のアクションシーンを追加したりポアロの人間味に焦点を当てたりと、独自の要素も盛り込まれました。 ポアロが自分の正義にどう折り合いをつけ、事件にどんな決着がつくのかは最後まで読めず、結末を知っていても楽しめる作品になっています!