2021年9月21日更新

映画『戦場のピアニスト』は実話の物語!ショパンの名曲が光るホロコースト映画のあらすじ/ネタバレ解説

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シュピルマンの回顧録から生まれた映画『戦場のピアニスト』を徹底解説!

原作はユダヤ系ポーランド人のピアニスト・シュピルマンの回顧録「ある都市の死」。第二次世界大戦下ナチスドイツ軍に占領されたワルシャワで、迫害され踏みにじられながらも生き延びた実在のピアニストの記録です。 ポランスキー監督はこの本の版権を手に入れ脚本にも携わり大作に挑みました。監督自身ポーランドのクラクフ(『シンドラーのリスト』の舞台)で育ったホロコーストの犠牲者なのです。 本作は2002年に公開されカンヌ映画祭パルムドール賞を受賞した他、アカデミー賞でも7部門にノミネートされ監督賞、脚本賞、主演男優賞の3部門を受賞しました。 この記事には『戦場のピアニスト』のネタバレが含まれています。未鑑賞の人は注意してください。

映画『戦場のピアニスト』のあらすじ【ネタバレ注意】

『戦場のピアニスト』
©Focus Features Photographer: Guy Ferrandis/Photofest/Zeta Image

1939年9月第二次世界大戦が勃発しポーランドはナチスドイツ軍の侵攻を受けます。やがてはワルシャワを占領され親衛隊によるユダヤ人弾圧が激化していきます。 ユダヤ人ピアニストのシュピルマンも例外ではなく家族とともにワルシャワのゲットーに住まわされ、ついには絶滅収容所に送られることになりました。収容所に行けばそこで待つのは死のみ。ところが知り合いの口利きでゲットーに留まることができたのです。 せっかくありついたゲットー内の仕事でしたが体力のないシュピルマンには荷が重く、再び収容所送りになるのを避けるためゲットーを出ていくことに決めたのです。脱出後は手助けしてくれた反ナチス地下組織に匿ってもらいました。 ワルシャワ・ゲットー蜂起、ワルシャワ蜂起、ユダヤ人はナチスに対して抵抗を試みますが悉く鎮圧されます。孤独な隠れ家生活を続けるシュピルマンはワルシャワの街が壊れていく様をただ見つめるしかなかったのです。

そんなある日のこと。食べ物を求めて彷徨ううちにドイツ軍人のホーゼンフェルトに見つかってしまいます。 窮地に追い込まれたシュピルマンに対しホーゼンフェルトは意外なことを命令。ピアノを弾けと言うのです。 シュピルマンが奏でるショパン調べに感動したホーゼンフェルトは命を助け、その後も食糧を与えてくれました。ドイツ軍に全てを奪われたシュピルマンはドイツ兵に救われ生き残ることができたのです。

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実在のユダヤ人とドイツ人の運命の出会い......シュピルマンとホーゼンフェルト大尉の生涯

シュピルマンとホーゼンフェルトは実在の人物

『戦場のピアニスト』シュピルマン

本作の主人公であるシュピルマンは1911年生まれのピアニスト、作曲家です。バイオリン演奏家を父に生まれたシュピルマンはワルシャワやベルリンでピアノと作曲を勉強。ワルシャワではショパン奏者として知られたアレクサンデル・ミハロフスキに師事しています。 1935年からポーランド・ラジオでクラシックやジャズの演奏をするピアニストとして活躍したシュピルマンは、戦前から有名でした一方、ホーゼンフェルト大尉は1895年に生まれたドイツ人で、戦争前は学校教師をしていました。強い愛国心の持ち主であるホーゼンフェルトは1935年にはナチスの党員になっています。 1939年に第2次世界大戦が勃発したときにはすでに44歳だったホーゼンフェルトですが、予備役将校として出征。1940年から44年までワルシャワで主にスポーツ活動の組織に従事していました。

2人の気になるその後とは?

戦争を生き延びてポーランド・ラジオに復帰したシュピルマンは、そこで1963年までポピュラー音楽部長を務めていました。 1963年以降はピアニストとしてソロや室内楽の演奏や作曲活動に専念。ブロニスワフ・ギンペルらと組織したワルシャワ・ピアノ五重奏団の録音が特に有名です。 ホーゼンフェルトはシュピルマンと別れた後、1945年1月にソビエト軍の捕虜となり、身に覚えがないスパイ容疑をかけられます。 1950年に証拠もなく戦争犯罪人として強制労働25年の刑に処せられたホーゼンフェルトは脳卒中で半身不随に。彼の悲運を知ったシュピルマンたちの請願もむなしく、ホーゼンフェルトは1952年、スターリングラードの捕虜収容所で亡くなりました

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ポーランドを愛した男が奏でる!ショパンの名曲に込められた思いとは?

『戦場のピアニスト』
©STUDIOCANAL/zetaimage

ポーランドのピアニストが主人公の本作は、ポーランドが世界に誇る作曲家・ショパンの名曲が作品の重要なポイントのひとつになっています。 映画の冒頭、主人公がラジオ局で演奏する「夜想曲20番」。静かな旋律が印象的なこの曲は戦後初のラジオ放送でも主人公が演奏して、本作のテーマ曲とも呼べる曲です。 また本作におけるクライマックスシーン、ドイツ軍人のホーゼンフェルトに命じられてシュピルマンが演奏するのは「バラード第一番ト短調」。後半にドラマチックに盛り上がる曲で祖国愛の象徴と言えるでしょう。 エンドクレジットの背景はシュピルマンがオーケストラをバックに演奏する「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。シュピルマンの戦後の活躍を印象づける華やかな曲です。

『戦場のピアニスト』が伝えるメッセージを解説!残虐な物語の中に見る希望

ホロコーストの犠牲者・ポランスキー監督がメガホンをとる!

ロマン・ポランスキー
©Berzane Nasser/Sipa USA/Newscom/Zeta Image

ユダヤ系ポーランド人のロマン・ポランスキー監督は第二次世界大戦下のポーランドでホロコーストを生き延びた犠牲者です。父親の手助けでドイツ軍による一斉摘発を逃れたものの、ポランスキーの家族は父親を除いてすべて殺されました。 本作の主人公であるシュピルマンもユダヤ人のゲットーに暮らし、収容所行きを免れてからも死と背中合わせに生きています。同じような過去を持つポランスキー監督の戦争体験が、映画の演出をリアルなものにしていると言えるでしょう。 実在のユダヤ人の手記を元に、悪として存在したドイツ軍人の善行を描いたことで、ホロコーストという陰鬱なテーマを扱いながらも微かな希望の光が見られます。

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これまでのホロコースト作品と一線を画す作風

本作がこれまでのホロコースト作品と一線を画する点は、ホロコーストを一方的に糾弾する「ドラマ」ではないということです。 劇的な誇張は最低限に抑えて実話を追体験するような淡々とした作風で、戦争の不条理や非人間性を描いています。 人間は敵味方、善悪に割り切られるものではありません。 本作で描かれたようにポーランド人のなかにもユダヤ人を迫害する人もいれば、ドイツ人のなかにもユダヤ人を助ける人がいました。シュピルマンも敵味方多くの人の助けを借りて戦火を生き延びたのです。 観客はシュピルマンやポランスキーの戦争体験から生まれた、人間の持つべき尊厳や善悪とは何かという問いに正面から向き合うことになります。

気になるキャストを紹介!

ウワディスワフ・シュピルマン役/エイドリアン・ブロディ

エイドリアン・ブロディ
©PHOTOPQR/NICE MATIN/MAXPPP

主人公のシュピルマンはユダヤ系ポーランド人のピアニスト。数多くのポーランド音楽のスタンダードナンバーをこの世に送り出した音楽家として知られています。 本作でアカデミー主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ。 自身はニューヨーク生出身のアメリカ人ですが、ポーランド系ユダヤ人の父親とハンガリー人とチェコ系ユダヤ人とのハーフの母親の間に生まれました。アカデミー脚本賞受賞作『ミッドナイト・イン・パリ』やアカデミー賞4部門を受賞した『グランド・ブタペスト・ホテル』に出演しています。

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ホーゼンフェルト陸軍大尉役/トーマス・クレッチマン

『戦場のピアニスト』ホーゼンフェルト陸軍大尉/トーマス・クレッチマン
©Focus Features Photographer: Guy Ferrandis/Photofest/Zeta Image

実在したドイツ人陸軍大尉ホーゼンフェルト。シュピルマン他多くのポーランド人を救った実在の人物です。 ホーゼンフェルトを演じたトーマス・クレッチマンは東ドイツに生まれ19歳の時に西ドイツに亡命しています。 本作のあとに出演した映画『キング・コング』でエイドリアン・ブロディと再び共演。その他、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』ではヒドラのストラッカー役を演じています。

ヤニナ役/ルース・プラット

シュピルマンの友人で夫ともども反ナチス地下組織に属しています。 ヤニナを演じるルース・プラットは本作の他にテレビシリーズ『コナン・ドイルとベル教授の冒険』に出演したことで知名度を上げました。 女優業だけではなく監督、脚本家でもあるプラットは家族の秘密をテーマにした18分間のショートムービー『ザ・ハート・フィールズ・ウィザウト・ウァーニング』を制作しています。

ユーレク役/ミハウ・ジェブロフスキー

シュピルマンの友人ユーレクを演じるミハウ・ジェブロフスキーはワルシャワ出身の俳優でポーランド国内を中心に活動しています。アダム・ミキエヴィツの一大叙情詩を映画化した『パン・タデウシュ物語』に出演しています。

『戦場のピアニスト』は現代人こそ見るべき珠玉の1作

この記事では実話をもとにした戦争映画『戦場のピアニスト』のあらすじや見どころ、キャストを解説しました。 シュピルマンを救ったホーゼンフェルトの善行は政治的理由から20世紀末まで封印されてきました。しかし、回想録や映画で有名になったホーゼンフェルトにはついに2009年、イスラエル政府から「諸国民の中の正義の人」の称号が与えられています。 『戦場のピアニスト』は戦後75年以上過ぎた今日、現代人こそ観るべき珠玉の作品と言えるでしょう。