『プライベート・ライアン』の“なぜ”を徹底解説!映画を120%楽しめるトリビアも紹介
実話を基にした戦争映画の傑作『プライベート・ライアン』
スティーヴン・スピルバーグ監督の1998年の傑作映画『プライベート・ライアン』は、世界中で話題となり、アカデミー賞では11部門にノミネートされた作品です。スピルバーグは映画『シンドラーのリスト』(1994年)や、映画『1941』(1979年)など戦争映画の名作を過去にも撮っていて本作は4作目の戦争映画になります。 『プライベート・ライアン』は第二次大戦におけるノルマンディー上陸作戦を物語の焦点に据えたものとまっています。 たったライアン二等兵を、敵地から救出するために送り込まれた精鋭部隊を描いた感動の作品。冒頭の凄まじい戦場のシーンは思わず目を覆いたくなるような惨たらしいシーンであることも有名です。
映画『プライベート・ライアン』のあらすじ
アメリカ軍はノルマンディー上陸作戦を成功させたものの、ドイツ軍からの激しい攻撃を受けて多くの戦死者を出してしまいました。そこへアメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルの元に、1件の報告が届きます。 それは、ライアン家の兄弟4人のうち、3人が戦死したという事実です。そこでトム・ハンクス演じるアメリカ軍のミラー大尉に、ある命令が下りました。一家を全滅させないために、末っ子のジェームズ・ライアンを救出して帰還せよ、という命令です。 ミラー大尉は7人の部下を従えて、ジェームズ・ライアンの捜索へと移行します。果たしてミラー大尉の救出は成功するのでしょうか……。
『プライベート・ライアン』の「なぜ?」を徹底解説!
なぜ1人の兵隊のために8人が命をかけるのか
そもそもなぜ、たった1人の兵隊のために8人が命をかけるのか不思議に思った人もいるでしょう。その理由には、「ソウル・サバイバー・ポリシー」という制度が関係しています。 「ソウル・サバイバー・ポリシー」とは、複数人の兄弟が存在する一家のうち1人を残して全員が戦死してしまった場合、生存する最後の息子は保護しなくてはならないという制度です。兄弟が全員戦死してしまうと一家の存続が途絶えてしまいます。そのため、この制度は1948年に制定されました。
ノルマンディー上陸作戦とは?
第二次世界大戦中、ナチスドイツに占領されたヨーロッパ諸国を解放するために連合軍が行った侵攻作戦。フランスのコンスタン地方に実在するノルマンディー海岸を上陸ポイントとして、200万人もの兵士が侵攻を開始しました。 上陸作戦はナチスドイツの激しい抵抗にあい、多くの死者を出す結果に。しかし2か月の戦闘の後、連合軍がドイツ軍を撃退しノルマンディー地方の制圧に成功しました。 この上陸作戦を契機に、大戦の均衡が連合国側に傾いたとされている有名な作戦です。 本作に用いられる「D-デイ」とは、上陸作戦の決行日を表す軍事用語です
元ネタ/実話との大きな違い
ところで『プライベート・ライアン』には元ネタがあることを知っているでしょうか。本作はサリヴァン兄弟という兵士たちの実話に基づいて作られています。ただし、本作の要ともなる「ライアン救出作戦」は、実話には存在していません。実話と映画ではどのような違いがあったのでしょうか。 実話によるとサリヴァン兄弟たち5人は同じ巡洋艦に乗っていました。ところが日本海軍の潜水艦が攻撃したことにより、兄弟5人が戦死してしまったのです。一家の兄弟が全員戦死してしまったこの出来事は、アメリカで知れ渡るようになりました。 そして1948年にソウル・サバイバー・ポリシー制度が制定され、兄弟は同じ部隊に所属させないようにし、兄弟のうち1人は前線に出さないようになったのです。そのため映画とは違い、サリヴァン兄弟が生きていた時点ではソウル・サバイバー・ポリシー制度は存在していません。
物語の裏主人公?アパムがドイツ兵を撃った理由を考察
アパムは地図作成や情報処理を担当するなど、実戦経験がない人物でした。それどころか、アパムはドイツ兵を助けることもあり、「捕虜を撃つな」と仲間に再三言っていました。 しかしアパムは最後に、自身が助けたドイツ兵を撃ちました。彼にはどんな心境の変化があったのでしょうか。その理由はアパムがドイツ兵を射殺したのは、彼に責任感が芽生えたことが理由ではないかと考察できます。 アパムがドイツ兵を見逃したことによって、ミラー大尉は射殺されてしまいました。もしアパムが初めからドイツ兵を撃っていれば、ミラー大尉は死ぬことはなかったのです。そこで彼は責任を取るために、最終的にはドイツ兵を射殺したのでしょう。
後世の撮影技法に影響を与えた『プライベート・ライアン』
大ヒット作として知られる『プライベート・ライアン』は公開以降、様々な戦争映画に大きな影響を与えたと言われています。その理由は、本作にはこれまでの戦争映画になかった描写方法が取り入られていたからです。 それまで戦争映画というのは、弾丸が飛び交っている風景を俯瞰的に捉える描写方法が一般的でした。しかし『プライベート・ライアン』では戦争の描写が兵士の視点から描かれています。この描写方法によって、より臨場感をもたせながら戦場を描くことができたのです。 この描写方法は2001年公開の『パール・ハーバー』や2002年公開の『 ワンス・アンド・フォーエバー』などといった戦争映画に影響を与えました。また2019年に公開された『1917』では、兵士視点で描くだけでなく、ワンカット風に仕上げるという没入感たっぷりの作品に仕上がっています。
知ればもっと面白い『プライベート・ライアン』の裏話
ここからは『プライベート・ライアン』を鑑賞した人も、未鑑賞の人も知ればもっと面白くなる裏話を紹介していきます。
作品に関する裏話
作中では、チェコ語も使用された
オープニングシーンで射殺される非武装の男性は、ドイツ語ではなく、チェコ語で喋っています。 ノルマンディー海岸の一部は、東軍(チェコスロバキア・ソヴィエト・ウズベキスタン・アルメニアなど国々の男性で編成されていた)によって守られていました。
ドイツ語のセリフ
スタンリー・メリッシュ(アダム・ゴールドバーグ)が敵の兵士にゆっくりと刺されるシーンで、敵のドイツ兵士は「あきらめろ。もはやチャンスは無い。これがお前にとって1番良い方法なんだ。」と、ドイツ語でささやいています。
暴力的なシーンが5分カット
実はスピルバーグ監督は、戦争による暴力的シーンを5分程カットしなければなりませんでした。 そうしなければ『プライベート・ライアン』は、アメリカ映画協会から17歳以下鑑賞禁止の指定を受けることになっていたそう。完全版がみてみたいですね。
架空の街ラメール
最後の戦いが行われたフランスのラメールという街は、映画内で唯一の架空の街です。 ラメールの街のセットは、イギリスのスタジオに作られました。その後のスティーブン・スピルバーグ監督とトム・ハンクスによるテレビドラマ『バンド・オブ・ブラザーズ』シリーズでも、これと同じセットが使われています。
ライアンの原案となった人物が存在した
『プライベート・ライアン』のライアン二等兵のモデルとなったと言われるのが、実在のアメリカ人・フレデリック・ナイランド三等軍曹。彼には同じく兵士として戦場に赴いた3人の兄がいました。 フレデリックはD-デイにノルマンディー海岸へ落下傘部隊で降下したのですが、パイロットのミスで敵地深くへ投げ出され孤立してしまったそうです。彼はなんとか連合軍本隊に合流でき母国に生還できたものの、3人の兄を戦場で失ってしまったという悲劇を知らされることになります。 本作のような劇的な救出劇は実際には起きなかったそうですが、フレデリックはライアンの内面の陰影を描くのに大きな影響を与えたよう。
撮影に関する裏話
時系列に沿って撮影された
『プライベート・ライアン』は、映画作品にしては珍しく、時系列に沿って撮影されています。普通の映画では、ロケごとに撮影、出演俳優の兼ね合いなどが考慮され、効率重視なのが一般的。監督は編集の段階でシーンをつなげていくのです。 スピルバーグ監督は、俳優たちが同じ経験を共有したように感じさせるためにこの方法を選びました。この方法は、撮影を共にしていないライアン(マット・デイモン)への怒りを表現することにも役立っています。 予算、労力ともに大変さは想像に難くないですが、結果見事に重厚な人間ドラマへと結実しましたね。
フランスではなくアイルランドでの撮影
ノルマンディー上陸作戦のDデイ(作戦決行日)を描いたオープニングシーンは、フランスではなくアイルランドで撮影されました。その理由は、フランス政府がノルマンディー海岸での撮影を許可しなかったためです。
キャストに関する裏話
キャスティングの変更
ビリー・ボブ・ソートンは、マイク・ホーヴァンス二等軍曹役(最終的にはトム・サイズモアが演じた)をオファーされましたが、水恐怖症であることと、銃を撃ちたくないという理由でオファーを断っています。 当時サイズモアはドラッグ中毒と闘っていたので、スピルバーグ監督はサイズモアのキャスティングをためらっていました。ディレクターはサイズモアに毎日ドラッグテストを受けさせ、検査が陽性であれば全てのシーンを撮り直さなければならない、というかけに出たそう。
マット・デイモンの起用の内幕
スピルバーグ監督は当初、マット・デイモンはジェームズ・ライアン一等兵役を演じるには痩せすぎていると考えていました。しかし、伝説的なコメディアンであるロビン・ウィリアムズの口添えなどがあり、マット・デイモンはこの役を最終的に勝ち取りました。
マット・デイモンによるアドリブ
ライアン一等兵が兄弟やアリス・ジャーデンとの納屋での思い出を語る、というストーリーは台本にはありませんでした。そのシーンはマット・デイモンのアドリブで、巨匠スピルバーグ監督は彼のアイディアを採用したのです。
『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストンが出演
ブライアン・クランストン(現在は、テレビドラマ『ブレイキング・バット』のウォルター・H・ホワイト役で有名)が、実は本作にマック大佐というちょい役で出演。作中で切断手術をした人物です。 若いですね。
まとめ
『プライベート・ライアン』は実話を基にした作品で、アカデミー賞にノミネートされるなど高い評価を得ました。そして兵士の視点から戦争を描くという新しい手法によって、その後の戦争映画にも大きな影響を与えています。 この記事を読んでもう一度『プライベート・ライアン』を観たくなった人は、ぜひ見返してみてはいかがでしょうか。また影響を受けている作品を観たくなった人は、ぜひ作品をチェックしてみてください。