映画『東京家族』の魅力とは?山田洋次作品から現代の家族のあり方を探る

2017年7月6日更新

山田洋次監督が現代の家族のあり方を描いた映画『東京家族』。これまでさまざまな家族の形を描いてきた山田が監督50周年記念作品として制作した特別な作品です。日本の家族の現在、そして未来への希望を込めた『東京家族』の秘話や考察をしていきます。

『東京物語』から『東京家族』へ。現在の家族のあり方を描いた映画『東京家族』

2013年に公開された映画『東京家族』。日本を代表する巨匠・山田洋次監督の監督50周年記念作品として制作され、興行収入18億円超えをした大ヒット映画です。

第37回日本アカデミー賞の多くの部門にもノミネート。同年、香港、台湾でも公開され、高い評価を受けています。ストーリーは瀬戸内海の小島で暮らす両親が東京で暮らす三兄弟のもとへ上京するところから始まります。

しかし、三兄弟にはそれぞれ家庭や仕事があり、島と東京では生活リズムも違うため、少しずつ家族の間に隙間が生じていってしまうという、山田監督が現代のリアルな家族を切り取った作品です。

今回はそんな映画『東京家族』のあらすじや撮影秘話、そこから考える現代の家族のあり方について掘り下げていきます。

映画『東京家族』あらすじ

『東京家族』映画パンフレット

2012年5月。瀬戸内海の小島で暮らす平山周造・とみこ夫婦が、自身の子どもたちが暮らす東京へ上京して来ます。

開業医として働く長男の幸一一家や美容師の長女・滋子一家、舞台美術のスタッフとして働く次男の昌次たちは、東京滞在中に両親に良い思い出を作ってもらいたいと世話を焼きます。しかし島でのんびり暮らしてきた2人と、東京であくせく働く子どもたちとではあまりに生活リズムや求めているものが違い、少しずつ家族の間に気持ちのズレが生じてきてしまうのです。

そんな時、次男の家から帰宅したとみこが突然倒れてしまい・・・。半世紀の間、その時代、時代の<家族>と向き合ってきた山田洋次監督が、現代(いま)の家族を描いた共感と涙が溢れる感動作です。

日本映画界屈指の演技派俳優が集結!映画『東京家族』平山一家のキャスト紹介

平山周吉/橋爪功

平山一家の家長で元教員。愛情表現が苦手で寡黙な古き良き日本男子ですが、誰よりも妻・とみこを愛しています。

次男の昌次とは折り合いが悪く、顔を合わせてもお互い口を開けば言い争いに。酒が入ると愚痴が延々と出てくる絡み酒タイプ。上京時も旧友の沼田の行きつけの居酒屋で飲みますが、泥酔してしまい、家族に迷惑をかけてしまいます。

平山周吉を演じている橋爪功は劇団円の代表であり、主役から脇役までドラマ・映画問わず、幅広く演じ分けます。日本アカデミー賞では主演男優賞に本作も含めて2度、助演男優賞に2度ノミネートされている日本を代表する名優です。

近年の代表作は、テレビ朝日系にて不定期にシリーズ化、スペシャルドラマ化され、主演を務めた木曜ミステリードラマ『京都迷宮案内』です。映画にも年1~2本ペースでコンスタントに出演し続けています。

平山とみこ/吉行和子

周吉の妻であり、三兄弟の母親。三歩下がって夫の後をついていく古き良き日本の良妻で、子どもたちの幸せを願っています。

上京時に子どもたちと同じ時間を楽しみたいと思っていましたが、子どもたちはそれぞれに忙しく、次男の昌次からやっと嬉しい報告が聞け、幸一宅に帰宅したところで倒れてしまいます。

平山とみこを演じているのは吉行和子で、お茶目で可愛らしいおばあさん役が似合う日本を代表する名女優です。役柄で演じてきたイメージとは違い、料理はしない、小室ファミリーの音楽が好きでよく聴いているなど、意外にファンキーな一面も。

ドラマ・映画を中心に活躍し、1979年に大島渚監督の映画『愛の亡霊』と本作で2度、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しています。

平山幸一/西村雅彦

DECO

東京で開業医をしている平山家の長男。中学生と小学生の息子が2人と、妻・文子とともに暮らしています。

休日も患者の容体が悪ければ往診に出かけてしまうので、息子たちとの約束をよく破ってしまうようです。今回も周吉ととみこを東京見物に連れていく予定でしたが、患者の容体が悪く、二人を家に残して往診に出かけてしまいます。

平山幸一を演じている西村雅彦は、三谷幸喜作品の常連で1994年に出演したフジテレビ系ドラマ『古畑任三郎』シリーズでブレイクしました。三谷組で演じているコミカルな役柄のイメージが強いですが、本作で演じている幸一のようなシリアスな演技も抜群に上手く、ドラマ・映画で幅広く活躍している実力派俳優です。

金井滋子/中嶋朋子

平山家の長女で、東京で美容室を経営しています。夫・庫造と二人暮らし。周吉ととみこが金井家にやってきますが、美容室が忙しく二人の相手ができず、庫造や弟の昌次に二人を頼むことになってしまいます。

金井滋子を演じているのは、フジテレビ系ドラマ『北の国から』シリーズが代表作の中嶋朋子です。『北の国から』で名子役と呼ばれてから順調に成長し、癖のない演技でドラマ・映画・舞台と幅広く活躍する実力派女優です。

平山昌次/妻夫木聡

平山家の次男で独身。福島に復興支援に行ったり、舞台美術の仕事をする傍ら、歌舞伎の舞台の裏方もしています。

周吉からは幼い頃から厳しく育てられ、現在も「将来性の見えない仕事」と非難され、二人の間には溝があり、とみこがいつもとりなす形に。紀子と婚約関係にあり、とみこが昌次宅に来た際に二人を引き合わせます。

平山昌次を演じているのは日本アカデミー賞にて6度のノミネート、2017年には映画『怒り』で最優秀主演男優賞を受賞した中堅実力派俳優の妻夫木聡です。私生活から役作りをするタイプの俳優で、本作でも吉行と仲の良い親子の雰囲気を出すために、初日から積極的に吉行に話しかけに行きました。

その結果、吉行は撮影を終えても妻夫木演じる昌次と離れがたい気持ちになりましたが、次作で妻夫木がクレイジーな役柄を演じているのを見て、吹っ切れたそうです。

物語の鍵を握る平山家を取り巻くキャストたち

平山文子/夏川結衣

平山家長男・幸一の妻で専業主婦。開業医で多忙な夫を支えながら、子どもたちに毎日塾へ行くためのお弁当を持たせたりと、家族を支えています。

平山文子を演じている夏川結衣は、映画『孤高のメス』『歩いても歩いても』などが代表作のドラマ・映画を中心に活躍している女優です。正統派美人な容姿からこれまでシリアスな役どころを演じることが多かったですが、映画『家族はつらいよ』のようなコメディータッチな作品でも存在感を発揮できる名バイプレイヤーです。

金井庫造/林家正蔵

金井家の家長で滋子の夫。いつも作業着を着ていることから土木関係か何かの職業だと思われます。忙しい滋子に変わって、周吉ととみこを駅前の温泉に連れ出すなど、人の優しい性格です。

金井庫造を演じているのは、落語家の林家正蔵です。ドラマ・映画・アニメ声優・バラエティーと多岐に渡り、活躍しています。バラエティー番組などで見せる人の良さそうな印象から頼りないと思われがちですが、9代目林家正蔵として日本を代表する落語家です。

間宮紀子/蒼井優

蒼井優 今日、このごろ。

昌次の婚約者。昌次とは福島で震災支援に行った際に出会い、現在は本屋で働いています。

昌次いわく「年寄りに好かれるタイプ」で、とみこと昌次宅で初めて会ってすぐ意気投合し、3人で仲良く食事をし、夜遅くまで和やかな時間を過ごします。とみこから昌次には秘密で、ある物を託されます。

間宮紀子を演じているのはモデル・女優として活躍する蒼井優です。2006年に主演した映画『フラガール』で大ブレイクし、第30回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞・新人俳優賞をW受賞するなど、その年の賞レースを総なめします。

ゆるふわ系の外見から繊細な役柄を演じることが多いですが、悪女役やトリッキーな役柄も振り切った演技で魅せてくれる唯一無二の女優です。

沼田三平/小林稔侍

周吉の旧友で元会社役員。周吉が上京した際に、沼田宅に泊めてもらおうと話を持ち掛けますが、現在は妻を亡くし、息子宅に身を寄せているため、断ります。「居酒屋 かよ」にて二人で飲み明かしながら、今の世を嘆き、二人とも酔いつぶれてしまいます。

沼田三平を演じているのは映画『学校Ⅲ』以来、山田組常連の小林稔侍です。高倉健、千葉真一らとともに日本映画界をけん引してきた実力派俳優で、近年では刑事役を演じることが多いです。

山田監督に「手のかかる役者ほど可愛い。」と山田流の賛辞を送られ、絶大な信頼を寄せられています。

主役級キャストが3人も変更したワケとは?

橋爪功と吉行和子による平山家夫婦とその子どもたち家族の4組が絶妙なアンサンブルを奏でる映画『東京家族』。実は制作過程で主役級キャストが3人も変更しているんです!

本作のクランクイン前に発生した2011年の東日本大震災を受け、山田監督は一時制作を延期。2012年3月、平田家家長・周吉役を菅原文太から橋爪功、妻・とみこ役を市原悦子から吉行和子、長女・滋子役を室井滋から中嶋朋子へ変更し、改めてクランクインしたのです。

菅原とはクランクインする希望日程が合わず、市原はS状結腸腫瘍が見つかり、手術のためクランクイン直前に降板。室井とは時期をずらしたことで出演舞台とロケの日程が重なり、三者ともキャスト変更と相成ったわけなのです。

その後、菅原は2014年に高倉健の後を追うように永眠し、市原は2015年の映画『あん』にて復帰するも2017年の映画『しゃぼん玉』を撮り終えた後、再び病気が見つかり2017年現在、休業中です。

本作の大成功を受け、映画『家族はつらいよ』『家族はつらいよ2』と同じキャスティングで映画が作られた『東京家族』。今でこそ、あうんの呼吸で繰り広げられる家族劇ですが、ここに至るまでに色々な試行錯誤があったのですね。

故・小津安二郎監督の映画『東京物語』に捧げる山田洋次監督50周年記念作品

映画『東京家族』は山田監督が「世界一の映画」と絶賛する故・小津安二郎監督の名作映画『東京物語』にオマージュを捧げた作品です。前作『おとうと』で、故・市川崑監督の『おとうと』にオマージュを捧げたように、山田は自身の監督50周年という節目の年に小津の『東京物語』を選びました。

山田自身「徹底的に真似しようと思った。」と語った通り、映画『東京家族』と『東京物語』は、広島から両親が上京する設定から登場人物の名前(現代風にアレンジはされています)、長女が美容師という職業まで、至るところが小津作品とそっくり同じなのです。しかし、名匠が名匠をリメイクするのですから、ただ同じものを作るわけがありません!

『東京物語』では戦死した設定となっている次男の昌次を妻夫木が演じ、東日本大震災の復興支援に行ったり、泣いたり声を荒げたりしながら、物語を動かしていきます。平田家家長の周吉も酔いつぶれて管を巻きながら「どこで間違えてしまったんだ、この国は!」と嘆きます。

これらは静かで淡々と物語を進めていく小津作品には見られない部分です。全体に小津作品への愛が溢れていながらも、しっかり山田節を炸裂させ、似て違う作品を作り上げた山田洋次という名匠の手腕にまたも驚かされます!

実は、小津の『東京物語』もレオ・マッケリーが監督した1937年の映画『明日は来らず』をベースに作られた作品。本作も、小津安二郎から山田洋次へ、山田洋次から次世代の映画人たちへ受け継がれていく作品となっていくのでしょうね。

東日本大震災と山田洋次

2011年3月11日東日本大震災―未曽有の被害を経て、復興の道を歩むこととなった日本でしたが、当時、多くの映画人、監督や俳優たちは「この危機的状況下で、笑ったり娯楽と呼べるものを作っていて良いのだろうか?」と自問したそうです。

その一人である映画監督の園子温は、2011年当時、制作中だった映画『ヒミズ』を東日本大震災の発生を受け、書き直し、舞台を震災後の日本にし、主人公たちを被災してバラックで暮らしているという設定に変更しました。その後、2012年に新たに映画『希望の国』で原発事故が再び起こったという設定で災害と向き合う作品を発表しました。

このように、2011年の震災以降、制作中の自身の作品の方向性を変え、震災の悲劇を伝える作品を作った映画監督も少なからずいました。

山田洋次監督もその一人で、東日本大震災を受けクランクイン直前だった映画『東京家族』を一時延期。山田監督自ら宮城県や岩手県の被災地を訪れ、新たに加筆し完成したのが、私たちの知っている映画『東京家族』です。

作中、周吉が未亡人の友人・京子を訪ね、京子の母親が東日本大震災で亡くなったことを知り、手を合わせるシーンは山田監督の心をそのまま反映させたのかも知れません。周吉が長男たちに同居を勧められ、自分は福祉と地域のコミュニティーの助けを借りて生きていくので、「東京には二度と行かん。」と告げるシーンも、震災時の助け合いの重要さを感じさせられます。

そこでは、当たり前にいた家族が突然いなくなるということ、だからこそ毎日同じ時間ともにいられる時間を慈しんで過ごすことのできる幸せを見落としてはならないということが優しく丁寧に描かれ、観終わった後、離れて暮らす家族に会いたくなる作品に仕上がっています。

第37回日本アカデミー賞を席巻!

映画『東京家族』は第37回日本アカデミー賞で、優秀作品賞、監督賞、主演男優賞(橋爪功)、主演女優賞(吉行和子)、助演男優賞(妻夫木聡)、助演女優賞(蒼井優)を始めとする12部門を受賞する快挙を成し遂げました。山田監督の作品といえば、作品が公開された年の日本アカデミー賞では、最優秀賞とはいかなくとも、優秀撮影賞、優秀照明賞など技術賞の分野で毎年のように受賞していることでも有名です。

監督も名匠、俳優陣もベテラン、そして彼らを支える映画スタッフたちも玄人揃いというのは、そう簡単にできることではなく、山田洋次という才能に惹かれ、各分野の才能たちが集まってできたのが、映画『東京家族』なのです。

最高峰の作品をリアルタイムで観ることのできる私たちはなんて贅沢なのでしょう!とついつい感嘆が笑みこぼれてしまいますね。

橋爪功は父・周吉にそっくり!?キャストが暴露した撮影秘話

映画『東京家族』の初日舞台挨拶では、山田監督、橋爪功、吉行和子らベテラン映画人や落語家の林家正蔵らが登壇したことから、軽妙なトークが展開され、会場は笑いに包まれました。その中で、橋爪功は実は周吉そっくりでアテ書きなのでは?と思ってしまうエピソードをいくつかご紹介します。

クランクアップ時に吉行が山田監督の耳元で何やら囁き、それを聞いた山田監督がいたく感激したそうです。それを見ていた橋爪が吉行に「なんていったの?」と尋ねたところ、「秘密。」と言われてしまい、「僕の奥さんなのに!」と嫉妬したということを橋爪自身が明かしました。

また、別のインタビューで橋爪は、周吉と妻夫木が演じた昌次が微妙な親子関係のため、距離を取ろうとした妻夫木にもガンガン話しかけにいったことも明かされています。そのことから、橋爪は憑依型の俳優ではないと思われました。

もともとの性格が、不器用で寂しがり屋で焼きもち焼きの昔ながらの日本男性の周吉にそっくりなのかも?と思わせられる微笑ましいエピソードです。

映画『東京家族』の続編ともいえる映画『家族はつらいよ』『家族はつらいよ2』

映画『東京家族』のキャスト・スタッフが再結集し、2016年に新たな家族の物語映画『家族はつらいよ』が公開されました。本作は山田洋次にとって映画『男はつらいよ』シリーズ以来、20年ぶりの喜劇となり、登場人物たちの名前も『東京家族』と少し名前の漢字を変えているだけで、『東京家族』の続編ともパラレルワールドともいえる作品なのです。

というのも『東京家族』はじんわり丁寧に家族を描いた作品でしたが、『家族はつらいよ』の平田家は、妻・富子が突然要求してきた離婚届けにより平田家の“熟年離婚問題”に家族中が大慌て!!狭い居間に四家族が集まり、どうしたものか?と頭を突き合わせる様子が、笑いあり涙ありの抱腹絶倒ホームコメディーとして描かれています。

山田監督にとって20年ぶりの喜劇ですが、山田節はまったく鈍っておらず、山田監督にとって理想の家族の形とはいつの時代も変わらない、本作で描かれている平田家のような家族なのだろうなと感じることができる作品です。その第二弾となる映画『家族はつらいよ2』が2017年5月27日に全国公開されます。

前作で“熟年離婚問題”を何とか乗り切った平田家を待ち構えていたのは、“高齢者免許返上問題”と家長・周吉の親友の死!?タイムリーな社会問題に鋭く切り込んだストーリーと親友の死さえも「滑稽でバカバカしい大騒ぎ」にして笑い飛ばしてしまう山田監督の手腕に注目です!

そして、たくさん笑った後は、現代の家族を取り巻く社会問題もきちんと考えられる作品に仕上がっていますので、老若男女問わず、劇場に足を運んでみてくださいね。