2017年7月6日更新

映画『くすぐり』を軽い気持ちで観たら、完全な闇だった。【インターネットに潜む悪意】

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くすぐり

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くすぐり我慢大会、あなたも出てみる?

あなたはくすぐり、という行為に対してどのような印象を抱いているだろうか。例えばソファの裏に隠れている息子を父親が発見し、こちょこちょと脇腹をくすぐる、なんとも微笑ましい光景が思い浮かぶ人もいるはずである。 世の中には「くすぐり我慢大会」なる馬鹿馬鹿しいものが存在する。いい年をした大人がくすぐられるのを我慢しているシュールな絵が想像できて可笑しい。 一人じゃ絶対参加しないけど、仲の良い友達と冗談半分に参加することならできそうだ。飲み会のネタになるに違いない。

愉快で楽しいニュースになるはずだったが…。

主人公であるニュージランドの記者デイビットが、くすぐり我慢大会へ興味を持ち、取材を申し込むところからこの映画は始まる。くすぐり我慢に自信があるツワモノ達との出会いを描いたドキュメンタリー…、になったらどれだけ微笑ましい映画になったことだろう。 主催者であるジェーンから異様に攻撃的な言葉が並んだ返信があったのである。不思議に思ったデイビットが主催者側の人間や元参加者へ取材したことで、とんでもない闇に引きずり込まれてしまう。映画は全く予想できない展開へと転がっていく。

私たちの全く知らない世界について

スタンリー・キューブリック監督の遺作『アイズ・ワイド・シャット』という映画がある。日常の刺激に慣れてしまった主人公の男(トム・クルーズ)がその好奇心から立ち入った世界でひどい目に遭うのだ。 インターネットにアクセスすることができる私たちは、ついなんでも知っているような感覚に陥る。しかしこの世界には、私たちの知らないことの方が多い。とても危険な世界への入り口はすぐそこに存在している場合がある。それは例えば、くすぐり我慢大会だったりするのだ。

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映画『くすぐり』が闇の世界の扉を開ける【ここまでネタバレなし】

真実を追いかけるデイビットの勇気とフットワークの軽さはドキュメンタリーとして申し分ないが、まるで勢いよく火に飛び込んでいく夏の虫のようにも見えるのだ。ただ、この映画そのものが火に抗う虫の、大きな羽ばたきになっている。その羽ばたきは火を消すのか、それとも…。 この大きな出来事は未だ収束をしていない。私たちにできるのは、危険な世界の入り口をうっかり開いてしまわぬよう注意することだけである。 以下の見出しより、私見による映画『くすぐり』の解説考察を行っていく。展開に近い関連の映画も紹介するので参考にしていただきたい。

【ここからネタバレあり】インターネットへの拡散

元参加者へのインタビュー

なかなかインタビューをさせてくれない元参加者の中で応じてくれたのはTJという名の若者。彼は大会での出来事とその後の悲惨な人生を赤裸々に語る。 大会に参加したTJは違和感を覚えつつも、なされるがままくすぐりに応じる。その後自分の名前を検索したTJは衝撃を受けた。 なんと、自分がくすぐられている動画がYouTubeにアップロードされていたのだ。 すぐに削除申請を出したTJだったが、すぐに大会主催者であるジェーンから返り討ちに遭う。動画があらゆる動画サイトに投稿され、個人情報まで全て晒されてしまったのだ。その結果、金と仕事を失ってしまったのである。 注意したいのはジェーンから金銭の要求はなかったということだ。

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参考になる映画

『アイアンマン』などで知られるジョン・ファヴロー監督作品。一流レストランで働くシェフが、自身が考案した創作料理を作らせてもらえず、不満が爆発。とんでもない動画をSNSに投稿してしまうのだ。その結果大炎上し、職を追われてしまう。 この映画でシェフは最終的にインターネットに救われることになる。インターネットにはポジティブとネガティブが表裏一体となっており、使い方を間違えないようにすればよいだけなのだ。映画としては爽快なラストを迎える。 対して映画『くすぐり』におけるくすぐり我慢大会元参加者のTJの人生は完全に崩壊してしまった。非常に胸糞悪い。 では一体、何のためにこのようなことをするのだろうか。映画はさらに深みへと沈んでいく。

くすぐりという性的嗜好

くすぐりフェチへのインタビュー

記者はその目的を探るべく、同じようにくすぐり動画を製作するフロリダの男性に取材を試みた。快く取材に応じた彼の口からある事実が述べられる。 男はくすぐりフェチなのだ。 映画を観た人のうち、驚いた方はどれくらいいるのだろうか。全く想像ができない。ちなみに私は初めから予想していたが、知らない人も多いのではとも思う。くすぐりはくすぐられる方も、くすぐる方も性的興奮になりうるのだ。映画では「よりソフトなSM」と説明されている。 くすぐられる男とくすぐる男を眺めるデイビットの苦々しい顔が印象に残っている。彼がくすぐりフェチを理解しているのかは映画では述べられない。

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参考になる映画

特殊性癖映画といえばクローネンバーグ『クラッシュ』。この映画描かれているのは自動車事故フェチだ。何を書いているのか伝わりづらいかもしれないが、つまり自動車事故に性的興奮を覚えるのである。これはくすぐりをはるかに超える特殊性癖である。だが、映画を観れば自動車事故フェチが十分に理解できるようになるのである。実に見事な映画だ。 多様性を尊重すべきこの社会、くすぐりフェチや自動車事故フェチなどにも寛容であるべきである。フロリダの男性はジェーンと違って、出演者(くすぐられる側)の人間の同意の元で動画製作を行なっているので何の問題もない。ジェーンはTJなどそのほか多くの参加者を騙して、くすぐり動画を撮影しているのだ。騙されて撮られたポルノと言えよう。 ではジェーンとは一体何者なのか。記者デイビットは核心に辿りつく。

上流階級の"遊び"?

もっとも怪しい人物にたどり着く

過去にテリという女性が同じような手口でくすぐり動画を撮影、インターネットに公開する嫌がらせを行なっていた。別の罪で逮捕されたテリが、実はデイビット・ダマーという男性で学校の教頭を勤めていたことも判明したのである。デイビット・ダマーは莫大な親の遺産を相続した、いわゆる上流階級の人間であった。 現在は自由の身となっているデイビット・ダマーを記者は張り込みし直接取材するが、結局中途半端なまま映画は終了した。

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参考になる映画

パゾリーニの遺作『ソドムの市』だ。先に紹介した『アイズ・ワイド・シャット』が正常と異常との境界線を正常な主観で行き来する映画だとするなら、本作は完全に異常の世界を異常な側から描いた映画である。 美男美女をかき集めて、変態行為に及ばせるのは上流階級の人々(映画の詳細についてこれ以上述べない)。過去も現在も、地位と権力が集中し過ぎた人間はどこかおかしくなってしまうのかもしれない。

映画『くすぐり』があなたの好奇心をくすぐる

実はこの映画には後日譚があるそうだ。記者デイビットと映画『くすぐり』そのものが、なにか大きな闇に取り込まれてしまっていることがわかる。ここでは紹介しないが、興味を持った方はインターネットで調べてみてほしい。あなたの好奇心がくすぐられること間違いなしだ。 ただほどほどにしないと、悪魔の手があなたの自律神経を刺激し、一生狂ったように笑い続けることになる。