スタジオポノック、ジブリのDNAを受け継ぐアニメ制作会社に迫る【メアリと魔女の花】
「午前0時」の意味を持つスタジオポノック
セルビア・クロアチア語で「ポノック」=「午前0時」という意味を持つ「スタジオポノック」は、2014年のスタジオジブリ制作部の解体から1年後設立されたアニメ制作会社。 スタジオジブリを退社した米林宏明監督と西村義明プロデューサーが中心となり、「午前0時になって、また新しい一日が始まる」という新しい始まりへの意気込みを込められて設立されたそう。自社スタッフだけでなく、他の制作会社のクリエイターたちをも巻き込み、一つの作品を完成させるスタイルも含め、これからの日本アニメーション界のひとつの牙城になるであろうと言われています。 また、スタジオジブリでの後期では唯一、宮崎駿と高畑勲どちらのクレジットもない映画『思い出のマーニー』の監督を務めた米林宏昌が、2017年にスタジオポノック第一回長編アニメーション映画『メアリと魔女の花』を制作・公開したことでも話題になっています。
スタジオジブリ制作部解体の衝撃から1年――2015年スタジオポノック、遂に始動!
宮崎駿の引退宣言から約1年後の2014年8月、スタジオジブリ制作部解体。世界中に衝撃が走りました。 宮崎の引退宣言は毎度のことくらいに思っていたのに、ついにスタジオジブリがなくなってしまう……!その危機感に駆られたのは、私たちだけではありませんでした。『思い出のマーニー』の全国キャンペーンを終え、スタジオジブリに戻った米林宏昌監督と西村義明プロデューサーは、いつも人と熱気で溢れていたスタジオがガランと誰もいなくなっているのを見て、虚無感に襲われたそうです。 それをきっかけに、西村が米林に新会社「スタジオポノック」設立を提案。それから初めて、宮崎、高畑、鈴木敏夫プロデューサーを通さずにゼロから企画会議をし、『メアリと魔女の花』をスタジオポノックの第一作目として完成させようと動き出しました。 また、以前からスタジオジブリと親交のあった庵野秀明の「宮さんの絵を残したい。」という口添えもあり、西村は背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」も同時進行で設立。元スタジオジブリのスタッフだけでなく、ドワンゴ、スタジオカラー、スタジオ地図といった日本を代表するアニメーション会社が関わり、日本アニメーションを支えてきた美しい手描きの表現力を未来に繋げていきたいという思いを『メアリと魔女の花』に託しました。
期待の若手コンビ!米林宏昌監督&西村義明プロデューサー
スタジオポノックを立ち上げ、「自分たちがそうだったように、今の子どもたちが純粋にワクワクできて、観終わった後に一歩前へ進もうと思える作品を。」という思いのもと、『メアリと魔女の花』を制作した米林宏昌監督と西村義明プロデューサー。 2010年に映画『借りぐらしのアリエッティ』で初監督を務めた米林は2017年現在43歳。ジブリ歴代監督最年少で宮崎に直接師事し、宮崎が持つダイナミックで躍動感のある画を受け継いでいる希少な存在の一人です。 同時に、スタジオジブリ最後の作品となった2014年の映画『思い出のマーニー』のような詩的で繊細な世界観も描けて、「静」と「動」どちらも表現することができるクリエイターで、西村はそんな米林のことを「世界のアニメーション界を見渡しても、こんなことができる人はなかなかいません。」と絶大な信頼を寄せています。
そんな米林とコンビを組む西村は2017年現在40歳。ジブリ時代に、映画『ハウルの動く城』『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』、つまり宮崎、高畑、米林の3人それぞれの監督作品を手掛けた敏腕プロデューサーです。 『思い出のマーニー』の時に初めて、それまで鈴木プロデューサーがやってきた業務をすべて引き継ぎ、作品を成功させました。スタジオポノックで『メアリと魔女の花』の制作を始めた際、米林は宮崎から、西村は鈴木から、それぞれ別の場で「覚悟を持ってやれ。」と同じ台詞を言われたそうです。 面白さだけでなく、何を見せ、何を伝え、何を作るべきか?を常に考え、もがき、作品に投影するスタジオジブリの精神が、スタジオポノックへと受け継がれていきます。
スタジオポノック第一回長編映画『メアリと魔女の花』はスタジオジブリへの壮大なラブレター
メアリー・スチュワートのイギリス文学「The Little Broomstick」を原作にした映画『メアリと魔女の花』は、おっちょこちょいで自分の容姿にコンプレックスを持っている少女・メアリが、一晩だけ魔女になることができる魔法の花“夜間飛行”を手に入れ、魔法学校での冒険を通して、自分に自信を持ち、ひと回り成長していく姿を描いた物語です。 メアリの声優を務めるのは、『思い出のマーニー』の彩香役以来、米林と3年ぶりの再タッグとなる杉咲花。2016年度の日本アカデミー賞で新人賞と最優秀助演賞をW受賞した期待の若手女優です。 メアリと共に冒険に巻き込まれていくピーターには、『借りぐらしのアリエッティ』以来、7年ぶりの再タッグとなる神木隆之介を起用。7年の間に、新海誠、細田守、宮崎駿作品すべてを経験し実力をつけた神木が、作品に華を添えます。
アクション、友情、成長、エンタメとさまざまな要素で構成されており、スピード感溢れるカーチェイスならぬほうきチェイスや画面いっぱいに飛び跳ね走り回るメアリがダイナミックに描かれ、米林監督の本領が発揮されている作品。さらには、映画『天空の城ラピュタ』から『思い出のマーニー』まで歴代ジブリ作品を彷彿とさせるシーンが随所に織り込まれており、米林監督がジブリ時代に培ったものすべてを詰め込んだスタジオジブリへの壮大なラブレターとなっています。 ラブレターでありながらも、クライマックスでメアリが強い意志を持って叫び、鮮やかに飛び立つ姿は、制作陣がスタジオジブリから解放されて、巣立っていく姿と重なり、胸が熱くなります。一つの時代が終わり、新たな時代に突入したことを、私たちは目の当りにすることでしょう。