山本寛、京大出身の秀才監督に迫る
山本寛(やまもとゆたか)は、大阪府出身のアニメーション監督です。京都大学文学部哲学科を卒業した業界屈指のインテリ派監督で、2017年8月現在は個人事務所である山本寛事務所に所属しています。 山本の演出の特徴は作品への理論的なアプローチです。ロジカルなアプローチで組み立てられた映像は細かなところまでバランスが整えられており、他の演出家とは一線を画する鋭さを持っています。 山本はその棘のある発言が注目を集める監督としても知られており、引退騒動がスポーツ新聞の紙面を飾ったこともありました。山本がいかに注目されているのかが伺える事例です。
京都アニメーションで経験を積んだ山本寛
山本寛は京都大学在学時に同大学アニメーション同好会で自主制作映画『怨念戦隊ルサンチマン』の監督を勤めた後、京都アニメーションへ入社しました。当時の京都アニメーションは様々な制作会社の下請けとして活躍しており、山本も様々な作品に関わり、経験を積んでいきました。 演出家としてのデビュー作は1999年放送の『POWER STONE』です。この時期の代表作『あたしンち』(制作元請け・シンエイ動画)では30話以上の演出・コンテを担当し、コアなアニメファンからは下請けのプロ・京都アニメーションの代表的な演出家の1人として認知されるようになりました。
『涼宮ハルヒの憂鬱』の細やかな演出で山本寛の名が一気に知れ渡る
山本寛がブレイクしたのは2006年放送の『涼宮ハルヒの憂鬱』です。特に注目を集めたのが放送第1話「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」やエンディング「ハレ晴レユカイ」でした。 「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」は登場人物が制作した自主制作映画を映像化したものです。山本は『怨念戦隊ルサンチマン』の経験を活かし、自主制作映画特有の撮影トラブルや技術的制約を丁寧に再現し、目の肥えたアニメファンを唸らせました。 更に話題を呼んだのが「ハレ晴レユカイ」の映像です。アイドルファンである山本が自ら同曲の振り付けを行い、エンディング映像ではカットされる事になっていたダンスも省かずに絵コンテを切るというこだわりを見せました。 「ハレ晴レユカイ」はファンの熱い要望でダンスシーンの完全版が製作されるほどの人気を博しています。
『らき☆すた』監督を突如降板
『涼宮ハルヒの憂鬱』で人気を得た山本は、翌2007年のアニメ『らき☆すた』で自身初の監督に抜擢されます。しかし、アニメの放送が開始された直後の2007年4月30日に事件が起きます。 監督が山本から武本康弘に交代となったのです。京都アニメーションが発表した理由は「まだ、その(監督の)域に達していない」というものでした。 アニメにおいて放映中の監督交代は度々発生することなのですが、それらの例は長期シリーズ化によるスタッフ編成の変更や、健康上の理由やオーバーワークを理由に引き継ぎが行われるものが殆どで、今回の事例は非常に不自然なものとして視聴者の目に写りました。山本は監督交代後にも作品に関わりましたが、その作業量は交代以前と比べ非常に少ないものとなっています。
Ordet設立、そして『かんなぎ』で山本寛は再び監督へ
『らき☆すた』放映中の同年6月付で、山本は京都アニメーションを退社します。監督交代との関係は明らかにされていないものの、本来であれば『らき☆すた』の監督を継続しているはずの時期であったため、様々な憶測を呼びました。 直後に山本はアニメーション制作会社Ordetを設立します。同社は各アニメの下請けに携わり、山本も複数のアニメの制作に協力しました。 山本はA-1 Pcturesが制作を行い、Ordetがプロダクション協力を行ったアニメ『かんなぎ』で監督業へと復帰します。『かんなぎ』のOP「motto☆派手にね!」の映像は「ハレ晴レユカイ」の流れをくむ『かんなぎ』のキャラクターを用いた短編アイドルアニメとしてまとめ上げられており、ファンから賞賛を浴びました。
『フラクタル』と山本寛引退騒動
山本はOrdet設立後、各種雑誌への寄稿や講演、Twitterやブログによる情報発信を積極的に行うようになりましたが、度々言動が問題視されるようにもなってしまいました。 この頃、企画が始動した作品が『フラクタル』。『かんなぎ』と同様A-1 Pictures制作・Ordetプロダクション協力となり、山本が監督を勤める作品です。 同作は哲学家の東浩紀が原案を担当し、アニメ業界を批評する挑戦的な作品です。山本は同作に監督引退も辞さない覚悟で臨むと宣言し、この発言がスポーツ新聞で報道されるなど大きな話題を呼びました。 作品は完成したものの、山本は同作のセールスや評価を鑑み、監督としては失敗だったとしてインタビューでも監督引退を示唆しました。しかし、同年中に山本の周囲で引退についてトラブルが発生したらしく、山本本人によって引退は撤回されることとなります。
アイドルファンとしてのこだわりが成功へ導いた『Wake Up, Girls!』
山本は『フラクタル』を完成させた後、2014年に自身初のアイドルアニメ『Wake Up, Girls!』を制作します。『Wake Up, Girls!』は山本自身が企画を立案し、同名の声優アイドルグループと連動した活動や、テレビと映画を同時に公開するという実験的な作品となっています。 大のアイドルファンである山本は、最初は現実にもいそうな普通の少女だったWake Up, Girls!のメンバーたちが芸能界の闇といさかいに翻弄されながら奮闘し、本当のアイドルへと成長する姿にこだわって作品を制作しました。本作はそれまでのアイドルアニメとは違う作風がユーザーの目を引き、2015年には前後編の続編映画が公開され、2017年にも新作が製作されるるほどの人気を博しています。
『薄暮』クラウドファンディングが証明した山本寛の人気
2016年には体調を崩し、Ordatの代表取締役を辞任した山本寛。回復後には各種タレント事務所へ登録を行い、自虐的に「テレビにでも出なければイメージが変わらない」と語る山本ですが、彼のアニメーション監督としての人気と信頼は全く衰えていません。 それを証明した事例が『薄暮』のクラウドファンディングです。本作は山本によるオリジナル劇場作品として企画され、製作資金を調達するためにクラウドファンディングが開始されました。 2017年2月に開始された本作のクラウドファンディングは目標金額が1千5百万円でしたが、見事2千万円以上を集め、成功を収めます。クラウドファンディングには映画の鑑賞権などは特典として配布されないため、純粋に山本寛の新作に期待する人々がこれだけの額を積み上げたのです。 新作プロジェクトの他、タレント活動にも期待が集まる山本寛。山本の活躍に期待が集まっています。