大友克洋、ジャパニメーションの立役者となったクリエイターを知ってる?

2017年8月30日更新

『AKIRA』、『MEMORIES』といったアニメ映画で世界的にその名を轟かせ、“ジャパニメーション”の立役者となった大友克洋。漫画家としてだけでなくアニメや実写映画の監督も手がける、まさに稀代のクリエイターとなった彼がもたらした足跡、功績をひも解きます。

大友克洋というクリエイターを知っていますか?

1954年生まれの大友克洋は、73年に『銃声』で商業漫画家デビュー。以降『童夢』、『気分はもう戦争』、『AKIRA』といった作品を発表し、卓越した絵と構成により漫画界に「大友以前、以後」と呼ばれる画期を作り、世界的に影響を及ぼしました。 一方で、1983年の劇場用アニメ『幻魔大戦』にキャラクターデザインとして参加したのを機に、アニメ製作や実写映画『蟲師』の監督も務めるなど、さまざまな分野にまで活躍の場を広げています。 本記事では、大友克洋の代表作、彼の確立した新たな概念、のちの作品に与えた影響から、自身が影響を受けた作家まで、全てを紹介します。

主な代表作:1,『童夢』

とあるマンモス団地内で連続変死事件が発生。捜査に当たっていた刑事までも怪死してしまう事態に陥りますが、次第に超能力が絡んだ老人と少女との壮大なバトルへと発展していきます。 近未来の超管理社会を描いたSF物『Fire-ball』を描き終えようとしていた1980年初頭に、次回作としてホラー物を考えていた大友が、当時マンモス団地で集団自殺が多発していたというニュースに着想を得て執筆されました。マンモス団地(作品中のモデルは高島平)という限定スポットで起こる超能力バトルが必見です。 ちなみに、『パシフィック・リム』で知られるギレルモ・デル・トロ監督は本作の大ファンで、一時期、実写映画化に向けて動いていました。

主な代表作:2,『AKIRA』

2019年のネオ東京を舞台に、超能力を得てしまった少年・島鉄雄の暴走を食い止めるべく、幼馴染の金田や軍隊を交えたサバイバルを描きます。 1979年の『Fire-ball』を下地に82年に連載開始された本作は、88年に大友自らが監督した同名アニメ映画が国内外で高い評価を得て、「ジャパニメーション」と呼ばれる言葉を生み出すほどになり、数多くのフォロワーを生みました。

なかでも影響を受けた映画としては、ジョシュ・トランク監督の『クロニクル』があります。突然超能力を持ってしまった少年たちが予期せぬ事態を引き起こすというストーリーも、『AKIRA』と酷似しており、実際にトランク監督は『AKIRA』を参考に製作したと公言しています。

主な代表作:3,『ショート・ピース』

『NOTHING WILL BE AS IT WAS』、『宇宙パトロール・シゲマ』といった大友の短編をまとめたオムニバス漫画。細々とした独特の世界観をリアルに描いた短編集となっており、『AKIRA』とはまた違った大友ワールドが詰まっています。 2013年には、大友を含む森本晃司、石井克人、貞本義行、カトキハジメといった日本を代表するクリエイターが参加したオムニバス映画のタイトル(『SHORT PEACE』)にもなりました。ちなみにこの作品で大友は『火要鎮』を監督し、初期の短編作『武器よさらば』をアニメ化(監督はカトキハジメ)しています。

大友克洋が日本漫画の画風・手法に革新をもたらした

大友克洋が漫画界にもたらした影響は計り知れません。詳しくは以降の章で順次触れていきますが、彼の影響を受けた漫画家の証言からもそれは伺い知ることができます。『妖怪ハンター』、『西遊妖猿伝』で知られる諸星大二郎は、「誰かが大友克洋の絵は麻薬だと言っていたが、影響云々とは別の意味で本当にそうなのではないかと思い始めた」と、大友が描く絵の“麻薬性”を指摘しています。 また、『20世紀少年』の作者・浦沢直樹も、「『ショート・ピース』や『童夢』以降、全てのほかの漫画の線が大友さんのそれになると思ったし、実際にそうなった」とその影響力の大きさを述懐しています。

美化されないありのままの日本人像

大友作品の特徴として、まず挙げられるのがキャラクター造形でしょう。デフォルメされる事のないきっちりとした骨格や筋肉を持ち、少しつり下がった小さい目や低い鼻に骨ばった頬など、いわゆる東洋人(モンゴロイド)的な顔のキャラクターを登場させました。 それまでの漫画では、目鼻が大きくて見映えがするキャラクターが主流だったのに反するかのように、現実世界にいてもおかしくない日本人的デザインをあえて投入した大友のセンス。漫画界において、「大友以前」と「以後」とに分けられるとされる所以の一つでもあります。

「非手塚的手法」の確立

「漫画の神様」と称される手塚治虫。彼が漫画に用いたのが、静的な漫画表現に映画の動的表現を導入し、スピーディーなアクションをコマ割りや描画、もしくはクローズアップで描写する手法でした。これが俗に言う「手塚的手法」と呼ばれるものです。 それに対して大友は、事態を一枚の風景だけで表現したり、キャラクターも建物も細密な線でリアルに描き出すといった手法を多用した、いわゆる「非手塚的手法」を確立しました。 もっとも大友本人は手塚ファンの一人でもあり、『AKIRA』のラストでは彼への献辞を捧げていますし、『Fire-ball』に登場するコンピューターの名前を「アトム」としていたりします。また、ビジネス雑誌の表紙に、自身が描いた『鉄腕アトム』のイラストを提供しています。

緻密に書き込まれた世界設定を作り上げる大友克洋

大友作品で目を引くのが、その緻密かつ壮大な画力に込めた世界観です。『童夢』での全編クライマックスのような緊迫感や、『AKIRA』での荒廃した近未来都市を表現するのに欠かせない画づくりは目を見張ります。 望遠レンズや広角レンズを駆使して撮影したかのような光景を漫画で表現する一方で、瓦礫と化した建築物をリアルに描きます。本人曰く瓦礫の写真集が好きで、そうした写真を参考に漫画を描いていたというぐらい、その緻密さには驚かされます。 ただ、『AKIRA』連載時は瓦礫の描写にこだわり過ぎるあまり、原稿の仕上がりが遅れてしまうこともしばしばだったとか。

走行中のバイクや自動車の残光までもリアルに表現

『AKIRA』で登場するバイクや車の疾走シーンで表現されたテールライトの残光表現も、大友のアイデアによるものとされています。尾を引く残光を多用することで、車体のスピード感を際立たせる効果をもたらしています。 また、金田が乗るバイクや、ネオ東京の街を彩るネオンサインに至るまでのデザインセンスも卓越しているのも特筆すべき点でしょう。

フキダシを使用して効果音を描く、独特な表現

漫画でキャラクターが喋る際に使われる「フキダシ」表現。大友はこれを効果音や擬音を表現する際にも用いています。この表現を開発したのが大友かどうかは諸説あるようですが、少なくとも効果的に多用しています。 例えば『童夢』での冒頭でのマンモス団地のみが描かれたページで、フキダシで「どさッ」という音のみを表現したり、『AKIRA』では人体が潰れる「ベチャッ」という音をフキダシで表すことで、よりインパクトを与えています。

超能力に「球体」という形を与えた

『Fire-ball』、『童夢』、『AKIRA』と超能力をベースとした漫画を発表してきた大友ですが、その超能力を画にする際に「球体(丸)」を用いています。気功においては、手のひらで「気の球(ボール)」を作って意識を整えると云われますが、大友はそれを初めて漫画で画で表現した人物と評されています。 こうした得体の知れない能力を球体表現で描いた代表作として、鳥山明の『ドラゴンボール』が挙げられると思いますが、大友はその先駆者ともいえるかもしれません。

大友克洋が影響を受けた作家とは

最後に、大友克洋自身が影響を受けた作家についても触れておきましょう。まず、フランスのコミック界の大御所作家メビウスが挙げられます。彼による細い線で緻密に描かれた作品は、『童夢』や『AKIRA』の執筆に大きな影響を与えており、大友自身、晩年のメビウスと交流がありました。 日本人では、意外ですが、ちばてつやからも影響を受けたのだとか。大友は彼の漫画を教科書代わりにして、コマ割りやセリフとキャラクターの表情の関係を学んだと公言しています。 また、アニメの巨匠となった宮崎駿も気になる存在だった節があり、1979年の短編『Hair』では、前年にテレビ放送されていた『未来少年コナン』のパロディシーンを描いています。後に大友自身もアニメクリエイターになることを考えると、両者の関係も興味深いものがあります。 漫画界だけでなく、アニメ界へも大きな影響を与えたクリエイター・大友克洋。実写映画など意欲的な活動を見せている、大友の今後に注目です。