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『ズートピア』が深い、深すぎる!名作たる理由を徹底考察【ネタバレ】

2018年6月14日更新

2016年に世界中で大ヒットを記録したディズニー映画『ズートピア』。実はこの作品、かわいい動物たちの映画というだけでなく、人間社会に通じる深いメッセージが隠されています。この記事では本作を徹底考察します。

『ズートピア』に隠されたメッセージを解説・考察!【ネタバレ注意!】

2016年に公開され、アメリカや日本をはじめ世界中で大ヒットを記録したディズニー映画『ズートピア』。 ディズニーのアニメーション映画としては久しぶりの動物世界の物語で、子供向けのかわいらしい作品かと思いきや、実は大人こそ考えさせられる深いメッセージが隠されていたのです。 『ズートピア』は現代の多くの国に通じる普遍的な問題を描き、アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞しました。 またミステリーとしてもよくできた傑作ですので、その伏線などもご紹介していきましょう。 ネタバレ解説になりますので、映画鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。

2人の主人公をご紹介!ジュディ・ホップスとニック・ワイルド

夢を絶対あきらめない!ウサギのジュディ・ホップス

本作の主人公であるジュディ・ホップスは、幼い頃から警察官になることを夢見てきたウサギです。 肉食動物と草食動物が一緒に暮らす世界では、小さな草食動物は見下され、バカにされることが多い存在ですが、ジュディは偏見に負けず、夢を叶えようと必死に努力してきました。 その結果、警察学校をトップの成績で卒業しましたが、配属された警察署ではやはり不当な扱いを受けます。 駐車違反の取り締まりや泥棒の逮捕などで手柄をあげても、逆に上司の怒りを買うなど差別されつづけるジュディ。 彼女はアメリカで見下されている人種や、女性を投影したキャラクターと言えるでしょう。

社会の偏見に立ち向かっても無駄?キツネのニック・ワイルド

もうひとりの主人公であるキツネのニック・ワイルドは、ズートピアでフェネックギツネのフィニックとともに、詐欺で稼いで暮らしています。 ニックは子供の頃に、肉食動物でずる賢いキツネだからといじめられた経験から、その差別や偏見に立ち向かうことを諦めました。 社会の偏見を変えることができないのであれば努力しても無駄、“キツネらしく”生きようと考えています。 そんなニックには、アメリカで根拠もなく危険だと認識されてしまう人々が投影されていたのではないでしょうか。

動物たちのアニメ表現のここが楽しい!

ディズニーアニメーションの精彩な映像はもちろんですが、『ズートピア』はそれ以上に動物たちの特性を活かした楽しい表現が盛り込まれています。

リアルなサイズの動物たち

動物の世界を描いたアニメーション映画では、しばしば動物たちのサイズ感が現実とは違うものになっている場合があります。 様々な種類の動物の大きさが、ほぼ均一になるように描かれる場合が多いのです。 しかし本作では、現実の動物のサイズ感をそのままに表現しました。 そうすることで、大きな動物も小さな動物もともに暮らすズートピアという街の、多様性に富んだ楽しい街並みが描かれています。

様々な動物のニーズに合わせた交通機関や仕組みもおもしろい!

ジュディが初めてズートピアに上京するシーンでは、電車にそれぞれの動物のサイズに合わせたドアがついていることがわかります。 ズートピアの街には、水の中を泳いで出勤してきたカバを乾かす装置や、ネズミやハムスターのためのプラスチックのトンネルが用意されています。 ジューススタンドには、キリンのために商品を高い位置まで運ぶ装置がありました。 また、ネズミたちが安全に暮らすために、他の動物とは分けられた地区もあります。 様々な動物が共存できるよう工夫された街並みは、とてもおもしろいですね。

動物たちが二足歩行する姿が考え抜かれている!

『ズートピア』では、二足歩行する動物の体型を人間に寄せてデザインすることはしていません。 例えば、ウサギのジュディは全身の比率で考えると脚が長く、大きなおしり・太ももからつま先に向かって脚が細い体型。これは、脚力の強い実際のウサギの体型を考慮したものです。 また、ナマケモノのフラッシュは脚よりも腕が長い、実際のナマケモノとほぼ同じ体型になっています。

ミステリーとしても傑作!見事な伏線の回収

大きすぎるトイレがのちに重要な装置に

映画の序盤、ジュディは警察学校で大きな動物用のトイレに落ちていまいました。 そのときは、ジュディの小ささを表現したものかと思われましたが、この描写はのちに重要なシーンにつながっていきます。 ジュディとニックが失踪した肉食動物たちを発見し、監禁している施設の警備員から逃げなければならなくなったとき、2人はトイレを通って脱出。 このシーンのために警察学校での描写は用意されていたのです。

失踪事件の鍵はかなり早い段階で登場していた!

駐車違反の取り締まり中に、花屋に入った泥棒を追跡・逮捕したジュディ。 盗まれたのは「ミドニカンパムホリシシアス」という花の球根でした。 肉食動物たちの失踪事件を解決したものの、今度は彼らが差別されるようになり、責任を感じたジュディは実家に帰ります。 そこで失踪事件の鍵となった「夜の遠吠え」と「ミドニカンパムホリシシアス」が同じものであること、それを食べると草食動物でも凶暴になることを知り、ジュディは事件の真相を解明しにズートピアへ戻りました。 ただの窃盗と思われた事件が、大きな事件とその裏にある陰謀につながっていたのです。

ベルウェザー副市長の不満

ヒツジのドーン・ベルウェザー副市長は、ジュディの警察学校卒業式で登場したときからライオンハート市長にないがしろにされ、ジュディを「小さな動物たちの誇り」と褒め称えていました。 その後も登場するたびに市長にこき使われ、まともなオフィスも与えられず、雑用ばかりをこなす姿が描かれています。 本人によれば、ライオンハート市長が彼女を副市長にしたのは、ヒツジの票集めのためだとか。 しばしばジュディに「小さなもの同士助けあいましょう」と言っていたベルウェザー副市長の本心は、肉食動物たちをズートピアから追い出したいというものだったのです。

ニンジンペンは事件解決のキーアイテム!

ジュディのニンジン型のペンには録音機能がついており、最初はニックを捜査に協力させるために彼の脱税の証言を録音していました。 操作中にもたびたび登場する、印象的な小道具だったこのニンジンペン。 このペンでベルウェザーの発言を録音し、事件の真相と真犯人が明らかになりました。

ズートピア=アメリカ!?アメリカの現実に基づく風刺やユーモアも

肉食動物と草食動物、それぞれに様々な種類の動物がともに暮らすズートピアは、様々な人種や出身国の人々が隣り合わせに暮らすアメリカの象徴です。 映画に登場するシーンやキャラクターの行動など、アメリカで実際に起こっていることをそのまま描いている部分をご紹介しましょう。

ウサギに「かわいい」と言ってはダメ?

ジュディが警察署に初出勤したとき、受付係のヒョウ、クロウハウザーはジュディを見て「かわいいね」と声をかけます。 それに対してジュディは、「ウサギ同士ならかわいいって言われてもいいけど、他の動物に言われるのはちょっと……」と返しました。 これは特定の人種同士では言ってもいい言葉が、他の人種が言うと差別用語になる場合を指しています。 また、ジュディは女性ですので、職場で男性から「かわいい」と言われるのは、セクハラにあたる可能性もありますね。

「サービスをお断りする場合がございます」はアリ!?

ニックがフィニックとともに親子を装って入ったアイスクリーム店では、店主のゾウが「サービスをお断りする場合がございます」と書かれたプレートを指します。 これは1960年代まで、特にアメリカの南部では白人以外の客の入店を拒むレストランなどが多くあったことに基づいています。 ニックはキツネだからというだけで、態度が悪いわけでもありませんでしたが店から追い出されそうになりました。 実はこのような店は現在でもあるようで、法律的にたびたび問題になっているとか。

DMVの職員が全員ナマケモノの理由

車のナンバープレートから登録車両を調べるため、ジュディとニックが訪れたDMVの職員は、全員ナマケモノでした。 そのため作業が遅く、様々な用事でやってきた動物たちは皆イラついている様子が描かれています。 DMVという施設は実際にアメリカにあり、日本の陸運局の一部と免許試験場の業務を一緒に行なっている場所です。 アメリカのDMVの事務手続きは異常に遅いことで知られているため、ズートピアではナマケモノが業務を担当している、という風刺になっています。

肉食動物と草食動物、それぞれが象徴するものと深いメッセージ

肉食動物と草食動物、強いのはどっち?

ズートピアの住民の9割は草食動物とされています。 それは、ウサギやヒツジなどの小さな動物だけでなく、ボゴ署長のようなスイギュウやカバ、ゾウなど大きな動物も含まれており、必ずしも弱い存在とはいえません。 また、肉食動物もキツネやカワウソなどの小さな動物から、ライオンまで様々な種類や大きさの動物がおり、大きな草食動物と比べれば弱い肉食動物もいます。 肉食動物/草食動物というような一見意味のあるように見える「区別」でも、その内容は多種多様で、はっきりと分けられるものではないです。 ベルウェザー副市長は、草食動物たちは見下され、虐げられていると考えていましたが、本当にそうだったのでしょうか。 差別される存在、差別する存在は変動するものなのです。

誰でも無意識に偏見を持ってしまっている

自分に対する差別や偏見を受け入れているニックは、ジュディをずっと「ニンジン」「ウサギ」と呼んでいましたが、2人の関係が深まるにつれ、差別的なニュアンスはなくなっていきます。 一方ジュディは、「キツネだからと差別はしない」と言いながらも、失踪事件解決後の記者会見では肉食動物“だけ”が野生化すると語ったり、キツネ除けを常に携帯しているなど、無意識にニックに対して偏見を持っていました。 自分が差別されることには敏感でも、自分が差別していること、偏見を持っていることに気がつかないのはよくあることです。

『ズートピア』のトリビアをご紹介!一度観ただけではわからない!?

他のディズニー・アニメーション映画と同じように、『ズートピア』にも様々なイースターエッグが隠されています。 また、楽しいトリビアもご紹介しましょう。

もともとはニックが中心の物語だった!?

本作はジュディとニックの2人が主人公ですが、主にジュディに主眼が置かれています。 しかし、当初はニックが主な主人公となる予定だったとか。 最初のアイディアでは、ズートピアに暮らす肉食動物たちはその興奮度に応じて電流の流れる首輪をしているという設定でした。 しかし、それではあまりに希望がないということで、ジュディが主人公の物語になりました。

ニュースキャスターは国によって違う?

ニュース番組で右側に座っているキャスターは、地域ごとにオリジナルキャラクターになっています。 日本ではタヌキ、アメリカ・カナダなどではヘラジカ、中国ではパンダ、ブラジルではジャガーと、それぞれの地域で親しみのある動物に差し替えられています。

デューク・ウィーゼルトンと「アナ雪」のウェーゼルトン公爵の関係

「夜の遠吠え」を盗んでジュディに逮捕されたのは、普段は海賊版DVDを売っているイタチのデューク・ウィーゼルトンでした。 彼の名前は、『アナと雪の女王』(2013)に登場したウェーゼルトン公爵(デューク)のパロディです。 イタチのウィーゼルトンが「ウェーゼルトン」と呼び間違えられるのに対し、ウェーゼルトン公爵は「ウィーゼルトン」と呼び間違えられています。 また、英語版でも日本語吹替版でも、ウィーゼルトンとウェーゼルトン公爵は同じ声優が演じています。

ニックのデザインは「大先輩」を参考にした!?

二足歩行のキツネをデザインするにあたっては苦労があったようですが、それを解決したのはニックの「大先輩」のデザインでした。 1973年に公開されたディズニー・クラシックアニメ『ロビンフッド』は、イングランドの伝説を原作としており、登場人物はすべて森の動物たちに置きかえられています。 主人公のロビン・フッドはニックと同じキツネなので、それを参考にしたそうです。

こんなところに隠れミッキー!?

『ズートピア』では、意外なところにミッキーマウスのシルエットが隠されています。 それはZPDの受付係、クロウハウザー巡査の頬の模様です。 これを一度観ただけで気づいた人は、なかなかいないのではないでしょうか。

『ズートピア』は人間の社会にも通じる深いメッセージを伝える名作

いかがでしたでしょうか。 『ズートピア』は、かわいく楽しいだけではなく、上質なミステリーとしても楽しめ、なおかつ人間社会にも通じる深いメッセージを伝えています。 アメリカをベースとしてはいますが、差別や偏見の問題は、どんな国にも当てはまるのでしょう。 特にこの作品は、公開時期が2016年のアメリカ大統領選と重なったことで、そのメッセージを多くの人が意識せざるを得なかったのではないでしょうか。 違いを認め合い、共存することでより豊かな社会になるという本作のメッセージは、多様性への対応が求められる現代の社会に、ぴったりとマッチしています。