劇団イヌカレー、独特の世界観を持つアニメ作家ユニットとは?
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— 劇団イヌカレー (@gekidaninucurry) August 7, 2017
近年、アニメ業界で注目を集める創作集団「劇団イヌカレー」。彼らの正体は、2白犬と泥犬の2名からなる「アニメーション作家ユニット」です。 2白犬は白石亜由美名義でも活躍するアニメーター。元ガイナックス所属で、同社が制作した『これが私の御主人様』(2005年)ではアニメーターとしてのみならず、ノンクレジットで一部シーンの絵コンテも担当しています。 泥犬はアニメーション会社・タントに所属し、仕上げオペレーターを勤めていた穴井洋輔のペンネームです。独特な画風が特徴で、2016年には個展「床下展」が開催されています。 2人は個別に活躍する傍ら、劇団イヌカレーの名義で自主制作アニメから商業アニメの下請けまで、幅広い形でアニメーションを制作しています。この記事では、劇団イヌカレーの特徴や奇跡を紹介します。
劇団イヌカレーの特徴は「コラージュ」「幻想的」「不気味さ」
床下展では 満腹論イラストも展示しております。 pic.twitter.com/BeWw3hMP2T
— 劇団イヌカレー (@gekidaninucurry) April 9, 2016
劇団イヌカレーはコラージュ技法を得意とし、作品は幻想的で不気味さを感じさせる作風が特徴と言われています。本見出しでは彼らの技法や特徴に迫ってみましょう。 コラージュとは、簡単に言えば素材を組み合わせて作品を制作する手法です。主に現代絵画で用いられる用語ですが、登場人物のバストアップ写真を組み合わせた宣伝用ポスターや、誌内で取り上げるニュースの写真や掲載漫画の1コマを切り取って並べる雑誌の表紙などもコラージュの一種と言えます。 このコラージュ技法が多用された映像を見た視聴者は、1から描かれた絵の連続からなる通常のアニメとは異なる印象、すなわち違和感を与えます。劇団イヌカレーはこの違和感を自在にコントロールすることで、普通のアニメとは異なる幻想的な空間や不気味な雰囲気を演出しているのです。
ユニットデビュー作は坂本真綾『ユニバース』ミュージッククリップ
劇団イヌカレーが初めて手がけた仕事は、坂本真綾のミニアルバム『30minutes night flight』に収録された楽曲「ユニバース」のミュージッククリップでした。同アルバムはタイトルに合わせて総再生時間がちょうど30分にまとめられているコンセプトアルバムで、「ユニバース」ミュージッククリップは限定版付属のDVDに収録されています。 このミュージッククリップは泥犬のイラストを素材として活かした独特なタッチの目立つアニメーションや、イラストの切り貼りで作られたことがひと目で分かる背景美術など、劇団イヌカレーらしさが溢れた映像となりました。アニメーション制作はProduction I.Gで、同社の誇る高度なデジタルアニメーション技術がこの特徴的な映像の成立を支えています。
ワンシーンで異彩を放った『天元突破グレンラガン』回想シーン
「ユニバース」ミュージッククリップに続けて劇団イヌカレーが手掛けたのが、『天元突破グレンラガン』11話の回想シーンです。 『天元突破グレンラガン』は2007年に放映されたテレビアニメ。2白犬が所属していたガイナックスの制作した作品です。 11話の回想シーンは全編影絵アニメ風の異彩を放つ演出で制作され、本編の時間軸とは切り離されたシーンであることを視聴者に一瞬でわからせる独特な映像となりました。劇団イヌカレーを起用した監督の今石洋之は同僚だった2白犬のことを独特な才能を持つアニメーターと認識しており、このシーンであれば2白犬の味を活かせると演出から作画まですべて任せたのです。 独特な才能が活きる場面での起用。劇団イヌカレーの存在感が発揮されるとともに、彼らの方向性も定まった重要な作品といえます。
コラージュ映像の実験場『獄・さよなら絶望先生』
劇団イヌカレーにとって転機となった仕事が、2008年に発売された『獄・さよなら絶望先生』のオープニング映像でした。 『獄・さよなら絶望先生』は久米田康治による同名漫画のアニメシリーズの1作品。テレビアニメ2期と3期の間にOADの形式でリリースされました。 「さよなら絶望先生」シリーズ自体が実験漫画的側面を持っており、アニメは原作以上に実験的な手法を多数採用した作品だったため、作品自体と劇団イヌカレーの相性は抜群です。それまでの映像と新規作成映像を過剰なまでにコラージュして作られたオープニング映像はさながらコラージュ映像の実験場のようにも見えます。 本シリーズの監督は凝った絵作りや独特な映像演出で知られた名匠、新房昭之。自身と同じ独特な作風が新房の共感を呼んだのか、新房は自身の監督作に劇団イヌカレーを度々起用するようになります。
劇団イヌカレーの生んだ"隔絶された異空間"『魔法少女まどか☆マギカ』
劇団イヌカレーの代表作といえば『魔法少女まどか☆マギカ』を置いて他にありません。同作は監督・新房昭之、脚本・虚淵玄のタッグで2011年にテレビアニメが放送されたヒット作で、2013年には続編『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』が公開されています。 劇団イヌカレーは異空間設計の役職で敵となる魔女の設定と、魔女が姿を隠す結界を設計しました。今まで以上にコラージュが多用され、魔女の設定を反映した個性豊かな結界はファンに「イヌカレー空間」と呼ばれ、高い芸術性と"ひと目でわかる異空間"という機能性を高い次元で両立させています。 「叛逆の物語」では全編に渡り背景の制作や演出の手助けなどを行い、作品全体がイヌカレー空間で包まれました。平和な日常空間と残酷な魔女空間がせめぎ合う本作との親和性も高く、劇団イヌカレーの設計する異空間は『まどか☆マギカ』にとって欠かせない存在となっています。
劇団イヌカレーの売りは異質さだけじゃない『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
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— 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか (@uchiage_movie) August 26, 2017
りんくう花火大会(大阪府泉佐野市りんくう往来南)https://t.co/inx6wDSzIo pic.twitter.com/42BwF9pLwS
何かと独特さ、異質さが注目される劇団イヌカレーですが、彼らの仕事はそれだけではありません。元々アニメーション業界を生き抜いてきた彼らは、極端に目立たず必要な素材を用意する、アニメーション制作に必要な協調性を持った仕事もこなせるのです。 最たる例が、2017年に公開された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』でした。監督・新房昭之、制作・シャフトの『まどか☆マギカ』の製作陣によって作られた本作に、劇団イヌカレーはデザイン協力として作品に参加し、個性を隠した丁寧な仕事でファンを驚かせました。 インパクトの強い映像から堅実で丁寧な仕事まで、アニメ業界で存在感を発揮し続けるアニメーション制作ユニット・劇団イヌカレー。彼らの展開する独特な世界に触れれば、きっとあなたも不思議な感慨を覚えること請け合いです!