こちトラ映画人じゃ! 井筒和幸のおすすめ映画12選

2017年12月8日更新

井筒和幸といえば、激しいバイオレンス映画をイメージする人が多いかもしれませんが、人間の感情の動きを的確に捉える繊細さも兼ね備えています。コメディ、音楽映画、アイドル映画など多岐にわたる井筒監督のおすすめ映画12本を紹介します。

骨太で繊細、エンタメで政治的な監督・井筒和幸

井筒和幸は1952年、奈良県生まれの映画監督です。ピンク映画で監督デビューした後、1981年に『ガキ帝国』で初めて一般映画を発表します。 その後、アイドル映画、コメディ、アクション、バイオレンス、音楽映画など、非常に幅広いジャンルの作品を世に送り出してきました。一般的に井筒監督は男臭くて、泥臭いイメージがありますが、それだけではありません。 テレビ番組の1コーナー『こちとトラ自腹じゃ!』で見せた辛口の映画評論の影響かもしれませんが、彼の作風は非常に繊細でナイーブな面もあることが、フィルモグラフィを辿れば分かります。

1.大阪の愚連隊を描いた井筒映画の原点【1981】

井筒和幸の初の一般映画で出世作でもあります。日本映画監督協会新人奨励賞を受賞し、ヒットもしました。 主演は当時、漫才コンビとして人気の絶頂にあった島田紳助と松本竜介です。舞台は昭和40年代の大阪、つまり井筒監督の青春時代。 少年院を出所したリュウ(島田紳助)は、少年院で知り合った高(升毅)を連れて、母校に行き、チャボ(松本竜介)とケン(趙方豪)らと再会します。その頃、大阪の繁華街は北神同盟とホープ会という愚連隊が敵対していて……。 大阪弁と韓国語が飛び交うなど、『岸和田少年愚連隊』(1996)や『パッチギ!』(2005)の原点とも言える作品です。

2.あだち充原作の人気青春漫画を映画化【1983】

あだち充原作の恋愛コメディ漫画の映画化作品です。2人のみゆきに心が揺れる主人公とスポーツをからめた人気作でアニメ化もテレビドラマ化もされました。 井筒和幸は原作を読んで、「あまりの内容のなさに呆れた」と述懐していますが、撮影に入ると重度の鬱病に苛まれたそうです。大量の抗うつ剤を飲んで乗り切ったというのは、何とも井筒監督らしい豪快さ。 主演の永瀬正敏は『ションベンライダー』(1983)でデビューしたばかりです。彼の初々しい演技は必見。2人のみゆき役には、当時アイドルだった宇沙美ゆかりと三田寛子がキャスティングされています。

3.王道の角川アイドル映画【1984】

1980年前後にメディアを席巻した角川映画の1本です。原作は赤川次郎で、主演は薬師丸ひろ子、原田知世とともに「角川3人娘」と呼ばれた渡辺典子。 ヒロイン加奈子(渡辺典子)の母親(浅香光代)は、巨大企業グループの会長でしたが、コールガール殺人を目撃したのに、嘘の証言をしたことを後悔して亡くなりました。加奈子は母の贖罪のために、真犯人を捜します。 刑事コンビ(九十九一と小島三児)の漫才のような掛け合いや、長回しなどが印象的な井筒和幸作品です。

4.とにかく志穂美悦子のアクションが美しい【1985】

角川事務所10周年記念作品で、つかこうへいが原作・脚本を担当しました。薬師丸ひろ子主演の大ヒット作、『セーラー服と機関銃』(1981)をかなり意識した作りになっています。 前半は、シスター・今日子(志穂美悦子)をめぐる警察官の神代(柄本明)とヤクザの晴彦(岩城滉一)の恋のさや当てが、コメディ・タッチで描かれます。ところが、晴彦が天竜組の跡目争いに巻き込まれて殺されてからの後半は、一転して東映ヤクザ映画になるのです。 志穂美悦子はJACに所属していただけあって、アクションは見事。共演の蟹江敬三や北大路欣也の演技に対する評価も高いです。

5.瀬戸内の海賊の凄絶な青春【1986】

奇しくも、またもやJAC出身の真田広之が主演です。原作は西村望の小説で、脚本は井筒和幸監督自身が担当しています。 戦後のどさくさの時期に、瀬戸内海で海賊になった重三(真田広之)と鬼庄(佐藤浩市)。彼らの破天荒な生き方と、海賊行為のさなかに出会った薄幸な女性、洋子(安田成美)との恋を、井筒監督らしい泥臭さで描きます。 デビューしたばかりの今井美樹の初々しいヌード・シーンもあり、若々しい真田広之の汗臭い演技にも注目です。大阪とはひと味違う瀬戸内の土着的な人間模様も、井筒和幸の好みなのかもしれません。

6.若かりし日のナインティナインを主役に抜擢!【1996】

原作は中場利一の自伝的小説です。本作以外にも「岸和田少年愚連隊」と題されたシリーズが存在します。 ナインティナインをはじめ、雨上がり決死隊、FUJIWARA、宮川大輔、ブラックマヨネーズなど吉本興業の芸人たちが多数出演。いわば監督にとっては、『ガキ帝国』(1981)という原点に戻ったとも言えます。 喧嘩に明け暮れる若者たちを描いた群像劇で、実際に岸和田で大規模なロケを行いました。時代背景は1970年代なので、当時の風俗やテレビ番組などを盛り込んでいます。 「誰かのために」とか「何かのために」などの大義名分のない喧嘩が延々と続くリアリティを、余すところなく描いています。

7.のど自慢に参加する人々の感動群像劇【1999】

「NHKのど自慢」の出場者とスタッフを描いた、涙あり笑いありの群像劇です。群馬県のある町に「のど自慢」がやって来て、その予選に様々な想いを抱いた人々が参加します。 売れない演歌歌手、赤城麗子(室井滋)は自信を取り戻すために、失職中の荒木圭介(大友康平)は歌を披露して家族に誇るために、母子家庭の女子高生、里香(伊藤歩)は家族に想いを伝えるために出場するのです。 元ハウンド・ドッグのボーカル大友康平の歌唱力は圧倒的。しかし、特筆すべきは喜納昌吉の『花』を歌う伊藤歩です。健気に歌う姿は涙なしには観られません。また、井筒監督は室井滋が演じる赤城麗子が気に入ったのか、次作『ビッグ・ショー! ハワイに唄えば』(1999)では主役に起用しています。

8.ヤクザの親分がジェームズ・ブラウンに?【2003】

タイトルの「ゲロッパ!」とはJ・Bことジェームズ・ブラウンの代表曲『Get Up (I Feel Like Being Like A) Sex Machine』のことです。 無論クライマックスで西田敏行がこの曲を熱唱するのですが、西田敏行の当て振りで脚本が書かれたのではないかと思えるほど、ハマっています。 西田敏行演じるヤクザの親分・大介は、刑務所に収監される前に娘のかおり(常盤貴子)に会うことと、J・Bのコンサートに行くことが夢でした。ところが、かおりと会うことができ、自分がJ・Bとしてステージに立つ羽目になる騒動に巻き込まれます。

9.「イムジン河」にかけた青春【2005】

キネマ旬報ベストテン1位、毎日映画コンクール最優秀作品賞、ブルーリボン賞作品賞受賞の、井筒監督の代表作の一つです。 在日コリアンの少女・キョンジャ(沢尻エリカ)に一目惚れした高校生・康介(塩谷瞬)が、ギターと韓国語を覚え、「イムジン河」を彼女の前で歌うという青春映画です。「イムジン河」を日本語で歌った、ザ・フォーク・クルセダーズのリーダー加藤和彦が音楽を担当しています。 舞台設定は1968年ですから、やはり井筒和幸の青春時代でしょう。当時18歳の沢尻エリカは、息を呑むほどの美しさです。

10.在日コリアンを描く感動作【2007】

『パッチギ!』(2005)の続編ですが、キャストは一新。前作のエンターテインメント性は影を潜め、ヒューマンドラマにフォーカスしています。 前作から6年後、1974年にキョンジャ(中村ゆり)と、その兄アンソン(井坂俊哉)一家はアンソンの息子チャンス(今井悠貴)の病気の治療のために京都から東京に引っ越していました。 ひょんなことからキョンジャが芸能界入りしますが、あまりなじめません。一方チャンスの病状は悪化し、アメリカで治療するしか助かる術がないことが判明します。チャンスを救うためにアンソンは無謀な計画を立てるのですが……。 かなり政治的な内容を含むため、賛否両論の評価を生んだ作品です。

11.若者の鬱屈した暴力描写がリアル【2010】

本作はあまりにも激しい暴力描写のため、R15+指定です。お笑いコンビ、ジャルジャルの福徳修介と後藤淳平が主演という、『ガキ帝国』(1981)、『岸和田少年愚連隊』(1996)を踏襲するような形になっています。 アルバイトでヒーローショーをしているユウキ(福徳修介)は、バイト仲間同士のトラブルに巻き込まれます。やがてそれは元自衛隊員の勇気(後藤淳平)も引き込まれて、リンチ殺人へと発展していき……。 若者の鬱屈感と地元の仲間の連帯感は、実際に大阪で起きたリンチ殺人事件を参考にしているだけあって、かなりリアルです。