タップできる目次
- 世界中でカルト的な人気を誇る映画監督・塚本晋也
- 1.塚本晋也の劇場映画デビュー作にして代表作!
- 2.田舎の中学校を舞台に謎の妖怪の恐怖を描くSFホラー
- 3.世界から注目を浴びる「鉄男」シリーズ第2弾!
- 4.現役ボクサーだった実弟を起用した恋愛格闘映画
- 5.江戸川乱歩の短編小説が原作のファンタジック・ホラー
- 6.ブルーモノトーンの映像が美しい愛とエロスの物語
- 7.人体解剖にのめりこむ男の記憶と肉体を巡るラブストーリー
- 8.塚本晋也がオールデジタルで撮影したサスペンスホラー
- 9.夢と現実が交錯する異色のサイコ・サスペンス
- 10.シリーズ20年周年を迎え、全編英語で描かれる第3弾
- 11.人が生きることを描いた親子の大きな愛の物語
- 12.戦争の足音に警鐘を鳴らす塚本晋也渾身の力作
世界中でカルト的な人気を誇る映画監督・塚本晋也
上映後の質疑応答では、質問者に恒例のお芋をあげる。楽しく司会をしてくださった橋村さんには、数年前津波の被害のあった石巻に連れていってもらったことがある。特別の体験になった。 pic.twitter.com/gbn6U3Uw1e
— 塚本晋也tsukamoto_shinya (@tsukamoto_shiny) November 3, 2017
1989年公開の『鉄男 TETSUO』に始まる「鉄男」シリーズが世界に衝撃を与え、海外の名監督からも高い支持を得る塚本晋也監督。14歳から8ミリカメラに触れ始め、大学卒業後はCM制作会社に就職するも4年で退職し、映画制作を再開しました。 製作、脚本、美術なども手がけるほか、俳優、ナレーターとしても活躍しています。作品の主なテーマはテクノロジーと人間、コンクリートと肉体といった対比を通し、都市の中で「生」の実感を失った人々を描く「都市と人間」です。 映画『六月の蛇』辺りで実母を亡くし、同時期に父となったことで、大自然の営み、次の世代を見つめた作品の誕生に繋がったのだとか。ほぼ全作品でホラーや暴力表現、凄惨な描写が登場しますが、その独創性で映画ファンを魅了し続けてきました。 本記事では、唯一無二の魅力を持つ塚本晋也監督のおすすめ映画をご紹介します。
1.塚本晋也の劇場映画デビュー作にして代表作!
第9回ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞した『鉄男 TETSUO』。先鋭的なモノクロ映像が観客を魅了し、塚本晋也の名は世界に知られました。 塚本の8ミリ作品『普通サイズの怪人』をもとに、全身を鉄の細胞に浸食される男(田口トモロヲ)の恐怖が描かれたサイバーパンク・ホラーです。本作は人間とテクノロジーを描くサイバーパンクの日本における先駆けであり、塚本自身も「やつ」役で出演しています。 同SFジャンルは『鉄男』公開当時に全盛期を迎え、大友克洋の『AKIRA』と共に代表的カルト作品になりました。 製作費は1000万、少数スタッフによって撮影されたと思えない映像美に注目です。
2.田舎の中学校を舞台に謎の妖怪の恐怖を描くSFホラー
映画『ヒルコ 妖怪ハンター』は、異形の存在を扱う伝奇・SFもので有名な漫画家、諸星大二郎による「妖怪ハンター」シリーズの『海竜祭の夜』が原作です。 失踪事件が起きた中学校を訪れた考古学者の稗田礼二郎とその甥が、古墳から蘇った妖怪ヒルコと死闘を繰り広げる、塚本監督初の35ミリ作品。生首に大きな蜘蛛の足が付いたような姿のヒルコが校舎内を走り回るなど、原作の世界観が見事に映像化されています。 自作の妖怪退治道具を駆使する稗田を沢田研二が好演し、甥のまさお役に工藤正貴、稗田の義兄でまさおの父・八部高史役で竹中直人が出演しました。
3.世界から注目を浴びる「鉄男」シリーズ第2弾!
前作の特徴だったモノクロ映像から一転し、カラーになった映像とSFXを使用したアクションに圧倒される、「鉄男」シリーズ第2弾『鉄男II BODY HAMMER』。世界を熱狂させた世界観はそのままに、全く新しい鉄男の物語が展開されました。 妻カナ(叶岡伸)と息子と暮らす平凡なサラリーマン・田口明生が、謎のスキンヘッド集団に身体を銃器化され、集団を束ねる「やつ」への復讐を遂げる様が描かれます。 田口トモロヲが再び主演を務め、塚本晋也はやつ役ほか計八役を演じました。塚本は本作で国際的映画祭を巡り、日本映画の海外進出の先駆けとなったのだとか。シッチェス映画祭の審査員特別賞を始め、タオルミナ国際映画祭の審査員特別賞などを受賞しました。
4.現役ボクサーだった実弟を起用した恋愛格闘映画
映画『東京フィスト』は、現役ボクサーだった実弟・耕司の話から着想を得て、彼をボクサー役で起用した作品です。 高校の後輩・小島拓司に恋人のひづるを誘惑されて激怒するも、現役ボクサーの小島に返り討ちに遭ってしまった、ごく普通の営業マン・津田義春。平凡なカップルは崩壊し、津田は小島と同じジムへ、ひづるは全身に施したピアスや刺青に快感を得始めます。 ひづる役の藤井かほりは、本作を機に演技派女優へ開花したとされており、高評価を受けた塚本耕司も俳優として活躍することになりました。 塚本監督作の特徴的なテーマ「都市と人間」がより進化し、観る者に強烈な印象を残します。
5.江戸川乱歩の短編小説が原作のファンタジック・ホラー
江戸川乱歩の短編小説『双生児~ある死刑囚が教誨師にうちあけた話~』を原作とした『双生児』は、主演の本木雅弘の発案により映画化が実現しました。 舞台はまだ階級意識の強い明治末期。大徳寺雪雄は父から病院を継ぎ、りんという美しい女性を妻とした順風満帆な日々を送っていました。しかしある日、双子の弟を名乗る捨吉が現れ、りんを狙って雪雄との入れ替わりを目論むのですが……。 本木雅弘が雪雄と捨吉役で一人二役を務め、りん役のりょう、筒井康隆らが共演しました。 塚本晋也は熱狂的ファンだった乱歩の短編を大胆にアレンジし、美しさと醜さ、貧富の差など相対する2つの世界を見事に描き分けています。
6.ブルーモノトーンの映像が美しい愛とエロスの物語
第59回ベネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した映画『六月の蛇』。塚本晋也が20年もの間企画を温め、"出発点であり、ひとつの到達点"と称した作品です。 心の電話相談室で働く主人公・りん子は、自殺の相談を受けた男に自慰行為を盗撮され、それをネタに男から凌辱を受けるようになります。やがて、彼女は自身の知られざる一面に目覚め、夫の重彦すらも巻き込んだ倒錯的な三角関係に陥っていくのです。 秘めた欲望に溺れる人妻を黒沢あすかが体当たりで演じ、潔癖症の重彦役にコラムニストの神足裕司、りん子のストーカーを塚本が怪演しました。 青味を帯びたモノクロ映像と、全編にわたって降りしきる雨が非常に印象的です。
7.人体解剖にのめりこむ男の記憶と肉体を巡るラブストーリー
都市と人間をテーマにしてきた塚本晋也が、肉体の内部という新境地に達した作品と言われる、異色のラブストーリー映画『ヴィタール』。塚本は参考資料を読み、解剖学者や医学生への取材、解剖実習に立会見学するなど万全の準備を整えたそうです。 交通事故で記憶喪失になってしまった医学生の博史(浅野忠信)。解剖実習で彼の班に女性の遺体が割り当てられ、解剖に熱中するうちに記憶が回復し始めるのですが……。 主演の浅野が独特の存在感と怪演を見せ、2人のヒロインにバレエダンサーの柄本奈美とモデルのKIKI、串田和美や岸部一徳らが脇を固めました。
8.塚本晋也がオールデジタルで撮影したサスペンスホラー
チョンジュ映画祭の依頼で、アジアの映画監督が同予算でデジタルシネマを製作するプロジェクト「三人三色」で塚本が撮影した、短編映画『HAZE』が長編化されました。 2005年公開の『Female/玉虫』に続き、オールデジタルで仕上げられた実験作です。 コンクリートの密室で目覚めた男(塚本晋也)が、腹部から血を流し、自由を奪われた状態で経験する恐怖を小型ビデオカメラが様々な角度から映し出します。男を襲う痛みと恐怖は、監督自身が苦痛と感じるシチュエーションを再現したそうです。 塚本自ら主演を務め、極限の中で男と出会う女は『東京フィスト』の藤井かほりが演じました。
9.夢と現実が交錯する異色のサイコ・サスペンス
長年企画を温め、塚本自身の同名小説を映画化したという『悪夢探偵』。2008年には続編『悪夢探偵2』が公開され、主演は引き続き松田龍平が務めました。 他人の夢に入る特殊能力を持つ主人公・影沼京一が、女刑事・霧島慶子と共に連続怪死事件の謎に迫っていくサイコ・サスペンスです。シンガーソングライターのhitomiがエリート女刑事を演じ、塚本は被害者たちと接触する謎の人物「0」役で出演しました。 本作は同日、同時間にローマ・釜山国際映画祭でワールド・プレミア上映されました。その後、配給オファーやハリウッドからのリメイクオファーが殺到したそうです。
10.シリーズ20年周年を迎え、全編英語で描かれる第3弾
世界を魅了した1作目から20年、全世界での公開を見据え、初めて全編英語で制作されたシリーズ第3弾『鉄男 THE BULLET MAN』。一度はハリウッドで「鉄男アメリカ」として企画開発され、クエンティン・タランティーノも製作に名乗りを上げました。 今回も前2作との繋がりは無く、物語の舞台は日本の大都市・東京。アメリカ人のアンソニーは謎の男に最愛の息子トムを殺され、怒りで我を失ってしまいます。すると、全身から蒸気とオイルが噴き出し、彼の身体は黒い金属に変ぼうしていくのです……。 アメリカ人俳優のエリック・ボジックが主演を務め、塚本晋也はザ・ガイ(ヤツ)役で出演し、桃生亜希子や中村優子らが共演しました。 数秒間のみですが、かつて鉄男を演じた田口トモロヲがカメオ出演したのも話題でした。
11.人が生きることを描いた親子の大きな愛の物語
2011年に公開された映画『KOTOKO』は、第68回ベネツィア国際映画祭でオリゾンティ部門最高賞(グランプリ)を受賞し、日本映画初の快挙を遂げました! 息子を愛するあまり精神が不安定になり、世界が二つに見えるようになったシングルマザー・琴子が、もがき苦しみながら生きる姿を描く人間ドラマ。生を感じようと自傷し、現実と夢の間でさまようヒロインをシンガーソングライターのCoccoが演じています。 塚本晋也は琴子の歌に魅了され、真摯な愛を捧げる小説家・田中役で出演しました。 本作はテーマの変化が非常にわかりやすく、「都市と人間」に代わって女性の中の強くも恐ろしい、「母性」に迫った作品と言えるでしょう。
12.戦争の足音に警鐘を鳴らす塚本晋也渾身の力作
塚本晋也は高校生の時に戦後文学の金字塔、大岡昇平の『野火』と出会い、延期を繰り返しながら映画化を進めていました。しかし、現代の日本が戦争に傾倒していると危機感を抱き、条件の揃わない中で完成に漕ぎ付けたという渾身の一作です。 舞台は第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。日本敗戦が濃厚になり、結核を患い野戦病院をも追い出された日本軍兵士・田村一等兵の壮絶な逃避行が描かれました。 田村を塚本自身が演じて主演を務め、製作、撮影、編集を全て担当しています。 共演にはリリー・フランキーや中村達也、森優作らが名を連ねました。レイテ島の自然の美しさと、極限下でカニバリズムにすら追い込まれる者の心情、凄惨さの対比が胸に迫ります。 独創的な作品を生み出し、国内外で高い評価を得てきた鬼才・塚本晋也監督。最新作は初の時代劇と発表されたので、どんな作品に仕上がるのか楽しみですね!