幼なじみはどうして勝てなくなった!?昨今のアニメヒロイン事情
いつからアニメ界の幼なじみは負け犬になった?
恋愛アニメに限らず、昔のアニメ作品において幼なじみは特別なポジションであることが多かったように思います。 「お互いもう知り尽くしているし、今更恋愛感情なんて……」と思っていた相手が、ふとしたきっかけで異性を感じさせる。そんなストーリーが恋愛アニメの王道だった時期は確かにありました。 けれど昨今、幼なじみがメインヒロインを担うアニメは激減しています。むしろメインヒロインの引き立て役となって最後に涙する……。そんなケースが多々見受けられるようになりました。どうしてそんなことになってしまったのか、徹底検証したいと思います。
幼なじみヒロインの頂点、『タッチ』の朝倉南
アニメの世界において幼なじみがもてはやされるようになったのは、1985年~1987年に放送された『タッチ』のヒロイン、朝倉南の影響が大きかったのではないでしょうか。 主人公・上杉達也とその双子の弟・上杉和也の幼なじみである彼女は、文武両道かつストイックで優しい性格と非の打ち所がなく人気者の和也よりも、和也と比較され周囲から低い評価を受けていた達也に幼少期から惹かれていました。 もし南が高校生になってから上杉兄弟と出会っていたら、そこには若干のあざとさや計算高さが見えてしまったかもしれません。まだ達也と和也の間に格差がない幼少期からの付き合いだったからこそ、彼女が達也を選んだことに説得力が生まれたのだと思います。
幼なじみヒロインの最盛期
本日は #春分の日 そして毛利蘭を演じている山崎和佳奈さんのお誕生日です!
— 劇場版名探偵コナン【公式】 (@conan_movie) March 21, 2019
山崎さんおめでとうございます!#紺青の拳 での蘭ちゃんの見所はまさしく【新一への想い】です!
「さすが蘭ちゃん…!」という場面がございますので是非お楽しみに! pic.twitter.com/ExCGUH84ye
『タッチ』の大ヒット後、アニメの世界には数多くの幼なじみヒロインが誕生しました。 『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の菅生あすか、『名探偵コナン』の毛利蘭、『金田一少年の事件簿』の七瀬美雪、『幽☆遊☆白書』の雪村螢子、『機動戦艦ナデシコ』のミスマル・ユリカ、『鋼の錬金術師』のウィンリィ・ロックベル等、挙げればキリがありません。 また、『ラブひな』のように幼少期に約束を交わした女の子が誰なのかが物語の焦点となっている、つまり幼なじみであることが1つの到達点と設定されている作品も登場するなど、1990年代~2000年代初頭において「幼なじみ」の地位は隆盛を極めました。 そのことを顕著に示しているのが『ドラゴンクエスト~勇者アベル伝説~』のティアラです。 彼女は主人公の勇者・アベルの幼なじみですが序盤に敵から拉致されてしまい、出番は決して多くありませんでしたが、メインヒロインのポジションを保持。一方、アベルにほのかな恋心を抱くようになった女戦士・デイジィの想いが報われることはありませんでした。
「幼なじみ」ブランド崩壊へ
「幼なじみ」というだけで勝利は確実……といった風潮があったかどうかはともかく、幼なじみがヒロイン属性の最強格となっていた時代は確かにありました。しかし何事にも栄枯盛衰はあるもので、幼なじみブランドにも崩壊の時が訪れます。 2000年代中盤頃から、『いちご100%』や『SHUFFLE!』のように複数ヒロインの中の1人として幼なじみが登場し、主人公と結ばれずに完結を迎える作品が散見されるようになり、徐々に幼なじみであることが恋愛面での強みではなくなっていきました。 そして2010年代になると、いよいよ幼なじみ敗北の歴史が始まります。 『かんなぎ』、『さんかれあ』、『四月は君の嘘』等、幼なじみがメインヒロインの恋のライバルとして登場するアニメが増え、ことごとく劣勢を強いられる、または恋に破れる結果に終わり、いつしか「幼なじみ=噛ませ犬」といった風潮になってしまったのです。
負け続ける理由は「先入観」?
何故、幼なじみは敗北するのが当たり前になってしまったのか。その理由の1つとして「幼なじみはこういうキャラだ」という先入観が足を引っ張っている可能性を指摘したいと思います。 幼なじみの定義は「幼少の頃に親しくしていた友人」ですが、アニメにおける属性としての幼なじみヒロインの場合はそれだけに留まりません。 『To Heart』の神岸あかりや『アイシールド21』の姉崎まもりに代表されるように、「面倒見が良く家庭的」「朝起こしに来るなど世話焼き」「優しくて慎ましやか」などの性格をイメージするアニメファンはかなりいるのではないでしょうか。 実際には幼なじみと一言で言っても、武闘派もいれば腹黒なヒロインもいます。しかし先入観が邪魔して「幼なじみ属性は好きになれない」と初めから切り捨てにかかっている人が増えた結果、人気が得難くメインポジションに置きづらい状況が生まれているのかもしれません。
幼なじみはストーリーに幅を持たせ難い?
主人公に恋する幼なじみの多くは、「物語が始まる前から主人公が好き」という状態でアニメがスタートします。これも幼なじみの問題点の1つです。 近年、アニメは1人で楽しむのではなく、ネットを通して大勢の同士と一緒に楽しむ傾向が強まっています。それによって、作品内における描写や表現について「ここはこうだ」「いや違う」といった議論や考察をしながら楽しむアニメファンが自然と増えていると思われます。 そうなると、恋愛面において好きになる過程が省略されている、または「気付いたら好きになっていた」パターンがどうしても多い幼なじみは、ストーリーにおいて幅を持たせ難い存在となってしまいます。現代で求められるヒロイン像からズレてしまっている可能性は否定できません。
恋愛アニメの「ハーレム化」も要因か
幼なじみが勝てなくなった理由として「恋愛アニメのハーレム化」も無視できない要素の1つだと思われます。 恋愛ゲームやライトノベル原作のアニメが増加するようになって以降、恋愛アニメもしくは恋愛要素の濃いアニメは、男主人公1人に対し数名の女子がヒロインとして配置されるハーレムものが主流になっています。 ハーレムものの場合、複数のヒロインを差別化する上で様々な属性が付加されますが、その中の一つに「幼なじみ」も含まれています。 前述のように、幼なじみには複数のイメージが付属していて、幼なじみというだけでキャラが立ちます。ハーレムものが増えれば必然的に「幼なじみのバーゲンセール」状態になってしまい、視聴者も「幼なじみはもうおなかいっぱい」という状態になってしまったのではないでしょうか。
幼なじみはかつての威光を取り戻せるか?
求められるヒロイン像は、時代と共に変化し続けます。近年は、かつてはそれほど嫌われていなかった暴力系ヒロインや毒舌ヒロインが避けられているように、攻撃性のない女性が好まれる傾向にあります。 そういった風潮が続けば、穏やかなイメージが強い幼なじみヒロインにとっては追い風となるでしょう。もし今後、歴史的ヒット作品が誕生し、そのアニメのヒロインが幼なじみだった場合、新たな幼なじみブームが到来するかもしれません。 もっとも、2010年代で最も知名度の高い幼なじみヒロインが『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマンという時点で、幼なじみのイメージ自体が変化している可能性も否定できませんが……。 アニメの世界では「幼なじみは主人公と結ばれない」が定説になってしまいましたが、この世界には定説を破壊することで名作を生み出してきた歴史もあります。そう遠くない未来、幼なじみヒロインが再び覇権を握るかもしれませんね。