2018年7月3日更新

規制が奇跡を生んだ!エロの一大アイコン「触手」の歴史を紐解く【映画『触手』2月公開】

そのものズバリの新作映画『触手』が3月全国公開。「触手」にはなぜ、常にエロスの香りが漂うのでしょう……というワケで今回は江戸時代までさかのぼって、触手エロスの変遷を調査。「芸術作品」を中心に検証してみました。

衝撃的ヘンタイ映画『触手』公開!そもそも「触手」はなぜエロい?

「史上最高のヘンタイ映画」という、妙な自信に満ち溢れた予告編が話題になっているのが、映画『触手』。タイトルどおり主役は、巨大な触手を持つ怪物です。その人間離れした性技に魅せられた、人妻の運命を描いています。 しかし、そもそもこのように「触手」というタイトルだけで、ある種エロティックな作品性が想像できてしまうのは、なぜでしょう。「触手」というモチーフが一種歪んだエロスのアイコンとしてここまで世界中で共感を得ている理由は、いったいなぜなのでしょう。 実は触手カルチャーそのものの原点は、日本にあると言われています。しかも主役は蛸。 本記事では日本ならではの特別な事情が深く関わっているエロの一大アイコン、「触手」の歴史について紐解いていきます。

触手の元祖は「蛸と海女」?なんでもありの春画ならではの面白さ

いわゆる「触手モノ」の起源と言われているのが、江戸時代に流行した春画です。春画は、さまざまな倒錯した性行為を描いていると世界中の研究者が注目している芸術。日本のアニメ文化などに関して多くの論文を著している文化研究者、スーザン・J・ネイピアは、葛飾北斎が描いた「蛸と海女」こそが元祖触手プレイだったと考えています。 大きな蛸と小さな蛸、そして肉感的な人妻が三位一体となったその構図は、官能的でありながらどこかコミカル。もともと北斎が他の春画のパロディとして描いたという説もあるそうです。この時の蛸の触手は、あくまで海女を拘束するために用いられており、いわゆる男性生殖器の代用品ではないようです。 ちなみに1981年、新藤兼人監督は『北斎漫画』でこの春画を実写化。海女役は、当時まだ20代前半だった樋口可南子が熱演しました。

西洋文化の急激な導入が生んだ奇跡的芸術。それが「触手プレイ」

それほど赤裸々に性を描いた春画が一般市民にも普通に楽しまれていた理由のひとつが、日本が島国で風俗も文化も独自のスタイルが確立されていたため。たとえば当時の日本では男女混浴はごく当たり前。人前で裸になることに対する抵抗感がなさすぎだったようです。1800年代も後半に入る頃に渡日したキリスト教の宣教師たちは、彼らおよび彼女らのあまりの奔放ぶりに驚愕したといいます。 やがて明治維新を迎えた時、日本政府は世界の列強と対等の立場になることを目指して、庶民の生活様式そのものから改革を進めます。その流れのひとつが、いわゆる性的な興味をいたずらに刺激する「猥褻」な創作物への規制であり、混浴など人前でむやみに裸をさらす行為への戒めでした。 急激なモラル革命はある意味、行きすぎた規制にもつながっていきます。たとえば写真や映像で性器をさらけ出すことが禁じられたことから、検閲を通して男女の股間が黒く塗りつぶされた作品が一般化します。 そうした極端な隠し方は、海外では非常に珍しいものでした。やむを得ずぼかす時にはぼんやりとした光で包むことが多く、日本映画で局所が処理された映像が流れると映画館が爆笑の渦に包まれることも多々あったのだとか。 実はAVなどでおなじみのモザイク処理も、その一環として始まった手法です。もっともそうした厳しい規制が逆に抜け穴的に、想像力豊かでバラエティに富んだ日本的なポルノグラフィティ文化につながったというから、不思議な話です。「触手責め」や「触手プレイ」もまた、モザイクなどの規制が促した「エロスの多様化」という奇跡的な出来事のひとつだったのです。

触手が大活躍!前田俊夫の18禁アニメ『うろつき童子』の凄い話

北斎は、男性が女性を蹂躙する姿を蛸の姿にデフォルメすることで、かえって濃密な隠微さが際立つ世界観を表現してみせました。そうした隠微さを触手プレイというジャンルとして確立したのが、日本を代表する成人向け漫画の大家・前田俊夫です。 北斎が活躍した時代から100年以上を経て、ら1980年代に彼が生んだ漫画「うろつき童子」シリーズは、触手を駆使したエロスの先駆けと言われています。登場するのは超神や獣人、妖怪や魔人など、種族は違えどこぞって女性が大好きな異形の男子たちです。 全編を通してさまざまな女性たちが不気味にのたうつ触手によって陵辱されまくりますが、「蛸と海女」と異なるのは、そこで使われている触手が立派に男性生殖器としての役割が与えられているところ。 凄惨でありながらどこか敬虔さすら感じられる構図には、触手と同様に浮世絵を通して一般化していったと言われる「緊縛プレイ」のイメージも漂っています。まさに進化した触手プレイといったところでしょうか。

菊地秀行の真骨頂『妖獣都市』ではクールな美女が触手の餌食に

1982年に小説『魔界都市<新宿>』でデビューした菊地秀行もまた、そうとう触手プレイにこだわる小説家のひとりです。『風の名はアムネジア』といった傑作ジュブナイルも執筆しながら、真骨頂はやはりハードボイルドな伝奇モノ。そのひとつ「闇ガード」シリーズは、サスペンスとともにエロスもふんだんに盛り込まれています。 物語の中心は、人間界と魔界の協調を守るために闇の存在と戦う男と女。男は人間ですが、ヒロインは美しい姿を持つ魔界の住人です。激しい追跡劇の中で、彼女は触手状の怪物に捕まりあられもない姿でいたぶられてしまいます。真っ白な肌と赤黒い化け物のコントラストは凄惨。口を汚されるシーンは、かなり刺激的です。 この作品も含めて菊池は、物語の基本として「クトゥルー伝説」を好んで用いています。アメリカの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトと彼の友人たちが1920年頃に作り出した、邪神たちの世界を巡る空想物語。触手を持った異形の存在が何種類も生み出されました。 触手プレイを扱う作品の多くが、エロスだけでなく正体が判然としない不気味な存在として触手を表現していますが、そこにはやはりクトゥルー伝説が強く影響していると考えられるでしょう。

実は武器としてもそうとう凶悪。暴走する触手に気をつけよう!

伸縮自在で狭いところでも入り込んでいける触手は、男性生殖器としての役割とは別の分野でも活躍しています。とくに活用法としてポピュラーなのは、武器。たとえば謎の寄生生命体と人類の戦いを描いた『寄生獣』では、高速で形状を変化させることで鋭利な切断力まで備えた、ニュータイプの触手を駆使する生命体が暴れまくりました。 遡って1986年にリリースされたOVA『メガゾーン23 PARTⅡ 秘密く・だ・さ・い』では、武器としての触手の真骨頂ともいうべき戦闘マシンが登場します。金属を貫きどこまでも突き進むしなやかなムチのようなメタル製触手は、人間たちを文字通り串刺し。その猛威は、宇宙戦艦の乗組員を全滅させてしまうほど強力です。 殺戮であれ蹂躙であれ、暴走する触手を止めることは誰にもできないのかもしれません。傍若無人な触手は、まさに無敵ではないのでしょうか。

触手は対女性専用にあらず!『スピーシーズX』で魅せた美女のワザ

触手を用いたエロスのカルチャーでは日本が先行していましたが、アメリカでも実に多種多様な触手絡みの作品が作り出されました。 そもそも触手は男性の生殖器をイメージさせる造形が多く、その活用法も男性から女性に使われる場合がほとんどでした。けれど、そんな常識を覆すような生命体が宇宙から飛来します。それが、超セクシーな美女エイリアンたち。『スピーシーズX 美しき寄生獣』は、それまでの触手プレイ映画の歴史をメジャーに塗り替えました。 ぬらぬらと元気のよい触手軍団を操るのは、健康な男子なら決して放っておけない金髪美女。彼女たちの腹部から飛び出す触手によって、肉食系男子たちが次々に氷漬けにされてしまいます。そんな人類の危機を救うのが童貞草食系男子という設定は、なかなかシニカルで笑えます。

フランスを代表する美女が、触手系モンスターに夢中になったことも

そして日本に触手カルチャーが生まれるきっかけを作ったヨーロッパでも、触手を使った映画が制作されました。先述の映画『北斎漫画』で樋口可南子が蛸に責められていたのと奇しくも同じ年、フランスの国民的美女が、正体不明の触手と狂気に満ちた濡れ場を演じています。その作品が、ちょっとシュールなアートホラーの傑作『ポゼッション』です。 ヒロインは若く美しい人妻。フランスを代表する人気女優イザベル・アジャーニが演じています。そのお相手は、彼女自身の妄想が生んだ正体不明のモンスター。生々しい触手を持つ異形の存在が、可憐なイザベルに絡むシーンはショッキングです。 まさに体を張った熱演でイザベルは、カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得しました。ある意味この時すでに、触手プレイは芸術のひとつとしてヨーロッパでも認知されたと言えるかもしれません。

最新映画『触手』も、やっぱりかなりの「ヘンタイ」芸術だった!

触手

そんな『ポゼッション』以来の「触手」を扱ったアートホラーとして注目を浴びているのが、映画『触手』。軽くかすれた邦題タイトルとそのものズバリな絡まりシーンを描いたポスターは不気味なエロスがぷんぷんで、キャッチコピーは「衝撃のエロティックスリラー」です。 主人公は、夫のDVに悩み家庭生活に疲れた人妻。森の奥にひっそりと佇む謎めいた屋敷の中で彼女は、太くたくましい触手をくねらせる得体の知れない生物と出会い、魅せられてしまいます。彼女を虜にするのは、かつて味わったことのない性の快楽でした。 『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』のチームがVFXを担当したというだけあって、触手の動きは不気味かつリアルです。権威あるヴェネツィア国際映画祭では最優秀監督賞を受賞するなど、評価も高い様子。日本発のヘンタイカルチャーとして、触手がひとつの頂点を極めた作品と言えるかもしれません。 本作の劇場公開は2018年2月27日。また、3月17日から30日まで、2週間限定で青山シアターにてオンライン上映も実施されます。現代の進化した「触手」にぜひ絡め取られてみてはいかがでしょうか?