2023年3月9日更新

【ネタバレ】『娼年』6つの濡れ場のあらすじを解説 「下手」と言われ続けた23男の感想も

このページにはプロモーションが含まれています

AD

映画『娼年』あらすじ

バーでアルバイトしている大学生・森中領(松坂桃李)はほとんど大学にも行かず、友人・白崎恵(桜井ユキ)からノートを写してもらってばかり。女性とは行きずりの関係だけで、深く向き合ってきませんでした。 行為のあと、領はある夢を見ます。それは、幼い自分を残し玄関を出て行く母の夢でした。 ある日、友人であるホストの田島進也(小柳友)が、1人の女性を領が働くバーに連れてきます。彼女の名前は御堂静香(真飛聖)。会員制ボーイズクラブ「Le Club Passion」の経営者でした。 「女なんてつまんないよ」と素っ気なく言う領の行為を、静香は家に招きます。そこで咲良という女性を抱かせました。静香は横から行為をじっと見て、ダメ出しします。領は“リョウ”として、ボーイズクラブで働くことになりました。

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

『娼年』6つの濡れ場をネタバレ

ここからは映画のあらすじを、領が出会った女性ごとにネタバレありで解説していきます。

①興味が湧かない女

大学生の領は興味がない女を使い捨てにするつまらない性生活を送っていました。映画は領の気だるげな行為中のシーンから始まります。 授業にはほとんど出ず、夜はバーでアルバイトをする領。授業のノートは女友達の恵が持ってきてくれていました。 あるときバーにホストをしている友人が、静香という女性を連れてきます。ホストと静香との会話の中で「女なんてつまんないよ」とこぼす領。そんな領のことが静香は気になったようで、仕事が終わった頃に領を迎えにきました。

AD

②耳が聞こえない少女・咲良

静香から家に招き入れられた領は静香を抱こうとしますが、拒まれてしまいます。そこへ現れたのは、生地の薄いネグリジェに身を包んだ女性(冨手麻妙)でした。 女性の名は咲良といい、生まれ付き耳が聴こえませんが読唇術を心得ています。静香は領に、咲良とセックスをすることを要求しました。 突然のことに戸惑いつつも、領は静香の見ている前で優しく咲良を抱き、2人は絶頂のうちに事を終えます。 実はこれは、静香が経営するボーイズクラブ「Le Club Passion」の入店試験。静香は領のセックスを試したのです。しかし静香は、領のセックスは自分本位だと非難。さらに、合格するためには1回の行為に1万円以上の価値がなければダメだといった上で、机の上に5000円札を1枚置き、不合格だと告げます。 しかしそこへ咲良が追加で5000円札を置きます。かくして領はギリギリ合格。迷った挙句、娼夫・リョウとして働くことを決意したのでした。

③イメージを自在に変えるヒロミ

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

最初の客は、クラブの常連客であるヒロミ(大谷麻衣)でした。初回のデートでは淑女らしい服装であらわれ、プラトニックにデートを終えます。その後ヒロミは再び彼を指名。1回目とは全く違う艶やかな姿で現れ、リョウをホテルに誘います。 1度目のデートとは打って変わり、ホテルに着くとすぐに激しく絡み合う2人。服を脱ぎ捨てながら互いに口や指を使って体をまさぐり、素早く行為に及びます。 廊下では清掃員の男が愚痴を言いながら通り過ぎて行きますが、壁ひとつ向こうでは2人がお尻を震わして激しく動いています。2人は同時に達し、のちに電話でヒロミは静香に、リョウを絶賛するのでした。

AD

④漏らした体験が性癖になったイツキ

2人目の客は、知的な雰囲気の女性・イツキ(馬渕英里何)。2人はレストランで食事をしながらプラトンなどの古代ギリシャ哲学についての意見を交わした後、イツキの家へ。 そこでイツキは水を飲みながら、ある幼少時代の体験について語ります。それは、幼馴染の少年の前で尿意を我慢し切れず、漏らしてしまったという体験。しかしその時、生まれて初めてエクスタシーを感じた彼女は、以来、その体験が忘れられず、普通のセックスでは満足できないのだと言います。 そしてイツキは、実は先ほど飲んだ水に利尿薬を混ぜており、今すぐここで自分が放尿するところを見て欲しい、とリョウに頼み込みます。戸惑いながらもそれを受け入れるリョウ。 とうとう耐え切れなくなったイツキは、恍惚とした表情を浮かべながら盛大に漏らし、達してしまいます。そんなイツキの頭を、リョウは静かに撫でるのでした。

⑤妻を犯してほしい老人

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

1人の主婦(荻野友里)と池袋で落ち合ったリョウ。彼女はリョウに抱かれながら、夫と結婚してから全く求められないと、苦しみを打ち明けます。クラブでリョウを求める者の中には、こういった既婚者も少なくありません。 ある時、遠く熱海から指名が入ります。向かった先は立派で古風なつくりの屋敷。そこに住む初老の男性・泉川(西岡德馬)は糖尿病に苦しみ、車椅子での生活を余儀なくされています。彼はリョウに、うら若き妻・紀子(佐々木心音)を目の前で犯すように要求。それをビデオカメラで撮影したいと言うのです。 床の上でわざと乱暴に紀子を犯し、泉川を挑発するリョウ。それを撮影しながらも次第に表情が歪んでゆく泉川でしたが、徐々に喘ぎ声をあげてゆく妻を前に、突然自慰を始めます。三者三様徐々に高まっていく快感。そしてリョウと泉川は同時に“達する”のでした。

AD

⑥握った手の感触で感じる老婆

母を失った傷を引きずる領

領は瞬く間に上り詰め、今ではあとわずかでナンバーワンになりそうです。活躍を見て静香は、領の願いをなんでも1つ叶えると言い出しました。 領は自分と付き合って欲しいと迫ります。幼い頃に母を亡くした領は、ずっと年上の女性からの愛情に恋焦がれていたのでした。拒む静香にそれでも迫ろうとしますが、ついにビンタされてしまいます。 我に帰った領はせめて自分を認めてもらうため、もう一度「試験」を受けさせて欲しいと申し出るのでした。

⑦領のことが好きな恵

大学の友人・恵は、以前にも増して大学に来なくなった領を心配していました。そして彼がボーイズクラブで働いていることに気づき、止めようとします。 実は恵はずっと領のことが好きでした。しかし彼を説得することも、思いを断ち切ることもできず、彼を買うことにします。 扉をあけると恵がいて驚いたリョウでしたが、プロとして丁寧に応えます。すべてを終えたあと、リョウはいつでもまたバーに来て欲しいと言いましたが、恵はもう戻れない虚しさを感じていたのでした。

⑧焦がれ続けた静香

再び試験を受けるリョウを迎えに来た静香。車の中で静香は、自分もかつて同じ仕事をしていたこと、その過程でエイズに感染したことを明かしました。領の想いに応えたくても、静香はもう何も出来ないのです。 入社試験の相手だった咲良は静香の娘でした。再試験、領の相手は咲良でしたが、領は静香の心とも繋がることができました。 その後ボーイズクラブは摘発され静香は逮捕されますが、領と咲良は2人でクラブを再開させます。

AD

【感想・レビュー】濡れ場は“笑える”?

特に男性には、この映画を「エロ目的」で見に行くのはおすすめできないかもしれません。 なぜなら、出てくる濡れ場がいずれも本当に生々しく、そして必ずしも「美しい」とは限らないものなのです。「笑える」と言った茶化すようなレビューすら一部には投稿されています。 しかし性欲と向き合うというのは、そんなに美しいことだらけではないはずです。映画では、女性たちの多様な性への欲求がありありと描き出されています。何かを強く求める、剥き出しの女性たちの姿に人々は共感するのかもしれません。 監督の三浦大輔はインタビューで「エロスそのものには興味がなく、セックスを通したコミュニケーションを描きたかった」と語っています。

壮絶さを極めた濡れ場の役作り

松坂桃李『娼年』
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

リアルな性描写を実現するための努力の数々

原作者の石田衣良と監督の三浦大輔は、濡れ場には一切妥協しない姿勢でそれぞれ本作の小説と映画を作り上げました。 本作の製作にあたって小西プロデューサーは映倫に脚本を持ち込んで相談。映倫の担当者と話をするうちに、本作を妥協なく映画化するにはR18にするほかないと理解したといいます。 主演の松坂桃李は舞台版でもリョウを熱演。「二度とできないと思えるほど、無の状態になった」ほど消耗したという舞台での演技を下地にしつつ映画にも臨みました。 撮影期間中は渋谷のビジネスホテルで寝泊まりし、役から抜けられない状況を確保。「7、8年分の濡れ場をやったようだ」とコメントしています。 撮影に際してスタッフは、全ての濡れ場のために画コンテとそれをもとに代役が演じたビデオコンテを作成。ダンスの振り付けのように動きのひとつひとつにまで「振り」をつけ、撮影前のリハーサルは5日間にも及びました。 実際、映画をよく見ると松坂桃李のお尻のアップがたびたび登場しますが、達した時にお尻が小刻みに震えるところまで表現されており、監督と役者の並々ならないリアリティへのこだわりが感じられます。

AD

リアルな濡れ場に貢献したスタッフの仕事ぶり

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

映画のリアリズムに貢献しているのは、役者だけではありません。 濡れ場における人物の動きに対して計算されたカメラ位置、東京各所の空気感が見事に定着した画面、そして煌びやかな光と陰。本作で撮影を手掛けたのは、主に広告の世界で活躍するJam Eh I。今回が劇場用長編映画デビューとなります。 本作の濡れ場を見ていくと、その生々しさは役者の演技に加えて「音」によるところが大きいとわかります。実際、他の映画の濡れ場を見ていると、腰を打ち付ける音などは聴こえますが、ここまでリアルで生々しい、湿度を感じる「音」が聴こえてくることはほとんどないでしょう。 本作で録音を担当した加藤大和は、『舟を編む』や『テルマエ・ロマエ』などの話題作の音を手掛けたベテラン。三浦大輔監督とは『何者』でも仕事をしています。

「セックスが下手」と言われて来た筆者が鑑賞してみた

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

さて、この映画を鑑賞した筆者ですが、実は過去に付き合っていた女性に「セックスが下手」と言われたことが何度もあります。しかも、別の時期に付き合っていた女性や友人からも「セックスが下手そう」「お前はモテるわけがない」と言われたことが何度もあるのです。 「じゃあどうしたらいいの?」と問い返すと、返事は決まって「うーん......」「説明が難しい」。どうやら本当に筆者は「セックスが下手」あるいは「下手そう」なようです。これはいったい、どうしたことなのでしょうか。 そんな筆者が、娼夫と呼ばれる「セックスが上手い」職業について扱ったこの問題作を、期せずして見に行くことになったのです。

AD

『娼年』が見せる「セックス」の本質とは?

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

さて、冒頭で述べたように筆者は「セックスが下手」と呼ばれ続けてきました。それに対して、本作の主人公・リョウはセックスによってクラブのナンバーワンに上り詰めたため、「セックスが上手い」のだと思われます。 一体どのようにすれば「セックスが上手い」と言われるのでしょうか?

そもそも、リョウはセックスが上手かったのか?

映画の冒頭で最初にリョウが関係を持つギャル風の女は、名門大学に通う領とセックスしたことを友人に自慢できる、と喜びます。しかし、これはあくまで「セックスが上手かった」と言っているわけではなく、「名門大学に通っている」というリョウのステータスについて評価しているだけに過ぎません。 さらにリョウは、最初の「試験」で静香に「不合格」を下されます。このことからも、物語の冒頭の時点ではリョウが必ずしもセックスが上手いわけではないということがわかります。

リョウはなぜ人気を誇ったのか?

かろうじて咲良に認められたリョウは、その後、数多くの女性と関係を持ちます。しかし、その多くは、彼よりずっと年上の女性ばかり。しかも、いつまでもステディな相手がいなかったり、変わった性癖を持っていたり、夫に拒絶されたりと、性的に何かしらの葛藤や苦しみを抱えている人ばかりでした。 また、いきなり身体を重ねるのではなく、シンプルなデートを挟んでからことを行っている女性も見られます。彼女たちは、単純な肉欲ではなく、精神的な理解を求めているのです。 そんな女性たちを、リョウは「受容」するのです。幼い頃に母を失っている彼は、年上の女性に対してその面影を求め続けています。 そして、自分の目の前にいるにもかかわらず、セックスの相手の女性に対して「どこかへ行ってしまうかもしれない」という不安を抱いているのでしょう。そのためにリョウは、苦しむ人々を心の底から受け入れ、相手を思いやるのです。

AD

映画『娼年』で多様な性への欲望について考えを深める

映画『娼年』は、性への欲望を酸いも甘いもありのままに描き出した衝撃の問題作です。性についての話題がタブー視される風潮の中で、ここまでありありとセックスだけと向き合った作品がかつてあったでしょうか。 性の話題に恥じらいを感じてしまう女性や、女性に夢を見すぎている男性にこそ見て欲しい渾身の一作です。ぜひ文章で読むだけでなく、映像で感じてみてください。