2018年6月8日更新

『メメント』、難解と呼ばれる映画を解説してみた①【ネタバレあり】

クリストファー・ノーラン監督の傑作『メメント』。公開から15年以上たってもなお、物語の真相を巡ってファンによる議論が続けられています。今回は本作についての考察をご紹介します。

もう難しいとは言わせない!『メメント』を徹底解説!【ネタバレあり】

クリストファー・ノーラン
Lia Toby/WENN.com

『インセプション』(2010年)『インターステラー』(2014年)『ダンケルク』(2017年)などで知られる名監督クリストファー・ノーラン。彼の名を世に知らしめた最初の作品が『メメント』(2001年)です。 復讐心に燃える前向性健忘の男を主人公とする本作の特徴は、逆再生であること。異例の手法を使うことで「記憶が10分しか持たない男」がリアルに表現されていると同時に、とても難解な作品に仕上がっています。 その難解さゆえ、視聴後に様々な疑問を抱く方も多いはず。この記事では、そうした疑問のアンサーとなる考察を紹介し、作品の魅力を掘り下げます。なお、重要なネタバレを含みますのでご注意ください!

交差する時間軸。モノクロシーンの流れとは?

主人公レナードの一定時間の行動をカラーで見たあと、モーテルの一室で電話をするレナードがモノクロで映し出される、というようにカラーのシーンとモノクロのシーンが交互に現れます。 この2種類の映像のうち、逆再生で進んでいるのはカラーのほうだけ。カラーの映像は終わりから始めへと進み、モノクロの映像は始めから終わりへと進んでいます。つまり、物語の一点へ向かって時間軸の両端から迫っていく展開の仕方だったのです。 結局、カラーとモノクロがぶつかり合うところはジミー殺害後のシーンだったわけですが、ポラロイド写真が色づく様と映像そのものが色づく様をリンクさせた表現は見事でした。

電話のむこうにいる誰かを考察!

モノクロシーンに関する一番の疑問は、レナードの電話の相手が誰かということでしょう。 レナードの記憶障害をからかう何者かの電話か、レナードに探りを入れようとしている人物からか……。最も有力なのはテディからの電話だとする説です。なぜなら、麻薬取引の情報やロビーで待ち合わせすることが会話に含まれているから。 しかし、ここで重要なのは長電話であること、そして「電話に出るな」という警告のタトゥーが見つかること。記憶が長続きしないレナードは電話越しに長く話すことに向いておらず、彼自身それを自覚しています。「電話のむこうは誰だ?」視聴者が抱くこの疑問は、レナードも抱いているであろう疑問なのです。

レナードが繰り返している自己暗示とは?

電話越しにもはなしていたサミーの話。レナードは周りの人間が呆れるほどにこの話を繰り返しているようでした。サミーの物語は、保険調査員時代に担当した客がもとになっている架空のエピソード。レナードはこの空想のキャラクターにかなり固執しているわけですが、それは妻への罪悪感から生まれた自己暗示だったのでしょう。 コールガールを使って事件を再現することも自己暗示の1つ。手慣れた様子からして、おそらくレナードは記憶を上書きするために同じことを繰り返しているのです。 彼の行動を記憶障害ゆえの奇行と見るか、虚構にすがるほど自我を見失った男の足掻きと見るか、それだけでも作品の見え方が変わってきます。

哀しき事実。妻のまばたきが意味することとは?

コールガールを呼んで再現された事件では、彼と妻が向かい合わせに倒れて終わります。このとき妻の顔にはシャワーカーテンが巻きついて、びくともしません。 しかし、劇中ではもう一度倒れた妻のアップが映し出されます。そのとき、ほんの一瞬ですが彼女はまばたきをするのです。 これは、少なくとも彼女が強姦された時点で死んだわけではないことを示します。彼女の決定的な死因がレナードの注射だったことが明かされるのは映画の終盤ですが、そのまえにヒントが出されていたわけです。

レナードが敢えてメモしなかったこと

映画のクライマックス、レナードがこれまで敢えてメモしなかったことがあると気付かされます。それは復讐が完了した、という内容のメモ。それさえ記録していれば、レナードはテディに惑わされることもなかったはずなのです。 そして、敢えてメモしなかったことがもう1つ。彼はテディのポラロイドに「殺せ」と書かず、わざと「嘘を信じるな」という回りくどいメモを残しました。 生きる意味を復讐に見出したレナードはついに殺しまでの道筋を楽しもうとするようになってしまった、ラストの車内でメモを取るシーンはわずかですが、レナードの秘める残酷さをしっかりと描いています。

「I've done it」のタトゥーが彫られている?

最後に、本作の最大の謎をとりあげましょう。 映画の最後、空白だったはずの左胸に「I’ve done it」(復讐をやり遂げた)のタトゥーが彫られたレナードが登場します。しかも、彼に寄り添っているのは死んだはずの妻。 このラストシーンが何を意味しているか、これまで様々な説が出回ってきました。現実を受けとめられないレナードが見た幻影か、それともただの記憶違いか。実は妻が生きているのではないかという意見もあるようですが、それでは物語の基盤が崩されてしまうような気もします。 いずれにせよ、このタトゥーは作中最も難解な要素。視聴者の「謎を解きたい」という欲を刺激する巧みなトリックです。

意味がわからないとあきらめていたあなたももう一度『メメント』を見よう!

難解映画『メメント』の考察、いかがでしたでしょうか。本作の魅力は意図的に不明瞭な部分を残していること、それによって作品を味わい深いものにしていることだと思います。 ここで紹介したものは数ある考察の一例、決定的な答えではありません。また、今回とりあげたものの他に、作中にはまだまだ謎めいた要素が残されているはずです。 一回見ただけという方も、もう何度も見たという方も、改めて見直すことで新たな解釈が生まれるかも知れませんよ。