2020年9月29日更新

映画『メメント』の意味をわかりやすく解説・考察!ラストは幻覚か現実か?【ネタバレ】

メメント
© IFC Films Photographer: Danny Rothenberg/zetaimage

映画『メメント』時系列やラストの意味を解説・考察!【ネタバレ注意】

『インセプション』(2010年)や『インターステラー』(2014年)、『ダンケルク』(2017年)などで知られる名監督クリストファー・ノーラン。彼の名を世に知らしめた最初の作品が、2001年に公開された『メメント』です。 復讐心に燃える前向性健忘の男・レナードを主人公とする本作。その最大の特徴は、メインの時系列が逆側から展開していくことです。異例の手法を使うことで「記憶が10分しか持たない男」の思考がリアルに表現されているのと同時に、とても難解な作品に仕上がっています。 その難解さゆえ、鑑賞後にさまざまな疑問を抱く人も多いはず。この記事では、本作の時系列やラストシーンの意味を考察していき、作品の魅力を掘り下げていきます。 ※この記事は、『メメント』鑑賞後の読者を対象にした考察です。全体的にネタバレが含まれますので、未鑑賞の方はご注意ください。

『メメント』のあらすじ

メメント、ガイ・ピアース
©IFC Films/zetaimage

ありふれたモーテルの一室で目を覚ました男レナード。自分がなぜここにいるのかもわからず、自問自答します。それもそのはず、レナードは新しい記憶が10分しかもたない「前向性健忘」を患っていました。 レナードが唯一覚えている最後の記憶、それは「妻の死ぬ姿」。彼は情報屋テディの手を借りて、妻をレイプして殺した犯人「ジョン・G」を探し、復讐を遂げることだけを生きがいにしていました。 レナードは新しい事実が明らかになる度に自らの体にタトゥーを刻み、出会った人物や場所のポラロイド写真を撮って記憶を補完しています。しかしレナードの前に、次々に記憶にない新たな人物が現れ……。

ポイントは交差する時間軸!モノクロとカラーが示す意味は?

レナードの行動をカラー映像で追いかけつつ、モーテルの一室で電話をする彼がモノクロ映像で映し出されるというように、カラーとモノクロのシーンが交互に現れる展開が特徴的な本作。 実はカラー映像は物語の終わりから始めへと戻り、モノクロ映像は始めから終わりへと進んでいます。つまり、物語のある一点へ向かって時間軸の両端から追っていく展開であり、モノクロはレナードの1週間前の過去を順行し、カラーは彼の現在までの流れを逆行したものだったのです。 カラーとモノクロが交差した場面はジミー殺害前後のシーンですが、それはレナードがテディを次の「ジョン・G」に定めた瞬間であり、物語の基点となる重要なシーン。それをポラロイド写真が色づく様と、映像そのものが色づく様とでリンクさせた表現は見事でした。

なぜこのような構成にしたのか

ただでさえ難解な作品をさらに難しくしている、カラーシーンの「バックワード (逆戻り)」手法。しかしここに、クリストファー・ノーラン監督の確信的な演出が読み取れます。それは観客にもレナードと同じように、前向性健忘の感覚を疑似体験してもらおうというもの。 さらにモノクロシーンでは、本作において重要なサミーの話が語られ、謎の電話相手とのやり取りが進んでいきます。重要であるからこそ、わざとモノクロにして順行させ、印象付けているのではないでしょうか。

結局どういうことなの?物語の意味をわかりやすく解説!

メメント
© IFC Films Photographer: Danny Rothenberg/zetaimage

バックワードやモノクロとカラーが交錯する手法に気を取られ、結局この物語はどういうものだったのかということが分かりにくくなっているのも事実です。ここでは、レナードの曖昧な記憶ではなく、実際に起こった「事実」を明らかにしていきます。 家に押し入った2人の犯人によってレイプされたレナードの妻は、彼の記憶ではその時に殺されたことになっていましたが、実はその時点では生きていました。 テディからサミー=レナードであることが暴露され、糖尿病だった妻を記憶障害によるインスリン注射の誤投薬で殺してしまったのは、レナードだったとわかります。 レイプ事件の担当刑事だったテディは、逃げた犯人「ジョン・G」探しに協力し、復讐も黙認していました。実はすでに1年前に本物のジョン・Gへの復讐は遂げていたのです。 しかしレナードはそのことすら忘れてしまいました。それを見たテディは彼に犯罪の片棒を担がせてジミーを殺害させます。ところがテディのほうは、再び記憶を無くしたレナードに次の「ジョン・G」として狙われることに。 この物語は、テディ殺害のシーンからテディを次の「ジョン・G」とするシーンまでを逆戻りで追った話なのです。なによりゾッとするのはラストシーンで、テディ亡き後も同じように別の「ジョン・G」探しが続いていくのだろう、と想像がつくことでしょう。

モノクロのシーンで電話している相手はテディだった?

モノクロシーンに関する1番の疑問は、レナードの電話の相手が誰かということでしょう。 レナードの記憶障害をからかう何者かの電話か、レナードに探りを入れようとしている人物からか。最も有力なのはテディからの電話だとする説です。なぜなら、麻薬取引の情報やロビーで待ち合わせすることが会話に含まれているから。 ここで重要なのは長電話であること、そして「電話に出るな」という警告のタトゥーが見つかることです。記憶が長続きしないレナードは電話越しに長いあいだ話すことに向いておらず、彼自身それを自覚しています。 「電話のむこうに居るのは誰だ?」と観客が抱く疑問は、電話をしているレナード自身も抱いている疑問なのです。 「電話に出ろ」というメモと笑顔のレナードのポラロイド写真を入れた封筒をドアの隙間から入れたことを考えると、やはりテディが電話の相手だったと思われます。この写真は本物の「ジョン・G」殺害後にテディが撮ったものだと、ラスト近くで明らかになっていました。

サミーの話はレナードにとっての自己暗示だった?

レナードはサミーの話を、周りの人間が聞き飽きるほど繰り返しているようでした。サミーのエピソードは、保険調査員だったレナードの元顧客がもとになっているといいますが、それは彼の作り話です。実際に糖尿病のインスリン注射で妻を殺してしまったのは、レナードでした。 レナードはこの話にかなり固執していますが、それは妻への罪悪感から生まれた自己暗示だったと考えられます。 サミーは記憶を失ってもインスリン注射の手順だけは覚えていました。同じようにレナードも“誰かに復讐する”という1番大事な目的だけは忘れないようにするため、サミーの話によって自己暗示をかけていたのでしょう。 コールガールを使って事件を再現することも、自己暗示のひとつ。手慣れた様子から、おそらくレナードは記憶を上書きするために同じことを繰り返してきたのかもしれません。 彼の行動を記憶障害ゆえの奇行と見るか、虚構にすがるほど自我を見失った男の足掻きと見るか、それだけでも作品の見え方が変わってきます。

ナタリーはレナードの記憶障害を利用した?

メメント
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ナタリーは麻薬ディーラーのジミー・グランツと恋人同士で、彼女が経営するバーは麻薬取引の場となっていました。ドッドは取引相手であり、ジミーが20万ドルを持ったまま失踪したことで、彼女に疑いをかけます。 追い詰められたナタリーはレナードと出会い、彼の記憶障害を利用することに。ナタリーはジミーと最後に会ったテディが彼を殺して金を奪ったと考えていました。そこへジミーの服を着て、彼の車でバーに現れたレナードにその共犯の疑いをかけるのも無理ありません。 実際はレナードに殴られたのに「金を返せ」と迫るドッドにやられたと嘘を言い、わざとドッドにレナードの居場所を教えて追わせました。 そしてテディへの復讐として、彼の本名がジョン・ギャメル、つまり「ジョン・G」であることとFACT6の車のナンバーが彼のものであるとわかる書類を封筒に入れて、レナードに渡したのです。

妻のまばたきが伏線になっていた?

コールガールを呼んで妻の役をさせた時、レナードの記憶の中では彼と妻が向かい合わせに倒れて終わります。この時の妻の顔にはシャワーカーテンが巻きついて、彼女はびくともしません。 しかし、劇中ではもう1度倒れた妻のアップが映し出されます。その時ほんの一瞬ですが、彼女はまばたきをするのです。 これは、少なくとも彼女がレイプされた時点で死んだわけではないことを示しています。彼女の決定的な死因がレナードの注射だったことが明かされるのは映画の終盤ですが、その前にわずかながらヒントが出されていたわけですね。

“あえてメモしなかったこと”から分かるレナードの残忍さ

メメント
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映画のクライマックスで、レナードがこれまであえてメモしなかったことがあると気付かされます。それは“復讐が完了した”という内容のメモ。それさえ記録していれば、レナードはテディに惑わされることもなかったはずです。 そして、あえてメモしなかったことがもうひとつ。彼は初めからテディのポラロイドに「殺せ」と書かず、わざと最初は「彼の嘘を信じるな」という回りくどいメモを残しました。 生きる意味を復讐に見出したレナードは、ついに殺しまでの道筋を楽しもうとするようになってしまったのでしょうか。ラストの車内でメモを取るシーンでは、レナードが秘めていた残忍さがはっきりと描かれています。

ラストシーンを考察!「I’ve done it」のタトゥーが意味すること

最後に、本作の最大の謎を取り上げてみましょう。 映画の最後で、空白だったはずのレナードの左胸に“I’ve done it (復讐をやり遂げた)”と書かれたタトゥーが一瞬だけ映ります。しかも死んだはずの妻が彼に寄り添って、タトゥーを愛おしそうに撫でているのです。 このラストシーンが何を意味しているのか、これまでさまざまな説が語られてきました。 現実を受けとめられないレナードが見た幻影か、それとも改ざんされた記憶なのか。実は妻が生きているのではないかという意見もあるようですが、それでは物語の基盤が崩されてしまうような気もします。 1番しっくりくる解釈は、これがレナードの「理想の結末」であること。つまりこのシーンは、レナードの想像の世界です。直前に彼は「目を閉じても、そこに世界はあるはずだ」と言っています。 妻のために復讐を遂げ、それを刻んだタトゥーを嬉しそうに撫でる妻とともに居ること、それがレナードの改ざんされた「正しい記憶」となっていくのでしょう。 いずれにせよ、このタトゥーは作中で最も難解な要素。視聴者の「謎を解きたい」という欲を刺激する巧みなトリックです。

ノーラン監督と実弟との会話がきっかけで生まれた『メメント』

クリストファー・ノーラン監督の出世作『メメント』が生まれるきっかけには、彼の実弟ジョナサン・ノーランが一役買っていたそう。このことは、2010年に行われた「トライベッカ映画祭」でのトークパネルで明かされました。 『メメント』の原案で名を残しているジョナサン・ノーランは、このアイデアが引っ越しの最中に生まれたと語っています。彼がまだ大学生だった頃、当時イギリスに住んでいた兄クリストファーが一緒にハリウッドへ移り住むことを決め、その道中で映画のアイデアを交換し始めたそう。 ジョナサンが大学の心理学の授業で聞いた「前向性健忘」の話を思い出し、そこから新しい映画のアイデアが浮かんだといいます。大学の授業と引っ越しの道中から、こんなに画期的な作品が生まれたとは驚きです。

ノーランが手がける「時間と空間」の伝説は『メメント』から始まった

クリストファー・ノーラン
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本作はクリストファー・ノーラン監督の長編映画2作目であり、彼の名を世に知らしめた出世作。ここから、彼の「時間と空間」を描いた画期的な作品群が続々と生み出されていきました。 2010年のSFアクション『インセプション』では、人の夢に入り込むという架空の「空間」を作り出し、天地が逆転するような見たこともない不思議な映像で観る者を驚かせました。 2014年には本格ハードSF『インターステラー』で、誰もまだ見たことがない宇宙空間を壮大な映像美で見せつけ、四次元空間を独創的なイメージで表しています。そして、どちらも「時間」の概念が重要なキーとなる作品でした。 さらに2020年、スパイアクションとSFを組み合わせた『TENET テネット』が公開され、またしても彼の「時間と空間」の斬新な使い方に注目が集まっています。 『TENET テネット』のキーとなる「順行と逆行」の世界観はすでに『メメント』で使われており、特に冒頭シーンではテディ殺害シーンがまさに「逆行」する様子から始まっているのです。

もう大丈夫!映画『メメント』の解説・考察を読んでもう1度観返そう

クリストファー・ノーラン監督の名を世に知らしめた傑作『メメント』。本作の魅力は、意図的に不明瞭な部分を残していることです。それが作品をより味わい深いものにしており、何度も見返したくなるよう仕向けられているのかもしれません。 ここで紹介したものは数ある考察の一例であり、決定的な答えではありません。今回取り上げたもののほかにも、作中にはまだまだ謎めいた要素が残されているはずです。 1回見ただけという人も、もう何度も見たという人も、改めて見直すことで新たな解釈が生まれるかもしれませんね。