2025年4月26日更新

【ネタバレ】映画『メメント』の超難解な謎や意味をわかりやすく解説・考察!ラストは幻覚か現実か?

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メメント
©2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

クリストファー・ノーランの名を一躍世に知らしめた『メメント』(2001年)。その難解さゆえ、公開当時からさまざまな考察がなされ、今も名作として人気を誇っています。 この記事では、本作の時系列やラストシーンの意味を考察していき、作品の魅力を掘り下げていきます。 ※この記事は、『メメント』鑑賞後の読者を対象にした考察です。全体的にネタバレが含まれますので、未鑑賞の方はご注意ください。

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■映画『メメント』時系列やラストの意味を解説・考察!【ネタバレ注意】

タイトル 『メメント』
公開日 2001年11月3日
監督 クリストファー・ノーラン
原題 『Memento』

『メメント』のあらすじ【ネタバレなし】

ありふれたモーテルの一室で目を覚ました男レナード。自分がなぜここにいるのかもわからず、自問自答します。それもそのはず、レナードは新しい記憶が10分しかもたない「前向性健忘」を患っていました。 レナードが唯一覚えている最後の記憶、それは「妻の死ぬ姿」。彼は情報屋テディの手を借りて、妻をレイプして殺した犯人「ジョン・G」を探し、復讐を遂げることだけを生きがいにしていました。 レナードは新しい事実が明らかになる度に自らの体にタトゥーを刻み、出会った人物や場所のポラロイド写真を撮って記憶を補完しています。しかしレナードの前に、次々に記憶にない新たな人物が現れ……。

【ネタバレ】『メメント』の結末までのあらすじをわかりやすく解説

【起】ようやく見つけた犯人

協力者のテディとともに、廃屋にやってきたレナード。記録用のポラロイドを見ると、テディの写真の裏に「こいつの嘘を信じるな。こいつが犯人だ。殺せ」と書いてありました。そして彼はテディを殺し、現場の写真を撮影しました。 少し前。レナードはレストランでナタリーという女性から情報を受け取ります。彼女はレナードが突き止めた「ジョン・G」の車のナンバーから、その車の所有者を特定していました。レナードは、モーテルの部屋に戻って情報を整理します。そして「ジョン・G」の正体がテディであることを知り、写真の裏に「こいつが犯人だ。殺せ」と書き込みました。

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【承】ドッド

その少し前。テディと食事をしていたレナードは、誰かに利用されて無関係の人間を殺さないように気をつけろと警告されます。 その日の朝。レナードの事情を知ったナタリーは、協力を申し出ました。彼女はレナードが突き止めた車のナンバーから、持ち主を探してくれると言います。 その前夜。ドッドという男の血だらけの写真に「消せ。ナタリーに聞け」と書いてあるのを発見したレナードは、ナタリーに事情を聞きに行きます。彼女はレナードがドッドを殺したと感謝し、2人はそのまま一夜を過ごしました。 その日の昼。レナードが見知らぬモーテルの1室でふと気がつくと、血だらけで拘束された男がクローゼットに入れられていました。驚いたレナードはテディを呼び、ドッドを解放します。 その少し前、ドッドに追われていたレナードは、先回りして彼のモーテルの部屋に忍び込み、待ち伏せしていました。しかしシャワーを浴びていたときにドッドが現れ、レナードはわけもわからないまま彼を拘束したのです。

【転】ナタリー

ナタリーの家から出てきたレナードの車にテディが乗っていました。彼はナタリーは恋人のジミーの麻薬取引と仲介しているため、彼女には気をつけろと警告します。 その少し前、ひどく顔を腫らしたナタリーが家に戻ってきました。彼女はドッドに殴られたといいます。その様子を見て、レナードはドッドを殺すことを約束しました。しかしそのさらに前、殺しの依頼を断ろうとするレナードをナタリーはひどくなじり、彼が自分を殴るように仕向けます。そして1度家の外に出て、彼の記憶がなくなるのを待って戻ってきたのです。 バーにやってきたレナードに、ナタリーは怪訝な顔をします。彼女はレナードの記憶障害を疑いますが、自分が注いだビールを飲むのを見て、彼を信じました。 タトゥースタジオで、メモをもとに犯人の車のナンバーのタトゥーを入れていたレナードのもとにテディがやってきます。その後、レナードはスーツのポケットに「後で来て ナタリー」と書かれたバーのコースターを見つけ、バーで彼女に会います。

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【結末】新たな「ジョン・G」

レナードはテディとともに廃屋に行きます。そして現れたジミーを殺害。その死体を写真におさめました。ジミーの高級なスーツを脱がし、着替えるレナード。しかししばらくすると、なにが起こったのか忘れてパニックになってしまいます。 そこへテディが現れ、レナードは助けを求めます。するとテディは真実を明かしました。彼が言うには、レナードは1年前にすでに本物の「ジョン・G」を殺したとのこと。しかしその事実も忘れてしまい、また「ジョン・G」探しをはじめたと言うのです。 さらにレナードがたびたびしていたサミーの話は、実はレナード自身に起こったことで、インスリンの過剰摂取で亡くなったのはレナードの妻だと言います。 テディの話を信じたくないレナードは、その事実を忘れ、テディを新たな「ジョン・G」にすることにしました。彼はジミーの車に乗り込み、テディの写真の裏に「こいつの嘘を信じるな」、メモにはテディの車のナンバーを書き込みます。そして車を走らせ、タトゥースタジオの前で車を停めるのでした。

ポイントは交差する時間軸!モノクロとカラーが示す意味は?

レナードの行動をカラー映像で追いかけつつ、モーテルの一室で電話をする彼がモノクロ映像で映し出されるというように、カラーとモノクロのシーンが交互に現れる展開が特徴的な本作。 実はカラー映像は物語の終わりから始めへと戻り、モノクロ映像は始めから終わりへと進んでいます。つまり、物語のある一点へ向かって時間軸の両端から追っていく展開であり、モノクロはレナードの1週間前の過去を順行し、カラーは彼の現在までの流れを逆行したものだったのです。 カラーとモノクロが交差した場面はジミー殺害前後のシーンですが、それはレナードがテディを次の「ジョン・G」に定めた瞬間であり、物語の基点となる重要なシーン。それをポラロイド写真が色づく様と、映像そのものが色づく様とでリンクさせた表現は見事でした。

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なぜこのような構成にしたのか

ただでさえ難解な作品をさらに難しくしている、カラーシーンの「バックワード (逆戻り)」手法。しかしここに、クリストファー・ノーラン監督の確信的な演出が読み取れます。それは観客にもレナードと同じように、前向性健忘の感覚を疑似体験してもらおうというもの。 さらにモノクロシーンでは、本作において重要なサミーの話が語られ、謎の電話相手とのやり取りが進んでいきます。重要であるからこそ、わざとモノクロにして順行させ、印象付けているのではないでしょうか。

【考察①】モノクロのシーンで電話している相手はテディだった?

モノクロシーンに関する1番の疑問は、レナードの電話の相手が誰かということでしょう。 レナードの記憶障害をからかう何者かの電話か、レナードに探りを入れようとしている人物からか。最も有力なのはテディからの電話だとする説です。なぜなら、麻薬取引の情報やロビーで待ち合わせすることが会話に含まれているから。 ここで重要なのは長電話であること、そして「電話に出るな」という警告のタトゥーが見つかることです。記憶が長続きしないレナードは電話越しに長いあいだ話すことに向いておらず、彼自身それを自覚しています。 「電話のむこうに居るのは誰だ?」と観客が抱く疑問は、電話をしているレナード自身も抱いている疑問なのです。 「電話に出ろ」というメモと笑顔のレナードのポラロイド写真を入れた封筒をドアの隙間から入れたことを考えると、やはりテディが電話の相手だったと思われます。この写真は本物の「ジョン・G」殺害後にテディが撮ったものだと、ラスト近くで明らかになっていました。

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【考察②】サミーの話はレナードにとっての自己暗示だった?

レナードはサミーの話を、周りの人間が聞き飽きるほど繰り返しているようでした。サミーのエピソードは、保険調査員だったレナードの元顧客がもとになっているといいますが、それは彼の作り話です。実際に糖尿病のインスリン注射で妻を殺してしまったのは、レナードでした。 レナードはこの話にかなり固執していますが、それは妻への罪悪感から生まれた自己暗示だったと考えられます。 サミーは記憶を失ってもインスリン注射の手順だけは覚えていました。同じようにレナードも“誰かに復讐する”という1番大事な目的だけは忘れないようにするため、サミーの話によって自己暗示をかけていたのでしょう。 コールガールを使って事件を再現することも、自己暗示のひとつ。手慣れた様子から、おそらくレナードは記憶を上書きするために同じことを繰り返してきたのかもしれません。 彼の行動を記憶障害ゆえの奇行と見るか、虚構にすがるほど自我を見失った男の足掻きと見るか、それだけでも作品の見え方が変わってきます。

【考察③】ナタリーはレナードの記憶障害を利用した?

ナタリーは麻薬ディーラーのジミー・グランツと恋人同士で、彼女が経営するバーは麻薬取引の場となっていました。ドッドは取引相手であり、ジミーが20万ドルを持ったまま失踪したことで、彼女に疑いをかけます。 追い詰められたナタリーはレナードと出会い、彼の記憶障害を利用することに。ナタリーはジミーと最後に会ったテディが彼を殺して金を奪ったと考えていました。そこへジミーの服を着て、彼の車でバーに現れたレナードにその共犯の疑いをかけるのも無理ありません。 実際はレナードに殴られたのに「金を返せ」と迫るドッドにやられたと嘘を言い、わざとドッドにレナードの居場所を教えて追わせました。 そしてテディへの復讐として、彼の本名がジョン・ギャメル、つまり「ジョン・G」であることとFACT6の車のナンバーが彼のものであるとわかる書類を封筒に入れて、レナードに渡したのです。

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【考察④】妻のまばたきが伏線になっていた?

コールガールを呼んで妻の役をさせた時、レナードの記憶の中では彼と妻が向かい合わせに倒れて終わります。この時の妻の顔にはシャワーカーテンが巻きついて、彼女はびくともしません。 しかし、劇中ではもう1度倒れた妻のアップが映し出されます。その時ほんの一瞬ですが、彼女はまばたきをするのです。 これは、少なくとも彼女がレイプされた時点で死んだわけではないことを示しています。彼女の決定的な死因がレナードの注射だったことが明かされるのは映画の終盤ですが、その前にわずかながらヒントが出されていたわけですね。

【考察⑤】“あえてメモしなかったこと”から分かるレナードの残忍さ

映画のクライマックスで、レナードがこれまであえてメモしなかったことがあると気付かされます。それは“復讐が完了した”という内容のメモ。それさえ記録していれば、レナードはテディに惑わされることもなかったはずです。 そして、あえてメモしなかったことがもうひとつ。彼は初めからテディのポラロイドに「殺せ」と書かず、わざと最初は「彼の嘘を信じるな」という回りくどいメモを残しました。 生きる意味を復讐に見出したレナードは、ついに殺しまでの道筋を楽しもうとするようになってしまったのでしょうか。ラストの車内でメモを取るシーンでは、レナードが秘めていた残忍さがはっきりと描かれています。

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ラストシーンを解説!「I’ve done it」のタトゥーが意味すること

最後に、本作の最大の謎を取り上げてみましょう。 映画の最後で、空白だったはずのレナードの左胸に“I’ve done it (復讐をやり遂げた)”と書かれたタトゥーが一瞬だけ映ります。しかも死んだはずの妻が彼に寄り添って、タトゥーを愛おしそうに撫でているのです。 このラストシーンが何を意味しているのか、これまでさまざまな説が語られてきました。 現実を受けとめられないレナードが見た幻影か、それとも改ざんされた記憶なのか。実は妻が生きているのではないかという意見もあるようですが、それでは物語の基盤が崩されてしまうような気もします。 1番しっくりくる解釈は、これがレナードの「理想の結末」であること。つまりこのシーンは、レナードの想像の世界です。直前に彼は「目を閉じても、そこに世界はあるはずだ」と言っています。 妻のために復讐を遂げ、それを刻んだタトゥーを嬉しそうに撫でる妻とともに居ること、それがレナードの改ざんされた「正しい記憶」となっていくのでしょう。 いずれにせよ、このタトゥーは作中で最も難解な要素。視聴者の「謎を解きたい」という欲を刺激する巧みなトリックです。

ノーラン監督と実弟との会話がきっかけで生まれた『メメント』

クリストファー・ノーラン監督の出世作『メメント』が生まれるきっかけには、彼の実弟ジョナサン・ノーランが一役買っていたそう。このことは、2010年に行われた「トライベッカ映画祭」でのトークパネルで明かされました。 『メメント』の原案で名を残しているジョナサン・ノーランは、このアイデアが引っ越しの最中に生まれたと語っています。彼がまだ大学生だった頃、当時イギリスに住んでいた兄クリストファーが一緒にハリウッドへ移り住むことを決め、その道中で映画のアイデアを交換し始めたそう。 ジョナサンが大学の心理学の授業で聞いた「前向性健忘」の話を思い出し、そこから新しい映画のアイデアが浮かんだといいます。大学の授業と引っ越しの道中から、こんなに画期的な作品が生まれたとは驚きです。

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ノーランが手がける「時間と空間」の伝説は『メメント』から始まった

本作はクリストファー・ノーラン監督の長編映画2作目であり、彼の名を世に知らしめた出世作。ここから、彼の「時間と空間」を描いた画期的な作品群が続々と生み出されていきました。 2010年のSFアクション『インセプション』では、人の夢に入り込むという架空の「空間」を作り出し、天地が逆転するような見たこともない不思議な映像で観る者を驚かせました。 2014年には本格ハードSF『インターステラー』で、誰もまだ見たことがない宇宙空間を壮大な映像美で見せつけ、四次元空間を独創的なイメージで表しています。そして、どちらも「時間」の概念が重要なキーとなる作品でした。 さらに2020年、スパイアクションとSFを組み合わせた『TENET テネット』が公開され、またしても彼の「時間と空間」の斬新な使い方に注目が集まっています。 『TENET テネット』のキーとなる「順行と逆行」の世界観はすでに『メメント』で使われており、特に冒頭シーンではテディ殺害シーンがまさに「逆行」する様子から始まっているのです。

もう大丈夫!映画『メメント』の解説・考察を読んでもう1度観返そう

クリストファー・ノーラン監督の名を世に知らしめた傑作『メメント』。本作の魅力は、意図的に不明瞭な部分を残していることです。それが作品をより味わい深いものにしており、何度も見返したくなるよう仕向けられているのかもしれません。 ここで紹介したものは数ある考察の一例であり、決定的な答えではありません。今回取り上げたもののほかにも、作中にはまだまだ謎めいた要素が残されているはずです。 1回見ただけという人も、もう何度も見たという人も、改めて見直すことで新たな解釈が生まれるかもしれませんね。