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【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち♯10『ひなぎく』

2018年7月1日更新

チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグの代表作として名高い『ひなぎく』は、日本でも根強い人気を誇る作品です。本国では国会で批判された「女の子映画の決定版」をご紹介しましょう。

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です(毎週日曜更新)。

“かわいい”カルト映画『ひなぎく』(1966)をご紹介

「カルト映画」というと不気味で不可解、不条理で悪趣味とも言えるクセのある映画を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。これまでこの連載でご紹介してきたのも、そのような作品が多かったように思います。 しかし、少数の観客を強烈に惹きつけるのは、気味の悪いサイコパスやマッド・サイエンティストが登場する映画だけではありません。 今回ご紹介する『ひなぎく』は、日本でも「60年代女の子映画の決定版」と言われ、今なお多くのファンを捕らえて離さない作品です。 現在も全国のミニシアターで度々アンコール上映されている本作。その魅力や見どころ、日本での影響などをご紹介します。

チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグの代表作『ひなぎく』のあらすじは?

ひなぎく
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ここで『ひなぎく』のあらすじをご紹介したいところですが、本作には明確なあらすじ、物語というものはありません。強いて言えば、ふたりの女の子が全編を通しておかしないたずらをしまくる映画です。 自分たちの人生が悪くなる一方なら、好き勝手に生きようと決めたマリエ1とマリエ2。彼女たちはおめかしをして出かけ、いわゆる「パパ」に食事をおごらせたり、高級レストランで酔っ払って他の客にちょっかいを出し、大騒ぎしたりとやりたい放題。 しかしそんな毎日にも飽きて、また新たにどんないたずらをしてやろうかと考えるふたり。忍び込んだ宴会場で、ご馳走を食い散らかして遊んでいた彼女たちの行く末とは……?

もともと女優ではなかった『ひなぎく』のキャスト

ひなぎく
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マリエ1役:イトカ・ツェルホヴァー

マリエ1を演じたイトカ・ツェルホヴァーは、もともとは帽子店で働いていました。 脚本が完成し、製作陣はオーディションを何度も行なったものの、主人公たちのイメージに合う女優が見つからず悩んでいたとか。 そんなとき、監督のヒティロヴァーは映画館でツェルホヴァーのおしゃべりを聞き、顔よりも先にその声を気に入ってマリエ1にキャスティングしました。 その後、ツェルホヴァーは女優になり『Zabil jsem Einsteina, panove(邦題:アインシュタイン暗殺指令))』(1970)や『Svatá hrísnice (原題)』(1970)などに出演しています。

マリエ2役:イヴァナ・カルバノヴァー

マリエ2を演じたイヴァナ・カルバノヴァーも当時演技経験は全くなく、まだ学生だったそうです。 カルバノヴァーは、65年に当時共産主義国だったチェコスロバキア(現・チェコ共和国)で、全国の若者が集まる国のイベントに参加した際、本作のオーディションがあることを知り参加することに。 本作への出演後、カルバノヴァーも女優として活動をつづけ、『Svatba jako remen (原題)』(1967)や『Pension pro svobodné pány (原題)』(1968)などに出演しています。

監督のヴェラ・ヒティロヴァーはチェコでもっとも偉大な女性映画監督

ひなぎく
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『ひなぎく』の監督ヴェラ・ヒティロヴァーは、時代の最先端をいく前衛映画の監督として知られており、チェコ映画の先駆者、もっとも偉大な女性監督と言われる人物です。 チェコスロバキアのオストラヴァに生まれたヒティロヴァーは、哲学と建築学を学んだあと工業製図者、ファッションモデル、デザイナーなどの職を経て、首都プラハのバランドフ撮影所で脚本家、女優、助監督として働き始めました。 その後、プラハのフィルム・アカデミー(FAMU)に入学。卒業制作の『天井』(1961)で早くも注目を集め、卒業後は他の同級生らとともに「チェコ・ヌーヴェルバーグ」の担い手となります。 1966年に公開された『ひなぎく』は、1970年からのいわゆる「正常化」後、本国では上映禁止となり、ヒティロヴァーは1976年まで活動停止となってしまいました。しかしその名声は欧米にも広がり、活動再開以降は晩年まで精力的に活動。2006年に制作した『保証のないすばらしい瞬間』が遺作となります。 ヒティロヴァーは、2014年に長い闘病生活のすえ85歳で死去しました。

日本のガーリーカルチャーの源流となった作品

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1966年に制作された本作が日本で公開されたのは、1991年になってからでした。 当時、漫画家の岡崎京子をはじめ、女優で歌手の小泉今日子、歌手の野宮真貴やカヒミ・カリィら「渋谷系」と呼ばれる文化人、アーティストらが『ひなぎく』を絶賛し、本作は「60年代女の子映画の決定版」として若者に熱狂的に支持されるようになります。 おしゃれでかわいいガーリーな感覚や実験的な映像、そして「かわいければなんでも許される」とばかりに破壊の限りを尽くす主人公たちの姿は、“女の子である”という反乱を後押しするものとなったのです。

かわいいだけじゃない!?『ひなぎく』の痛烈な社会批判

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『ひなぎく』は、そのレトロガーリーな衣装や美術、前衛的な映像だけでも楽しむことができますが、実はかわいいだけの映画ではありません。 本作に込められた反逆精神は、当時のチェコスロバキアの情勢やチェコ語に精通していないと全てを理解することは難しいと言われています。ここでは、その一部を紐解いてみましょう。 本作が公開されたのは1966年ですが、2年後の1968年には社会主義国家に対する改革運動「プラハの春」が起こりました。女の子2人が大人の築いた権威を破壊してまわる『ひなぎく』の制作・公開は、国家による検閲が緩くなっていた証拠と言えます。 また、最後に現れる「踏みにじられたサラダだけを可哀想だと思う人に捧げる(直訳)」という字幕は、本作を見て「料理がもったいない」としか思わない人、つまり検閲官や当局に対する痛烈な皮肉です。

ガーリー映画の決定版『ひなぎく』はDVD、Blu-rayで観られる!

ひなぎく
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1991年に劇場公開された後、何度もアンコール上映が行われ、VHS、DVDが販売され、2015年にはHDニューマスターのBlu-rayも発売されました。 「女の子」という存在のはかなさ、美しさを描いた作品は数え切れないほどありますが、『ひなぎく』はそれらの多くとは一線を画しています。本作で描かれる彼女たちの破壊力、悪さ、ずる賢さ、怖いものなしの生き方はパンクであり、ハードボイルドでさえあります。 とにかくかわいい衣装やセットを見るのも楽しく、主人公ふたりの暴れっぷりも痛快な本作は、甘い砂糖菓子で包んだ劇薬。一度は観てみて損はないでしょう。

『ひなぎく』を映画館で見るには?

ひなぎく
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とはいえ、やはりスクリーンで見たいですよね。そんなあなたに朗報です。 2018年8月17日、24日、31日のそれぞれ金曜日に、北海道・札幌のシアター・キノで「チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ KINOフライデー・シネマ vol.41】連続上映!」と銘打ち、『パーティーと招待客』『ひなぎく』『愛の殉教者たち』の3作品が上映されます(『ひなぎく』の上映は8月24日です)。 『ひなぎく』がスクリーンで見れるのは勿論、他の2作品も『ひなぎく』と関わりの深いものとなっていますので、お近くの方は是非劇場でチェックして下さい。詳細は、下記の作品オフィシャルサイトで確認できます!

次回の「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」は?

次回は2018年7月8日に更新! 次は一体どんなカルト映画が取り上げられるのでしょうか?お楽しみに!