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【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち♯11『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』

2018年7月8日更新

スペインが生んだ巨匠ペドロ・アルモドバルの長編デビュー作『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』。過激な内容にも関わらずアルモドバルらしい作家性がはっきり見て取れるカルト作の魅力に迫ります!

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく週刊連載です。

巨匠ペドロ・アルモドバル、幻の長編デビュー作『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』

『ロッキー・ホラー・ショー』で知られるリトル・ネル(ネル・キャンベル)の歌う「Do the Swim」と強烈なイラストで始まる映画『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』。スペインが生んだ世界的巨匠ペドロ・アルモドバル、幻の商業映画デビュー作です。 1980年にサンセバスチャン国際映画祭で上映されるや批評家からは酷評されるものの、その斬新でセンセーショナルな内容から一部マニアの間で文字通りカルト的人気を博しました。本国では4年に渡って上映されています。 独特の凝ったオープニング・クレジット、カラフルでポップな衣装やインテリアなどアルモドバルならではのスタイルがすでに垣間見え、そればかりか突き抜けたキャラクターたちが象徴する性の解放、異端や倒錯、自由の謳歌といったライフワーク的テーマがすでに主軸となって流れています。 わずか40万ペセタの低予算により16㎜フィルムで撮影されたという『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』。さていったいどんな作品なのか、その内容と見どころに迫りましょう!

『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』のぶっ飛んだストーリー

主人公はアパートに一人で暮らす超風変りな女ペピです。ベランダで栽培していた大麻のことを見逃してもらう見返りとして、一人の中年警官からレイプされてしまいます。処女を奪われた復讐を企てて警官の妻ルシに接近すると、ルシは筋金入りのマゾヒストでした。 ペピは友人でパンクロッカーのボンをルシの相手にあてがい、その後は3人がつるんであちらこちらをめぐり、奇妙な人々と遭遇を繰り返していくというのが大筋のストーリーです。 冒頭の事件以外、脈絡のあるドラマチックな物語性はありません。終盤、ボンが「なぜ、私たちは親しくなったのか」と問いかけるとペピが言います。「答えなんて求めないわ」。 最後にルシが絡む一つの事件が起こりますが、結局は3人の女の突き抜けた個性、さらにゲイ、レズ、トランス、ドラッグ、SMプレイなどなんでもありの刹那的な人間関係が綴られるばかりなのです。

ペピを演じるのはアルモドバルのミューズ、カルメン・マウラ!

カルメン・マウラ
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ヒロインのペピを演じたのが、今やスペインを代表する国民的女優カルメン・マウラです。本作以後、アルモドバル作品にはなくてはならないミューズとなり、数々の作品で主人公を演じました。 『グロリアの憂鬱』では崩壊していく主婦、『欲望の法則』では性転換した元男性の女、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』では嫉妬に狂う愛人など80年代に5作品、仲違いのブランクを経て2006年にも久しぶりに『ボルベール〈帰郷〉』に出演しました。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』ではゴヤ賞の最優秀主演女優賞に輝いています。 当時まだ35歳だった本作でも、強さと脆さを同居させ、エキセントリックな魅力を存分に発散するなどまさにカルメン・マウラの独壇場です。 ちなみに、ルシを演じたのは『バチ当たり修道院の最期』にも出演しているエバ・シバ、ボンを歌手やタレントとしてスペイン語圏で活躍するアラスカが演じています。

あらためてペドロ・アルモドバルの経歴を紹介!

ペドロ・アルモドバル
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ペドロ・アルモドバルは1951年9月24日、シウダー・レアル県カルサーダ・デ・カラトラーバに生まれました。両親の希望で司祭になるため神学校に入りましたが、そのときの経験を映画化したのが『バッド・エデュケーション』です。 やがて映画に興味を持ち、1967年にマドリードに移ります。国営電話会社で働きながら短編映画の製作を開始し、1980年29歳のとき、ついに自主制作した長編が『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』でした。その後は、発表する作品ごとに熱狂的なファンを獲得していくことになります。 1988年の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』は、ヴェネツィア国際映画祭脚本賞受賞やアカデミー外国語映画賞ノミネートなど、世界的にその名が広く知れ渡るきっかけとなった作品です。 1999年の『オール・アバウト・マイ・マザー』でついにアカデミー外国語映画賞受賞、2017年には第70回カンヌ国際映画祭の審査委員長を務めるなど、名実ともに映画界を代表する巨匠となりました。

見どころ①:当時の社会的背景を知れば作品の見方が変わる!

本作を深く理解するには、当時のスペインの社会的・政治的状況を知っておく必要があります。 長らく独裁者として君臨したフランコが1975年に死去し、翌年には検閲も廃止されるなど社会全体が民主化へと動きだします。80年代に入る頃には文化面でもマドリードを中心に反権威的な芸術運動が花開き、自由な表現、タブーの打破、パンク、ドラッグカルチャーなどを特徴とするムーブメントがさまざまな分野で生まれました。 映画界でその一翼を担ったのがペドロ・アルモドバルでした。同性愛やドラッグの愛用、宗教的堕落といった反社会的ともいえるアルモドバルの作品は、そうしたムーブメントの中でも際立って先鋭的であり、賛否含めて社会に大きな衝撃を与えたのです。 当時はパンクバンドに所属し、反体制派の出版や演劇の人々と交流を重ねる中で出会ったのが実はカルメン・マウラです。つまり2人は同志ともいえる間柄であり、『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』はそんな2人が最初に華々しく打ち上げた花火だったとも言えるでしょう!

見どころ②:アルモドバルのファンなら要チェックの隠れたキャスティング

セシリア・ロス
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物語の中で、最初無職だったペピは突然思い立って広告会社を立ち上げます。ディレクターとしてパンティーのCMを製作するのですが、そのCM中にモデルとして登場するのがセシリア・ロスです。 セシリア・ロスと言えば、『オール・アバウト・マイ・マザー』で主人公である母親を演じるなどアルモドバルのミューズの一人。本作でみせるうら若きセクシーな姿態は、言われなければ同一人物だと気づかないでは? また、ワンシーンにだけ登場するド派手な舞台衣装を着た女性を演じているのがフリエタ・セラーノです。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』で気が狂った人妻を演じて強烈な印象を残した女優といえば、ファンなら思わずニヤリとしたくなるでしょう!

2作合わせて鑑賞したい!『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』と『神経衰弱ぎりぎりの女たち』

『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』は日本において長らく未公開のままでしたが、2017年にようやくDVD/BDとして発売され、またamazonプライムやU-NEXT等のオンデマンドでも鑑賞できるようになりました。 そして同時に鑑賞したいのが、アルモドバルの代表作のひとつでもある傑作『神経衰弱ぎりぎりの女たち』です。同作でカルメン・マウラが演じた主人公の名はペパ、そして恋敵の人妻の名がルシアであり、2作の間になんらかの関係性が見て取れます。 その意味で、『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』は『神経衰弱ぎりぎりの女たち』の習作的位置づけの作品だったとも考えられますし、このデビュー作があったから後に名作が生まれたと言っても過言ではないでしょう!

次回の「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」は?

次回は2018年7月15日に更新! 次は一体どんなカルト映画が取り上げられるのでしょうか?お楽しみに!