2021年1月25日更新

【連載#11】今、観たい!カルトを産む映画たち『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』巨匠アルモドバルのデビュー作【毎日20時更新】

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連載第11回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第10回の『ひなぎく』(1966年製作)に続き、第11回は『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』(1980年製作)を紹介します!

巨匠ペドロ・アルモドバル、幻の長編デビュー作『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』

『ロッキー・ホラー・ショー』(1976年)で知られるリトル・ネル(ネル・キャンベル)が歌う「Do the Swim」と、強烈なイラストで始まる映画『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』。スペインが生んだ世界的巨匠ペドロ・アルモドバル、幻の商業映画デビュー作です。 1980年にサンセバスチャン国際映画祭で上映されるや批評家からは酷評されるものの、その斬新でセンセーショナルな内容から一部マニアの間で文字通りカルト的人気を博しました。本国では4年に渡って上映されています。 独特の凝ったオープニング・クレジット、カラフルでポップな衣装やインテリアなどアルモドバルならではのスタイルがすでに垣間見え、そればかりか突き抜けたキャラクターたちが象徴する性の解放、異端や倒錯、自由の謳歌といったライフワーク的テーマがすでに主軸となって流れています。 わずか40万ペセタの低予算により16ミリフィルムで撮影されたという『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』。さていったいどんな作品なのか、その内容と見どころに迫りましょう!

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『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』のぶっ飛んだストーリー

主人公はアパートに1人で暮らす超風変りな女ペピです。ベランダで栽培していた大麻のことを見逃してもらう見返りとして、ある中年警官からレイプされてしまいます。処女を奪われた復讐を企てて警官の妻ルシに接近すると、ルシは筋金入りのマゾヒストでした。 ペピは友人でパンクロッカーのボンをルシの相手にあてがい、その後は3人がつるんであちこちを巡り、奇妙な人々と遭遇を繰り返していくというのが大筋のストーリーです。 冒頭の事件以外、脈絡のあるドラマチックな物語性はありません。終盤、ボンが「なぜ、私たちは親しくなったのか」と問いかけるとペピが言います。「答えなんて求めないわ」。 最後にルシが絡む事件が1件起こりますが、結局は3人の女の突き抜けた個性、さらにゲイ、レズ、トランス、ドラッグ、SMプレイなどなんでもありの刹那的な人間関係が綴られるばかりなのです。

ペピを演じるのはアルモドバルのミューズ、カルメン・マウラ!

カルメン・マウラ
©️Clemens Niehaus/Future Image/WENN.com

ヒロインのペピを演じたのが、今やスペインを代表する国民的女優カルメン・マウラです。本作以後、アルモドバル作品にはなくてはならないミューズとなり、数々の作品で主人公を演じました。 『グロリアの憂鬱』(1984年製作)では崩壊していく主婦、『欲望の法則』(1990年)では性転換した元男性の女、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1989年)では嫉妬に狂う愛人を演じています。これ以降アルモドバル監督作からは遠ざかっていましたが、2006年に久しぶりに『ボルベール〈帰郷〉』に出演しました。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』ではゴヤ賞の最優秀主演女優賞に輝いています。 当時まだ35歳だった本作でも、強さと脆さを同居させ、エキセントリックな魅力を存分に発散するなどまさにカルメン・マウラの独壇場です。 ちなみに、ルシを『バチ当たり修道院の最期』(1989年)にも出演しているエバ・シルバ、ボンを歌手やタレントとしてスペイン語圏で活躍するアラスカが演じています。

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あらためてペドロ・アルモドバルの経歴を紹介!

ペドロ・アルモドバル
©Zabulon Laurent/ABACA/Newscom/Zeta Image

ペドロ・アルモドバルは1951年9月24日、スペインのカルサーダ・デ・カラトラーバに生まれました。両親の希望で司祭になるため神学校に入り、その時の経験を映画化したのが『バッド・エデュケーション』(2005年)です。 やがて映画に興味を持ち、1967年にマドリードに移ります。国営電話会社で働きながら短編映画の製作を開始し、1980年についに初の長編映画『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』を自主制作。その後は、発表する作品ごとに熱狂的なファンを獲得していくことに。 1988年製作の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』は、ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞し、アカデミー外国語映画賞ノミネートなど、世界的にその名が広く知れ渡るきっかけとなった作品です。 1999年には『オール・アバウト・マイ・マザー』でアカデミー外国語映画賞を受賞し、2017年には第70回カンヌ国際映画祭の審査委員長を務めるなど、名実ともに映画界を代表する巨匠となりました。

見どころ1:当時の社会的背景を知れば作品の見方が変わる!

本作を深く理解するには、当時のスペインの社会的・政治的状況を知っておく必要があります。 長らく独裁者として君臨したフランコが1975年に死去し、翌年には検閲も廃止されるなど社会全体が民主化へと動き出したスペイン。80年代に入る頃には文化面でもマドリードを中心に反権威的な芸術運動が花開き、自由な表現、タブーの打破、パンク、ドラッグカルチャーなどを特徴とするムーブメントが様々な分野で生まれました。 映画界でその一翼を担ったのがペドロ・アルモドバルでした。同性愛やドラッグの愛用、宗教的堕落といった反社会的ともいえるアルモドバルの作品は、そうしたムーブメントの中でも際立って先鋭的であり、賛否含めて社会に大きな衝撃を与えたのです。 当時はパンクバンドに所属し、反体制派の出版や演劇の人々と交流を重ねる中で出会ったのが実はカルメン・マウラです。つまり2人は同志ともいえる間柄であり、『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』はそんな2人が最初に華々しく打ち上げた最初の花火だったともいえるでしょう!

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見どころ2:アルモドバルのファンなら要チェックの隠れたキャスティング

セシリア・ロス
©︎Agencia el Universal GDA Photo Service/Newscom/Zeta Image

物語の中で、最初無職だったペピは突然思い立って広告会社を立ち上げます。ディレクターとしてパンティーのCMを製作するのですが、そのCM中にモデルとして登場するのがセシリア・ロス(画像)です。 セシリア・ロスといえば、『オール・アバウト・マイ・マザー』では主人公である母親を演じるなど、アルモドバルのミューズの1人。本作で見せるうら若きセクシーな姿態を持つ彼女は、言われなければ同一人物だと気づかないでは? また、1シーンにだけ登場するド派手な舞台衣装を着た女性を演じているのが、フリエタ・セラーノです。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』で気が狂った人妻を演じて強烈な印象を残した女優といえば、ファンなら思わずニヤリとしたくなるでしょう!

2作あわせて鑑賞したい!『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』と『神経衰弱ぎりぎりの女たち』

『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』は日本において長らく未公開のままでしたが、2017年にようやくDVD/BDとして発売されました。また動画配信サービスでは、2021年1月現在はU-NEXTとビデオマーケットで視聴可能です。 そして同時に鑑賞したいのが、アルモドバルの代表作のひとつでもある傑作『神経衰弱ぎりぎりの女たち』です。同作でカルメン・マウラが演じた主人公の名はペパ、そして恋敵の人妻の名がルシアであり、2作の間になんらかの関係性が見て取れます。 その意味で、『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』は『神経衰弱ぎりぎりの女たち』の習作的位置づけの作品だったとも考えられますし、このデビュー作があったから後に名作が生まれたと言っても過言ではないでしょう!こちらもDVD/BD両方が発売しており、楽天TVではレンタルで配信もしています。

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次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

連載第11回は、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の商業映画デビュー作『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』を紹介しました! 後のアルモドバル監督ならではのスタイルが垣間見え、性の解放や異端と倒錯など彼の得意とするテーマ性をメインに据えた、初期アルモドバルを知る上で貴重な作品です。 次回の連載では、「ゴジラ」シリーズの本多猪四郎監督、円谷英二特撮監督による埋もれた名作怪獣映画『大怪獣バラン』を紹介します。 それでは次回、「今、観たい!カルトを産む映画たち」第12回もお楽しみください。