2018年7月15日更新

【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち♯12『大怪獣バラン』【日曜更新】

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マイナーな映画を紹介する本連載。今回はマイナー過ぎる事が一部の怪獣ファンの心を掴む『大怪獣バラン』をご紹介。今回は本作のあらすじや、なぜマイナーなのかに迫ってみたいと思います。

目次

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です。毎週日曜に更新いたします。

不遇の傑作『大怪獣バラン』

マニア向けという印象の強い怪獣映画。その中でもとびっきりにマニアックとされているのが今回取り上げる『大怪獣バラン』です。 知られていない……というだけであればよりマイナーな映画はいくつも存在しますが、本作が特異なのは「マイナー」「不遇」な作品として一部のマニアの心を掴んでいる点にあります。 本作は時代の流れに乗れずマイナーな映画に甘んじてしまいました。今回は不遇ながらも他にはない魅力を持ち合わせている『大怪獣バラン』を紹介します。

『大怪獣バラン』のあらすじ

東北地方で、シベリアにしか生息しない蝶が発見されました。杉本生物研究所から派遣された調査員は謎の死を遂げてしまいます。 杉本研究所の魚崎たちは死の真相を究明すべく、事件の現場となった岩屋村へ向かいます。そこは土着の神・婆羅陀魏山神(ばだらぎさんじん)を祀る小さな村でした。 婆羅陀魏山神として祀られていた怪獣・バランが目覚め、村は破壊されてしまいます。調査員を襲ったのは眠りから覚めようとしていたバランだったのです。 バランは自衛隊の攻撃を意に介さず、むささびのように手脚の間に皮膜を広げて飛び去ってしまいました。 バランは東京湾に上陸し、羽田空港を襲います。ここに都心への侵攻を阻止しようとする自衛隊とバランの最終決戦の火蓋が切って落とされるのです。

野村浩三(野村明司)唯一の主演作品!

本作は特撮の名脇役として知られる野村浩三が魚崎健二役で唯一主演した作品として知られています。 野村は本作の他、『ウルトラQ』第22話「変身」にてゲストキャラクター・浩二と、浩二が巨大化した巨人を演じたことで知られています。後に野村明司に改名し、1970年代に俳優業を引退しました。 調査員だった兄の死の真相を追う新聞記者、新庄を演じるのは園田あゆみ。東宝のドル箱だった「社長シリーズ」の常連役者として活躍しました。 1963年を最後に映画界を去り、野村と同じく本作が唯一の主演となります。 脇役には稀代の特撮役者にして黒澤映画に欠かせない名優、土屋嘉男や『ゴジラ』でオキシジェン・デストロイヤーを開発した芹沢博士役を演じた平田昭彦などの特撮ファンを引きつける役者が並びます。役者の濃さも熱狂的なファンを生む遠因と言えます。

ゴジラシリーズの本多猪四郎、円谷英二、関沢新一トリオが初顔合わせ!

本作の演出は先行する『ゴジラ』や『空の大怪獣 ラドン』を生んだ本多猪四郎(本編監督)・円谷英二(特撮監督)コンビが担当しました。また、『宇宙大戦争』(1959年)以降、先の2名と共に東宝特撮を支えることになる脚本家・関沢新一が初めて手がけた特撮作品でもあります。 この3名が1964年に手がけた『キングコング対ゴジラ』は歴史的大ヒットを飛ばし、後のゴジラシリーズも円谷が死去するまでこの3名が手がけるようになりました。ディープな特撮オタクは、彼らの初顔合わせである本作に特別な印象を持つのです。

主役怪獣・むささび怪獣バランと自衛隊の対決が一番の見どころ

本作はエキゾチックな神秘性を帯びた岩屋村の光景や、徐々に明らかになっていく怪獣の存在とついに現れる大怪獣という丁寧な筋運びも魅力です。しかし、一番の見所はクライマックスで間違いないでしょう。 本作のメインとなるむささび怪獣バランは数十メートルを超える巨体で、背中のハリネズミのようなトゲと飛行する際に手足の間に広げる皮膜が美しい怪獣です。クライマックスでは羽田空港を舞台に大暴れし、自衛隊との戦いが繰り広げられます。 この戦いでは『ゴジラ』のオキシジェン・デストロイヤーのような特撮特有の超兵器は登場しません。バランの習性を活かした現実的な作戦が執り行われます。 地味ながらも堅実な戦いが、玄人の心を捉えました。もちろん、怪獣モノならではの破壊のカタルシスも盛り込まれており、見るものを飽きさせません。

本作限りの「東宝パンスコープ」とは?

本作は元々、アメリカのテレビ映画として制作開始されました。当初はテレビの画面サイズだったスタンダード(4:3)で制作されていたものの、テレビ放映がキャンセルとなったため劇場映画へと企画が変更されたのです。 当時はすでにスコープサイズ(スタンダードに比べて横長な映像)が映画の主流になっていました。そこで本作は撮影済みのフィルムの上下を隠し、横長のスコープサイズに作り変えて撮影を続行、「東宝パンスコープ」と銘打ち公開しました。 制作初期に撮影されたシーンは本編・特撮とも天地のカットが考慮されずに撮影されていたため、構図が独特です。役者の顔が見切れてしまっているようなカットも散見されますが、文字通り画面狭しとバランが暴れまわるど迫力な映像になっている部分もあります。

時代の流れに押され、マイナー映画に

本作は当時のテレビの規格に合わせ、白黒で制作されていました。劇場映画に変更になった時にはすでに多くの場面が撮影されていたため、白黒のまま製作が続行されます。 本作の上映当時はすでにカラー映画が普及しており、怪獣映画でも『空の大怪獣ラドン』が2年前にカラーで公開されていたため、白黒の本作は地味な印象を与えました。フィルムの面積を生かせない映像も若干粗めで、あまり評判は高くなかったようです。 白黒というのは後々までデメリットとして影響しました。再上映の頻度もカラー映画より少なく、カラー放送移行後のテレビでもなかなか放映されずに人目に触れる機会が少ないままとなってしまったのです。 2018年7月現在現在、本作のBlu-rayは発売されていません(DVDは存在)。他にはCS放送や名画座での上映などもありますが、一番手頃なのはAmazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスでの視聴です。

エキゾチックでリアリティのある筋運びが『大怪獣バラン』の魅力

映画の主役怪獣ということで、本作に登場したバランは『怪獣総進撃』などに客演しましたが、作品のマイナーさ故に大きな扱いをされない事が続きました。その結果、特撮オタクは「なかなか見られない作品と不遇な怪獣」として本作とバランを認識し、特異な存在感を持つに至りました。 ですが、本作は決してただマイナーで不遇さが目立つだけの作品ではありません。時代の流れが生んだ特殊な上映形態、リアリティの高いバラン撃退作戦、エキゾチックで神秘的な要素を強く持つ岩屋村の表現などが盛り込まれた怪獣映画は非常に珍しいため、一部で大きく評価されています。

次回の「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」は?

次回は2018年7月22日に更新! 次は一体どんなカルト映画が取り上げられるのでしょうか?お楽しみに!