2018年7月28日更新

実写版『BLEACH』はどこまで原作に忠実なのか【ネタバレあり】

BLEACH
(C)久保帯人/集英社 (C)2018 映画「BLEACH」製作委員会

超人気漫画の実写化だけに、誰もがその完成度に興味津々。脚色の魔術師と呼びたい佐藤信介監督の映画『BLEACH』は、果たしてどこまで原作の面白さに迫ることができたのでしょうか。

実写版映画『BLEACH』( ブリーチ)と原作マンガを比較してみよう

全70話を108分に凝縮。「脚色の魔術師」佐藤信介の匠の技をチェック

原作を執筆したのは久保帯人。週刊少年ジャンプで2001年から2016年まで、全686話に渡って連載された超人気作品です。コミックスは全74巻が発行され、累計発行部数は1億2000万部を突破しています。 そんな人気作品をついに実写化したのが、佐藤信介監督。これまで『GANTZ』『図書館戦争』『アイアムアヒーロー』『いぬやしき』といった人気漫画を次々に実写映画化、その抜群の脚色センスには定評があります。これまでは比較的カルトなタッチの作品が中心でしたが、今回は一気にメジャー級の作品に挑むことになりました。

映画版の核になるのは「死神代行篇」。『BLEACH』という壮大な物語全体のイントロに当たる全70話を、どのように脚色して108分の作品にまとめているのでしょうか。キャラクターの関係性やエピソードなど、気になるポイントを中心に「原作忠実度」をチェックしてみたいと思います。 注意:この記事はネタバレ情報を含みます。

あらすじやキャスト情報を詳しく知りたい人はこちら

物語の根幹は原作に忠実。一護とルキアの運命的な友情物語

物語は、人並外れた霊力を持つ15歳の高校生・黒崎一護と、「死神」として死後の世界「尸魂界(ソウルソサエティ)」からやってきた少女・朽木ルキアの出会いから始まります。初めこそ反発していたふたりですが、怪物のような姿形の悪霊ホロウ(虚)から人々を守る戦いを通してやがて、固い絆で結ばれていきます。 冒頭、一護がスケボー少年の一団ともめるシーンは、原作とほぼ同じ。相違点は実写版では霊体が少年になっていることでしょうか。漫画版の少女はほどなくホロウに襲われて食べられてしまいますが、こちらは追われはするものの、とりあえず元気?な様子。 生き死にに関して比較的マイルドな表現になっているあたりは、どちらかといえばアニメ版に近いようです。

一人前の死神代行になるために……修行は、実写版の方がハード?

借り物だったハズのルキアの霊力を根こそぎ奪い去って死神と化した一護は、いきなりホロウを一刀両断。ルキアもビックリの天性の才能を見せつけます。けれど彼女がソウルソサエティに帰るために必要なだけの霊力を返すには、まだ力不足。そのため、ふたりは霊力を高めるべく特訓に励むことになります。 漫画版では得体のしれないピッチングマシン「ランディー・ジョンソン」を、ルキアがどこやらから調達。コショウ入りボールに書かれた絵柄を巡って一護ともめるシーンがありますが、実写版の鍛練はよりハード。 河原に作られた「鍛練場」は古タイヤやロープなどを駆使していて、手作り感たっぷりです。原作同様ピッチングマシンは出てきますが、マシンガンよろしく連写できる最新?型を、ルキアが楽しげにぶちかましまくります。 どこか『あしたのジョー』を思わせるアナログかつアナクロな雰囲気のなかで、一護とルキアのつながりが次第に深まっていく様子が表現されているのでした。

原作キャラ設定と実写版では、ココが違う!

美人系の織姫以下、チャド、たつきに浅野が登場。あれ?水色がいない……。

死神の力を失ったルキアはほどなく、空座(からくら)第一高等学校に「転校」してきます。一護の同級生としては、チャドこと茶渡泰虎(小柳友)、井上織姫(真野恵理菜)、有沢たつき(伊藤梨沙子)と浅野啓吾(山田寛人)が登場。 織姫を演じる真野恵里菜は、小柄ながら実は隠れEカップと噂されている美人タイプ。「天然感」は少々薄めです。それでも一護のことが気になっているところは、原作まま。一護とチャドのなにげない信頼感も、しっかり伝わってきます。 お約束の「一護は死んだよ」の台詞は、浅野が担当。つまり年上女子からカリスマ的人気を誇るナチュラルボーン熟女キラー・小島空色が実写版では登場しません。 ワンショットながら、「さわいだら殺す」というルキアの脅しメッセージにも要注目。原作とアニメでは手のひらに書いてあるのに、実写版では教科書に書いてあります。ちなみにアニメ版では「騒いだら」と漢字でしたが。 実はこのささやかな違いが、最後の最後で重要な意味を持ってくることに、初めはまったく気がつきませんでした。

意外に普通な黒崎家の人びと。江口洋介=お父さんの変人感も少し薄め?

家族想いの熱血父さん・一心(江口洋介)や、癒し系の遊子(ゆず/平澤宏々路)、こまっしゃくれた夏梨(安藤美優)が揃う黒崎家。亡くなった母親・真咲(長澤まさみ)の遺影が、原作の特大ポスターから普通サイズのピンナップ大になっているところからして、お父さんの変人感はかなり薄まっている印象があります。 それでも墓参りのエピソードで一心がつぶやく、「俺の惚れた女は、自分のガキを守って死ねる女だった」以下の名台詞は、健在。しっかり心に残ります。 ちなみに、原作ではレギュラー扱いだった暴走タイプの改造魂魄「コン」やドン・観音寺など、コメディパートの「主役」たちが揃って出番なし。普通になってしまったお父さんのキャラも含め総じて、コミカルなエピソードが少ないのは、ちょっと残念。

ちょっと立派な浦原商店。駄菓子屋にしては怪しい雰囲気

ルキアが霊界グッズを購入しているのは、原作同様に浦原商店です。もちろん浦原喜助(田辺誠一)が店主。ただし花刈ジン太や紬屋 雨(ウルル)ら、キュートで謎めいた店員たちは、実写版には登場しません、 また、単なるしがない駄菓子屋風情という設定だったはずの浦原商店の店構えは、ずいぶん立派になった様子。より怪しい雰囲気が漂っていました。

真咲の死が呼び寄せた、グランドフィッシャーという悪夢

実写版で真咲の死は、原作同様に重いトラウマとして、一護を悩ませています。ただし物語との絡みは、比較的あっさりしたもの。グランドフィッシャーとの戦いでも血まみれの擬態がいきなり登場したのには、驚きました。 グランドフィッシャー自体、原作のような「悪の親玉」的狡猾さは持ち合わせていません。54年に渡って死神たちの追跡を退けてきた「凶悪犯」ですが、どちらかと言えば狂暴性の方が前面に押し出されている感じです。 それでも一護の、大切なものを守れず逆に守ってもらった悔しさは、原作でも本作でも重要なテーマとなっているようです。

ホロウとの戦闘シーンは少な目。織姫「兄」もチャド「インコ」もなし。

ルキアと一護の修行がかなり濃密に描かれているのにもかかわらず、ホロウとの戦闘シーンはかなり少なめ。とくに織姫とホロウ化した兄をめぐる悲劇や、チャドとインコに憑依した少年との切ない交流など、二人の主要キャラクターの特別さを印象づける重要なエピソードが省略されているのは、ちょっと残念でした。 雨竜が撒き餌でホロウを呼び出す話も、たいした混乱なしにあっさり収束。チャドの右手は変身しないし、織姫の「盾瞬六花(しゅんしゅんりっか)」も発動しません。さらに巨大な大虚(メノスグランデ)も出番なし。 ただし、ホロウの造形は本当に素晴らしい出来です。原作の設定に対してちょっと知能が低めですが、能面のようなデザインはとても不気味です。最初に出てくる「フィッシュボーン」は鬼、「ヘキサポダス」は女郎蜘蛛、「グランドフィッシャー」は秋田のなまはげを、それぞれモチーフとしているのだそうです。

尸魂界からやってきた二人組のキャラは、少々「悪人」寄り。

BLEACH
(C)久保帯人/集英社 (C)2018 映画「BLEACH」製作委員会

グランドフィッシャーとの因縁めいた対決の時点から、実写版の物語は一気にクライマックスに向けて加速していきます。原作ともっとも大きく変わってくるのも、このあたりから。阿散井恋次(早乙女太一)と朽木白哉(MIYABI)がすでに人間界に現れます。思い切り!急展開すぎるぞ! ルキアを助けるためにグランドフィッシャーを倒す、という枷の与えかたも実写版のオリジナル。緊迫感を強めるためでしょうか、白哉たちの一護に対する態度が、死神らしい使命感や武士道へのこだわりというよりも、性根から「性悪なやつら」的雰囲気になっています。 彼らが生きている尸魂界(ソウルソサエティ)の風景は、暗くて不気味な瀞霊廷(せいれいてい)がほんのちらっと映る程度。六番隊隊舎も秘密結社のアジト的印象で、白哉と恋次の悪役イメージをさらに強調しているように思えます。

斬魄刀の解放は、蛇尾丸のみ。残月のザの字も出てこないのは残念。

BLEACH
(C)久保帯人/集英社 (C)2018 映画「BLEACH」製作委員会

『BLEACH』では、死神たちはそれぞれに名のついた剣をふるってホロウに対峙し、名前を呼ぶことで「始解」や「卍解」など刀が持つ真の力を解放することができます。 実写版で名前が呼ばれるのは、恋次の愛刀「蛇尾丸(ざびまる)」のみ。解放状態らしい禍々しさや猛々しさを、CGならではの迫力ある動きで楽しませてくれます。 どうしたって漫画が叶わない、と思えたのは、このアクションシーンでした。『図書館戦争』シリーズのほか最近では『いぬやしき』を手掛けたアクション監督、下村勇二のこだわりぶりは半端ではありません。街並みを丸ごと作り上げた大規模セットを使ってのクライマックス・バトルシーンは圧巻でした。

「やられる→めちゃくちゃ強くなる」のループ

『BLEACH』流進化の法則は健在

戦士として死神として、一護は確実に進化していきます。が、その道のりは決して平坦なものではりません。とくにグランドフィッシャー戦では大苦戦。さらにボロボロのまま恋次と対峙します。ましてや、白哉にはまったく歯がたちません。 けれど、この『負ける』ことが実は、漫画版からの『BLEACH』ならではの進化パターン。一護は、メタメタにやられて死にかけながらも、驚異的な生命力で立ちあがります。死闘の真っ只中で成長し、勝利をつかむのです。 苦しみぬいた末に一時は勝利の喜びを味わうものの、直後にもっと強い敵が現れてさあ、どうなる?というかたちで話が展開していくところは、ある意味、物語を途切れることなく盛り上げる『BLEACH』流のセオリーと言えるでしょう。 朽木白哉の強さのインフレ感は、『BLEACH』らしさ全開です。

【ラスト】救われた物語の次は、やっぱり「救う」物語なのでしょうか。

結末に至るまでは漫画版とのいろいろな違いはあるものの、原作と同じく実写版でも、ルキアの強い意思と優しさに一護が救われるところで物語はひとまず幕を閉じます。さまざまな要素を取捨選択して再構成し、感動的にまとめてしまう巧みさは、さすがに佐藤信介監督!と言ったところでしょう。 続編に関しては、微妙なニュアンスが残された印象。実写版ラストのルキアのモノローグは、原作のように犯罪者として処刑されるような切迫感はあまり感じられません。つまり一護たちが、慌てて尸魂界に向かう必然はなさそうです。 しかも後日談的には、死神の「記憶置換」によってルキアの存在そのものが、一護を含めて皆の記憶から消滅しているようです。それでも続編をほのめかすように余韻を残していたのが、教科書に残されていたいたずら書きでした。 「さわいだら殺す」 それを見た時の一護のなんとも言えない笑顔が、とても意味深。救われた物語の続編はもしかするとやはり、救う物語?なのでしょうか。

続編を予感させる「メッセージ」と、ささやかな希望。

エンドロール直前、タイトルバックに「死神代行篇」のロゴが飛び込む演出には思わず拍手。いきなり感満載な「メッセージ」の意図は、いかに?続編の可能性はありそうな終わり方ではあります。 そういえば原作ともっとも違っていたのはもしかすると、「色気」が無いところだったのかもしれません。織姫のバストも控えめだったし。もし尸魂界篇に突入するのならぜひ、護廷十番隊副隊長・松本乱菊もしくは四楓院夜一の猫じゃない姿が、セクシーに描かれることにも期待したいです。