2018年7月21日更新

『未来のミライ』ネタバレ感想!「デジモン」以来の細田守ファンが綴る、鑑賞して驚いた話

©2018 スタジオ地図

十数年来の細田守監督ファンが、最新作『未来のミライ』を劇場公開初日の朝イチからじっくり鑑賞。不思議な家族の物語に秘められた細田監督の「新境地」は、まさに驚きの連続となりました。この記事では、本作のネタバレや感想をご紹介します。

『未来のミライ』のネタバレ感想!【4歳児が主人公、0歳児がヒロイン!?】

生き生きとした躍動的なキャラクターや不思議な奥行きを感じる世界観、基本はSFファンタジーでありながら、瑞々しい青春群像や心温まる家族の絆を描き切るストーリーテラーとしての驚くべき手腕。細田守という監督には新作が公開されるたびに、驚かされてきました。 新作『未来のミライ』も、思い切り「やられた〜」感満載。それはあるいは「そうきたか〜」感、と表現してもいいかもしれません。 なにしろ主人公「くんちゃん」は小学校にも行っていない4歳児。ヒロイン、ミライちゃんは生まれたばかりの0歳児。舞台は風変わりのレイアウトの小さな一軒家で、「おとうさん」と「おかあさん」、犬とともにたまに顔を出す「ばあば」「じいじ」を合わせても、主な登場人物はたった6人です。 そんな少ない登場人物たちの個性をフルに生かして、細田監督は98分間を飽きずに楽しませてくれました。号泣こそしないけれど、かなり笑えます。観終わったあとは、なんだかとっても穏やかな気持ちになれます。 くんちゃんのおとうさんと同じく二児の親となった細田監督が挑んだ「小さな家族をつなぐ大きな命の物語」は、やっぱり私たち熱狂的ファンをしっかり驚かせてくれたのでした。 それでは、ここから印象に残ったシーンのネタバレや感想を紹介していきます。

【ネタバレ】家族の姿が超リアル!赤ちゃんミライに萌えてしまった

『未来のミライ』
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本作の見どころのひとつが、とってもリアルな「家族の関係」。主役の4歳児・くんちゃんには注目の若手女優、上白石萌歌を抜擢。アニメ吹き替えは初挑戦ながら、幼児ならではの強情でわがままな暴君ぶりを、見事に演じています。 星野源演じる、主夫業も一生懸命こなす優しいおとうさんと、麻生久美子熱演の、何事にも全良投球なおかあさんとの、育児をめぐるバトルがまた壮烈。愛犬の「ゆっこ」も巻き込んで、文字どおりアルマゲドン級のパニック状態に陥るシーンは、育児経験者ならほぼ「あるある」なシーンでしょう。 対照的に穏やかな家族の時間の「幸せ感」がまた、格別です。なにより初めて家に帰ってきたミライちゃんの愛らしさは、まさに天使級。小さな手がくんちゃんの指をつかもうとするシーンはとても繊細で美しく、指の柔らかさまで伝わってきそうで。何度でも観たくなる、素敵な1シーンでした。 こうしたリアリティが生まれた背景には、細田監督自身が一男一女の父親であることがあります。二人目が女の子で長男はくんちゃん同様、赤ちゃん返りのように泣き喚いたのだとか。 ちなみにこの長男がある日、「夢の中で大きくなった◯◯チャンに会ったよ。一緒に電車に乗ったよ」と語ったことが、この物語が誕生するきっかけになったそうです。

ミライちゃんは中学生、くんちゃんは犬に変身?【ファンタジー感も満載だった】

未来のミライ
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そんな小さな家族のほのぼのとした日常は基本そのままに、くんちゃんのまわりで不思議な出来事が起こり始めます。 構ってもらえずふてくされたくんちゃんが庭に出ると、突然奇妙なおじさんが登場。「王子」と名乗ってあれこれ語りかけますが、実は愛犬ゆっこが人間の姿に変身していたのでした。その声は、劇団出身の吉原光男がコミカルに演じています。 この時、くんちゃんはおじさん姿のゆっこから尻尾を引っこ抜き、自らのお尻に装着。犬に変身します。リアルゆっこが止めるのもきかず、ダイニングに飛び込むくんちゃん。おとうさんとおかあさんには、そんなくんちゃんがゆっこに見えているから摩訶不思議。 犬が人間になり人間が犬になる。このエピソードから一気に、物語のファンタジー濃度が上がっていきます。予告編を見る限りは単なるタイムススリップものかと想像していたのですが、物語はもっと複雑な展開を見せはじめました。

『未来のミライ』はコメディ要素もあり?【ミッション:お雛様を片付けろ! 】

未来のミライ
©2018 STUDIO CHIZU

コミカルな小ネタでクスっと笑わせてくれるシーンが多いことも本作の魅力。たとえば、未来のミライちゃんが初めて登場する場面。中学生の制服姿で仁王立ち。鼻にはくじらクッキーを挟み込むという荒技。「私の顔で遊ばないでよね」と怒った顔がキュートです。そんな彼女をあっさり妹として認識できるくんちゃん、そうとう大物です。 それはさておき、未来のミライちゃんの幸せな結婚生活のために、くんちゃんとミライちゃん、おじさんゆっこが力を合わせて、おとうさんの目を盗みながらの「雛飾り回収ミッション」を敢行。なんとか成功しそうになるのですが、お内裏様が持っているはずの笏がなぜかお父さんのお尻にへばりついてしまいます。戦いはついに、だるまさんが転んだ状態に突入し,,,,,,。 焦りまくった表情の3人がゆっくりとおとうさんのお尻に迫っていくシーンは、相当なインパクトがあります。そのインパクトの強さに、執筆者である私自身も思わず笑ってしまいました。 ちなみに相当なインパクトといえば、頻繁に登場するおかあさんの「鬼ババ」変化も壮絶。イメージの原点となっている絵本「オニババ対ヒゲ」は、絵本作家のtupera tupera(ツペラ ツペラ)が描いたものです。

不思議なお家は本職が設計した家!そして庭が異空間に繋がるゲートだった?

未来のミライ プレス
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くんちゃんと家族が住む家は、斜面に沿って建てられた不思議な作りの変則3階建。その中央には、小さな木がたつ箱庭が設けられています。くんちゃんが不思議な現象に襲われるのは、いつもここ。タイムマシン?というよりも、空間そのものが別の時空間へとつながる「ゲート」的なイメージを感じました。 作中でこの家を設計したのはおとうさんとなっていますが、実は、プロの建築家である谷尻誠によって「住むことができる」形に作り上げられているのだそうです。そして、この小さな家と小さな庭が、『未来のミライ』の物語が展開される中心的な舞台となっています。 細田監督はこの「小さな世界」にこだわった理由として、どんな世界でも作り上げることができるアニメーションだからこそ、限られた舞台の中で四季の変化などを描き切りたかった、と語っています。 いちいち階段を上がり下がりしなければならないので、決して住みやすい様子ではありません。それでも、離れふうの子供部屋などには、京都に多い町屋造り(の中でも“表屋造り”に近いかも)にも似た居心地の良さが感じられました。

時空を越えた旅の案内人は、ミライちゃんだけではなかった

未来のミライ
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中学生版ミライちゃんの出現を機に、くんちゃんは頻繁に異世界へと奥深く迷い込むことになります。水流に巻き込まれてたどり着いた過去で出会うのは、幼いころのお母さん。散らかすことに喜びを感じるちょっと変わった少女と、くんちゃんは楽しいひとときを過ごします。 次に迷い込んだ時代に出会うのは、オートバイを修理している青年。福山雅治が声を担当しているだけに、そうとう渋くてカッコいい男です。くんちゃんは恐る恐る馬に乗り、バイクにまたがり、それまで知らなかった世界を体験します。実はこの青年、くんちゃんにとってはひいおじいちゃんに当たる人物なのでした。 くんちゃんは、そうやって「家族」の過去と向き合うことで、少しずつ成長していきます。決して一足飛びに進化するのではなく、おずおずと手探りで半歩ずつお兄ちゃんになっていく様子は、もどかしいながらも微笑ましく、愛おしいものでした。

「デジタル・フロンティア」が手がけた、未来の東京駅が圧巻すぎた

未来のミライ
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くんちゃんがひいじいじと出会ったのは、第二次世界大戦が終わった直後の横須賀の街です。美術を担当した高松洋平は、そこに「戦後間もない、白昼夢のような世界」を描きたかった、と語っています。このようにくんちゃんが旅する異世界は、それぞれに異なる雰囲気が漂っています。 やがてくんちゃんは、時代すら判然としない、異質な姿の巨大な東京駅に迷い込んでしまいます。60を超えるホームが複雑に入り組み、無表情な人々が行き交う駅は、取り残されたくんちゃんの心細さを強く感じさせる空間でした。 人物を中心に手書きにこだっている細田監督ですが、このシーンにはふんだんんに精密なCGが使われています。制作を担当したのは「デジタル・フロンティア」という日本の映像企画・制作会社。『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』にも関わったほか、最近では映画『いぬやしき』(2018年)でその高い技術力をアピールしています。

4歳児の冒険に、大の大人が教えられたことがある

未来のミライ
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東京駅からの帰還。赤ちゃんのミライちゃんを救い、中学生のミライちゃんに助け出されたくんちゃんは、もうそれまでのくんちゃんではありませんでした。もちろん4歳児であることには変わりないのですが、お兄ちゃんとしての自覚が大きな変化をもたらしたようです。 そして、くんちゃんの様々な異世界・異空間での冒険の中で、大の大人の心にも刺さったセリフがひとつ。横須賀のひいじいじが、馬に乗ることを怖がるくんちゃんに告げます。 「下は見ねえで、遠くだけを見ろ。遠くだけを見ろ。」 くんちゃんは自転車に乗れるようになりました。下を見ずに遠くを見る。前を向く。そういう生き方ができたからこそひいじいじが愛する人と一緒に幸せになることができたのだ、と知るのは、それからちょっと経ってからのことです。 非常にシンプルなセリフですが、生きていく上で大切なことがぎゅっと詰まってるこの言葉。そしてその言葉を信じ、一歩ずつ前へ進んでいくくんちゃんの姿。私たちもついつい嫌なことや怖いことに目を向けがちですが、明るい未来が待ってると信じて前向きに行動することが大事なんだと改めて感じさせられたのでした。

『未来のミライ』に、懐かしい「時かけ」のテイストが......?

家族と親友。関係性こそ異なるものの、『未来のミライ』で描かれたリアルな人と人のつながりは、どこか『時をかける少女』に通じるものがあるように思えます。 さらっとした仲良し男女三人組の関係に混じる、ほんのかすかな「恋心」。 なんでも分かり合えるはずの家族の関係に混じる、とても純粋な「嫉妬」。 人対人の描き方がとことんリアルだからこそ、そこに混じる異物感が物語のテーマ性をはっきりと浮かび上がらせるあたりもまた、このふたつの細田作品に共通する魅力と言えるかもしれません。 そういう意味でこの『未来のミライ』は、ちゃんと新しいのだけれどちょっと懐かしい細田テイストに再会できる作品と言えそう。物語を通して異空間を旅したのは、もしかするとくんちゃんだけではなかったのかもしれません。