2021年1月29日更新

【連載#15】今、観たい!カルトを産む映画たち『愛と憎しみの伝説』ラジー賞受賞なのになぜか愛される映画【毎日20時更新】

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『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

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連載第15回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

ゼイラム&ゼイラム2 Blu-ray BOX  、販売元:バンダイナムコアーツ
(c)1991 GAGA Communications,Inc.  (c)1994 クラウド/ゼイラム製作委員会

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第14回の『ゼイラム』(1991年)に続き、第15回は日本劇場未公開の『愛と憎しみの伝説』(1981年製作)を紹介します!

ラジー賞受賞なのになぜか熱狂的に愛される『愛と憎しみの伝説』

『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

ハリウッド黄金時代を代表する大女優の1人、ジョーン・クロフォードの知られざる私生活を描いたのが映画『愛と憎しみの伝説(原題:Mommie Dearest)』です。 1981年にアメリカで公開され、不名誉なことに第2回ラジー賞(ゴールデンラズベリー賞)で作品賞など5部門を独占。そればかりか、のちに「1980年代最低作品賞」にも輝きましたが、興行的には予想外のヒットを記録しました。さらに一部の熱狂的なファンを生み、文字通り年月を追うごとにカルト的人気を博していった異色作です。 日本では長らく劇場未公開でしたが、1度テレビで放映されたことで評判を呼び、2013年になってようやくDVD化が決定しました。 批評家筋からの不評に対して、なぜファンからこれほど熱烈に愛され続けるのか……。その意味では、何やら意味深な邦題となった映画『愛と憎しみの伝説』について、その秘密と魅力に迫りたいと思います!

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『愛と憎しみの伝説』のあらすじは?

『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

ハリウッドを代表する押しも押されもせぬ大女優ジョーン・クロフォード。彼女は世間からの好感度を上げる目的で、子供を持ちたいと考えるようになります。ところが、不妊体質である上、2度の離婚歴のある身でなかなか養子縁組はまとまりません。 弁護士の恋人グレッグのコネを使って、ようやく女の子の赤ちゃんを養女として迎え入れることに成功。その子にクリスティーナと名づけて養育するも、独善的な価値観から次第に過剰なほどのしつけを行うようになっていきます。 クリスティーナが反抗的な態度を取り始めたこと、さらに映画製作会社「MGM」との契約破棄など自身のキャリアが低迷し始めたことでストレスはピークに!子供に個人的な苛立ちをぶつけ、虐待ともいえる行動へとエスカレートしていくのでした。

『愛と憎しみの伝説』のメインキャスト2人

映画史に残る怪演で強烈な印象を残したフェイ・ダナウェイ

誰もが知る銀幕の大スターであるジョーン・クロフォードを、フェイ・ダナウェイが本人そのもののメイクアップでなりきり、強烈に演じ上げました。すさまじいほどの狂気と熱のこもった演技は賛否両論を呼んだものの、1度観たら忘れることができない魅力に満ちています。 『俺たちに明日はない』(1968年)におけるボニー役、『チャイナタウン』(1975年)のエヴリン役など数々の名作でヒロインを演じたフェイ・ダナウェイ。1976年製作の『ネットワーク』でついに第49回アカデミー主演女優賞に輝いた彼女が、女優としてまさに脂の乗り切った時期の作品です。 本作の悪評が分岐点となり、フェイ・ダナウェイもまるでクロフォード役が乗り移ったかのようにキャリア的に低迷期に入りました。実際、この役を引き受けたことを後悔していたとインタビューで語っています。 それでも一方で、異様な熱量でみせた壮絶極まる演技は、今や映画史に残る怪演としてファンからほぼ偏愛の域で愛されているのも事実です。

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虐げられる養女を演じたのはダイアナ・スカーウィッド

ジョーン・クロフォードによって虐待され、憎悪と愛情の入り混じった複雑な感情に苛まれる養女クリスティーナをダイアナ・スカーウィッドが演じました。感情を隠しじっと耐え忍ぶ姿は、フェイ・ダナウェイの過激な感情表現とは対照的です。 フェイ・ダナウェイとともにラジー賞の最低女優賞を受賞していますが、裏を返せばそれだけ印象的な演技を残したことの証でしょう。 ダイアナ・スカーウィッドは1978年の『プリティ・ベビー』でデビューし、その2年後には『サンフランシスコ物語』でいきなりアカデミー助演女優賞にノミネートされた実力派です。映画のみならず、『LOST』や『HEROES/ヒーローズ』など話題のテレビドラマにも多数出演するなど、現在も名バイプレーヤーとして活躍を続けています。

大女優ジョーン・クロフォードについて

『愛と憎しみの伝説』
©Photofest/zetaimage

ジョーン・クロフォードは1904年3月23日(生年は諸説あり)、アメリカ・テキサス州に生まれました。1925年にMGMと契約し、30年代には看板スターとしての地位を確立します。一時の低迷期を経て、1945年には『ミルドレッド・ピアース』でアカデミー主演女優賞を獲得し、見事復活を果たしました。 1962年の名作『何がジェーンに起ったか?』では、ベティ・デイヴィスとの競演が話題になったものの、60年代以降は出演作が激減。1970年公開の『地底の原始人・キングゴリラ』を最後に、女優業を引退しています。 プライベートでは4度結婚を繰り返し、本作に登場するクリスティーナとクリストファー含め5人の養子を迎えました。1977年5月10日、心臓麻痺により77歳で死去。彼女の遺書には、クリスティーナとクリストファーの遺産相続権を剥奪する旨が書かれており、親子の仲が険悪であったことがうかがえました。 ちなみにクロフォードは、1970年代初期に応じたインタビューの中で、若手女優たちの中で真のスターになる才能があるのはフェイ・ダナウェイだと述べていたそうです。

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養女クリスティーナが執筆した暴露本が原作

『愛と憎しみの伝説』の原作は、クロフォードが死去した翌年の1978年にクリスティーナ自身が執筆し、発表した回顧録です。 本の内容はクロフォードが迎えた養子4人のうち、クリスティーナとクリストファーに肉体的、精神的に虐待を繰り返していたと主張するもの。大女優の知られざる顔が明かされた暴露本は、一大センセーションを巻き起こしてベストセラーとなります。 日本でも『親愛なるマミー-ジョーン・クロフォードの虚像と実像』のタイトルで出版されました。 クリスティーナ・クロフォードは、映画の中で描かれたようにテレビのソープオペラなどで女優として活動したほか、作家して複数の著作を発表しています。 1988年には本作に繋がる『Survivor』を発表、さらに回顧録3部作の完結篇となる 『Daughters of the Inquisition』を2017年に出版。残念ながら両作とも邦訳本は出版されていませんが、クリスティーナのその後が気になる人にはおすすめです。

語り継がれる伝説の名セリフ「ノー、ワイヤーハンガー!」

『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

劇中にはフェイ・ダナウェイがジョーン・クロフォードになりきり、すさまじい姿態を披露するシーンがいくつもあります。なんと言っても有名なのが、「ノー、ワイヤーハンガー!」と叫ぶ場面! クリスティーナに買い与えた洋服の数々を、クリーニングの安い針金ハンガーにかけたままクローゼットに収納してあるのが許せず、顔に白いコールドクリームを塗りたくったまま鬼のような形相で激怒するのです。 このセリフ「No wire hangers, ever!」は、2005年にアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)が選んだ米映画歴代名セリフベスト100にて、72位に堂々ランクインしました。 また、演じたフェイ・ダナウェイはあまりに役にのめり込み過ぎ、毎日撮影が終わって帰宅してからもジョーン・クロフォードが一緒に部屋にいるような幻覚につきまとわれ、決して休むことができなかったと語っています。

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おしまいに『愛と憎しみの伝説』に関わるトリビア

『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

最後に『愛と憎しみの伝説』にまつわるトリビアをひとつ。 本作はパラマウント・ピクチャーズから配給されましたが、実はアメリカの8大映画会社の中で、ジョーン・クロフォードが出演したことがなかったのは同社だけでした。 期せずして、本作により全映画会社を制覇したことになり、何やら因縁めいたことを感じるクロフォードのファンも多いそうです。 何とも奇妙な因縁を持つ『愛と憎しみの伝説』。本作は2013年にDVD化が決定した後、2015年にリリースされており、2021年1月現在も正規の価格で流通しています。動画配信サービス(VOD)の配信ラインナップには入っていないので、確実に観たい人はAmazonなどでDVDを購入しましょう。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『ファントム・オブ・パラダイス』
©Twentieth Century-Fox Film Corporation/Photofest/zetaimage

連載第15回は、邦題通りまさに“愛憎入り混じる”評価を得ながら、不思議と抗いがたい魅力に満ちた映画『愛と憎しみの伝説』を紹介しました。 批評がどうであれ、後に映画史に残る名セリフのひとつに選ばれ、一部の熱狂的なファンが付いたことなどは確かです。事実、深刻な人間ドラマではなくある種の異色コメディとして、本作への高評価は定着しつつあるようです。 さて次回は、カルト映画のなかでも知名度の高い、鬼才ブライアン・デ・パルマ監督作『ファントム・オブ・パラダイス』(1975年)を紹介します。また明日お会いしましょう!