2018年8月5日更新

【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち#15『愛と憎しみの伝説』

『愛と憎しみの伝説』

ラジー賞5部門受賞の不名誉とは裏腹に、今も熱狂的なファンから愛され続ける伝記映画『愛と憎しみの伝説』。キャストの逸話やトリビアなど、その秘密と魅力に迫ります!

「カルトを産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です(毎週日曜更新)。

ラジー賞受賞なのになぜか熱狂的に愛される『愛と憎しみの伝説』

ハリウッド黄金時代を代表する大女優の1人、ジョーン・クロフォードの知られざる私生活を描いた1981年公開の映画が『愛と憎しみの伝説(原題:Mommie Dearest)』です。 不名誉なことに第2回ラジー賞(ゴールデンラズベリー賞)で作品賞など5部門を独占したばかりか、のちに「1980年代最低作品賞」にも輝きましたが、興行的には予想外のヒットを記録しました。さらに一部に熱狂的なファンを生み、文字通り年月を追うごとにカルト的人気を博していった異色作です。 日本では長らく劇場未公開でしたが、一度テレビで放映されて評判をよび、2013年になってようやくDVD化が実現しています。 批評家筋からの不評に対して、なぜファンからこれほど熱烈に愛され続けるのか……。その意味では何やら意味深な邦題となった映画『愛と憎しみの伝説』について、その秘密と魅力に迫りたいと思います!

『愛と憎しみの伝説』のあらすじは?

ハリウッドを代表する押しも押されもせぬ大女優ジョーン・クロフォードは、自分自身の好感度を上げる目的で子供を持つことを考えます。ところが、不妊体質である上、2度の離婚歴のある身でなかなか養子縁組はまとまらず……。 ようやく弁護士の恋人グレッグのコネを使って女の子の赤ちゃんを養女として迎い入れることに成功。クリスティーナと名づけて養育するも、独善的な価値観から次第に過剰なほどのしつけを行うようになっていきます。 クリスティーナが反抗的な態度を取り始めたこと、さらにMGMとの契約破棄など自身のキャリアが低迷し始めたことで、個人的な苛立ちをぶつけ、虐待ともいえる行動へとエスカレートしていくのでした。

『愛と憎しみの伝説』のメインキャスト2人

映画史に残る怪演で強烈な印象を残したフェイ・ダナウェイ

誰もが知る銀幕の大スターであるジョーン・クロフォードを、フェイ・ダナウェイが本人そのもののメイクアップでなりきり、強烈に演じ上げました。すさまじいほどの狂気と迫力をたたえた演技は賛否両論をよぶも、一度観たら忘れることができない魅力に満ちています。 『俺たちに明日はない』におけるボニー役、『チャイナタウン』のエヴリン役など数々の名作でヒロインを演じ、1976年の『ネットワーク』でついにアカデミー主演女優賞に輝いたフェイ・ダナウェイが、女優としてまさに脂の乗り切った時期の作品です。 本作の悪評が分岐点となり、フェイ・ダナウェイもまるでクロフォード役が乗り移ったかのようにキャリア的に低迷期に入りました。実際、この役を引き受けたことを後悔していたとインタビューで語っています。 それでも一方で、異様な熱量でみせた壮絶極まる演技は、今や映画史に残る怪演としてファンからほとんど偏愛されているのも事実です。

虐げられる養女を演じたのはダイアナ・スカーウィッド

ジョーン・クロフォードによって虐待され、憎悪と愛情の入り混じった複雑な感情に苛まれる養女クリスティーナをダイアナ・スカーウィッドが演じました。感情を隠しじっと耐え忍ぶ姿は、フェイ・ダナウェイの過激な感情表現とは対照的です。 フェイ・ダナウェイとともにラジー賞の最低女優賞を受賞していますが、裏を返せばそれだけ印象的な演技を残したことの証でしょう。 ダイアナ・スカーウィッドは1978年の『プリティ・ベビー』でデビューし、その2年後には『サンフランシスコ物語』でいきなりアカデミー助演女優賞にノミネートされた実力派です。映画のみならず、『LOST』や『HEROES/ヒーローズ』など話題のテレビドラマにも多数出演するなど、現在も名バイプレーヤーとして活躍を続けています。

大女優ジョーン・クロフォードについて

ジョーン・クロフォードは1904年3月23日(年は諸説あり)、アメリカ・テキサス州に生まれました。1925年にMGMと契約し、30年代には看板スターとしての地位を確立します。一時の低迷期を経て、1945年には『ミルドレッド・ピアース』でアカデミー主演女優賞を獲得し見事復活を果たしました。 ベティ・デイヴィスと共演した1962年の名作『何がジェーンに起ったか?』以外、60年代以降は出演作も減り、1970年に女優業を引退しています。 プライベートでは4度結婚を繰り返し、本作に登場するクリスティーナとクリストファー含め5人の養子を迎えました。1977年5月10日、心臓麻痺により77歳で死去しましたが、遺書により、遺産相続からクリスティーナとクリストファーの2人を排除しています。 ちなみにクロフォードは、1970年代初期に応じたインタビューの中で、若手女優たちの中で真のスターになる才能があるのはフェイ・ダナウェイだと述べていたそうです。

養女クリスティーナが執筆した暴露本が原作

『愛と憎しみの伝説』の原作は、1978年にクリスティーナ自身が執筆し発表した回顧録です。大女優の知られざる顔が明らかになったこともあり、一大センセーションを巻き起こしてベストセラーとなります。日本でも『親愛なるマミー-ジョーン・クロフォードの虚像と実像』のタイトルで出版されました。 クリスティーナ・クロフォードは、映画の中で描かれたようにテレビのソープオペラなどで女優として活動したほか、作家して複数の著作を発表しています。 1988年には本作に繋がる『Survivor』を発表、さらに回顧録3部作の完結篇となる 『Daughters of the Inquisition』を2017年に出版しました。残念ながら両作とも邦訳本は出版されていませんが、クリスティーナのその後が気になる方にはおすすめです。

語りつがれる伝説の名セリフ「ノー、ワイヤーハンガー!」

本作にはジョーン・クロフォードになりきったフェイ・ダナウェイがすさまじい姿態を披露するシーンがいくつもありますが、なんと言っても有名なのが「ノー、ワイヤーハンガー!」と叫ぶ場面です。 クリスティーナに買い与えた洋服の数々を、クリーニングの安い針金ハンガーにかけたままクローゼットに収納してあるのが許せず、顔に白いコールドクリームを塗りたくったまま鬼のような形相で激怒するのです。 このセリフ「No wire hangers, ever!」は、2005年にアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)が選んだ米映画歴代名セリフベスト100の72位に堂々ランクインしました。 また、演じたフェイ・ダナウェイはあまりに役にのめり込み過ぎ、毎日撮影が終わって帰宅してからもジョーン・クロフォードが一緒に部屋にいるような幻覚につきまとわれ、決して休むことができなかったと語っています。

おしまいに『愛と憎しみの伝説』に関わるトリビアなど……

まさに邦題通り、愛憎入り混じる評価となっている映画『愛と憎しみの伝説』。しかし、批評がどうであれ、後に映画史に残る名セリフの一つに選ばれたことなどからもわかる通り、不思議と抗いがたい魅力に満ちていることは確かです。 事実、深刻な人間ドラマではなくある種の異色コメディとしての高評価は定着しつつあります。 最後に本作にまつわるトリビアを一つ。 映画はパラマウント・ピクチャーズから配給されましたが、実はアメリカの8大映画会社の中で、ジョーン・クロフォードが出演したことがなかったのは同社だけでした。 期せずして、本作により全映画会社を制覇したことになり、何やら因縁めいたことを感じるクロフォードのファンも多いそうです。

次回の「カルトを産む映画たち」は?

次回は8月19日に更新です!お楽しみに!