2021年1月31日更新

【連載#17】今、観たい!カルトを産む映画たち『シリアル・ママ』悪趣味映画の巨匠ジョン・ウォーターズ監督作【毎日20時更新】

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連載第17回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

『ファントム・オブ・パラダイス』
©Twentieth Century-Fox Film Corporation/Photofest/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第16回の『ファントム・オブ・パラダイス』(1975年)に続き、第17回は『シリアル・ママ』(1995年)を紹介します!

こんなママがいたら超コワイ!『シリアル・ママ』(1995年)【ネタバレ注意】

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

1995年に日本で公開されたジョン・ウォーターズ監督の『シリアル・ママ』。このタイトルを聞いて、どんな内容を思い浮かべるでしょうか。 「ママがシリアル・キラー(連続殺人犯)なの?」と思ったあなた!正解です。 バッド・テイスト(悪趣味)映画の巨匠ジョン・ウォーターズ監督による本作は、やはり一部に熱狂的なファンを抱えるクレイジーな作品となっています。 ハチャメチャでやりたい放題の展開、それでいてしっかりしたストーリーラインと意外な結末に、ハマる人はがっちりハマるでしょう。今回はそんな怖ろしくも面白い『シリアル・ママ』をご紹介します。 ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

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『シリアル・ママ』のあらすじ

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

本作の舞台は、メリーランド州ボルチモア。この平和な田舎町に住むベヴァリー・サトフィンは、歯科医の夫と2人の子供をもつ、良き妻であり良き母です。 ある日家族4人で朝食をとっていると、近所のドティ夫人への度重なる嫌がらせ電話について、警察が情報収集にやって来ました。 家族を送り出したベヴァリーは、声色を変えてドティ夫人に電話をかけ、わいせつな言葉を浴びせます。警察が探していた電話の犯人は彼女だったのです。ベヴァリーが嫌がらせを始めたのは、驚くような理由からでした。 次第にベヴァリーの凶行はエスカレートしていき、ついに連続殺人を犯すまでに……。 果たしてその理由とは?そして、彼女の行く末はどうなっていくのでしょうか?

意外に豪華なキャスト陣をご紹介!

ベヴァリー・サトフィン/演:キャスリーン・ターナー

一見、完璧な主婦に見える連続殺人鬼ベヴァリーを演じたのは、大女優キャスリーン・ターナー。 ミズーリ州出身のターナーは、1981年に『白いドレスの女』で映画主演デビューを果たし、美人女優として注目を集めました。 1984年公開の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』、そして翌年の『女と男の名誉』では、2年連続でゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門主演女優賞を受賞。 『女と男の名誉』では殺し屋を演じているものの、本作で演じた連続殺人鬼の主婦の役は、それまでの彼女のイメージを一変させました。

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ユージーン・サトフィン/演:サム・ウォーターストン

ベヴァリーの夫で、歯科医のユージーンを演じたサム・ウォーターストンは、ドラマ「ロー&オーダー」シリーズ(1990年〜2010年)などで知られています。 ウォーターストンは舞台からキャリアをスタートし、1963年にはブロードウェイに進出しました。1965年に映画デビューし、その後も数多くの映画やドラマに出演。映画『華麗なるギャッツビー』(1974年)では主人公ニック・キャラウェイを演じ、世界的に有名な俳優となります。 2021年現在も第一線で活躍しており、2015年からはNetflixオリジナルシリーズ『グレイス&フランキー』に出演中です。

陪審員6番/演:パトリシア・ハースト

陪審員6番を演じたのは、新聞王ことウィリアム・ランドルフ・ハーストの孫として知られるパトリシア・ハーストです。 1974年、当時大学生だったハーストが家出中に左翼過激派「シンパイオニーズ解放軍」に襲われ、誘拐されるという事件が起こりました。その後、彼女は犯行グループとともに犯罪を行うようになります。 1年以上におよぶ逃亡生活の末、1975年に逮捕された彼女は翌年の裁判で無罪を主張。洗脳されていたことが認められ、懲役35年の判決が下ります。この一連の出来事は、犯罪の被害者が犯人に共感してしまう「ストックホルム症候群」の存在を全米に知らしめました。 後に大統領による特別恩赦と保釈金を支払ったことで、1977年に仮釈放されています。1990年以降、ウォーターズ作品に脇役で出演するようになりました。

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悪趣味映画の巨匠ジョン・ウォーターズ

ジョン・ウォーターズ
©Van Tine Dennis/Sipa USA/Newscom/Zeta Image

本作は、映画史上最も下品で最悪な悪趣味映画『ピンク・フラミンゴ』(1986年)の監督として知られる、「悪趣味の帝王」ことジョン・ウォーターズの作品です。 ウォーターズは、17歳のときに祖母から8ミリカメラをプレゼントされたことがきっかけで映画製作を始めます。1964年から本格的に映画製作をスタートさせ、1970年のディヴァイン主演作『モンド・クラッショ』(日本劇場未公開)でカルト的な人気を獲得しました。 『ポリエステル』(1986年)で劇場用映画に進出し、彼の作品では比較的マイルドな内容の劇場用2作目『ヘアスプレー』(1989年)を発表。続く3作目『クライ・ベイビー』(1991年)を含む2作において、一般の観客の支持も得ていきます。 しかし、4作目となった本作から、ウォーターズは持ち前の過激で下品な作風に戻りました。

『シリアル・ママ』のここが見どころ!

大女優キャスリーン・ターナーの怪演に注目!

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

それまで美人女優として活躍していたキャスリーン・ターナーは、本作で連続殺人犯の主婦を怪演しています。 ウォーターズは、脚本執筆段階からベヴァリー役はターナーに、と決めていたのだとか。ターナーはそれまでとは全く違う役柄を、見事に演じ切りました。

些細な理由で人を殺す

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

ベヴァリーがドティ夫人に嫌がらせをし始めたきっかけは、“駐車場で割り込まれたから”でした。その後次々と続く犯行の理由も、誰もが日常生活で経験するような些細なものばかり。 ベヴァリーは、自分や家族にほんの少しでも害をなす相手、そして社会のルールを守らない者には容赦しません。まさに“カッとなってやった”レベルの犯行を続けていくことが、彼女の異常性を強調しています。

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雑すぎる犯行の手口

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

さきほども触れたとおり、ベヴァリーは衝動的に殺人を犯します。このようなタイプの犯人は「無秩序型」と呼ばれますが、それにしてもあまりに雑すぎです。 その場にあるものを凶器にし、たとえ目撃者がいてもお構いなし。そんな彼女の犯行が、いつ、どうやって明るみに出るのかにも注目してみてください。

『シリアル・ママ』はウォーターズ入門編に最適!

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

『シリアル・ママ』は、ウォーターズ監督の持ち味が活きた作品のなかでは比較的観やすく、ウォーターズ作品入門編として最適です。 そんな本作は円盤化されており、Amazonにてそれぞれ2,000円程度でBlu-rayとDVDが発売されています。動画配信サービス(VOD)では残念ながら配信されていないので、確実に観たい人は円盤を購入するしかありません。 ちなみに、映画冒頭には本作が実話にもとづくストーリーであるという字幕が出ます。しかし実際には完全なフィクションなので、安心して観てください。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『パフューム ある人殺しの物語』
©DreamWorks/Photofest/zetaimage

連載第17回は、ウォーターズ監督らしい悪趣味な内容、超展開ながらも比較的まともなストーリーラインが魅力の『シリアル・ママ』を紹介しました。 キャスリーン・ターナーの怪演はもちろん、バカバカしくもグロテスクな描写も見どころです! 次回の連載では、「香り」がテーマの原作小説を映像化し、類まれな変態っぷりが話題となった『パフューム ある人殺しの物語』(2007年)を取り上げます。明日の更新をお楽しみに!