2018年10月9日更新

【ネタバレ】「死霊館」シリーズのファンの『死霊館のシスター』に対する本音【レビュー】

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シリーズファンのビビリが、『死霊館のシスター』を正直にレビュー

怖がる猫

寝る時は明かりを少しでもつけていないと寝れない。クローゼットは“間違っても”開かないように、扉の前に物を置いてる。トラウマは小学生低学年の時に観た『ポルターガイスト』。おばけ怖い。 そんな怖がりな私、映画ライターのアナイスですが、実はなんだかんだホラー映画が好きだったりします。中でも「死霊館」シリーズには大変惚れ込んでおります。

死霊館
©Warner Bros. Entertainment Inc.

基本的にびっくりさせるだけの意図しかない恐怖だったり、意味不明な恐怖をパイ投げのように顔面に叩きつけられ続けられるような感覚に陥るホラーより、ストーリーに深みのある作品が好みです。『死霊館』を最初に観たときは、久々に「本当に怖い」と感じたと同時に、描かれる家族愛であったり清々しいくらいのハッピーエンドに感銘を受けました。 「エンフィールド事件」も同じ、とにかくこのシリーズは散々怖い目に遭っても、最後びっくりするくらい尾を引かない。ある意味、勧善懲悪的な展開でありながらも一方で近年減っていた正統派オカルトホラーとして、しっかり怖がらせてくれるので本当に良い映画だと感じました。

死霊館 エンフィールド事件
©Warner Bros. Entertainment Inc.

そして何より面白い展開なのが、「死霊館」のユニバース化です。マーベルをはじめとしたヒーロー作品に多くみられる、この同じ世界観の中で共通の登場人物やストーリーが描かれる手法をホラー作品がとるのは、少し珍しいこと。何より、ウォーレン夫妻によって管理されている「博物館」の中身はスピンオフ映画につながる金塊の山といっても過言ではありません。 その中のアイドル的存在である人形のアナベルを描いた2作のスピンオフがこれまで登場し、次には『エンフィールド事件』のへそ曲がり男のものが予定されています。 ただ、今は『死霊館のシスター』ですよ。 お待たしました、前置きが長くなってしまったのですが本作についてシリーズのファンである私が思う正直なところを綴っていきたいと思います。

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※本記事には『死霊館のシスター』の結末を含めたネタバレを掲載しています。作品を未鑑賞の方はご注意ください。

『死霊館のシスター』はシリーズの異端児?正直がっかりだった

なんか、率直な感想だと凄いものを観たなという感じです。9月14日に開催された「祈っても無駄!死霊館ユニバース一気見オールナイト上映」に足を運んだのですが、そのときトークショーでホラー作家である平山夢明がおっしゃっていた「キャンプファイヤーにガソリンをぶち込んだような映画」という表現がとても正しいように思えました。 長い前置きの中で、私がなぜ「死霊館」シリーズの作品が好きかということに触れてきましたが、『死霊館のシスター』はファンが愛する「死霊館」要素をあまりはらんでいない、非常に異端的で独立した作品でした。

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

本作が成功したと思えるのは、宣伝されていた通り「びっくりして飛び上がる系ホラー」だったという点。度々、予告編や宣伝の雰囲気と実際に観たときの印象の差異のある映画があるかと思いますが、本作に関しては予告編通り(むしろそれ以上はない)と言えます。 正直、米国での大ヒットを受けて期待値が高かった分、がっくしという気持ちです。その理由を、ストーリー、キャラクター、ヴァラク、演出の4点に軸を置いて説明したいと思います。

ヴァラクのオリジンが描かれ…てないストーリー

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

本作は兎にも角にも、あの「エンフィールド事件」で効果的に使われ、最高に怖かった悪魔ヴァラクのオリジンストーリーが描かれるという意味で、ファン待望のスピンオフ作品でした。あれだけ恐ろしいキャラクターです、その背景を描くというアイデアはかなり良かったと思います。しかし、『死霊館のシスター』は、フォーカスが当たるべきヴァラクのオリジンを捉えたものではなく、シスターと神父とフランス人男の3人組が繰り広げるアドベンジャーでした。 しかし、だからといってそこに深いストーリーがあるわけでもないのです。「死霊館」シリーズの大きな魅力は、ホラーの中で光り輝くヒューマンドラマでした。1,2作は家族愛を、『アナベル 死霊館の人形』では母の愛、『アナベル 死霊人形の誕生』では2人の可愛らしい少女の友情や、娘を失った両親の愛などが描かれていたかと思います。 ただ、『死霊館のシスター』にはそれがない。これこそが、本作がシリーズの中で異端と考えられる大きな要素です。

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アイリーンは結局何者だったの!?風呂敷を広げただけのキャラクター設定

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

ヒューマンドラマを生み出すのは、作品に登場するキャラクターの他にいません。そして、描かれる日常パートで垣間見える彼らの背景によって我々はキャラクターを理解し、彼らに感情移入するようになります。「死霊館」シリーズでは、こういった登場人物の描き方が非常に丁寧でした。そのため、先述のようなヒューマンドラマが生まれ、よりホラーパートの恐ろしさを際立たせていたものです。 しかし、本作に登場する3人のメインキャラクター、シスター・アイリーンとバーク神父、イケメンな地元民フレンチーの深い個々のストーリーが描かれていないのです。例えば、フレンチーは後に『死霊館』に登場したモーリスであることが判明します。モーリスは幼少期虐待を受け、心に深い闇と傷を負っていたという背景がありました。これ、かなりキャラクターを際立たせる良い設定なのに、本作で全然生かされていません。

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

さらに、何より残念なのが主人公のアイリーンです。彼女を演じるタイッサ・ファーミガは、海外ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』で活躍する女優さんとして知られていますが、なんと『死霊館』のロレインを演じるヴェラ・ファーミガの実の妹なのです!さらに、ロレインとアイリーンには透視のようなことができる「不思議な力を持つ」という共通点がありました。 ファンとしては、この姉妹キャスティングに何かキャラクター同士に深い繋がりがあるのでは!?と信じたかったのです。むしろ、そうでなければ意図が全く理解できないからです。本作でアイリーンがなぜ特殊能力を持つシスターだったのか、その謎が明かされればロレインのそれにも繋がるはず。そうすれば本作が「死霊館」のシリーズ作品であることへの説得力がグッとましたと同時に、2人のキャラクターの深掘りができて作品としてかなり昇華できたのではないでしょうか。 しかし、残念ながらアイリーンとロレインの繋がりがなかった(語られなかった)どころか、彼女の不思議な力の真相も明かされなかったのです。これは非常に勿体なかったと思っています

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悪魔ではなくモンスターと化したヴァラク

死霊館のシスター
©︎2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

何よりも勿体なかったといえばヴァラクです。発展のしがいしかないヴァラクの背景でしたが、それが誕生した歴史は、とってつけたようなもので本シリーズに対して何にも繋がりやロジックがないものでした。オカルト好きの男が、悪魔を召喚させる儀式を行なって呼び出されたのがヴァラクだった……?本当にそれで良いの、ヴァラク…?この真実こそ、ファンにとって残念だったわけです。 そして、ヴァラクが全然出てこない。『死霊館のシスター』の原題は『THE NUN』という、邦題と同じように特定のシスター(つまりヴァラク)を指したものでした。しかし、本作でヴァラクよりカオナシのシスターたちや、子供の悪魔といったヴァラクではないクリーチャーの登場の方が多いのです。全然ヴァラクにフォーカスが当たっていない! そして、やっとヴァラクと向き合うことになった終盤は、まさに肉弾戦です。本当にヴァラクは、こういう悪魔でよかったのか?と思ってしまうほど、オカルト・悪魔的な存在から物理攻撃が可能であるモンスターになっていて、気味の悪さや怖さがなくなってしまいました。

怖いから飛び上がるのではない。チートに近い、大音量のホラー仕掛け

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

さて、最後に演出に関してです。本作は、確かに上記で述べた通りプロット、キャラクター共に完璧とは言えません。しかしホラー映画とは、時にそれらがなくても“怖ければ”何でもよかったりします。 しかし、本作の恐怖の正体はヴァラクを筆頭に登場する悪魔・悪霊たちに起因しない、“音の演出”にあります。つまり、とにかく「びっくり系ホラー」なんだけど、怖いのでなく、それより演出の音が大きすぎてびっくりするのです。これって、少しチートに思えてしまいます。

死霊館のシスター
©Warner Bros. Entertainment Inc.

加えて、「死霊館」シリーズは今まで“間”を持たせることを得意とするホラーでした。一作目、手の鳴る音を辿って地下室に閉じ込められた母親が暗闇で恐怖に怯えるシーンを筆頭に「来るか…絶対来るよな……え、まだかな……うわあ、きた!」という、焦らされた末の恐怖演出が多かったかと思います。 比べて『死霊館のシスター』は、焦らすどころかこれでもかというくらい、大げさに言うと10分に一回は(後半は5分に一回)恐怖演出があります。

死霊館のシスター
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

しかも、終盤にフレンチーが過去に惨殺されたシスターたち(頭袋詰めver)に囲まれたシーンは、会場でも笑いが起きるほど、トゥーマッチすぎてギャグになってしまっていました。例の口から蛇を出す少年とか、カオナシシスターとか、もう暴力的なほどこれでもかと投下されていく。ちょっとヴァラク、落ち着いて! このように、いきなり10分に1度くらい突然大音量になってびっくりすることが続く1時間半なので、見終わった頃にはかなり体力を消耗してしまうのです。

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「シスター」の後の「死霊館」ユニバース、どうなる?

『アナベル 死霊館の人形』
© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

『死霊館のシスター』公開前までは『アナベル 死霊館の人形』がシリーズの中で批判の多い作品と言われていました。しかし、制作側はその声に耳を傾け『アナベル 死霊人形の誕生』で大いに改善・成長し、ファンの心を再び鷲掴みできたと考えられます。 「死霊館」ユニバースの生みの親であるジェームズ・ワンはスピンオフの監督を行わず、比較的に過去作がまだ少ない新人監督を起用している点が特徴的です。 『アナベル 死霊館の人形』は、『死霊館』を担当したジョン・R・レオネッティ、『アナベル 死霊人形の誕生』は初長編監督作品『ライト/オフ』でその名を知らしめたデヴィッド・F・サンドバーグ。彼の手腕が、ファンの心を再び掴み直したと言っても過言ではないでしょう。

そういった意味で、この二人に比べて過去作が『ザ・ハロウ/侵食』というホラー映画のみと言う若手監督コリン・ハーディーに『死霊館のシスター』を託したのは、挑戦的でした。

『死霊館 エンフィールド事件』
©Warner Bros. Entertainment Inc.

しかし、そんな中でも全世界興行収入ではシリーズ最高記録を更新し、『エンフィールド事件』を超えるほどの成績を納めています。黒字成績を収め続ける点で、本作は紛れもない大ヒット作品なのです。 今後、『死霊館3(仮)』やへそ曲がり男のスピンオフが計画されている、「死霊館」ユニバース。作風はどう変化していくのか、監督の選定にも注目したいところです。