「パシフィック・リム」シリーズ2作を比較 アップライジングは本当に駄作?
「パシリック・リム」1作目が傑作で、2作目が駄作と言われている件
2013年に公開された映画『パシフィック・リム』。特撮映画というあまり万人受けしないジャンルにもかかわらず、全世界合計で3億4000万ドル以上の興行収入を記録するヒット作となり、続編の公開には大きな期待が寄せられていました。 様々な波乱を経て、満を持して公開された続編『パシフィック・リム:アップラインジング』。続編も面白いと評価する声もありましたが、がっかりしたとの声も多く見られました。米大手批評サイト「Rotten Tomatoes」でも作品の支持率は44%に留まり、1作目の71%から大幅にポイントダウン。 しかし、果たして2作目は「失敗作」だったのでしょうか? 本記事では、1作目と2作目それぞれの魅力にフォーカスしていきたいと思います。
1作目『パシフィック・リム』(2013)
あらすじ
2013年、太平洋の深海に異次元の世界と繋がる割れ目が発生。割れ目から侵入した怪獣に襲われた人々は、巨人型の兵器「イェーガー」を開発しました。 強力な対抗手段を手にした人類が一時は優位に立つも、怪獣の勢いは止まることなく、人類は滅亡の危機に陥ります。 そして怪獣たちとの戦いが続く2024年、ついに過去最大級の怪獣たちが基地に襲来。 ペンテコスト司令官がスカウトしたローリーや技術者の森マコらイェーガーのパイロットたちは辛くも怪獣を撃破しますが、またすぐにより大きな怪獣が出現。イェーガーが2体しか残っていない中で、パイロットたちは最大の危機に立ち向かいます。
一作目はデル・トロ監督の怪獣愛が詰まった作品として大正解
都市を怪獣が襲い、逃げ惑う人々。危機に陥った人類は、知恵と勇気を結集させて怪獣を退けることに成功しますが、痛快なだけではなく、少しほろ苦いストーリーが展開される。そのような典型的な怪獣映画のフォーマットは、本作でも踏襲されています。 それもそのはず、『パシフィック・リム』のメガホンを取ったギレルモ・デル・トロ監督は、幼い頃から古今東西の怪獣作品に魅了されてきました。その「怪獣愛」はのちの『シェイプ・オブ・ウォーター』などにも現れていますが、本作では特に日本の作品へのリスペクトが詰まっています。 ただ恐ろしいだけではない怪獣たちと人間が操るロボット。日本の特撮作品やアニメ作品に多く登場してきたこれらの要素を、単純にハリウッドスケールで表現したのではありません。デル・トロ監督は、特撮作品の歴史に残る新たな作品を生み出したと言っても過言ではありません。
二作目『パシフィック・リム:アップライジング』(2018)
あらすじ
2035年、怪獣に破壊された沿岸部の街の復興はまだ終わっていません。盗みなどの犯罪が横行する地域もありました。そんな地区で「賢く」生きる元イェーガーのパイロット、ジェイク。 ある日、マフィアとの取引に失敗したジェイクは、イェーガーを作る孤児のアマーラと出会います。運悪く警察に捕まった2人は、ジェイクの義姉である森マコに誘われ、収監される代わりに軍に入隊。 パイロットとして復帰したジェイクと、訓練生となったアマーラ。無人イェーガーの開発で用済みになる可能性もあった彼らでしたが、謎のイェーガーの襲撃と無人機の暴走をきっかけに、10年ぶりに襲来した怪獣との戦いに挑むことになります。
圧巻の白昼戦が繰り広げられる「アップライジング」は1作目の10年後の物語
前作において、怪獣とイェーガーの戦いはほとんどが夜に行われていました。その上、海上での戦いも多く、戦闘シーンのほとんどが暗い中で繰り広げられることに。その一方で、続編となる「アップライジング」では、すべての戦いが明るい時間帯に行われていました。 そのため、前作とは対照的にイェーガーの発光部分はあまり目立たなかったものの、機体自体のデザインやカラーリングを画面いっぱいに堪能することが可能でした。 また、シェルターなどのインフラが整い、10年という月日の中でイェーガー自体も進化。そんな状況で行われた戦闘は、前作よりも圧倒的なスケールに仕上がっています。
愛着が湧くイェーガーのデザインが揃っていたのは一作目
一作目『パシフィック・リム』に登場するイェーガーはどれも個性的です。 最新型の「ストライカー・エウレカ」(画像左から2番目)や、作品の顔となった「ジプシー・デンジャー」(写真左から3番目、中央)は比較的すっきりとした体格の持ち主。
ところが、ずんぐりとした最古参の「チェルノ・アルファ」はバケツのような頭部を持ち、「クリムゾン・タイフーン」は背中から3本目の腕が生えるという奇抜なデザイン。
しかし、その奇特なデザインも気にならず、所々でそれぞれの魅力を発揮し、カッコいいと思えるような戦闘シーンになっていました。また、それぞれの違いは、各国の人々が怪獣に勝つためにイェーガー開発を進め、努力してきたというバックグラウンドも表現しているように思えます。
前作と比べて洗練された第2作目「アップライジング」のデザイン
劇中では前作から10年経過していることもあり、イェーガーたちも進化しています。本作の特報映像でもフィーチャーされた新型機はどれもスタイリッシュなデザイン。洗練されたデザインと贅沢なカラーリングは、よく晴れた日中の大立ち回りで太陽の光を反射してより一層輝きます。
比較的無骨なデザインで地味な色合いの「ブレーサー・フェニックス」や「タイタン・リディーマー」も浮いておらず、カッコ良さや風格を持ち合わせていました。
また、アマーラが一人で作り上げた「スクラッパー」はカッコよさには欠けるものの、無骨さと愛嬌がちょうどいいバランスを保っている仕上がりにも思えます。
なぜ「アップライジング 」に批判が集まったのか?
監督の変更、デル・トロからスティーブン・S・デナイトへ
まず前作との大きな違いは監督にあります。そもそも『パシフィック・リム』の成功は、先述の通りギレルモ・デル・トロの怪獣愛の強さに起因していたといっても過言ではありません。続編はデル・トロに変わってマーベルドラマシリーズ『デアデビル』のショーランナーである、脚本家・監督のスティーブン・S・デナイトが手がけました。 監督してきた経歴はまだ浅く、『トランスフォーマー』シリーズのライターズルームに脚本家の一人として参加していたことがあります。彼とデル・トロにおける純粋な力量の差、そして何より「パシフィック・リム」というものに対する理解の差が、一作目と二作目の差であるのではないでしょうか。
前作との繋がりが希薄に感じられた?
「アップライジング」は正当な続編です。監督が変わったとしても、前作との繋がりは時系列や設定を共有していること以上に、キャラクターの繋がりも重要な要素です。しかし続編でその後が描かれたのは、森マコとガイズラー、ゴットリーブ博士の3人だけ。 製作の都合上、本作への再出演が果たせなかったとしても、前作の主人公のローリーや、ハークといった生存者のその後を感じられるような筋書きがあればよかったのではないかと思われます。
新たな登場人物の内面を描ききれなかった?
「アップラインジング」の主要登場人物は、本作で新たに登場した人たちばかりでした。しかし、ストーリーの都合上、彼らの内面を描く時間は限られており、その点が気になった人もいるでしょう。 実は、前作も批評家から「心理描写が薄っぺらい」と批評されています。どうしても怪獣とイェーガーの戦闘シーンがメインになる以上、キャラの内面に対する批判は「パシリム」シリーズの宿命なのかもしれません。
2つの『パシフィック・リム』をあなたはどう思いましたか?
個人的には一作目だけでなく、二作目も楽しんで視聴できる作品だと思いました。どちらがより良いというよりは、それぞれに面白いと思える点とワクワクできる点があるのです。 一作目は、もう全体的にダサい。しかし、それが逆にかっこよかったのです。二作目は、正直その一作目の良さだった「ダサさ」をブラッシュアップして、スタイリッシュなものにした感じがあります。しかし、それでも一作目と同じように怪獣が登場するシーンは迫力があって、心拍数があがるほど興奮する。それに、洗練したはずなのに、最後の結末がB級くさくて、一作目の雰囲気を醸し出すのが堪りません。 さて、あなたは第2作目が「失敗作」だったと思いますか? これを機に、それぞれの作品が持つカッコよさにもう一度フォーカスしてみるのはいかがでしょうか。