2019年2月24日更新

映画『去年の冬、きみと別れ』を徹底解説 ストーリーの軸を大胆改変し異様なサスペンスへ変貌

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映画 去年の冬、きみと別れ ビジュアルブック (幻冬舎文庫)

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映画『去年の冬、きみと別れ』が成功したワケとは?

大人気サスペンスを映像化

芥川賞作家の中村文則が執筆し、ベストセラーとなったサスペンス小説『去年の冬、きみと別れ』は2018年3月に映画が公開され、スマッシュヒットを記録しました。 「すべての人がこの罠にハマる。」がキャッチコピーに、精巧なサスペンス映画として話題に。 この記事では全てを理解できなかった視聴者を対象に、詳細な作品解説をおこなっていきます。

映画の重要なネタバレ情報について触れています。読み進める際はご注意ください。

【ネタバレ注意】映画版『去年の冬、きみと別れ』のストーリー全貌

まずは前半部分のストーリーとどんでん返しの後半部分を、表・裏のストーリーとし、それぞれ振り返っていきます。

表のストーリー(前半部)

フリーのルポライターの恭介は、木原坂雄大という異端なカメラマンが撮影中に火災を起こし、モデルをしていた盲目の女性が命を落としたという事件を、週刊誌のベテラン編集員・小林のもとに持ち込みます。 結婚を控え、自身の力を試したいと意気込む恭介ですが、この事件はすでに執行猶予付きの判決が出て決着を迎えていたものでした。 恭介はこの判決に納得ができず、雄大の自伝を執筆するための取材と称して彼との距離を詰めて行き、次第に取り憑かれたように事件に固執していきます。 取材を進めると、雄大と姉の朱里には姉弟以上の男女の関係が存在し、この二人には幼いころ虐待を受けていた可能性があることがわかり、さらにその父親が不審な死を遂げていたことも判明。 姉弟による殺害の可能性も考えられましたが、父親の傷は成人した人間の身長でないと付けられない傷であることが分かっていたのでした。

一方、恭介は婚約者の百合子との結婚式を直前に控えていましたが、取材に没頭するあまり百合子とはすれ違いが続き、気まずい空気が流れています。 他人の女にばかり興味を示すという性癖を持つ雄大は、百合子に興味を抱いた末にモデルを依頼。恭介にも行き先を告げずに、百合子は姿を消してしまいます。 百合子が雄大の撮影スタジオにいることを知った恭介は、彼女を返してほしいと懇願しますが、雄大は百合子の自由意志だと主張。その現状にかつてのモデル焼死事件を重ねた恭介は、小林とともにスタジオへと向かいます。 しかし、すでにスタジオは炎に包まれていたのです……。そして椅子に拘束されて燃える百合子の姿を狂気に満ち溢れた顔でカメラに収め続ける雄大。 百合子は死に、雄大は殺人犯として逮捕され、さらに朱里も行方不明に。小林は途方に暮れてしまいます。

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裏のストーリー(後半部)

実は恭介には全く別の目的があり、名前もフリーライターとしてのキャリアも偽りのものでした。彼は最初の被害者だった盲目のモデル、吉岡亜希子の元恋人だったのです。 亜希子が交通事故にあったのがきっかけで、恭介は心配のあまり仕事も休み、亜希子の後をつけ監視するようになります。彼のこの過剰な態度に亜希子は、「自分のことを1人の女性として見てもらえていない」と感じ、恭介に対して別れを告げるのでした。 その直後、亜希子は雄大のモデルとして軟禁され、焼死しました。実はこの軟禁には朱里と小林も加わっていたのです。 小林は姉弟の父の教え子で、二人の異常な繋がりと朱里の魅力に取りつかれて彼らの父を刺し殺し、共犯関係となっていました。また、大人の女性となった朱里のことを小林は愛していました。 恭介は亜希子の悲劇を追う中で朱里と出会い真相を知り、そこから恭介の復讐劇は始まったのでした。

百合子とは婚約者でもなんでもなく、ネット上で知り合い、結婚前にすれ違う婚約者を演じていただけでした。軟禁されるのも計算のうちで、一瞬のスキを狙って百合子は脱出します。 それを待っていた恭介は、先に軟禁していた朱里と百合子を入れ替え、朱里に火を放ちます。亜希子焼死時の撮影に失敗していた雄大は嬉々としてその場を写真に収めますが、それが強い絆で結ばれた姉であることなど、知る由もありません。 もちろん現場にいた小林も、それが自分が人生をかけて愛する朱里だとは、夢にも思っていませんでした。 こうして事件に関わった者全てを罰し、恭介の復讐劇は幕を閉じます。

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登場人物を整理

耶雲恭介/岩田剛典

婚約者の百合子との結婚を間近に控え、大勝負をかけるフリーライター……と見せかけてその全ては偽物! 田舎の小さな本屋で働きながら執筆活動をしていた恭介は、図書館で自身が書いた本の点訳本を読み、それを気に入ってくれた亜希子と恋に落ちます。 そんな最愛の恋人を殺されたことで、復讐の鬼と化してしまいます。

木原坂雄大/斎藤工

スランプに陥り、思うように作品が撮れていなかった時に、偶然恭介の元恋人で盲目の女性・亜希子を見かけた雄大。 彼は亜希子に魅力を感じ、モデルの依頼を幾度となく試みますが、その度に断られます。 それを見兼ねた姉の朱里は、小林に手伝わせる形で亜希子を強引にスタジオへ連れ込み、軟禁します。そしてより美しい写真を弟に撮らせようと火をつけるのです。 亜希子殺人は証拠不十分で、執行猶予付きの無罪放免となりますが、結局自分の犯していない殺人によって再度刑務所へと送られることとなります。

松田百合子/山本美月

恭介の婚約者で、結婚準備を前に心のすれ違いを感じています……と見せかけて実はネットで知り合った全くの他人! 付き合っていた彼氏に騙され、借金地獄で自殺へ追い込まれていた百合子。そんな時恭介に「金銭と引き換えに復讐に手を貸してくれないか」と持ちかけられ、その話に乗ることに。

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木原坂朱里/浅見れいな

朱里は雄大の姉であり、二人はお互いが唯一の肉親です。彼女は雄大に対して過剰なほどの愛情を注いでいます。 恭介に事件の全てを話したのは朱里。話す前に朱里は、薬物を恭介に飲ませることによって一夜を共にしており、「元恋人を殺した女とヤった」と面白がるような異常な気性を持つ女です。 しかし、最終的に恭介の復讐によって、亜希子と全く同じ方法で殺害されます。

小林良樹/北村一輝

小林は、記事企画を持ち込んできた恭介の担当となる、週刊誌のベテラン編集者。 大きなネタに走るよりも正確な記事を出すことを優先する、保守的で慎重派な人間に見えますが、実際は恭介の持ち込んだ企画に自分も大きく関わっているがために慎重になっていたのです。 小林は木原坂姉弟の父の教え子であり、姉弟の異常な関係や彼らの父の殺害経緯を知る唯一の人物で、彼らとは共犯関係です。 朱里に対しては、彼女が幼い頃から執着に近い愛情を抱いています。そんな小林を朱里は愛されていることをいいことに度々利用します。

吉岡亜希子/土村芳

亜希子は、雄大のスタジオで焼死したモデルで盲目の美女です。 彼女は図書館で出会ったことがきっかけで恭介と付き合うことになりますが、交通事故がきっかけで過剰に心配する恭介に対して、普通のカップルのように愛し合えていないと感じ、別れを決意します。 恭介と別れた後も彼の執筆した作品を読むことを楽しみに過ごす中で、不幸にも焼死という形で殺されてしまいます。

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「映像化不可能」を可能に

複雑な時系列はこうして成り立っている!

「第2章」という文字が最初にスクリーンに映されたとき「第1章はどうした?」と思った人も多かったでしょう。しかし観た人には分かったはず!この映画は、時系列をずらすことこそがミソなのです。 原作では序章、第1章、第2章、第3章の4パートで物語が構成されています。各章は以下のような内容です。

序章:恭介と亜希子の出会いと別れ、そしてその直後の亜希子の死


第1章:恭介による亜希子の死の真相の究明。恭介は朱里が犯人で、共犯として小林と雄大が存在するという事実にたどり着き、復讐を計画する


第2章:復讐の開始。恭介は全ての真相を知った上で企画を小林の元へと持ち込み、取材に取り掛かる(実際は取材は第1章で済んでいるため、徐々に事件関係者との距離を詰めていく)


第3章:計画の実行。そして復讐が済んだ後に、小林と雄大に対してネタバラシ

映画化に際し、序章と第1章を映画の後半に持ってくるという、大胆な章立てのシャッフルによって、「映画化不可能」といわれた本作を成立させたのです。

ラストで繋がる全ての伏線

タイトルこそ最大の伏線!

復讐は亜希子を殺した怪物のような女性(朱里)に対して、全く同じ方法で罰を与えるというもの。 亜希子に振られた後も、亜希子が亡くなった後も、別れたという実感を持てずにいた恭介。しかしそんな彼も、復讐の計画を実行に移す前に「君の彼氏が怪物ではいけないから」と「去年の冬」に亜希子と別れる決心をするのです。 こうして事件に関わった雄大と朱里、小林に対して様々な罠を仕掛け、破滅へと導いていきます。 しかし、ラストシーンでは、恭介は目に涙を浮かべながら「僕は化け物になったはずなのに……僕は今でも君が好きだ」と語り、結局彼が最後まで亜希子への想いを断ち切れていなかったことが明らかにされます。

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目には目を、歯には歯を

亜希子を殺した3人の関係者に対して、同じ手法の事件を起こすことによって、恭介は復讐を果たします。 まず朱里が音信不通になりますが、これは結局海外へ向かったからでも、小林との関係がこじれたからでもありません。朱里が亜希子にしたように恭介が朱里を監禁し、後に殺されたため、連絡することなど不可能だったのです。 そして百合子が焼死体として発見され、恭介が最後に対面しに行くシーンでは、恭介から小林に付いてきてほしいと要望します。小林はその酷い姿に目を背けますが、その焼死体こそ最愛の女性である朱里なのです。 雄大に至っては、百合子が燃え上がっていると思い込んだまま、愛する姉が炎の中で泣け叫ぶ姿を夢中でカメラにおさめます。挙げ句の果てには、自身は直接手を下していないにも関わらず拘置所に入れられ、極刑の判決が言い渡されます。 恭介が立てた復讐計画は、主犯3人の誰もが最も苦しむ、究極に緻密なものだったのです。

小説のイニシャルが意味すること

小説の扉部分にある、献辞のイニシャルは以下のようなものでした。 「二人のYKへ。そしてAYに捧ぐ。」 この二人のYKとは、朱里亡き後、この小説を拘置所で読んでいる木原坂雄大(きはらざか ゆうだい)と、恭介の目の前で読んでいる小林良樹(こばやし よしき)を指しています。 そしてAYは、恭介の執筆した本を読むことを心から楽しみにしていた、吉岡亜希子(よしおか あきこ)のことを指しています。

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映画『去年の冬、きみと別れ』に仕掛けられた無数の罠に、もう一度ハマりたい

原作ファンだけでなく原作者までも見事に騙し、実写化大成功を収めた映画『去年の冬、きみと別れ』。 本作はどんでん返しサスペンスだけでは終わらず、純愛を真のテーマに持つラブストーリーとしても楽しむことのできる二面性を持っています。 トリックを理解したところで、今度は騙されないよう再度観直してみるのもいいかもしれません。 本作のキャストについてもっと詳しく知りたい人は、下の記事からチェックしてみてください。