【ネタバレ結末】映画『誰も知らない』はどこまで実話?長男のその後を考察
映画『万引き家族』(2018)で第71回カンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いた是枝裕和監督の代表作の一つ、『誰も知らない』(2004)。 『誰も知らない』で主演を務めた柳楽優弥の評価も高く、カンヌ国際映画祭では男優賞を受賞。柳楽が日本人として初めてかつ史上最年少の受賞者となったことでも大変話題となりました。 本記事では『誰も知らない』のモチーフになった実際のネグレクト(育児放棄)事件や、本編のストーリーなどを振り返りながら、改めて作品の魅力に迫っていきます。 この記事には『誰も知らない』のネタバレが含まれています。未鑑賞の人は注意してください。
映画『誰も知らない』のあらすじ【ネタバレなし】
映画『誰も知らない』(2004)は、出生届も出されておらず、それぞれ父親も違う幼い四兄弟を中心とした物語です。 彼らの母けい子は、子供4人の大所帯だとわかるとアパートから追い出されかねないとして長男の明(柳楽優弥)以外の外出を禁じながら、子供たちと暮らしていました。 そんな中、新しい恋人ができたけい子は家を空けることが多くなっていきます。 はじめのうちはそれでも家に帰ってきていたけい子でしたが、相手の男と同棲をはじめると、子供たちに現金書留で生活費を送るだけになってしまいます。まったく家に帰ってこなくなってしまうのです。 周囲の人が「誰も知らない」子供たちは、ひっそりと自分たちだけで生活をはじめることになるのですが……。
映画『誰も知らない』を結末までネタバレあらすじ紹介!

【起】隠れて暮らす無戸籍児
アパートの1室に福島けい子(YOU)と息子の明(柳楽優弥)が引っ越してきます。大家には2人暮らしと伝えますが、実際は子ども4人と母の5人家族でした。けい子は入居を断られることを恐れ、嘘をついていたのです。 スーツケースに次男・茂(木村飛影)、次女・ゆき(清水萌々子)が隠れていました。さらに長女・京子(北浦愛)もあとから合流します。無戸籍児のため、誰一人学校には通っていません。そして大家が認識している明だけが、外出を許されました。 ある日、明にだけ「好きな人がいる」と告げた母・けい子。「しばらく家を出ます」という手紙と生活費を残して、家を出てしまいます。
【承】母のいないクリスマス
一度けい子は帰ってきましたが、それぞれにお土産を渡して、すぐいなくなってしまいます。「クリスマスにはまた帰るから」と約束しますが、結局帰ってはきません。明は母・けい子から届いた封筒を頼りに電話をかけます。 「はい、山本です」と、知らない名字を名乗った母に対して、明は何も言わず受話器を置きました。 年が明け、1月は次女・ゆきの誕生日です。明は特別な日に、ゆきを外に連れ出しました。道端で休憩中、大事そうに「アポロチョコ」を食べるゆきを、明は優しい目で見つめます。帰り道、モノレールを見た2人は「いつかモノレールに乗って、飛行機を見に行こう」と約束しました。
【転】春休みの友だち
世間は春休み。明は立ち寄ったゲームセンターで、念願の友人ができました。仲間に入りたい一心で、明は生活費を使ってゲームを購入。明の家に友人たちが入り浸るようになります。 新学期の季節、友人達は中学生になり制服での学校生活がスタート。一方、ボロボロの服を着た明は「あいつ臭いから」と陰口を叩かれ、仲間はずれにされてしまいます。 ついにお金はほとんどなくなり、公共料金も滞納するまでに。明は面識のあるコンビニ店員・宮嶋さなえ(タテタカコ)から児童相談所を紹介されるも「ややこしくなって4人一緒に暮らせなくなる」と拒否するのでした。
【結】ゆきと飛行機と夏の空
太陽が照りつける夏、電気も水道も止まってしまいました。明は水を汲んでいる公園で、顔見知りの高校生・水口紗希(韓英恵)と再会します。紗希は明以外の子ども達とも仲良くなり、お姉さんのような存在に。 紗希は家賃滞納の事実を知り、援助交際で得たお金を明に渡そうとします。しかし紗希が好きだった明は、お金を受け取りません。それ以来、紗希とは疎遠になってしまいました。 ある日、妹のゆきが椅子から転げ落ち、命を落としてしまいました。数日後、ゆきの死を悟った明は、紗希に協力を求めます。2人はモノレールに乗り、ゆきと大量の「アポロチョコ」が入ったスーツケースを、空港近くの空き地に埋めるのでした。
ゆきの死因や明のその後を考察!
次女・ゆきの死因
ある日、ベランダの植木鉢を取ろうとしたゆきが椅子から転落してしまいます。公衆電話で母親に電話をかけるものの、取り次いでいる間にお金が無くなり、電話が切れてしまいます。お金も戸籍もないため、ゆきを病院にさえ連れていけません。数日後、小さな体は冷たくなっていました。
長男・明のその後を考察
映画のラストは、明たちが並んで歩く後ろ姿でした。このシーンから子供たちだけの生活がこれからも続くと捉えられます。明がバイトを探すシーンもあり、自分の手で貧困から抜け出そうとも考えていたようです。 一方で明以外の子供たちの外出や、明が野球に参加するシーンなど、家族と社会との距離が縮まっている様子もありました。いずれ大人の目に止まり「誰も知らない」生活が終わることも考えられます。
母親は何をしていた?
クリスマスの電話シーンで、職場を1ヶ月前に辞めていたこと、母・けい子が「山本です」と本名の「福島」とは異なる名字で返事したことから、好きな人と遠くで同棲していると分かります。 また出ていく前、明は「好きな人に僕達のこと言ったの?」と尋ね、けい子は「そのうち話すってば」とふてくされていました。けい子の性格からして、同棲後も相手に存在を知らせず一緒にいる可能性が高いでしょう。
映画の元になった実在する事件「巣鴨子供置き去り事件」とは?映画との違いも解説!
「巣鴨子供置き去り事件」とは?
本作のモチーフとなったのは、1988年に東京都豊島区で実際に発生した「巣鴨子供置き去り事件」です。 映画同様、この事件でも子供たちが母親に育児放棄をされてはいるのですが、映画より事実のほうがより陰惨な結末となっています。
違い①【兄弟の人数】死んだ次男がいた?
まず映画では4人兄弟となっていましたが、「巣鴨子供置き去り事件」では兄弟は5人いました。しかし、巣鴨事件の方は次男が生後間もなく死亡してしまったため、結果として兄弟は4人になったのでした……。
違い②【三女の死因】暴行による死亡?
さらに、映画でも小さな少女が亡くなってしまう展開はありますが、実際の事件とは死因が違います。実際の事件では、当時2歳だった三女が泣き止まないことを理由に、長男の友人に暴行され、死亡してしまっているのです。 実際の事件ではその後、母親は逮捕・起訴されて「懲役3年・執行猶予4年」で有罪判決を受けました。長女と次女は児童養護施設へと送られています。
違い③【三女死亡後の結末】長男や母親のその後
長男は三女の死亡に深く関わっていたとされ、東京家庭裁判所に送致された後、養護施設に送られました。長男のその後については諸説ありますが、2013年5月の朝日新聞土曜版『映画の旅人』にて「学生生活を取り戻し、生徒会長になった」という記述があったと言われています。 母親は最終的に長女・次女とともに暮らすことになりました。映画版は子どもたちと母親が再会せず終わっていますが、実際は再び一緒に生活することを選んだようです。
映画『誰も知らない』キャスト情報 !子役の現在も紹介
キャスト情報
子役の現在
長男・福島明役/柳楽優弥

柳楽優弥は俳優としてドラマや映画で活躍しています。『夏目アラタの結婚』(2024)や『浅草キッド』(2021)では主演も務めました。 デビュー作となる『誰も知らない』(2004)でカンヌ国際映画祭・男優賞を受賞しますが、その後俳優業を休業。演技を一から学び直し、復帰後は福田雄一や堤幸彦など、著名な監督から主演を任される実力派俳優へと成長しました。
次男・福島茂役/木村飛影
木村飛影は、是枝裕和監督作『花よりもなほ』(2006)に出演後、俳優業を引退しました。 2013年には南葛飾高校の野球部主将として東京都予選に出場するインタビューが日刊スポーツに掲載されています。「柳楽優弥といまだに親交があり、渋谷で食事をした」とも語っていました。
長女・福島京子役/北浦愛
北浦愛は、本作に出演後も映画だけでなく、舞台俳優やCM、ナレーション業など幅広いジャンルで活躍中です。 『怪物』(2023)では、『誰も知らない』公開から19年振りの是枝監督作に再登場し話題となりました。
次女・福島ゆき役/清水萌々子
清水萌々子は『茶々 天涯の貴妃』(2007)出演を最後に、俳優業を引退しています。 引退前には『電車男』(2005)や『クローズド・ノート』(2007)などヒット作にも、子役として出演していました。
水口紗希役/韓英恵

韓英恵は本作出演後も女優として活躍。『菊とギロチン』(2018)では、高崎映画祭・助演女優賞も受賞しています。 2013年にはフジテレビ『ザ・ノンフィクション』にて、韓国と日本のハーフである韓英恵がさまざまな葛藤の中で、最終的に韓国籍を選ぶドキュメンタリーが放送されました。
是枝監督の演出とスタッフの功績
「あえて台本を渡さない」という是枝監督の演出とそれに応えた子供たち

『誰も知らない』(2004)を見た多くの人が子供たちの自然な演技に感嘆すると思いますが、これは演者たちの努力はもちろん、是枝監督の入念な演出によるところが大きいでしょう。 是枝監督は兄弟役のオーディションにも数ヶ月をかけ、実際にキャスト候補が決まってからも彼らと一緒に公園に遊びに行き、キャスト同士の相性などを確認しています。 さらにその後、柳楽とヒロイン的な存在である水口紗希を演じた韓英恵との演技リハーサルで、彼らが台本の「……」と記載されている部分での演技に苦戦している様子などを見て、あえて台本をわたさず、キャラクターの心情やその時々のシチュエーションを口頭で伝える演出に切り替えています。 また、カット割りに関しても、事前に完璧に構想を練った上で、現場の判断で柔軟に変更していったそうです。 このように是枝監督は子供たち一人一人にしっかりと寄り添いつつ、作品をより良くするために様々な演出を試みているのです。 「1年間にわたる長期の撮影により、子供たちが実際に劇中で成長していく」という視覚的な説得力に加え、是枝監督のこうした数々の演出によって子供たちにリアリティが増し、本作にドキュメンタリー的な面白さを加えることにも成功しています。 これは、是枝監督がドキュメンタリー出身ということも関係しているのでしょう。俳優の演技が自然に見えるこうした演出は、以降の是枝監督の作品でも感じることができます。
カンヌに認められた柳楽優弥の演技力を引き出した演出
「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフに映画化した『誰も知らない』。その見所としてまず挙げられるのは、若き日の柳楽優弥の名演でしょう。本作における彼の演技は、先述の通りカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。審査委員長だったクエンティン・タランティーノも絶賛しています。 その名演を導き出したのは、是枝監督の徹底した演出にあります。「明」という役名を柳楽自身に考えさせたり、「明」として柳楽に自己紹介をさせたり、子供たちと本当の兄弟にように遊ばせたり……。 柳楽と是枝監督が「明」を生み出していく様子は、本作のメイキングを収録した『「誰も知らない」ができるまで』にしっかりと記録されています。 なお、『「誰も知らない」ができるまで』は、当初は引っ込み思案だった柳楽が1年にわたる撮影を通して徐々に劇中の明と同じように兄弟たちをリードするようになっていくなど、それ自体が感動的な作品となっています。
いかにもネグレクトしそう?YOUの抜擢理由とは

『誰も知らない』の印象的なキャラクターとして、YOUが演じる母親・けい子を挙げる人も多いと思います。 「4人の子供を捨て、他所の男に走った母親」とだけ聞くと本当にひどい母のようですが、YOUが演じることで、いつまでたっても恋することをやめられないだけの愛らしい女性にも見えてきます。けい子から感じられる独特の可愛らしさと憎らしさは、YOUだからこそ体現できたものでしょう。 とはいえ、YOUもけい子を演じる上での創意工夫があったように思います。 メイキングを見ると、撮影中のYOUは子供たちと積極的に話しており、彼らと笑顔で談笑するなど、大変良い関係を築いていました。 これもYOUによるある種の役作りだったのか、劇中で子供たちが母けい子を慕う様子もとても自然なものとなっています。 また、是枝監督がYOUにオファーしたのは、バラエティ番組に出演している彼女を見て「いかにも育児放棄しそうなキャラクター」だと感じたからだとか。育児放棄はともかく、50才を超えてもなお「テラスハウス」で恋愛に対して熱く語る彼女の姿は、どこかけい子にも通じるかもしれませんね。
子供たちを支えた大人たちの功績にも注目
是枝監督の演出や子供たちの演技が高く評価されることが多い本作ですが、子供たちの名演を支えたその他の人々の功績も非常に大きかったと思います。 まず脇を固める大人のキャストたちには、加瀬亮や平泉成、木村祐一、遠藤憲一、寺島進、串田和美といった実力派を起用。彼らがしっかり脇を固めてくれていたからこそ、作品により強い説得力が生まれました。 もちろん、スタッフの功績も大きいです。 『誰も知らない』で是枝監督は「監督・脚本・編集・プロデューサー」と幅広い役職を兼任しており、スタッフには監督の過去作品の『ワンダフルライフ』(1999)、『DISTANCE』(2001)などの作品にも参加している撮影の山崎裕や美術の磯見俊裕らも参加しています。 また、『誰も知らない』以降の是枝監督の作品にたびたび参加することになる録音技師の弦巻裕や、音楽のゴンチチ、後に『万引き家族』(2018)や『そして父になる』(2013)などのプロデューサーとなる田口聖がラインプロデューサーで参加していたりと、以降の是枝作品に欠かせないスタッフも多く参加していたこともわかります。 このように、素晴らしいスタッフたちが監督や俳優陣を支えたからこそ、作品が高く評価されたのでしょう。 タテタカコが歌う挿入歌『宝石』の歌詞も、「氷のように枯れた瞳で 僕は大きくなってゆき だれも見たことのない 異臭を放った宝石」と、本作の世界観を見事に表現しています。
海外での映画作りも!是枝監督は世界的な名監督として躍進を続ける

是枝裕和監督は『誰も知らない』(2004)以降も数々の名作・話題作を手掛けてきました。 第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いた『そして父になる』(2013)、広瀬すずら注目の女優の共演が話題を呼んだ『海街diary』(2015)、そして第71回カンヌ国際映画祭で、ついに最高賞パルム・ドールを獲得した『万引き家族』(2018)……。 さらに海外作品にも挑戦し、韓国映画『ベイビー・ブローカー』(2022)は世界中から絶賛されました。2025年には、Netflixドラマ『阿修羅のごとく』が全世界同時配信されるなど、いまや海外からも注目される監督です。 これまで日本アカデミー賞最優秀作品賞を2度受賞している是枝監督。本場アメリカのアカデミー賞でオスカー像を掲げる日も、そう遠くない未来かもしれません。
『誰も知らない』は平成の日本映画を代表する傑作の一つ
『誰も知らない』(2004)はカンヌ国際映画祭での評価などから考えても、平成の日本映画を代表する一本といっても過言ではないでしょう。日本アカデミー賞ではYOUが優秀助演女優賞を受賞したのみでしたが、その他の映画祭では数々の賞に輝いています。 ただ、例えば映画『火垂るの墓』(1988)がそうであるように、『誰も知らない』も観客の心に大きな爪痕を残す作品なので、鑑賞の前にはそれなりの覚悟が必要かもしれません。 しかし、巣鴨子供置き去り事件をベースにしつつも、是枝監督は映画ではかすかな希望が感じられるラストを用意してくれているので、そうした意味では安心して鑑賞できるのではないでしょうか。