2018年12月22日更新

映画『祈りの幕が下りる時』を徹底解説 人物相関図でモヤモヤを整理【ネタバレあり】

(C)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

東野圭吾原作「新参者」シリーズの映画化第2弾『祈りの幕が下りる時』の謎を、ネタバレありで徹底解明!絡み合った人物関係を読み解くために、相関図付きで解説します。

映画『祈りの幕が下りる時』を最後まで解説【ネタバレあり】

「新参者」シリーズのフィナーレはこの作品

2010年に放映されたテレビドラマ『新参者』に始まり、スペシャルドラマ『赤い指』と『眠りの森』、映画『麒麟の翼』が生み出された東野圭吾原作の「新参者」シリーズ。日本橋署刑事の加賀恭一郎を主人公としたこのシリーズのフィナーレを飾ったのが、映画『祈りの幕が下りる時』です。 加賀の母親に大きな関わりを持つ事件が発生し、母親が失踪した謎や父親との関係性などが明らかになるなど、シリーズファン必見の作品となっています。 ここでは事件の謎を整理して解明しつつ、複雑に絡み合った人物関係を紐解くヒントとして人物相関図を挿入して解説していきます。 本記事はネタバレ情報を含めた作品解説記事となります。未聴の人はご注意を……!

シリーズの流れを掴みたい人はこちら

冒頭の字幕に注目!事件の発端と失踪した母

物語序盤で押さえるべきポイント

まずは本作の特徴であり、評価されたポイントでもある映画冒頭の字幕の内容をまとめ、物語への導入部分を確認していきます。 「仙台に田島百合子が、たどり着いたのは1983年の冬だった」 加賀恭一郎の母・田島百合子が家を出てたどり着いたのは、たった一度旅行で行ったことがあるだけで縁のない土地・仙台でした。街のスナック「セブン」で働き始め、以後2001年に心不全で亡くなるまでの18年間、一人海沿いのアパートに暮らしていたようです。この間に、客の一人である綿部俊一と知り合い、深い仲になります。 百合子が亡くなると、スナックのママ・宮本が綿部に連絡。連絡を受けた綿部が息子の加賀恭一郎を見つけ出し、手紙を送ります。加賀は母親の遺骨を仙台で受け取りますが、綿部とは連絡が取れませんでした。 「母親の恋人 綿部俊一の消息をつかめぬまま16年の月日が流れた」 この一文で、加賀が16年の月日をかけて綿部の行方を探していたことが明らかになります。

字幕表示からわかる事件の概要

溝端淳平、阿部寛『祈りの幕が下りる時』
(C)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

そして現在。東京都葛飾区で起こった事件が映し出され、事件の概要も字幕に詳しく記されます。 「荒川沿いのアパートで、異臭を放つ液体が滴り落ちてくるという階下の住人の通報で死後20日の腐乱死体が発見される」 「死体は痛みが酷く、顔や年齢は認識不可。衣服以外所持品もなく、判明したのは性別が女性、死因が絞殺である事だけだった」 加害者はアパートの住人・越川睦夫、被害者は滋賀県在住の押谷道子という40歳の女性と身元が判明し、捜査一課の松宮は滋賀県へ向かいます。 「何故、押谷道子は東京に向かったのか?交友関係に越川睦夫の影があったのか?友人、職場、親族に徹底的な聞き込みをするため、押谷道子が暮らしていた彦根の街を訪れた」 松宮は押谷の勤務先や営業先に足を運びますが、なかなか有力な情報は得られずにいました。しかし老人ホーム「有楽園」で、大きな手がかりをつかみます。押谷は有楽園で、中学の同級生で舞台演出家の浅居博美の母親に偶然出会い、それを博美に知らせるために東京へ向かった、ということがわかったのです。

博美の過去と、ある事実

捜査の結果5月14日に犯行が行われたとみられ、その前日の5月13日、博美が演出した公演初日の前日に、押谷が博美に会いに来ていたことも明らかに。松宮は任意で話を聞くため、博美の事務所を訪れます。 そこで、博美と母・厚子の確執が明らかになります。26年前、博美が14歳の時のこと。母・厚子は父・忠雄を裏切って男を作り、店の金も持ち逃げした挙句に多額の借金をしたのです。忠雄は取り立てを苦に街のビルから飛び降り自殺してしまいました。 話を聞いた松宮は、帰り際に一枚の写真を発見。それは、加賀と博美が笑顔で一緒に映っている写真でした。

博美と加賀の接点

松嶋菜々子、阿部寛『祈りの幕が下りる時』
(C)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

すぐに松宮は加賀に、博美との関係を問い詰めます。実は博美が加賀の剣道教室に子役の中学生たちを学ばせに来たことがあり、そこで彼らは初めて知り合ったのです。 また、加賀はそこで博美から「子どもを堕したことがある」という告白を受けていたことを思い出します。「私、人殺しなんですよ」と言い、「母性というバトン」を母から受け取らなかったために自分には母性がない、と語った博美。 なぜほぼ初対面の人間にそんなことを打ち明けたのか?不思議に思っていた加賀は、のちに事件の相関図を見ながら再考することになります。自分こそが、この事件の謎の鍵だ、と。

なぜ加賀の母親は失踪した?

母の百合子が残した遺品の中に、この事件の重要な手掛かりとなるカレンダーがあったことを知った加賀は、百合子が事件に大きく関わっていると直感。そして捜査本部に合流することになります。 加賀が10歳の時、剣道の夏稽古から帰ると「探さないでください」という手紙を置いて百合子はいなくなっていました。それ以来加賀は母親の影を追い、2001年に亡くなったと連絡が来てからは、百合子の恋人出会った綿部を探し続けていたのです。 加賀が綿部に会って聞きたかったのは、なぜ家を出たのか、そして最後まで自分に会いたいとは思わなかったのか。 百合子が家を出たのは、家庭のことで悩み、うつ病を発症していたからでした。ある晩包丁を握りしめていた自分に愕然とし、息子に手をかける前に家を出て行ったようです。もちろん、その前兆はあったのですが……。

加賀と父親はなぜ確執があるのか

田中麗奈、阿部寛『祈りの幕が下りる時』
(C)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

加賀は、百合子のうつ病の前兆を知りながらも何もせず、家庭を顧みなかった父・隆正に家族を不幸にした責任があると思っていました。息子である加賀自身のことにも無関心だったと考えています。 しかし加賀が百合子の遺骨を持って帰った時、隆正は「悪いのは俺だ」と認めました。水商売をしていた百合子に隆正の親戚はつらく当たりましたが、百合子は仕事ばかりで家にいなかった隆正に相談もできず、子育てと親戚のいじめに悩んでうつ病を発症したのです。 そして、隆正は加賀に「看取らなくていい。一人で逝く」と語りました。それ故、加賀が父を看取らなかったことも明らかに。 ところが、最期を看取った看護師の金森に隆正が語ったことが、加賀に大きなヒントを与え、父への気持ちに変化を生みます。それは「ずっと子どもの成長を見ていられるなら、肉体なんか滅んだっていい」というもの。 博美の父も同じことを考えたのではないか?とひらめいた加賀は、ある重要な証拠を手に入れるため、博美の事務所を訪れます。

浅居忠雄は飛び降り自殺してない?

能登の警察署に確認したところ、街のビルから飛び降り自殺があったという事実はありませんでした。実際は崖から飛び降り自殺したと思われましたが、その遺体も浅居忠雄であるという確証はなかったのです。 ここで、博美と忠雄の壮絶な過去の真実が明かされます。借金の取り立てで酷い目にあい夜逃げした二人は、滋賀から能登へ。博美の中学の担任教師・苗村は配慮して「近所のビルから父親が飛び降り自殺した」という嘘を広めました。 逃亡先で出会った原発労働者の横山一俊から暴行されそうになった博美は、側にあった割り箸で首を刺してしまいます。それを知った忠雄は、崖から飛び降り自殺したように見せかけ、横山と自分の人生を入れ替えたのです。

人物の関係性を相関図ですっきり整理!

祈りの幕が下りる時
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ここで、登場人物の相関図から、これまでの関係性を整理してみましょう。また、忠雄の自殺偽装や逃亡人生、偽名遍歴、そして殺人を犯した3件(横山・苗村・押谷)を、動機と殺害方法などとともにまとめていきます。

浅居忠雄の時の犯行

横山は博美に暴行しようとして、逆に箸で首を刺されて死亡。忠雄は横山の遺体を崖から落とし、自分が身投げしたように偽装して横山に成りかわり、女川の原発労働者に。

綿部俊一の時の犯行

苗村は恋人の博美の後をつけてホテルの前で待っていると、死んだはずの博美の父が出てきて驚く。秘密を知られたため、ネクタイで首を絞め殺害。

越川睦夫の時の犯行

押谷は博美の舞台を見に行った時、観劇に来ていた忠雄を発見。やはり秘密を知られたため、同じく絞殺。

16年前、加賀が表紙に映る剣道雑誌を見つけたのは忠雄でしたが、出版社に住所を問い合わせに来たのは博美でした。剣道教室で出会ったのは偶然ではなく、博美は父が愛した女性の息子である加賀にわざわざ会いに来ていたのです。 このことが、相関図の中で加賀がひらめいた事実であり、謎の鍵となりました。

博美はなぜ実の父親に手をかけたのか

押谷を殺害後に自殺を決意した忠雄でしたが、それを察した博美が止めようとします。しかし、忠雄の「逃げ続ける人生に疲れた」という言葉を聞いて、その心情を深く察しました。 忠雄がかつて言っていた「焼死するなんて想像しただけでゾッとする」という言葉を思い出して余計に辛くなった博美は、父を愛するが故に自分が父を楽にさせてあげようと考えたのではないでしょうか? 博美が手がけた舞台「異聞・曽根崎心中」でも、最後に愛する人を手にかけて幕を閉じています。 博美の初舞台だった明治座が、父と娘の聖地。カレンダーに書かれた日本橋界隈の12の橋の名は、二人の密会場所でした。離ればなれで暮らさねばならなかった親子の、互いを思いやる深い愛情こそがこの事件の発端であり、真相を明らかにしたのです。

【ラスト】シリーズの終幕 〜「祈りの幕が下りる」とき〜

加賀は母の遺品から見つけたカレンダーに書かれた橋の名を手掛かりにして、16年間綿部を探し続けていました。それこそが加賀が日本橋にこだわっていた理由です。ただ、母のその後の人生が幸せだったのかを知りたいがために。 そしてその答えが、忠雄が加賀に遺した手紙に書かれていました。博美の舞台と忠雄の逃亡人生の幕が下りた時、そして加賀の母への想いが成就した時、それぞれの祈りが届き、この物語の幕も下りたのでしょう。 母失踪の謎の解明と父との関係修復、そして日本橋へのこだわりがすべて解消され、捜査一課に戻ることになった加賀。エンディングにはこれまでのシリーズに登場した人物たちもカメオ出演していましたね。

『祈りの幕が下りる時』は、親子の深い愛に涙するヒューマン・ミステリーだった

「親は子どものためなら、自分の存在も消せる」と加賀が語っていましたが、忠雄の人生は正にそうでした。 冒頭は、「人は嘘をつく。自分を守るため、誰かを守るため。嘘は真実の影。誰もが心に傷を抱えて生きている。その傷を守ろうと人は心に蓋をする」という加賀のモノローグから始まっています。 しかしラストに加賀が語ったのは、「嘘は真実の影。その影に何を見るのか。それはきっと悲劇だけではない。嘘が映すのは人の心そのものだから」という言葉。 東野圭吾らしい「愛」が根幹にあるヒューマン・ミステリーは、忠雄と博美、そして加賀と両親の深い愛に涙する、すばらしい映像化作品に仕上がっているのではないでしょうか。

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