2019年2月1日更新

「映画業界を目指すなら犠牲を覚悟」ルカ・グァダニーノ監督インタビュー『サスペリア』

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ルカ・グァダニーノ
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『サスペリア』(2019)ルカ・グァダニーノ監督インタビュー

サスペリア
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イタリア映画界の巨匠、ダリオ・アルジェントが『サスペリア』を世に放ったのは今から42年前の1977年のこと。それを見たルカ・グァダニーノ青年は、強い印象を受け、すぐさまノートを手に取り、“自分なりのサスペリア”を書きなぐった。それから、『胸騒ぎのシチリア』や昨年のオスカーノミネート作品『君の名前で僕を呼んで』で焦がれる愛を描いてきた監督による、再構築版『サスペリア』が公開された。 「へ〜『君の名前で僕を呼んで』の監督なんだ〜、シャラメくんめっちゃ可愛かったからこれも見にいこ〜」と、“あのテンション”を本作にも求めて映画館に足を運ぼうと思っている人は、おそらく顔面をグーパンされて鼻血タラッタラッで劇場から出ることになるだろうから、オススメしない。いや、わからない。本作のダコタ・ジョンソンめっちゃ可愛いから。 ともかく、世界中で賛否が激突する衝撃作『サスペリア』。この度は来日された監督ルカ・グァダニーノ監督に本作について伺った。

※インタビュー内で映画のネタバレについて触れられています。作品鑑賞後に読むことをオススメします。

最も挑戦的だったシーンは……

本作において、撮影が最も挑戦的だったシーンはどこですか?
ルカ・グァダニーノ
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「オルガがスージーのダンスによって、身体がバキバキになるシーンですね。何故なら、そのシーンの舞台が全面ミラーの部屋での撮影でしたから。他には、クライマックスのブラックサバス (魔女の集会)のシーンが大変でした。 基本的にシーンを撮る上では心がけているのは、そのシーンが生き生きとすることです。」

具体的な指示などは監督からされていたんですか?

「少し難しい質問ですね。何故なら、演出の指示は必ずしも「これをやれ」と命令するのではなく、その状況を一緒に理解して、女優さんやスタッフというパートナーの助けをもらいながら、共に作り上げていくからです」

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本作で関わったジェシカ・ハーパーとトム・ヨークについて

本作にはアルジェント版『サスペリア』のヒロイン、ジェシカ・ハーパーがアンケ役で出演されています。彼女と一緒に仕事をした感想は?
サスペリア
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「楽しかったです。彼女は素敵な女性であると同時に、倫理的で素晴らしい女優でした。そんな彼女と一緒に仕事をできたのは、私にとって大きな喜びです。 また、完成版を観た彼女は本作をとても気に入ってくれたと思います。彼女はダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』の撮影時の話をしてくれました。 その中のエピソードでお気に入りなのがあって。彼女が『サスペリア』の撮影中ミュンヘンで夕食に招待されて行った時、そこにライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督がいたって言うんです。実は、本作を作る上で彼のことをかなり考えていたので、この話は思いがけない偶然でした。」

トム・ヨークに今回音楽を依頼した経緯、そしてどのように『サスペリア』の音楽を構築していったのか教えてください。
ルカ・グァダニーノ
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「彼の音楽にはメランコリックさと辛さ、そして痛みや詩的なものがあると思ったので『サスペリア』にちょうど良いと思っていました。彼が引き受けてくれた後、我々は音楽についてとにかく沢山話をしましたね。私は、いわゆる典型的なホラー映画のサントラのようにしたくなかったんです。 また、映画の舞台である1977年の当時に使われていた楽器を使いたいという、こだわりはありました。他には、映画の部分部分によってテーマ性が変わってくるので、そこも音楽で表現したかったんです。例えば、クレンペラー博士がテーマの曲については、アーノルド・シェーンベルグの音楽を参照にしてもらいました。トムは私の予想をはるかに超える良いものを作ってくれたと思います。」

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オリジナル版との違い、監督が『サスペリア』に込めたメッセージ性

アルジェント版では、赤や青、様々なカラーが印象的に、そしてふんだんに使われています。しかし本作ではやや抑え気味……かと思いきや、クライマックスで強い赤が暴力的なまでに使われていましたね。『サスペリア』という作品を語る上で欠かせない、この色彩について伺わせてください。
ルカ・グァダニーノ
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「本作ではバルテュスの絵の色味を取り入れたかったんです。彼の絵は、ブラウンやグリーンにブルー、そしてまたそこにブラウンと色々な色がレイヤーをなしている。それが、本作における非常に大きなインスピレーション源となっていました。」

アルジェント版には、男性が登場してきました。しかし、本作では唯一の男性キャラクターであるクレンペラー博士でさえ、女優のティルダ・スウィントンが演じています。ここまで男性を“排除”したのは何故ですか?
サスペリア
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「映画を観ていただければ、その意図が自明だと思います。ただ、言えるのは本作が母性についての映画とも言えることです。これはある人たちの集団が、母性の系列に所属しようとしている。それと同時に、母性というものを克服しようとしている、そんな人々を描いています。 私にとっては、ティルダ・スウィントンと遊んだ部分も多かったです。彼女と仕事をするのはとても楽しかったですね。」

スージーのキャラクターの変化も印象的です。アルジェント版の彼女は、いつも何かに怯えているような様子でした。しかし、本作のスージーはより強くて、意思もはっきりしていて、何が起きているのかを受け入れているような感じでした。
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「スージーのキャラクターをそのように作ったアイデアのきっかけは、本作の脚本家デビッド・カイガニックと、役を演じたダコタ・ジョンソンとの会話でした。前提で決めるより、いつも自然に何かが生み出されるのを好むんです。 全て(スタッフ同士)お互いに話し合いをして、協力して作り上げていく。会話を受けて、今回のスージーは受け身で弱々しいのではなく、強い女性にしたいと考えたんです。 もちろん、そこには1977年という時代背景にあるフェミニズムの影響もありました。」

クライマックスについてです。オリジナル版では魔女の脅威が深く描かれていませんでした。しかし、本作はそれに対する具体的なイメージがしっかりとありましたね。

「サバスに行くわけですから、アレを描かないというのは避けて通れないと考えたのです」

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監督自身について「大島渚の大ファンです」

オリジナル版も本作もトラウマ級に怖いシーンがあると言われています。監督ご自身がトラウマ級に怖いと感じる映画はありますか?
ルカ・グァダニーノ
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「悪い映画です。良い映画は、どんなに怖くてもトラウマにはならず、気分を高揚させる。しかし、悪い映画の場合はそれがマイナスな感情となり、トラウマになるんです。なので、そういうトラウマ映画は……記憶から消えましたね(笑)」

映画監督になるきっかけを与えたような、影響をうけた映画監督や作品は?

「小さい頃に観た映画全てに感化していました。『アラビアのロレンス』や『サイコ』。ファスビンダーや大島渚にも。私は大島監督の大ファンで、彼についてよく知っています。日本の映画監督は、他にも小津安二郎や溝口健二、鈴木清順も好きです。アニメーションも、押井守や宮崎駿が大好きです。」 (敬称略)

大島渚の好きなところをお聞かせください。
ルカ・グァダニーノ
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「彼はファスビンダー監督のように、非常に葛藤のある人でした。そして社会を捉えるのがうまい。『太陽の墓場』や『青春残虐物語』、『愛のコリーダ』は社会が非常に鋭く描かれていると思います。 私は大島監督の作品に非常に強く心打たれて。彼のヴィジョンに対する倫理的強さは、自分にとって良い見本となっているんです。彼の美意識の深さは無限だと思っています。本当に亡くなってしまったことが悲しい……。彼の遺作である『御法度』は、私が人生の中で観た最も素晴らしい映画の一つです。」

「彼らは映画のことを何でも知っていると思っている。でも、本当は何もわかっていない事がわかりました」

ルカ・グァダニーノ
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「最近チューリッヒの大学に行って、映画監督志望者向けに二日間マスタークラスをやったんです。そこの学生はある意味特権的な立場で、“自分は映画のことは全てわかっている”と思う学生たちでした。しかし、彼らの質問を聞いていると、彼らが映画について何もわかっていない事がわかったんです。彼らは23~28歳で50名ほどだったのですが、誰も大島監督のことを何も知らなくて、私はショックを受けましたよ。」

ルカ・グァダニーノ
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「なので、親切心で大島監督の代表作であり、比較的観やすい作品『戦場のメリークリスマス』を観せたんです。すると、彼らはショックを受けました。何故なら、彼らは今までの人生で一度も、あの傑作の中で、大島監督が映画の中に内包したものを、映画が内包できると思った事がなかったからです。 あの映画は彼らに「自分は間違っていた」と思い知らせたことでしょう。あの映画を観たことで、その内の数人には高い野望を持たせることできました。が、大半の生徒は『戦場のメリークリスマス』を観た事で、「映画監督になりたい」というクレイジーなアイデアを捨ててくれたと思います(笑)。 何故なら、彼らには強さも、フォーカスもなければ集中力も人間味も、大島監督の持っていた視覚的言語力も欠けているから。」

「まあ、ネガティブなことだけではなく、その中の数名の生徒は大島監督の映画から得た知識を水のように飲み込んで、彼と同じ所に立ちたいと思いながら、映画の道を歩み続けるかもしれませんね。」

そう語る監督から、最後『サスペリア』や本インタビュー記事に目を止めた映画業界を目指す読者に向けた、力強いメッセージをいただいた。
ルカ・グァダニーノ
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「映画産業で働きたい人は、当然ながら映画に対する知識が必要です。それと同時に、犠牲を覚悟した方がよい。それから、自己規律が必要です。北野武が『御法度』のラストでやったような、桜の木を斬るような覚悟。それは映画という言語に全てを、そして自分の意思を消化させるために他を犠牲にするという覚悟です。 成功のための成功を追求してはいけない。 意味があるものを作ろうとすること。 そして、そのために犠牲を伴うことを理解すること。 つまり、全く簡単な仕事ではないというわけです」

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ルカ・グァダニーノ監督作『サスペリア』1月25日より全国上映中

思わず、インタビュアーである私の背筋も、聞きながら自然とまっすぐになった監督の最後の言葉が忘れられない。映画という大海原に身を投げる覚悟。衝撃的で、混沌としていて、美しくて、形容しがたい感動に包まれる本作『サスペリア』を観るうえでも、覚悟が必要だ。 『サスペリア』2019年1月25日より全国ロードショー中。