2022年11月18日更新

【ネタバレ】映画『ゲーム』徹底解説!忘れがたいラストは緻密な伏線によって生みだされた

このページにはプロモーションが含まれています
ゲーム (1997)、マイケル・ダグラス
©Polygram Filmed Entertainment/Photofest/zetaimage

『セブン』や『ファイト・クラブ』 など、常に時代 を象徴する問題作を手掛けてきた鬼才、デヴィッド・フィンチャー監督の1998年に公開された作品『ゲーム』。1度観たら忘れる事のできないラストの有名などんでん返しや作中に散りばめられた伏線について解説します。 ※この記事には、映画『ゲーム』に関するネタバレ情報を含んでいます。未鑑賞の方はご注意ください!

AD

映画『ゲーム』のあらすじ

ゲーム、デヴィッド・フィンチャー、マイケル・ダグラス
© Polygram Filmed Entertainment Photographer: Tony Friedkin/zetaimage

大会社の経営者のニコラス・オートンは、48歳の誕生日に弟のコンラッド・オートンからお祝いに「CRS」という会社が提供する謎の「ゲーム」に参加できるというカードをプレゼントされます。 最初は無視するつもりだったニコラスでしたが、「人生を変える体験」という評判を耳にして参加することにしました。やがて、奇妙な出来事がニコラスの周りで次々に起こり始め、ついには生命の危機にさらされることになります。

奇妙な事件に巻き込むCRSのねらいとは【ネタバレ注意】

ゲームのねらいは「人生を変える体験」。つまり、その人の価値観を180度変えることが目的です。ニコラスがこれまで築いてきた、金、名誉、人間関係などのすべてを奪い取り、自分を見つめ直させる為に彼の弟であるコンラッドはCRSにゲームを依頼しました。 「ゲーム」でニコラスはメキシコの墓地で一度死に、ビルから飛び降りをすることで生まれ変わりました。彼は「ゲーム」により自らの価値観を変える事ができたのです。 「ゲーム」で起こるすべての事がCRSの仕組んだものです。その点を踏まえて、以下ではどんでん返しの展開と伏線について考察していきます。

怒涛のどんでん返しの展開を解説【ネタバレ注意】

それでは「ゲーム」のねらいを踏まえて、メキシコの墓地のシーンからラストに向かって起こる怒涛のどんでん返しの展開を解説していきます。

AD

メキシコの墓地で棺に入れられたニコラス

ニコラスは、弟のコンラッドと夕食の約束をしていたレストランでウェイトレスのクリスティーンと出会い、奇妙な出来事に巻き込まれます。その後、彼は彼女がCRSの関係者であると疑い、彼女の自宅へ向かいました。 クリスティーンの自宅でニコラスはCRSの襲撃を受け、ふたりで彼の別荘に向かうことに。別荘で彼は彼女に薬を盛られ、意識を失います。気が付くと彼はメキシコの墓地で棺に入れられていました。彼は何も持っていなく、メキシコという誰も彼を知らない土地で、信用も言葉も通じない場所にいるわけです。 これで、ニコラスはこれまで築いてきた、金、名誉、人間関係などの全てを奪い取られた状態になりました。CRSは彼をこの状態にする為に、様々な事を仕組んできたのです。

メキシコからの脱出

ニコラスはCRSに復讐する為に、父の形見の腕時計を売り、サンフランシスコに戻ります。サンフランシスコに戻ったニコラスは競売物件と書かれた自宅に入り、『物まね鳥を殺すのは』という本を持ち、家を出ました。 『物まね鳥を殺すのは』という小説は1963年に映画として公開された『アラバマ物語』の原題です。この小説は黒人への人種差別を扱った法廷物語であり、身分や人種が違う人達も含め様々な視点からそれらの課題を捉えようとする作品です。彼がこの本を持ったということはこの小説のように価値観が変化した事を表していると考えられます。 この後、ニコラスはこの小説を父の形見の腕時計代わりに持ち歩きます。腕時計は父の象徴であり、それを捨てる事で父との決別を表した比喩表現になっているのです。

AD

CRSを襲撃

自宅を出たニコラスは別れた妻エリザベスに会いに行き、喫茶店で自分の今までの過ちを謝罪します。彼は今まで別れた原因を理解できませんでしたが、全てを失い、価値観が変わり、素直に謝罪ができるようになりました。 その喫茶店のテレビにCRSでニコラスをテストしたファインゴールドが映っており、彼が俳優だという事が判明するのです。ニコラスは彼を捜し出し、CRSに連れて行くように命令します。CRSに潜入したニコラスは彼と共にエレベーターに乗り、CRSのオフィスがある部屋に案内させました。 エレベーターを降りた先は食堂で、その中には今まで見た顔ばかりで、ニコラスを襲ったタクシーの運転手や探偵の顔もありました。この食堂には「ゲーム」に関わった人たちがいたということが分かります。

屋上でのどんでん返し

ニコラスは食堂にいたクリスティーンを連れて、屋上に逃げ、彼女に銃を突きつけ「ボスを呼べ」と命令します。彼女は、これは全部ゲームであり、屋上の扉の外では皆がシャンパンを持っていて、コンラッドもいる誕生日のパーティーだと説明しました。 しかし、ニコラスは信じず、扉から出てきたコンラッドを銃で撃ってしまいます。倒れたコンラッドにファインゴールドとクリスティーンが駆け寄り、救急処置を施そうとしました。しかし、彼は弟を撃ち殺した罪悪感で、屋上から飛び降ります。

AD

ビルから飛び降りた先には

ニコラスはガラスの天井を突き破り、落ちました。しかし、落ちた所は、ホテルの巨大なクッションの上で、そこに、屋上で撃ち殺したはずのコンラッドが近づいてきます。 無傷のニコラスにコンラッドは「メキシコの墓場に捨てられた記念Tシャツ」と書かれたTシャツを見せ、誕生日プレゼントだと言うと、ようやく彼は、今までの事はすべて仕組まれた「ゲーム」だと理解しました。

生まれ変わったニコラス

ハート 花 デイジー フリー素材

コンラッドはニコラスの価値観を変えるために「ゲーム」を仕組みました。「ゲーム」により、ニコラスはメキシコの墓地で一度死に、ビルから飛び降りをすることで生まれ変わったのです。彼の顔には笑顔が現れ、自分の感情を表に出す事ができるようになりました。 ラストシーンではクリスティーンとの恋を予感させるハッピーエンドになっています。このハッピーエンドはニコラスが生まれ変わったことにより、ポジティブな行動することができるようになったからもたらされたものです。このラストシーンから分かるように彼は「ゲーム」によって人生を変える事ができたのかもしれません。

作中に散りばめられた伏線の数々【ネタバレ注意】

ホームビデオに映るニコラスの父

冒頭で流れるホームビデオの映像はニコラスの誕生日パーティの様子を映したものです。この映像では48歳で自殺した彼の父を見る事ができます。 映像の中で彼の父は48歳になった彼のように楽しくなさそうにしており、生活に充実していない様です。たばこを吸わない彼とは対照的に彼の父はたばこばかり吸っており、喫煙者ということが強調的に映し出されています。たばこからも自殺した父との確執に気づくことができるわけです。 さらに、この映像では後に「ゲーム」で起こることが伏線のように映し出されています。映像で彼がプールに落とされているのは、「ゲーム」内でタクシーに乗った時、海に落ちることへの伏線であり、映像に出てくるピエロは「ゲーム」内で、彼を不安にさせる為に現れたピエロに似ており、伏線だと考えることができます。

AD

ニコラスがしている腕時計

腕時計、フリー画像

18歳のときに母からもらった父の肩身の腕時計をニコラスは常に身に着けています。彼が常にこの腕時計をしている理由は、彼にとって父は理想の男であり、父を超えたいと思っているからです。その証拠に彼は常に仕事をしています。 例えば、コンラッドにカードを渡される昼食の前も仕事をし、家や車の中でも常に経済ニュースを見ている仕事人間になっています。父を目指すあまりに、ニコラスは48歳で自殺した父のコピーのような人間になってしまいました。 しかし、メキシコから出る為に父の形見の腕時計を売ります。腕時計を手放したことにより、父と決別することができました。

コンラッドとの昼食

コンラッドとの昼食シーンではニコラスとコンラッドの関係性を知ることができます。コンラッドは彼にとって出来の悪い弟であり、精神科にも入っていました。父の代わりのように彼はコンラッドの調査を行い、見守ってきた事が分かります。しかし、その調査は施設での面会後、止めました。 この昼食のシーンですでに「ゲーム」は始まっているのです。接客しているウェイトレスはクリスティーンであり、後のシーンで飲み物をニコラスにこぼすのと同じように、このシーンでも彼にアイスティーをこぼしています。

AD

「CRS」でのテスト

コンラッドに「ゲーム」のカードをもらったニコラスは仕事で偶然来たビルで「CRS」を見つけます。この偶然も「CRS」が仕組んだものだと考えられます。彼は「CRS」に入った時から彼が今まで味わったことのないストレスを味わうことになるのです。 例えば、受付で待たされたり、対応した部長に中華の出前を持たされたり、テストで長時間拘束されます。大富豪の息子として育てられた彼にとって初めての経験であり、彼の言う事を聞かない人間もいるという事を分からせているのです。このテストでの「CRS」のねらいはそこにあると考えられます。

ヨハネの第9章25節

ニコラスがスポーツクラブでスカッシュをした後、ロッカールームで2人の男がCRSの話をしているのを耳にし、バーでその二人にCRSの話を聞きます。 そのうちの1人がニコラスに、ヨハネの第9章25節を引用して「かつて私は盲目だったが今は見える」と教えます。これはイエス・キリストが盲人の目を見えるようにした奇跡の話であり、人生や価値観を180度変える「ゲーム」を例えているのです。このふたりの男性も「CRS」の仕組んだ人物であると考えられます。

映画『ゲーム』のキャスト・登場人物を紹介 マイケル・ダグラスが終始翻弄されるニコラスを演じる

ニコラス・オートン/マイケル・ダグラス

マイケル・ダグラス
©Hahn Lionel/Sipa USA/Newscom/Zeta Image

「ゲーム」に参加する大会社の経営者、ニコラス・オートンを演じたマイケル・ダグラスは、1944年ニュージャージー州出身。オリヴァー・ストーン監督の『ウォール街』でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞を受賞し、演技派俳優としての地位を確立しました。 その後も『氷の微笑』、『ブラック・レイン』、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『ウォール・ストリート』などに出演しています。

AD

コンラッド・オートン(コニー)/ショーン・ペン

ショーン・ペン
©︎Adriana M. Barraza/WENN.com

「ゲーム」に参加できるカードをプレゼントするニコラスの弟、コンラッド・オートンを演じたショーン・ペンは、1960年カリフォルニア州出身です。これまでに世界三大映画祭(ヴェネツィア、カンヌ、ベルリン)の主演男優賞を全て受賞しました。 『ミスティック・リバー』、『ミルク』でアカデミー主演男優賞を2度受賞。国際的に名優として名高い俳優で、その後も『LIFE!』、『ザ・ガンマン』などに出演しています。

クリスティーン/デボラ・カーラ・アンガー

ニコラスと共に「ゲーム」に巻き込まれていく女性、クリスティーンを演じたデボラ・カーラ・アンガーは、1966年カナダのバンクーバー出身。『アンボンで何が裁かれたか』で映画デビューし、『クラッシュ』での熱演が評価されました。 その後も『サイレントヒル』や『ヴェンジェンス 』などに出演しています。

映画『ゲーム』はCRS視点で鑑賞すると新たな発見があるかも

ゲーム、マイケル・ダグラス
©Polygram Filmed Entertainment Photographer: Tony Friedkin

映画『ゲーム』はラストに向かって起こるどんでん返しのために、多くの伏線を散りばめられています。そして、ニコラス側に立って鑑賞するだけではなく、CRS側の「人生を変える」側の立場から見ると新たな気づきがあるかもしれません。