映画『鑑定士と顔のない依頼人』ラストにどんでん返し!?伏線と登場人物をネタバレ考察
映画『鑑定士と顔のない依頼人』は究極の騙し討ち映画!?
『鑑定士と顔のない依頼人』は、美術品を巡って繰り広げられる極上の恋愛&ミステリー映画。イタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレが監督・脚本を手掛け、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで知られるオスカー俳優ジェフリー・ラッシュを主演に迎えて2013年に公開されました。 天才鑑定士が姿を現さない謎の女性から鑑定を依頼されることから始まるスリリングな展開が見どころ。この記事では、ちりばめられた細かな伏線と登場人物の相関関係を徹底解説します。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』ネタバレなしであらすじを紹介
主人公ヴァージルは、成功を収めた天才美術鑑定士。彼は偏屈な老人で独身を貫く一方、自宅の隠し部屋に集めた膨大な女性肖像画コレクションを眺めては悦に入る日々を過ごしていました。 ある時ヴァージルは、両親から莫大な資産を相続したクレアという女性から、美術品の鑑定を依頼されます。彼女は何かと理由をつけて姿を見せず、始めはいら立ちを覚えるヴァージルでしたが、声だけでやり取りするうちに彼女に惹かれていき……。
鑑定士ヴァージルを取り巻く人間関係を考察!
ヴァージル
他人と同じものを触れられない潔癖症で、常に革の手袋をしている変わり者の老人。女性への畏怖から恋愛経験がなく、美しい女性を描いた肖像画のコレクションを日々の癒しとしています。 実はこれらの肖像画、自身が司会も務めるオークション会場で虚偽の査定をし、友人のビリーに格安で落札させる手法で、長い歳月をかけて不正に集めたものでした。
ビリー
ヴァージルとは長年の付き合いで、報酬と引き換えに女性肖像画の不正入手に手を貸しています。オークションではヴァージルと阿吽の呼吸で数々の名画を落札してきましたが、最近では腕が衰え、ヴァージルに叱責されることも。 自身も偉大な画家を志していましたが、ヴァージルに「内なる神秘性がない」として才能を否定され、夢を諦めた過去があります。
クレア
27歳の色白で美しい女性。両親が遺した豪邸の美術品の査定をヴァージルに電話で依頼しますが、会う約束のたびに「車にはねられた」「熱が出た」などの事情で姿を見せず、彼を苛立たせます。 実は広場恐怖症で人前に出られないのが理由で、15歳の頃から12年間にわたって豪邸に引きこもり、誰とも会わずにペンネーム作家として暮らしています。
ロバート
機械職人の青年で、ヴァージルの友人。復元や目利きの腕前は抜群で、ヴァージルからも「君に不可能はない」「どんな鉄材からでも素晴らしいものを再現できる」と全幅の信頼を置かれています。 女性に非常にモテる男前で、恋愛は百戦錬磨。現在はサラという恋人がいるものの、他にも複数の女性と親密な関係を持っている様子がうかがえます。
サラ
サラは、ロバートと交際中の黒人女性。職場までバイクで迎えに来るなど、けなげにロバートに尽くしています。
フレッド
フレッドは、クレアが暮らす豪邸の管理人を務める中年男性で、姿を見せない家主に代わり、ヴァージルを豪邸に案内します。クレアの病気について隠していましたが、ヴァージルからチップを受けとって口を開き、「クレアを一度も目にしたことがない」と打ち明けます。
キャラクター別にみる裏切りの伏線を考察!【ネタバレ解説】
ビリーとヴァージル
本作は、ヴァージルが不正に収集した肖像画を奪われるまでの過程を描いたミステリーです。重要人物の一人であるビリーは長年、不正に加担していましたが、自らの才能を認めなかったヴァージルを内心快く思っていなかったようです。 クレアについて悩むヴァージルに対し、「人間の感情は偽造できる。愛すらも」と意味深な発言をする場面も。終盤には「もう会えなくなると寂しい」と言い、ヴァージルに犯行をほのめかしています。
姿を見せない依頼人クレアとの関係
ヴァージルに隠し部屋を案内させる「美人局」の役目を果たしたクレア。ヴァージルが彼女の姿を盗み見する序盤のシーンに伏線が隠されています。 1度目の盗み見での彼女は、カジュアルな服装でリラックスした様子。2度目は対照的に、バスローブをはだけた妖艶な姿で登場します。盗み見を利用して、ヴァージルを骨抜きにする罠だったのでしょう。 ヴァージルにプロポーズされるシーンの彼女の表情やセリフにも注目。偽りの愛情には、果たして本物が含まれていたのでしょうか。
ロバートとヴァージル
ヴァージルがクレアと初めて結ばれた翌日。ヴァージルは恋愛相談をしていたロバートに対し、「愛を偽ることは可能か?」と問いかけます。 ロバートは、ヴァージルの芸術に関する持論である「贋作にも本物が潜む」を引き合いに、「偽りの愛にも真実が潜む」と答えます。暗に、クレアとの恋が偽りであることを匂わせたのでしょう。
サラ、フレッドについて
サラは、クレアとの関係が進展しつつあったヴァージルに対し、「ロバートがクレアの話ばかりする」と相談を持ち掛けます。ヴァージルの嫉妬心を掻き立て、恋心を加速させる狙いだったのでしょう。 フレッドは、ヴァージルに豪邸のカギを渡す際「扉の開閉は音を立てて。クレアが怯えてパニックになる」と忠告します。クレアがヴァージルの来訪にいち早く反応できるように仕向けたものと考えられます。
オートマタが裏切りの伏線……?真相を考察 【ネタバレ解説】
美人局であるクレアのほかに、もう一つ仕組まれた罠が「オートマタ」(機械人形)です。ヴァージルは、優れたオートマタを造り出した18世紀の職人「J・ヴォーカーソン」に目がなく、卒論のテーマにするほどでした。 豪邸でオートマタの部品を見つけたヴァージルは、ロバートからヴォーカーソンのものだと教えられ、他の部品を集めるべく豪邸に通うことになります。しかし、実はこのオートマタ、ヴァージルをはめるためにロバートが自作した「小道具」の一つでした。 そして、近くのバーからいつも豪邸を眺めていた女性こそが本物のクレアで、豪邸のオーナーでした。ロバートは、彼女から豪邸を2年前に賃借し、美術品などを運び込んで着々と準備を進めていたのです。 本物のクレアが豪邸を眺めながら数字をつぶやくシーンがありますが、これは「偽物のクレア」が外出した回数でした。
実は全員グルだった!?大どんでん返しのクライマックスをネタバレ解説
クレアにプロポーズし、鑑定士からの引退を決めたヴァージル。最後のオークションで有終の美を飾り、自宅に戻ると、待っているはずのクレアはいません。彼が隠し部屋に入ると、なんと壁一面に飾られた肖像画コレクションは跡形もなくなっており、片隅には完全体のオートマタが残されていました。 呆然としながらヴァージルが近づくと、オートマタが突然作動し、「いかなる贋作の中にも本物が潜む」「会えなくて寂しいよ」としゃべりだします。ロバートからヴァージルに向けた決別のメッセージでした。 彼の自宅には豪邸で目にしたクレアの母親の肖像画も置かれてあり、裏面には「親愛と感謝を込めて ビリー」と書かれていました。ヴァージルは、信頼していた全員に裏切られていたと察します。 全てを失い、老人施設に入ったヴァージルは、面会に来た秘書と会話もできない廃人状態に。彼はリハビリを経て回復すると、「偽物のクレア」がかつて思い出の場所と語っていたプラハのレストランを訪れ、一人で彼女を待ち続けます。
原題「The Best Offer」の意味とは?
英語の原題「The Best Offer」は、オークションにおける「最上の出品物」という意味です。冒頭のオークションで、ヴァージルがビルに対し、落札の合図として使います。 本作は、「美術品でも愛情でも、偽物の中には必ず本物が潜んでいる」という真理がテーマであることが読み取れます。タイトルの「最上の出品物」は、ヴァージルに差し出された偽物の愛、つまりクレアのことを暗示しているのでしょう。
監督はジュゼッペ・トルナトーレ
本作の監督・脚本を手掛けたのは、イタリア・シチリア島出身の巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ。 1988年公開(日本では1989年)のヒューマンドラマ『ニュー・シネマ・パラダイス』が世界的な大ヒットを記録し、アカデミー外国語映画賞、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を獲得。一躍その名をとどろかせました。 同作品は、成功を収めた中年の映画監督が、少年時代に心を通わせた老人との思い出を回想するノスタルジックな物語で、あふれる映画愛が多くのファンを虜にしました。 その後も、出生から豪華客船を一度も降りることなく生涯を過ごしたピアニストを描いた『海の上のピアニスト』(1998年)、第2次世界大戦で運命を狂わされていく女性を少年の視点で描いた『マレーナ』(2000年)などを世に送り出します。 『ニュー・シネマ・パラダイス』をはじめ、アカデミー名誉賞の作曲家エンニオ・モリコーネを重用することで知られ、『鑑定士と顔のない依頼人』でもタッグを組んでいます。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』どんでん返しのラストを見逃すな!
ヒューマンドラマを得意とする巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、スリリングな恋愛ミステリーに挑んだ異色作『鑑定士と顔のない依頼人』。 天才鑑定士を翻弄していく美しき依頼人の正体は何なのか。大どんでん返しの後、ちりばめられた伏線が回収されるクライマックスは快感すら覚えます。洗練された映像、キャストの演技も素晴らしく、何度でも味わいたくなる一作です。