2021年5月28日更新

映画『女神の見えざる手』伏線解説!男社会で戦う女性の強さをよみとく

『女神の見えざる手』
©︎ ARCHERY PICTURES / All Star Picture Library / Zeta Image

強い女性を演じ続けるジェシカ・チャステインを主演に迎えた政治サスペンス映画『女神の見えざる手』(2016年)。随所にちりばめられた伏線が物語のカギを握ります。この記事ではそんな本作のあらすじやトリックなどを徹底解説し社会背景をひもといていきます。

目次

『女神の見えざる手』政治の闇に立ち向かうロビイストの戦法を解説

『女神の見えざる手』
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『女神の見えざる手』(2016年)は、アメリカの連邦上院を舞台に銃規制強化法案をめぐって賛成派と反対派のロビイストたちが繰り広げる暗闘を描いた政治サスペンス映画です。 トップブランドの服を鎧のように身にまとい、勝つことだけを信条に男社会で戦うヒロインをジェシカ・チャステインが熱演。彼女は本作の演技でゴールデン・グローブ主演女優賞(ドラマ映画部門)にノミネートされました。 二転三転して最後に大どんでん返しを迎える脚本を執筆したのは、本作が処女作となるイギリスの脚本家ジョナサン・ペレラ。監督を務めたジョン・マッデンはチャステインと『ペイド・バック』(2010年)以来2度目のタッグとなります。 この記事では全編にちりばめられた細かな伏線とトリックからメイン・キャストまで、映画『女神の見えざる手』の見どころを徹底解説。できる女の戦い方を学びましょう!

『女神の見えざる手』あらすじ【ネタバレ注意】

本作の主人公・マドレーヌ・エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)はアメリカの首都・ワシントンD.C.で暗躍するアラフォー独身の敏腕ロビイスト。 保守系の大手ロビイスト会社で働く彼女はある日銃器を製造する会社から、銃規制強化の法案を廃案にするための依頼がもちかけられました。女性からの票を獲得するために、銃器のPR活動を行ってほしいというのです。 ところが彼女は依頼主たちの女性をバカにした態度を見て、彼女自身がもともと銃規制に賛成だったこともあり、この仕事を一笑に付して断ります。 その話を聞きつけた銃規制強化推進派のロビイスト会社が彼女にアプローチ。報酬額がわからない彼のオファーを受け入れたエリザベスは、部下の一部を引き連れてシュミットの会社に移籍します。一同は銃規制強化推進のPR活動と裏工作に乗り出すのでした。 しかし今度の敵はお互い手の内を知り尽くした彼女のかつての仲間も務める古巣のロビイスト会社。やがて彼らはエリザベスが過去に行ったロビー活動の違法行為を突き止め、彼女を潰すため上院公聴会で決戦を挑んできます。

そもそもロビイストって?『女神の見えざる手』で有名になった裏職業

『女神の見えざる手』
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本作に取り上げられて有名になったロビイストとは、企業、団体、外国政府などからお金をもらって依頼主に都合のよい政策や法律が決まるように裏工作する仕掛け人です。 その職務内容は広告系のPR活動から合法なのかあやしい諜報活動や利益供与まで多種多様。そのいくつかを映画から例にとって説明しましょう。 本作の冒頭で、エリザベスはインドネシア政府からの依頼で同国から輸入されるパーム油に300%の税金をかける法案が上院で否決されるための多数派工作を行っています。 まず彼女は、この法案を「ヌテラ税」と呼ぶPR活動を計画します。ヌテラはアメリカで人気の、パンに塗るチョコレート風味の甘いスプレッド。パーム油を使うヌテラの価格が税金で上がるという暗示で税金に反対する世論が盛り上がるという寸法です。 また彼女は鍵を握る上院議員と家族を豪華なインドネシア旅行に招待することも画策しています。しかしこれは利益供与にあたり、後でエリザベスが議会に証人喚問されるきっかけとなってしまいました。

実は見えていた!女神のトリックがわかる伏線

エリザベスの必勝パターンは、「勝者は相手の一歩先を読んで、相手が切り札を出したあとから自分の切り札を切る」ということ。上院公聴会における対決でも彼女は最後まで必殺の切り札を隠しています。 しかしその伏線が実は本作のさまざまなシーンに隠されているのです。 ここからは、以下のそれぞれのシーンがどのように最後のどんでん返しにつながるか解説します。

回想シーンはすべてかつての仲間・ジェーン視点?

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本作はエリゼベスが連邦上院倫理規則を違反した疑いで公聴会に証人喚問される場面から始まります。彼女の証言の途中でカメラはエリザベスを後ろから見つめる部下のジェーンを大写しにして3カ月と1週間前の回想にフラッシュバックします。 回想シーンで、大学の学費の借金を返済して金銭的に自由になったので、ロビイストを辞めて大学院から学問の道に進みたいというジェーン。 彼女の話を遮ってエリザベスは、前述の上院議員を旅行に招待するという倫理規則に抵触しかねない計画をジェーンに打ち明けます。 実はここからエリザベスの計画は始まっていたのでした。部下として彼女の計画・行動を細かく知りつくしていたジェーン。エリザベス移籍の際には裏切ったかのように見えましたが、結局唯一エリザベスの“切り札”をすべて知っていた、腹心の部下だったのでした。

1回目のジェーンへの電話

銃規制強化法案に賛成する陣営のロビイストに加わることを決意したエリザベスは、夜の明けぬうちにジェーンに電話して打ち合わせをしたいと伝えます。 そして翌朝、エリザベスは例の海外旅行を手配した書類をジェーンに手渡し、上院倫理委員会に提出するよう伝えていました。この書類が最後のどんでん返しを引き起こす上院公聴会を引き起こすことになります。 そして直後にエリザベスが部下たちに銃規制強化法案賛成陣営に加わることを打ち明けました。 終盤でエリザベスは古巣のロビイスト会社に工作員を残してきたと明言しています。意味深に中身がカットされたこの電話とその後の密会は、ジェーンに古巣の事務所のスパイをしてもらう依頼とその作戦会議だったのでした。

ゴキブリ盗聴器

『女神の見えざる手』
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資金源が豊富で悪質な議員を倒すために、ロビイストは手段を選んでいられません。ときには非合法な手段を使うことも。 やり手ロビイストであるエリザベスは、敵の弱みを握ったり、部下の裏切りにいち早く気づいたりするために、24時間体制で彼らを監視・盗聴する非公式のチームを雇っていました。 彼らのガジェットのなかでも特に度肝を抜かれるのは、ゴキブリに盗聴器をつけてリモコンでどこにでも入り込めるように改造した「ゴキブリ盗聴器」! そしてこのゴキブリ盗聴器が、前半では部下の裏切りを見つけて敵におとりとなる情報を流し、終盤に終盤にはエリザベスの最後の切り札となる映像まで集めてくるのです。

2回目のジェーンへの電話

『女神の見えざる手』
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銃規制強化法案の推進キャンペーンが暗礁に乗り上げたとき、エリザベスは古巣のロビイスト会社に残ったジェーンに電話をします。 一見ジェーンはすぐさま電話を切ったように見せかけていましたが、おそらく切らずに携帯からの音をエリザベスに届けていたのでしょう。ジェーンは携帯を側に置いた状態で、エリザベスが公聴会に証人喚問される原因となる書類を発見してクライアントに報告していました。 しかしこの公聴会こそ銃規制強化法案を通過させるためにエリザベスが仕掛けた大博打。ジェーンはスパイとして、エリザベスが上院議員を告発できる場を提供するために一役買っていたのでした。 実は本作の冒頭でエリザベスは公聴会の会場が狭いことを不満げに指摘していましたが、これも公聴会で多くの人の目を集めることが最初から彼女の狙いであった伏線だったようです。

シュミットが渡したメモの裏側「報酬額ゼロ」

『女神の見えざる手』
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さてその公聴会も大詰めを迎え、いよいよエリザベスは最終弁論を利用して政治の腐敗したシステムを暴き始めます。その背後でジェーンは「私の辞表です」と保守系ロビイスト会社の上司に封筒を手渡しました。 上司がその封筒を開けてみると、そのなかには本作の序盤でシュミットがエリゼベスに渡したメモが入っていました。その裏側には、今回の銃規制強化法案を通す仕事の報酬は「ゼロ」と書かれていたのです。 これでエリザベスもジェーンも、今回の仕事は最初からロビイストとしてのキャリアを投げ出すつもりでやっていたことが明らかになります。 エリザベスは作中で自分のキャリアのためなら何でもやる「米国民主主義の寄生虫」だと揶揄されていました。しかし彼女は国の富を不当に蝕む本当の「寄生虫」たちを倒すために、そして自分が正しいと思う社会を築くために戦っていたのでした。

邦題と原題どちらがお好み?それぞれの意味を解説

原題『Miss Throne』に込められた男性優位社会への皮肉

『女神の見えざる手』
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エリザベスが暗躍する政治の世界が男性優位であることは、本作の原題『ミス・スローン(Miss Sloane)』が如実に表しています。 独身女性の名字の前に付ける敬称「ミス(Miss)」は、近年では結婚していない女性への差別表現であるとしてあまり一般的には使われていません。このため既婚・未婚の別なく使える女性の敬称「ミズ(Ms.)」を用いることが世界的に公式の場では増えてきました。 しかし本作ではほとんどの場面で「ミス」が使われており、「ミズ・スローン」と言ったのは放送局の司会者ぐらいです。 エリザベスはそんな男性優位な米国の政界を変えるために、人生のすべてを賭けて戦っていたのでした。

邦題『女神の見えざる手』の“見えざる手”は資本主義を成り立たせる力

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「見えざる手」というのはイギリスの倫理学者・経済学者であるアダム・スミスが著した『国富論』の有名な一節。 彼は「各個人が自己の利益を追求すれば、市場も社会も自ずと成功していける」と市場経済や資本主義を唱えた人物です。自己利益を追求することは一見社会に何の利益ももたらさないように見えますが、「見えざる手」によって社会全体の利益となる状況ができあがっていくとしたのです。 本作の舞台アメリカは言わずと知れた資本主義の代表国。各々が各々のやり方で利益を追求できる「自由」が重要視される国ですが、本作では銃の購入を「規制」する法が扱われていました。 各個人の私益の追求が公益につながるのは、エリザベスのような“見えざる”ところで働く人たちや、彼らが整えてくれる社会の仕組みのおかげなのかもしれません。「見えざる手」はもともと神話用語ですが、実際には世の中を整えていくのは“神”ではなく見えざるところで働く人間なのです。

サンローランにマイケルコース できる女の戦闘服を解説

『女神の見えざる手』
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エリザベスの役作りのためにジェシカ・チャステインと衣装デザイナーを務めたジョージナ・ヤーリは実際の女性ロビイストたちを取材しました。 その結果、彼女たちは最新流行ではないが高価な服を着ているということと、ファッションは気晴らしではなく、戦う女の鎧のようなものであるということがわかったそうです。 衣装の大半は、トロントの有名デパート・ハドソンズベイ内の独立店舗「The Bay」で試着、寸法直しを行いました。ザ・ロウのダーク・グリーンのスーツはこの店で調達したものだそうです。 ラクダ色のコートはマイケル・コース。またフランスに本拠を置く本作の配給会社の希望で、サンローランの黒のスーツ、白のワンピースとバッグを使うことになりました。 仕上げのメイクは、チャステインの希望から、暗色のマニキュア、真っ赤なリップ、髪を暗めに染めて、エリザベスの厳格なキャラクターを強調するようにしたそうです。

主演女優ジェシカ・チャスティンの強さ

仕事で活躍する女性には女性のネットワーク作りが欠かせません。本作のエリザベスも、独自の政治資金集めのために「政治行動委員会(PAC)」を持っていたり、女性議員団、フェミニストや女性財界人のコネを活用したりしています。 エリザベスを演じたジェシカ・チャステインも、自他ともに認めるフェミニストとして特にハリウッドにおける女性や少数民族の権利を擁護する活動を積極的に行ってきました。 2018年にはハリウッドの300人の女性たちと協力して、セクハラや差別から女性を守る「Time’s Up」というイニシアチブを立ち上げています。 また映画『ゲティ家の身代金』(2017年)が撮り直しになったとき、母親役のミシェル・ウィリアムズの出演料が極端に少なかったことについてもTwitterで厳しく批判しました。 そんな彼女は『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)や『モリーズ・ゲーム』(2017年)といった作品で、テロリストやギャングの男たちを相手に戦うタフな女性を演じています。

主演以外も豪華な脇を固めるキャストを紹介

映画『女神の見えざる手』は、主演のジェシカ・チャステインと並んで脇役陣もイギリスやカナダの実力派キャストで固めています。 ここからは主演以外のメイン・キャストと、本作が長編映画脚本デビューとなるジョナサン・ペレラを紹介しましょう。

マーク・ストロング

『女神の見えざる手』
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※画像左 エリザベスを保守系ロビイスト会社から引き抜く、銃規制強化法案賛成派のロビイスト・ロドルフォ・シュミットを演じたのは、イギリスの俳優・マーク・ストロングです。 ストロングは、1963年にイタリア人の父とオーストリア人の母の間に生まれました。主にイギリスの舞台、テレビや映画で活躍。映画では『キック・アス』(2010年)のフランコ・ダミコ役や『シャザム!』(2019年)のDr.サデウス・シヴァナ役といった悪役で主に知られる俳優です。 ちなみに彼はチャステインとは前述の『ゼロ・ダーク・サーティ』で共演しています。

ググ・バサ=ロー

ググ・バサ=ロー
© 2016 EuropaCorp - France 2 Cinema. All Rights Reserved

学校銃乱射事件のサバイバー転じて銃規制強化法案賛成派のロビイストになったエズメに扮したのは、イギリス出身の女優・ググ・バサ=ローです。 1983年にイギリス・オックスフォードで南アフリカ人の父とイングランド人の母の間に生まれた彼女は王立演劇学校を卒業後、イギリスのテレビや舞台に出演し始めました。 彼女が映画女優としてブレイクした作品は、2013年に公開された『ベル -ある伯爵令嬢の恋-』。この作品でバサ=ローは、18世紀のイギリスで伯父の手によって貴婦人として育てられる混血女性の主人公を演じて注目を集めました。 2021年にはDisney+オリジナル作品『ロキ』への彼女の出演が決定しています。

アリソン・ピル

アリソン・ピル
©FayesVision/WENN.com

エリザベスの腹心の部下であるジェーンを演じたアリソン・ピルは1985年生まれ、カナダ出身の女優です。 12歳のときからテレビの子役として本格的に芸能活動をはじめた彼女は、これまで多数のテレビドラマ、映画や舞台で主に脇役として活躍してきました。 大人になってからは、『ミルク』(2008年)、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)といった映画に出演しています。 テレビシリーズでは、2012年から2014年まで計25話出演した『ニュースルーム』のマギー・ジョーダン役の演技が高く評価されています。

脚本家ジョナサン・ペレラは各界から引っ張りだこ!

本作の脚本を執筆したイギリス出身の脚本家・ジョナサン・ペレラは、法律事務所をやめて韓国などで英語教師をしながら独学で脚本執筆のテクニックを習得しました。 ようやく処女作となる本作の脚本を完成させた矢先、雑誌にメリル・ストリープ主演で銃規制に関する映画が計画されているという記事が。先を越されては自分の作品が日の目を見る機会が無くなると焦ったペレラは、あわててエージェント探しに乗り出します。 法律事務所での経験も活かして練り上げられた彼の脚本はすぐに映画関係者から引っ張りだこに。一時はスティーヴン・スピルバーグと本作の監督・ジョン・マッデンが映画化を争ったほどだったそうです。

『女神の見えざる手』トリックは見えた?強く美しい女の戦い方を学ぼう

『女神の見えざる手』
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サンローランだけでなくヴィクトリア・ベッカム、ジャンヴァティスタ・ヴァリ、アレクサンダー・ウォンなど、主人公が次々と身にまとうトップブランドに目を奪われる『女神の見えざる手』。陰謀渦巻く政治の裏舞台を駆け抜ける「知的で強い女性」が華麗に演出されています。 ハラハラドキドキの政治サスペンスにスパイ映画のようなトリックまで取り入れた脚本も秀逸。 ジェシカ・チャステインと同世代のアラファー女子はもちろん、仕事に疲れたすべての映画好きは必見の作品といえるでしょう。