2023年3月30日更新

映画『ロストケア』は実話?あらすじネタバレ考察とラストに隠されたメッセージを深ぼる

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『ロストケア』メイン
©2023「ロストケア」製作委員会

松山ケンイチと長澤まさみの初共演が話題の社会派サスペンス映画『ロストケア』が3月24日(金)から公開されました!介護問題に苦しむ人を救うべく生まれた連続殺人鬼が、善悪の概念をぐらつかせてくる内容が反響を読んでいます。 この記事では映画『ロストケア』のあらすじをネタバレありで解説し、構図に隠されたメッセージ実話なのかどうかを考察していきます。後半には原作小説との違いも紹介しているので合わせて映画を考えてみてください!

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映画『ロストケア』あらすじ

「僕は42人を救いました」 介護士の斯波宗典は、介護センターの利用者42人を殺した罪で逮捕されました。殺害は救いであり「喪失の介護=ロストケア」だと主張する彼に対して、検事・大友秀美は激しい憤りを覚えます。 しかし取り調べていくうちに、大友は被害者遺族の複雑な心境や斯波の優しくて辛い過去を知っていくことになります。すべてが明らかになったとき、検事として大友はどんな決断を下すのでしょうか……。

『ロストケア』は実話?元ネタはある?

映画『ロストケア』は完全フィクションで、原作小説にも元ネタになっている事件はありません。 2016年に発生した、神奈川県相模原市の知的障がい者福祉施設で元職員が19人を刺殺した「やまゆり園事件」に似ていると感じた方も多いかもしれませんが、原作の刊行は事件より以前の2013年です。 しかし介護士が施設の利用者を殺害するという同じような事件は実際にいくつも起きています。現実の日本の介護業界の闇や、高齢化社会の現状に影響を受けて執筆された作品なのではないでしょうか。 原作では、目を背けたくなるような辛い介護の現場が、壮絶かつリアルに書かれています。介護の経験がない方も、現実的にこの問題について考えさせられるはずです。

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映画『ロストケア』結末までのネタバレ

【起】介護現場の現実

孤独死して、2週間経った腐敗した遺体が見つかりました。検事の大友秀美は眉を顰めながら現場を見ています。 介護士の斯波宗典は、今日も同僚とともに高齢者の自宅を回って介護をしていました。家族が疲弊しているときも斯波は優しく親身に高齢者と接し、新しく入った後輩も彼を尊敬の眼差しで見ています。

『ロストケア』
©2023「ロストケア」製作委員会

ある日顧客の1人のお通夜に参加した斯波は、介護と子育てと仕事に追われ続けた娘に「よく頑張りましたね」と声をかけ、故人が娘のことを最後まで大事に愛していたことを伝えました。 一方大友は、老人ホームに入っている母親に会いに行っていました。母親は認知症を発症しかけていますが、施設で手厚い介護を受け穏やかに暮らしています。 そんなある日、介護センターのセンター長の遺体が顧客の自宅で見つかり、センター長には窃盗と殺人の容疑をかけられます。ギャンブル癖のあるセンター長は、顧客の家に深夜に忍び込んで金品を盗んでいたのでした。

【承】僕は42人を救いました

『ロストケア』
©2023「ロストケア」製作委員会

しかし調べがすすむにつれ、被害者宅の付近の防犯カメラに斯波が映り込んでいるのが見つかります。現場にはセンター長と揉み合った斯波の血も残っており、殺人については斯波が疑われるようになりました。 さらに大友たちが調べを進めると、彼がこれまでに介護センターの高齢者を41人殺害していたことがわかってきました。盗聴器を見つけると斯波は観念して自白を始めます。「これは喪失の介護、ロストケアです。僕は42人を救いました」と。 はじめは「家族の絆をあなたが断ち切って良い訳ない」と憤っていた大友ですが、彼の仕事の丁寧さや「救われた」という被害者遺族の話を聞くうちに、何が正しいのか、少しずつわからなくなってきました。 大友はさらに彼の人生を調べ、ロストケアで救った最初の人物が斯波の父親だったことに気が付きます。

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【転】殺人鬼の過去

斯波はもともと普通のサラリーマンでしたが、男手一つで育ててくれた父親が事故にあったために会社を辞め、介護に専念するようになりました。 はじめはアルバイトをしながら生計を立て父親との時間を明るく楽しみましたが、父親の病状はどんどん悪化。認知症も進んで、父親は斯波につらく当たるようになっていきます。

『ロストケア』
©2023「ロストケア」製作委員会

やがてアルバイトを続けるのも難しくなり、年金7万円で生活することになりました。貯金が尽きて3食食べることもできなくなったころ生活保護を申請しようとしましたが、「働けばいい」と冷たく断られます。 3年たった頃には父親はもう寝たきりでしたが、ごく稀に昔のように斯波を慈しんでくれることがありました。ある日そんな父から「息子を覚えているうちに父親として死にたい。殺してくれ」と頼まれます。 父親を苦しめたくなかった斯波は、注射器を買ってニコチンを抽出し、父親を毒殺しました。 医師が遺体を診ましたが「心不全」としか書かれず、斯波の犯行はバレませんでした。そのことに何か運命を感じた斯波は介護士の資格をとり、自分や父親と同じような人を救うことにしたのです。

【結末】2人の輪郭が重なるとき

斯波は42人の殺人を犯しているので、当然死刑となります。彼は裁判の最終答弁で、大友が自分のことを裁くのも正しいし、自分がしたことも正しいのだと主張。客席では遺族の1人が「人殺し!」と叫びました。 しばらくして大友は、刑務所にいる斯波に会いに行きます。彼女は自分の罪を打ち明けました。 彼女の母親は高級老人ホームに入居していますが、父親とは20年以上会っておらず、連絡も無視していました。その父親こそ先日腐敗した遺体で見つかった、孤独死した老人だったのです。 父親を「見たくないもの」として無視し続けたことを悔いているが、今も母に父の死を告げられずにいると、大友は涙ながらに語ります。そしてカバンから赤い折り鶴を取り出しました。

『ロストケア』
©2023「ロストケア」製作委員会

折り鶴は、斯波の父が折ったもの。中には「おれの子に生まれてきてくれてありがとう」と遺言が書いてあります。 大友は「私が子どもでよかった?」と老人ホームの母に泣きつきます。母は優しく、泣きじゃくる彼女を撫でました。

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【感想・レビュー】介護について考えずにはいられない

ロストケア
©2023「ロストケア」製作委員会
ロストケア』の総合評価
4 / 2人のレビュー
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20代女性

自分の親に介護が必要になったとき、また自分が高齢になったとき、どうすれば正解なのだろうかと考えずにはいられなかった。原作未読だが事件の全貌はすぐわかるので、ミステリーとかサスペンス的な要素は期待できないかも。

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50代男性

原作を読んでいた自分には少し物足りなかったが、題材自体の重苦しさが軽減され華やかな雰囲気にもなっているので見やすかった。先に犯人がわかる分、犯人や犯人の周りの人へ感情移入しやすくなっていた気がする。自分は身寄りがないので将来が怖くなってしまったが、迷惑かけてもいいという言葉に救われた。

原作が予想のつかないサスペンス調だったため、その要素を期待した人からは多少ネガティブな声もある映画『ロストケア』。しかし様々な立場から介護の課題を描き出し、どんな介護が親のために正解なのか誰もが考えずにはいられない社会派な内容に、多くの人が強く心を打たれています。

【考察】殺人鬼と検事の輪郭が重なるわけ

「この社会には穴があいている。穴の底に落ちてしまった人間は、簡単には這いずり出ることはできない」と斯波は語りました。自力で生活できない高齢者や、彼らを献身的に介護する人を「自己責任」という言葉で社会は冷たく突き放している現状があります。 大友秀美も突き放す側の人間でした。斯波は大友を、絶対に落ちない安全地帯にいるから落ちた人の人生を考えずに生きているのだと責めます。 しかしラストシーンでは2人は互いを理解しあったよう。2人の心の距離感の変化が、カメラワークによって暗喩的に表現されていました。

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心の距離をそのまま映した構図

取り調べのシーンでは、しきりに2人の横顔が映ります。大友の横顔をゆっくりスライドさせて斯波の横顔につなげる演出からは、2人が対立していて、心理的にとても遠い距離にいることが伝わってきました。 また4面の鏡に映った大友が斯波を責め立てるシーンは、彼女が自分の正義を振り翳している様子が伝わってきます。 しかし最後の面会のシーンでは、それぞれの顔が正面から捉えられました。さらにどちらか一方が喋るときにはもう一方の顔が反射して映り、2人の顔が徐々に重なっていきます。 最後、大友がすべてを語り終わった瞬間には、斯波と大友の輪郭がぴったりと重なるように写されました。大友と斯波は「安全地帯」と「穴の底」という離れた人間なのではなく、親の介護という共通の悩みを抱えた人間だったと気付かされます。

介護問題は誰にとっても身近なはず

カメラワークだけでなく映画全体が、介護問題をだれにとっても身近に感じさせる工夫に満ちていた『ロストケア』。富裕層、一般層、貧困層だけでなく、身寄りなく孤独死する老人や介護を諦め風俗で働き始める若者も描かれます。 エンドロールには斯波の幼少期のビデオや写真が写され、育ててくれた親についても考えさせられます。人間誰にでも大事な家族がいて、今介護問題に悩む人たちも皆、家族を愛しているからこそ絆という呪縛に苦しめられているのだと痛感させられました。 しかしそれは悪いことではないはずです。どんな介護が愛する家族のために正解なのか、映画の中でも答えは提示されていませんが、人ごとだと思わずに真摯に悩み続けることが正解に近づく第一歩だと教えてくれているのではないでしょうか。

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【解説】原作小説と映画の違いは?

原作との違い
  1. 犯人が発覚するタイミング
  2. 介護センター詐欺事件の簡略化
  3. 殺人の第2の目的
  4. 大友検事の性別

原作小説はかなり映画とは雰囲気が異なり、サスペンス色の強い物語になっています。まず斯波が犯人であることはなかなか発覚しません。まずは介護センターの保険金詐欺事件があり、その延長線上に捜査が進みました。 また斯波は、もちろん救いのために人を殺していますが、加えて自分がメディアに取り上げられることで、介護の現実をもっと多くの人に考えてもらおうと事件を起こしていた側面もありました。映画ではもう少しおとなしいキャラクター像だったので、性格が微妙に異なります。 さらに大友検事の性別が、原作では男性でした。これは映画に若者を呼び込むために華を添える、エンタメ作品としての戦略の色が強そうです。

安楽死について

原作小説では安楽死や尊厳死の可否についてもより強く投げかけるような内容になっています。 そもそも安楽死が合法であれば斯波の父は自ら死を選ぶことができたので、斯波が殺人犯になることもなかったはずです。介護を受ける41人の高齢者が「死にたがっている」と、斯波が決めつけることもできなくなっていました。 自分で人生を終わらせる選択ができることが一番の「ロストケア」だと、斯波は事件を話題にすることで世論に気づかせたかったのかもしれません。

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原作小説『ロスト・ケア』ネタバレあらすじ

『ロストケア』相関図

原作小説は葉真中 顕(はまなか あき)による『ロスト・ケア』(2013年刊行)。男性検事が容疑者の介護士と対峙していく骨太なヒューマンサスペンスであり、エンターテインメント作品です。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しています。

原作ネタバレ

※原作では犯人が誰か分からないという前提で進んでいきます。 法廷で死刑宣告を聞き、笑みを浮かべる犯人。43人も殺害した彼が手にかけたのは、重介護が必要な高齢者ばかりでした。 犯行動機を「殺すことで彼らと彼らの家族を救いました」と語った彼。実際、母・羽田静江を彼に殺された羽田洋子は遺族として怒りを表明したものの、内心では彼に救われたと感じていました。娘の自分のこともわからなくなった母の介護に追われ、この地獄はいつまで続くのだろうと感じていたのです。 一方、検事の大友秀樹は、車イス生活になった父親の介護のことを、介護施設グループ「フォレスト」で営業部長を務める同級生の佐久間巧一朗に相談していました。しかし「フォレスト」で介護保険法違反があったとして勧告を受けたのち、佐久間との連絡が取れなくなってしまいます。 フォレストをやめた佐久間は、年寄りから金を騙し取る詐欺に加担するようになっており、やがて死亡しました。大友は、佐久間が持っていた「フォレスト」のデータを見ていく中で、死亡率の高い施設がある事を発見します。 その施設の事業所長・団啓司が利用者宅の合鍵を作って夜中に出入りしていました。目撃者の斯波宗典は何をやっていたのか尋ねます。すると団は彼に向かって鉄の塊を振り下ろしました。 大友秀樹もある人物が休みの日に犯行を行っている関連性を発見しますが、その人物は団哲司ではなく斯波宗典。 斯波本人はすぐに自供します。しかし「殺人」ではなく「救い」だと述べるのです。最初に殺害したのは父親でした。介護により貯金はなくなり生活保護も却下され「殺してくれ」という父を殺害、同じ苦しみを抱える人を開放するため42人もの連続殺人に至ったのです。 その後、事件は「ロストケア事件」と称してマスコミに取り上げられ、世間では事件の背景にあった介護問題や、安楽死の合法化などについてリアルに語られるようになりました。そして大友は、斯波の本当の目的が、この事件が広く世に知られることで、少しでも良い社会になることだったのだと気づくのです。

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原作小説の感想・評価

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現代社会が抱えている闇をサスペンス要素強めに生々しく描いていて胸がえぐられる思いでした。検事が正しいことを言っているけれど、犯人が100%悪いとは言えないと私は思ってしまいました。

(20代女性)

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犯人をミスリーディングするように書かれていてまんまとハマってしまいました。最後の犯人が誰か分かった時はびっくりと悲しみが同時に来る感じ。辛くて読むのに根気はいりますが人生を考える上で読むべき小説の1つです。

(20代男性)

映画『ロストケア』登場人物/キャスト

斯波宗典役/松山ケンイチ

松山ケンイチ

斯波宗典(しばむねのり)は、介護職員として働く男性で42人を殺害した罪で逮捕されました。映画では小説と異なり予告から殺人犯として登場しています。 松山ケンイチは、映画「デスノート」シリーズで脚光を浴び、『聖の青春』(2016)では日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞しています。

大友秀美役/長澤まさみ

長澤まさみ

大友秀美(おおともひでみ)は、正義感の強い検事。斯波宗典の「殺人ではなく救い」という言葉に声を荒げて反論しています。小説版の大友秀樹という男性から設定が変わりました。 長澤まさみは、『世界の中心で愛を叫ぶ』(2004)や『海街diary』(2015)など長年第一線で活躍する女優です。

椎名幸太役/鈴鹿央士

鈴鹿央士

椎名幸太(しいなこうた)は、小説版の大友秀樹の補佐役「椎名」と同一人物。大友秀美のサポート役として事件の真相に迫っていきます。 鈴鹿央士はドラマ『silent』(2022年)で大活躍し人気急上昇中の若手イケメン俳優です。

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斯波正作役/柄本明

柄本明

斯波正作(しばせせいさく)は、連続殺人犯・斯波宗典の父。原作では認知症が進み、息子・宗典が介護しています。 柄本明は「男はつらいよ」シリーズなど名作に数多く出演。柄本時生・佑兄弟の父としても知られています。

介護老人の娘役/坂井真紀

殺人事件によって救われたと語る介護老人の娘坂井真紀が演じています。

介護老人の娘役/戸田菜穂

犯人に対して怒りを抑えられず予告の裁判で声を荒げる介護老人の娘戸田菜穂が演じています。

ヘルパー役/峯村リエ

ヘルパー役は舞台を中心に『あなたの番です』(2021)などの映画にも出演する峯村リエが演じます。

新人ヘルパー役/加藤菜津

新人ヘルパー役の加藤奈津は、『女子高生に殺されたい』(2020)などに出演する新人女優です。

仕事先の友人役/やす(ずん)

仕事先の友人役の芸人やすは、『GOEMON』(2009)の群衆役で映画デビューしています。

検事正役/岩谷健司

検事正役の岩谷健司は『ゾッキ』(2021)や『死刑にいたる病』(2022)などに出演する名脇役です。

ケアセンター長役/井上肇

ケアセンター長役の井上肇は『アルマゲドン』(1998)や『おおかみこどもの雨と雪』(2012)などで声優としても活躍中です。

映画『ロストケア』スタッフ

監督:前田哲

監督の前田哲は『老後の資金がありません!』(2022)などのコミカル路線から『そしてバトンは渡された』(2022)のようなシリアスな映画まで幅広いジャンルの作品を手掛ける監督です。

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脚本:龍居由佳里、前田哲

脚本は監督のほか『四月は君の嘘』(2016)の脚本を務めた龍居由香里と共同制作と発表されています。 また松山ケンイチ、プロデューサーの有重陽一とも何度も話し合いが行われて脚本は完成しました。

主題歌は森山直太朗「さもありなん」

森山直太朗

主題歌は森山直太朗が歌う『 さもありなん 』。エンディングで幼少期の斯波の様子とともに流れ、映画に奥行きをもたらしました。 本作のために書き下ろししており「是か⾮か、ありか無しかを問い合うより無意識の視点で相⼿の想いを感じること」というテーマを曲に込めています。

映画『ロストケア』ロケ地

映画『ロストケア』のロケは、劇中の舞台となる長野県の各地で行われました。2022年3月より約1ヶ月に渡って行われたようです。 ちなみに原作では舞台は長野県となっておらず、地方のとある県の「八賀市」となっていました。

映画『ロストケア』を考察し介護問題を直視してみよう

『ロストケア』
©2023「ロストケア」製作委員会

松山ケンイチ×長澤まさみという豪華キャストで、長年問題視されている介護について鋭く本質を付いてくる映画『ロストケア』。介護問題が誰もにとって身近であること、だから直視しなければいけないのだということに気づかせてくれる良作です。 原作は映画とはさらに違った視点で描かれている点も多いので、映画とあわせればもっと深く楽しめるはずです。