2023年3月17日更新

映画『Winny』は実話?ネタバレあらすじを元ネタ事件と合わせて解説

このページにはプロモーションが含まれています
『Winny』
(C)2023映画「Winny」製作委員会

2004年に起きた冤罪事件「Winny事件」を東出昌大主演で映画化した『Winny』が、2023年3月10日から全国公開しました。この記事では、本作のあらすじと元になった事件をネタバレありで詳しく解説し、作品の感想と魅力をお伝えします。

AD

『Winny』はどんな映画?元になった事件も解説

映画あらすじ

2002年に電子掲示板「2ちゃんねる」で公開され、200万人以上のユーザーが利用していたファイル共有ソフト「Winny」。しかしその一方で、映画や音楽などの違法コピーや情報漏えい問題が加速し、ウイルスをばらまき“著作権侵害を蔓延する”ソフトというレッテルを貼られるように。 2004年、このWinnyを「47」のハンドルネームで開発・公開したプログラマー・金子勇が、著作権法違反幇助の容疑で逮捕。普通はあり得ない「開発者の逮捕」に、金子勇とその弁護団は法廷で戦いを挑むことになります。 事件の元ネタはこちら

『Winny』の感想・レビュー

Winny
Winny』の総合評価
4 / 2人のレビュー
吹き出し アイコン

40代女性

キャスト陣が何気に良すぎる!2000年初頭当時の雰囲気やPC周りの細部を忠実に再現している点も良かった。社会のために開発しようとしたのに、それが社会を蝕んでいるという金子勇の苦悩も描かれていて、人間的な魅力も知ることができた。

吹き出し アイコン

30代男性

骨太な社会派作品で、緊迫感あふれる法廷劇。檀弁護士の目線で金子勇の人となりを描いた作品でもある。Winny事件がどんな顛末だったかを改めて知れて良かったが、今の日本が技術者にとって最良の国でないことが悲しい。

18キロも増量した東出昌大の憑依的な演技も話題となっている本作。脇を固めるキャストも三浦貴大、吹越満、渡辺いっけい、渋川清彦など渋すぎる実力派ばかりです! また実際に金子勇が使っていた遺品が使われていたり、裁判資料7年分を読み込んで模擬裁判を行うなど徹底したリサーチもリアリティを生み出しています。

こんな人におすすめ!

・『シカゴ7裁判』のようなスリリングでリアルな法廷劇が好きな人
・『エルピス』のような冤罪事件を追う骨太な社会派ドラマが好きな人

AD

映画『Winny』結末までのネタバレ

【起】画期的なファイル共有ソフト「Winny」の誕生と功罪

2002年、ネット掲示板「2ちゃんねる」にある画期的なソフトが公開され、瞬く間にユーザー数を増やしていました。そのソフトとは、ハンドルネーム「47」が開発したというファイル共有ソフト「Winny」。無料で利用でき、ユーザー同士で直接データのやり取りができる点が支持されていました。 しかしその裏では、違法なデータのやり取りも行われており、著作権保護の観点から規制するべきとの声も上がっていました。さらに、ウイルス感染による機密情報の漏えい問題も次々起こり、社会問題にも発展してしまいます。

【承】ソフト開発者の前代未聞の逮捕劇

2003年、ついに違法アップロードを行っていたWinny使用者が逮捕される事態が起こります。ちょうどその頃、大阪市では弁護士の間でWinnyに関する「P2P型ネットワーク」講習会が行われていました。 サイバー犯罪に詳しい弁護士・檀俊光(三浦貴大)は逮捕者の弁護には否定的でしたが、開発者が逮捕されるようなことがあれば弁護すると断言。彼はWinnyは「未来を先取りした技術」と高く評価していました。 翌2004年、Winny開発者の金子勇(東出昌大)が逮捕されたことを聞き、檀は弁護を引き受けることに。弁護団を結成すると、2ちゃんねるの有志たちから多くの支援金も集まってきました。

AD

【転】国家権力とメディアを向こうに回しての戦い

金子と接見した壇は「納得できない書類にはサインしないように」と指示しますが、そもそも取調べの際にすでに「Winnyを著作権侵害の蔓延を狙って開発した」旨の書類を書かされていました。検察側の同様の書類にも、純粋に捜査に協力しようとしたがためにサインしてしまいます。 メディアによるバッシングも過熱し、世論も敵に回した状態で、逮捕・勾留の不当性を主張して弁護に臨むことに。同じ頃、愛媛県警では領収書偽造の裏金作りが常習化しており、それに異を唱える巡査部長の仙波敏郎(吉岡秀隆)が告発するために記者会見を開こうとしていました。

【結】裁判の行方は?金子勇が目指した未来とは

檀は金子の保釈を裁判所にかけ合い、さらに刑事事件のスペシャリストである秋田真志(吹越満)を主任弁護士に迎えます。いよいよ警察と検察を相手に全面的に争う第1審が始まりました。 法廷ではあの手この手で検察側、弁護側と主張を繰り出しますが、一貫した争点は金子勇のWinny開発意図。金子は最終陳述でWinnyは「技術者としての自己表現」であると主張して、裁判を終えました。 2006年の第1審では有罪判決を言い渡されますが、2008年の大阪高等裁判所では逆転判決を受け、ついに2011年の最高裁で無罪が確定。しかしそのわずか2年後、2013年に金子勇は急性心筋梗塞で亡くなりました。彼が7年を費やして守ろうとしたのは、「日本の技術者の未来」でした。

AD

【解説】そもそも「Winny事件」って?

Winny事件年表
  1. Winnyの開発 (2002年〜)匿名でファイルを共有できるソフト「Winny」が開発され始める。やがて著作権侵害、暴露ウイルス、児童ポルノの流通など数々の社会問題が起こる。
  2. ユーザーが逮捕される (2003年)ゲームソフトや映画を違法にアップロードしたユーザーが著作権法違反で逮捕される。
  3. 開発者・金子勇の逮捕 (2004年)著作権侵害行為を幇助したとして開発者が逮捕される。金子の罪状について世論は激しく割れ、マスコミからの圧力も受ける。
  4. 第一審の有罪判決 (2006年)地方裁判所で罰金150万円の有罪判決を受け控訴する。高等裁判所では無罪判決が出るが検察側から上告される。
  5. 最高裁で無罪確定 (2011年)「著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めることは困難」と判断が下される。
  6. 金子勇の死 (2013年)急性心筋梗塞で死去。

本作の基となった「Winny事件」とは、Winnyの開発者である金子勇が不当に逮捕された冤罪事件です。映画の内容はほとんど実話。金子勇は実際に理不尽な罰を受けて未来を潰された天才プログラマーです。 事の発端は、Winnyが違法なデータの送受信やウイルス感染による情報漏えいを引き起こしていたこと。 特に警察の機密情報が漏えいしたことが、性急な逮捕劇につながったと考えられています。起訴された金子勇は弁護団とともに、法廷で警察・検察と真っ向から戦うことになりました。 事件の争点は金子が“著作権侵害を蔓延させるためにWinnyを開発したのか”という点でしたが、弁護団の論破と金子の主張にも関わらず、2006年に京都地方裁判所では有罪判決が下されました。 その後控訴の甲斐あって、2011年にようやく無罪が確定します。しかしそのわずか2年後、2013年に金子勇は急性心筋梗塞で亡くなりました。

『Winny 天才プログラマー 金子勇との7年半』書影
『Winny 天才プログラマー 金子勇との7年半』(著者:壇 俊光)インプレスR&Dより

警察の裏金事件も

映画内でWinny事件と並行して描かれていた裏金問題。こちらも実際にあった出来事です。Winny事件と直接の関係はありませんが、ソフトが悪行だけでなく善行にも役立つことを示した事件でした。 このころ愛媛県警内では、捜査協力者への謝礼の領収書を偽造する裏金作りが横行。誰もがやむを得ずそれに加担する中、巡査部長・仙波敏郎が公文書偽造だとして内部告発を行います。記者会見で告白するも、メディアにすらその内容を潰されてしまいました。 しかしWinnyがからむウイルス感染によって、皮肉にも偽造の証明となる文書が漏えいし、真実が明るみに出たのです。 監督はWinnyというサービスについてよりいろんな視点から多角的に描こうとしたと語っています。

AD

映画『Winny』の事件から考える日本の技術者の未来

Winny事件によって、日本の刑事裁判の問題点、メディアの偏向、“出る杭は打たれる”閉塞した社会が明るみに出ました。本作はそれを細部にわたって忠実に描き、その問題点を今に伝えています。 金子勇が目指したのは、日本の技術者が委縮せずに自由に開発できる社会。IT後進国といわれている日本で、今こそ観て考えるべき作品ではないでしょうか。