【ネタバレ】映画『関心領域』ラストの意味を考察!白黒のりんごや川の描写まで史実とともに解説

2023年度にカンヌ国際映画祭でグランプリ、アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞した話題作『関心領域』が、2024年5月24日に日本でも公開されます。この記事では、本作の概要・あらすじ、キャスト・スタッフを紹介し、気になるシーンをネタバレありで考察・解説します。 ※本記事には映画『関心領域』のネタバレが含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。
映画『関心領域』あらすじ・作品概要
タイトル | 『関心領域』 |
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公開日 | 2024年5月24日 |
上映時間 | 105分 |
監督 | ジョナサン・グレイザー |
キャスト | クリスティアン・フリーデル , サンドラ・ヒュラー |
受賞歴 | 第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ 第96回アカデミー賞 国際長編映画賞 , 音響賞 |
『記憶の棘』(2004年)や『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2023年)で知られるジョナサン・グレイザーが、気鋭のスタジオ「A24」と組んで監督・脚本を務めた映画『関心領域』。イギリスの作家マーティン・エイミスの同名小説を原案にしており、「関心領域」と呼ばれたナチスドイツによるユダヤ人強制収容所「アウシュビッツ」を取り囲む40平方キロメートルの地域が舞台となっています。 「どんなホラー映画よりも恐ろしい」と称された本作は、虐殺が行われていたアウシュビッツと壁一枚を隔てた地域で平和な暮らしをしていた収容所所長とその家族を描く衝撃作。カンヌ国際映画祭でグランプリ、アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した話題作です!
映画『関心領域』のあらすじ
1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)は、妻のヘートヴィヒ(サンドラ・ヒュラー)とその家族とともに「関心領域」と呼ばれる地域で平和に暮らしていました。青空の下、子どもたちの遊ぶ声が響く中、その壁一枚隔てた隣には、ユダヤ人強制収容所が存在していました。 隣から聴こえてくる音は、子どもたちの楽しい笑い声とはほど遠いもの。しかし隣で暮らす彼らの耳には、何気ない日常の音と化していたのでした……。
「壁の向こう」を暗示するシーンをネタバレ
- 音(銃声・悲鳴)収容所から聞こえてくる音は収容されている囚人たちが撃たれている銃声やその悲鳴
- 列車の煙収容所へ送り込まれてくるユダヤ人を乗せた列車の煙
- ルドルフの靴・ヘートヴィヒの毛皮のコート収容所のユダヤ人から奪った靴やコートを身に付けている
- 服・金歯収容所のユダヤ人が着ていた服を奪って近隣の人々に回し、死者からはぎ取った金歯を子どもがコレクションにしている
- 庭の肥料殺された囚人の遺体を焼却した灰が庭の肥料として使われている
- 川のシーン遺体を焼却した灰を川に流している。川で遊ぶ子どもはそれを知らないが大人は知っている
劇中ではアウシュビッツ強制収容所の内部が映されることはなく、「関心領域」内にあるヘス家の様子と周辺しか出てきません。ヘス家から唯一見えるのは、収容所を取り囲む高い壁。あとは会話の中で言及されるのみです。 しかし観客は、上記に挙げたような描写で否が応でもアウシュビッツの内部で何が起こっているのか、想像させられることになります。ナチスによるユダヤ人虐殺は誰もが知る歴史的事実。それを踏まえて婉曲的に暗示することで、「この音は何の音だろう」「川に流れているものは何だろう」などと観客に関心を持たせる確かな意図があります。 この描写方法によって、直接ただ答えを与えられるだけでなく、自ら想像して考えるよう仕向けられているのです。
映画『関心領域』のラストの意味をネタバレ考察

【ネタバレ考察①】ルドルフが嘔吐した理由
ヘートヴィヒから「ここを離れたくない」と言われ、転勤が撤回されて引き続きアウシュビッツ所長として勤務することになったルドルフ。しかしこれはつまり、彼がこれからさらなるユダヤ人虐殺に加担していくということを意味していました。 ガス室でのユダヤ人毒殺がアウシュビッツで始まったのが1942年。ここで100万人以上ものユダヤ人が虐殺され、それを担った責任者がルドルフ・ヘス所長でした。これらの史実は観客は知っていることですが、劇中のルドルフはまだ知りません。 そのルドルフが何を思ったのか、階段で突然嘔吐します。これから起こることを無意識に想像し、もはや無関心ではいられず耐えきれなくなったからでしょうか。エンドロールで流れたガス室の虐殺を思わせる不協和音と悲鳴のような音声も、ルドルフの幻聴を聞かされていたのかもしれません。
【ネタバレ考察②】唐突な現代シーンの意味
ルドルフが嘔吐し、エンドロールが流れる前、唐突に現代のシーンが挿入されます。それは、現在のポーランドにある「アウシュビッツ=ビルケナウ博物館」の内部の様子です。ガス室の中を清掃する人々、積み上げられた大量の靴などが映し出されていました。 この博物館はアウシュビッツ収容所があった場所に建てられたもので、今も当時のアウシュビッツで行われたことを学べる「負の世界遺産」です。大量の靴など虐殺されたユダヤ人の遺品も展示されています。 ここでこのシーンが挿入されたことは、現代の私たちに対する「無関心でいること」の警告のようであり、それをさらにエンドロールでとどめを刺しにきます。
【ネタバレ考察③】エンドロールで流れる音の正体
エンドロールで流れる音の正体は、おそらくガス室で虐殺された囚人・ユダヤ人たちの悲鳴や殺戮を表現する不穏な音。それは前述のように無関心でいられなくなったルドルフが聴いた未来の幻聴のようであり、実際に起こったことを想起されるものでもあります。 本作ほど目で観るより「耳で聴く」ことに重きを置いている映画はあまり類を見ず、その制作意図が最後の最後、エンドロールで強調されているのです。私たち観客に、ヘス家の背景にあるホロコーストを再認識させ、心に爪痕を残すことが一番の目的だったのではないでしょうか。
リンゴを持った少女は誰?白黒の意味をネタバレ解説
劇中には現代シーンの他にももう1つ特殊なシーンが登場しています。それはサーモグラフィ映像の白黒の場面。1人の少女が収容所の周辺を歩きながら、土にリンゴを埋めているシーンです。 ジョナサン・グレイザー監督によると、この少女にはモデルがいるとのこと。ポーランドでリサーチをしている時に出会ったアレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックという実在の人物です。 アレクサンドラは実際に12歳の時、ポーランドでレジスタンスとして活動した経験があり、収容所の人々に密かに食事を運んでいたそう。彼女を人間の善意の象徴としてとらえ、劇中に登場させたようです。
リンゴのシーンはなぜ白黒なのか?
アレクサンドラの登場シーンはすべてサーモグラフィ映像ですが、それはジョナサン・グレイザー監督が照明を使わずに撮影することを決めていたため。夜間でも人をくっきりと撮影できるサーモカメラを使用したそうです。 それ以上に、アレクサンドラを単なる人間ではなく、「エネルギー」としてとらえて映し出したかったことが大きかったよう。彼女を発光しているエネルギーのように撮ることによって、人間の善意を象徴する希望の光として描いています。 また彼女が壁の向こう側に関心を持てる人物として区別し、特殊な場面として観客に自ら考えて理解してもらう意図もあるかもしれません。
映画『関心領域』の問いとは?

本作にはヘス家や近隣のナチス党員の家族など、収容所で行われていることに“無関心を装っている”人々ばかりが登場しますが、その中には“無関心でいられない”人々も存在しています。それが、ヘートヴィヒの母親と生まれたばかりの赤ちゃんです。 母親はヘス家に訪問してすぐ、窓から見える煙や異臭に気付き、鳴り続ける不穏な音にも反応していました。明らかに奇妙な環境に耐えきれなくなり、母親は滞在わずか1日で置手紙を残して家を去ってしまいます。 ヘートヴィヒの赤ちゃんは昼夜問わず異常に泣き続けていました。まるで何かを察知しているかのように。 ルドルフとヘートヴィヒは「裕福で幸せな家族」という体裁に固執しているようにも見え、壁の向こう側のこともお互いの浮気のことも知っていて無視しています。最後にルドルフが嘔吐したように、結局本当の意味で無関心でいることは人間である限り難しく、彼らは「見て見ぬふり」をしていただけでした。
私たちもヘス家になりうるのか?
ロシアのウクライナ侵攻、ガザ地区での戦闘など、いつもどこかで火種がくすぶり続けている現代の世界情勢。戦争のほとんどは土地の奪い合いが発端となっていますが、ナチス・ドイツがポーランド侵攻から世界大戦に踏み込んだのも同様です。 自分とは関係ない「どこかの国の戦争」だと思っているとしたら、ヘス家の人々のように無関心、あるいは見て見ぬふりをしているのかもしれません。確かに直接戦争を体験しない限り、自分事のように関心を持つことは難しいでしょう。 それでも本作を観て関心を持ち、人の痛みを想像することで、少しでも学ぶことはできるのではないでしょうか。
実在した映画『関心領域』のモデル
『関心領域』のヘス夫妻のモデルは、実在のアウシュビッツ収容所所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒであり、映画化にあたりそのまま実名で使われています。ルドルフは終戦後、ニュルンベルク裁判で死刑判決を受け、アウシュビッツ収容所があった場所で絞首刑にされました。 本作の原作はイギリス人作家マーティン・エイミスによる同名小説。小説では強制収容所の所長パウル・ドルが主人公で、ルドルフの妻ハンナとの不倫を目論む将校トムゼンと死体処理係のユダヤ人収容者シュムルの3人の視点から物語が描かれています。
映画『関心領域』キャスト・登場人物解説
ルドルフ・ヘス役/クリスティアン・フリーデル
『関心領域』の主人公であるルドルフ・ヘスは実在の人物で、ナチス・ドイツの親衛隊将校であり、アウシュビッツ強制収容所の所長を務めていました。ユダヤ人を虐殺した罪により、ドイツ敗戦後に戦犯として絞首刑となっています。 演じたのは、ドイツ出身の俳優クリスティアン・フリーデル。2015年の『ヒトラー暗殺、13分の誤算』でも主演を務め、ヒトラー暗殺を計画する実在の反ナチ運動家ゲオルク・エルザーを演じました。
ヘートヴィヒ・ヘス役/サンドラ・ヒュラー
ヘートヴィヒ・ヘスは、アウシュビッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘスの妻。家族とともにアウシュビッツを取り囲む「関心領域」に移り住み、アウシュビッツで虐殺が行われている間も隣で平和な暮らしを続けていました。 演じたのは、ドイツ出身の俳優サンドラ・ヒュラー。2023年にはカンヌ国際映画祭でパルムドール、アカデミー賞で脚本賞を受賞した『落下の解剖学』で主演を務め、国際的にも大きな注目を集めています。
映画『関心領域』監督・スタッフ解説
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
『関心領域』の監督・脚本を務めたのは、イギリス人監督ジョナサン・グレイザー。大学で舞台芸術を学んだ後、舞台や映像制作の現場でCMやMVを手がけていました。長編映画の監督としてデビューしたのは2000年の『セクシー・ビースト』で、『関心領域』は前作「アンダー・ザ・スキン」から10年の月日をかけて挑んだ作品です。 2024年3月に開催された第96回アカデミー賞では、作品賞・監督賞・脚色賞など主要賞を含む5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞を受賞しました。
映画『関心領域』が突きつける問いをネタバレ考察しました

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