2025年2月24日更新

映画『ブルータリスト』をネタバレ解説!ラストでラースローは報われた?スピーチの意味・実話なのかを考察

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映画『ブルータリスト』のあらすじ・作品概要

公開年 2025年2月21日
上映時間 215分
メインキャスト エイドリアン・ブロディ , ガイ・ピアース , フェリシティ・ジョーンズ
監督 ブラディ・コーベット

『戦場のピアニスト』(2002年)のエイドリアン・ブロディホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートを演じ、第97回アカデミー賞で10部門にノミネートされている『ブルータリスト』。 2024年度の賞レースでは第81回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞、第82回ゴールデングローブ賞で作品・監督・主演男優賞の3冠を獲得している、アカデミー賞大本命の注目作です。

映画『ブルータリスト』のあらすじ【ネタバレなし】

第2次世界大戦のホロコーストを生き延びたものの、妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)と引き離されてしまった建築家ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。 家族と新しい生活を始めようとアメリカへ渡ったラースローは、そこで実業家のハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)と出会います。 ラースローのハンガリーでの実績を知ったハリソンから、長期雇用での設計・建築を依頼されますが、異文化の地アメリカでの作業は困難を極めるのでした。

タイトル『ブルータリスト』の意味・由来

タイトルの『ブルータリスト』は、“荒々しい”という意味の「Brutal」と接尾辞の「-ist」を合わせた言葉であり、建築様式の「ブルータリズム」が元になっています。ブルータリズムは1950年代から出現した建築様式で、コンクリートを多用し装飾を排した簡素で大型の建築物がその特徴です。 まさに荒々しさがブルータリズムの代名詞であり、ここにラースローの建築への情熱が込められているよう。接尾辞のistは~主義者や専門家といった意味があります。

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【ネタバレ】映画『ブルータリスト』の結末までのあらすじ

【起】ホロコーストを生き延びて渡米したユダヤ人建築家ラースロー・トート

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

1940年代、ナチスによるホロコーストを生き延び、移民としてアメリカへ渡ったラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)とは離れ離れになっており、ラースローは1人移民船でアメリカに上陸します。 いとこのアッティラ(アレッサンドロ・ニヴォラ)に会うためフィラデルフィアへ向かい、彼からエルジェーベトの生存を伝えられて歓喜するラースロー。移民船で友人となったゴードン(アイザック・ドゥ・バンコール)とともにアッティラの家に滞在することになり、彼の家具ビジネスを手伝うことになります。 アッティラは建築家であるラースローに依頼者のハリー(ジョー・アルウィン)を紹介。ハリーは実業家ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)の息子であり、これがラースローとハリソンが出会うきっかけになりました。

【承】ラースローに仕事と家族を取り戻すチャンスを与えたハリソン

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

アメリカでの最初の仕事は上手くいかず、数年後にはラースローは街の教会に住まいを移し、ヘロイン中毒に陥っていました。ところが驚いたことに、ハリソンから新しい仕事を依頼されます。ラースローのハンガリーでの建築家としての業績を知り、彼を長期雇用しようと考えていました。 ラースローはハリソンの家のクリスマス・パーティに招待され、ゲストの前で自分のバックグラウンドを語り、彼が目指す建築様式「ブルータリズム」が戦時中いかに浸食を耐え抜いたかを議論しました。ハリソンはゲストを集め、母マーガレットに捧ぐコミュニティセンターの建築をラースローに依頼することを報告します。 ラースローは同じくヘロイン中毒に陥っていたゴードンをこの仕事のクルーに加え、プロジェクトをスタートさせます。一方、ハリソンは弁護士を雇って、エルジェーベトとジョーフィアをアメリカへ呼び寄せようとしていました。

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【転】家族との再会と進まない建築作業

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

タイトルの『ブルータリスト』は、“荒々しい”という意味の「Brutal」と接尾辞の「-ist」を合わせた言葉であり、建築様式の「ブルータリズム」が元になっています。ブルータリズムは1950年代から出現した建築様式で、コンクリートを多用し装飾を排した簡素で大型の建築物がその特徴です。 まさに荒々しさがブルータリズムの代名詞であり、ここにラースローの建築への情熱が込められているよう。接尾辞のistは~主義者や専門家といった意味があります。

1953年、ラースローはついに妻エルジェーベトと姪ジョーフィアに再会。しかしエルジェーベトは骨粗しょう症のため車椅子生活に、ジョーフィアは話すことが出来なくなっていました。 コミュニティセンターの建設中も、ハリソンが雇ったレスリー・ウッドロウ(ジョナサン・ハイド)とは衝突が絶えず、別のデザイナーが介入したせいでラースローのアイデアから逸脱。建築資材を運ぶ列車の事故もあり、怒ったハリソンは建築チームを解散させてしまいます。 ジョーフィアは渡米後もしばらく口がきけない状態でしたが、再び話ができるようになり、ビンヤミンという男性と結婚しました。ジョーフィアは妊娠5カ月を迎えており、エルサレムに移住することをラースローとエルジェーベトに告げます。 ジョーフィアがエルサレム移住を決めた一方、ハリソンが再び建築作業を再開させてラースローは仕事に戻りました。ラースローはハリソンとイタリアへ出向き、大理石を購入。その晩、ヘロイン中毒で弱っていたラースローは支配欲にかられたハリソンにレイプされてしまいます。

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【結末】予想外のラスト!ハリソンの行方とラースローの凱旋

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

イタリアの晩以来、ラースローは作業員たちに攻撃的になっていきました。マンハッタンへエルジェーベトと戻る途中、アメリカは移民に対して差別的だと愚痴をこぼします。その日の夜、痛みに苦しむエルジェーベトのため薬を探しますが、その場所を知っていたのはジョーフィアだけでした。 痛みを和らげようとヘロインを注射しますが、エルジェーベトはオーバードーズを起こし、ラースローは慌てて彼女を病院へ。意識が戻るまで側についていましたが、もはや彼女はジョーフィアと一緒に暮らしたいと願うのみでした。 エルジェーベトはハリソンの家に乗り込み、夫をレイプしたことを告発。ハリソンは否定し、ハリーはエルジェーベトを部屋から連れ出しました。そのままハリソンは姿を消し、行方不明に。ハリーは捜索隊を率いて敷地内を探しますが、見つけることはできませんでした。 1980年、ベネチアで開催された建築ビエンナーレのイスラエル・パビリオンでラースローの功績を称える展示が行われました。エルジェーベトはすでにこの世を去って久しく、ジョーフィアが成人した娘と年老いたラースローとともに参加し、おじの仕事と人生を振り返るスピーチを行ったのでした。

【解説】ラストのスピーチが意味する「目的地」とは?

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

ジョーフィアはスピーチで、ラースローが手がけたハリソンのコミュニティセンターの造形が、いかに強制収容所に似ていたかを語りました。これはラースローのトラウマが彼の「ブルータリズム」を形成したことを示しています。 そしてスピーチの最後を、「人があなたに何を売りつけようとも、重要なのは旅ではなく目的地なのです」という言葉で締めくくりました。これは、ジョーフィアがエルサレムに移住して母親としても最初の年にラースローが彼女に贈った言葉。ユダヤ人がイスラエルに移住する行動は「アーリヤー」と呼ばれ、聖地と故郷への帰還を意味する政治運動「シオニズム」と結びついています。 ナチスから逃れ、新天地アメリカへ移住したものの、そこは変わらず金と力がものをいい、差別が蔓延る土地でした。ラースローたちが自分たちのアイデンティティを求めた結果、イスラエルという目的地にたどり着いたのは運命だったのかもしれません。

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【考察①】『ブルータリスト』におけるアメリカン・ドリーム

本作の主人公であるラースローは、ホロコーストをなんとか生き延びたユダヤ人です。彼は、新たな人生を求めてアメリカへわたりますが、努力次第で誰でも平等に成功できるというアメリカン・ドリームとはかけ離れた人生を送ることになりました。 本作で特に焦点となっているのは、自由の国アメリカに根付く差別意識と、世界一の経済大国へと繋がる大量生産や商業主義です。 ラースローのパトロンでもあるハリソンや彼の友人たちは、すでに著名な建築家であったラースローやオックスフォードを卒業した彼の妻を、ただホロコーストを生き延びた可哀想なユダヤ人として扱おうとします。こうした態度からは、移民に寛容とされるアメリカにおける、受け入れる側の無意識的な階級意識が伺えます。 また、経済的成長の最中にあったアメリカでは、利益の追求が何よりも重視されており、この点について、芸術家・ラースローとパトロン・ハリソンは度々衝突。こうしたラースローの内に宿された葛藤が、「荒々しさ」の名を冠するブルータリズムという建築様式に現れていると考えられます。 ラースローが最終的に作り上げたコミュニティ・センターは、強制収容所を模しているだけではなく、移民として受け入れられない彼の孤独や、商業主義への反発を象徴しているのではないでしょうか。

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【考察②】ハリソン・ヴァン・ビューレンの最後は?

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

ハリソンはラースローに仕事を与え、家族をアメリカに呼び寄せるため尽力した、いわば恩人。しかし彼に対する支配欲が露呈した結果、力尽くで彼をレイプするという行為を犯してしまいました。 この行為はいわばナチスと同じような権力の暴走であり、決して許されるものではありませんでした。エルジェーベトはハリソンにこの件で詰め寄り、家族と同僚の前で暴露し、その結果ハリソンはその場から忽然と姿を消します。 ハリーが捜索しますが、ハリソンがどうなったかは明確に描かれず、そのままエピローグに突入。ハリソンの行方は観客の想像に委ねられています。予想できるのは自殺したか、恥じ入ってそのまま逃走し、別の地で新たな人生を始めたか、いずれにしても罪を認めず「逃げ出した」ことに変わりはないようです。

【実話?】ユダヤ人建築家・ラースローは実在する?

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

本作の主人公ラースロー・トートは実在の人物ではなく、この物語はフィクションですが、モデルに近い人物は存在しています。それは、ブルータリズムの先駆者として知られる建築家マルセル・ブロイヤーです。 ブロイヤーはハンガリー出身のユダヤ人で、モダニズム建築を推進したドイツの美術学校「バウハウス」出身の建築家。1930年代にドイツでナチスが台頭するとイギリスに移住し、1944年にアメリカの市民権を取得しました。 代表的な建築物はパリのユネスコ本部や旧ホイットニー美術館など。ラースローとの共通点は他にも、妻との関係性やアメリカで経験した反ユダヤ主義も挙げられます。ブルータリズムは70年代のポストモダニズムの台頭で衰退しましたが、近年改めて再評価されていました。

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映画『ブルータリスト』の海外評価・感想

ブルータリスト
ブルータリスト』の総合評価
4.5 / 2人のレビュー
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30代男性

215分と3時間半近くもある大作で、途中15分のインターミッションもありますが、それすらも作品の一部!時間を忘れるほどの圧倒的な映像と音響、情熱たぎる建築家ラースロー・トートの半生を見せつけられます。

吹き出し アイコン

40代女性

ホロコーストを直接描くわけではなく、アメリカンドリームを追う移民が体験するカルチャーギャップを描きつつ、背景にホロコーストの爪痕も残している。あらゆる意味で野心的で型破りな作品です。

映画『ブルータリスト』のキャスト・登場人物

ラースロー・トート役/エイドリアン・ブロディ

ユダヤ人大虐殺のホロコーストを生き延び、アメリカンドリームを追って渡米したハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート文化やルールの違いに直面しながらも、情熱的に家族と建築に向き合います。 演じるのは、『戦場のピアニスト』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ。近年は『アステロイド・シティ』(2023年)などウェス・アンダーソン監督作に出演しています。

ハリソン・ヴァン・ビューレン役/ガイ・ピアース

『ブルータリスト』
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ラースローの輝かしい実績と才能を買って仕事を依頼するアメリカの実業家ハリソン・ヴァン・ビューレン。演じるのは、『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)や『メメント』(2000年)で知られるガイ・ピアースです。

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エルジェーベト・トート役/フェリシティ・ジョーンズ

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

ラースローの妻エルジェーベトを演じるのは、『博士と彼女のセオリー』(2014年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ジョーンズです。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)の主人公ジン・アーソ役でも知られています。

ハリー役/ジョー・アルウィン

ハリソンの息子ハリー・ヴァン・ビューレンを演じるのは、イギリス出身の俳優ジョー・アルウィンです。『女王陛下のお気に入り』(2018年)や『憐れみの3章』(2024年)などヨルゴス・ランティモス監督作に出演しています。

ジョーフィア役/ラフィー・キャシディ

『ブルータリスト』
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

ラースローの姪ジョーフィアを演じるのは、イギリス出身の俳優ラフィー・キャシディです。ブラディ・コーベット監督の『ポップスター』(2018年)では、ナタリー・ポートマン演じる主人公の娘役で出演しています。

映画『ブルータリスト』の監督・脚本はブラディ・コーベット

本作の監督を務めるのは、アメリカ出身のブラディ・コーベット。俳優や声優として活動した後、2016年に脚本・製作も務めた『シークレット・オブ・モンスター』で監督デビューを飾りました。 『シークレット・オブ・モンスター』では第72回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門で監督賞・初長編作品賞を受賞。ナタリー・ポートマンを主演に迎えた『ポップスター』でも監督・脚本・原案を担当し、若くして富と名声を手にしたポップスターの数奇な半生を描きました。 コーベットは若干38歳、新進気鋭の鬼才とされ、シニカルで過激な作風が特徴。本作でその才能が開花したのは間違いなさそうです。

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映画『ブルータリスト』の公開日は2025年2月21日

3時間半という長時間ながら、圧巻の構成と演技で情熱をたぎらせる話題作『ブルータリスト』。日本での劇場公開は2025年2月21日から!ぜひ劇場でラースローの半生を追いかけてみてください。