【城定監督に聞く】『名無し』制作秘話ー佐藤二朗のセリフがほとんどないのはなぜ?
鬼才・佐藤二朗さんが映画化を見据えて執筆しながらも、過激なテーマゆえにお蔵入り寸前だったオリジナル脚本「名無し」。永田諒さんの作画で漫画化されると大きな反響を呼び、ついに映画化が実現しました。 佐藤さん自ら“名無し”こと山田太郎を演じ、丸山隆平さん、MEGUMIさん、佐々木蔵之介さんが共演。メガホンを取ったのは、ジャンルを問わず作品を量産する実力派・城定秀夫監督です。 サイコバイオレンス『名無し』は、2026年5月22日(金)より全国公開されています。 ciatr編集部では、城定秀夫監督に独占インタビューを実施。佐藤二朗さんとの共同脚本の進め方から、映画独自の“消えるルール”の設定、セリフを削ぎ落とした演出意図、バイオレンス描写に込めた倫理観まで、制作の裏側をたっぷりと伺いました。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
タップできる目次
- 映画『名無し』作品概要・あらすじ
- 【原案の印象】斬新な発想に惹かれて
- 【佐藤二朗との共同脚本】「監督の思うようにやってくれ」
- 【原作からの脚色】映画独自の“消えるルール”
- 【セリフを削ぎ落とす】不気味さを“表情”で見せる
- 【“右手”の設定】タイトル『名無し』と能力をリンクさせる
- 【巡査・照夫役/丸山隆平】裏表のない“いい人”
- 【山田花子役/MEGUMI】原作とは違った花子の魅力
- 【刑事・国枝役/佐々木蔵之介】台本を読み込むストイックさ
- 【子役のキャスティング】『ふつうの子ども』からの急遽オファー
- 【頭を剃るシーン】“変な髪型としか表現できない”狙い
- 【バイオレンスの倫理観】描かないことで成立させる
- 【アクションシーン】CGに頼らない“生”の迫力
- 【花子とのラブシーン】かつてないグロテスクな“濡れ場”
- 【映像表現】過去はアンバー、現代は冷たく
- 【影響を受けた作品】『悪魔のいけにえ』のような後ろめたい楽しさ
映画『名無し』作品概要・あらすじ
| 公開 | 2026年5月22日(金)全国公開 |
|---|---|
| 原作・脚本・主演 | 佐藤二朗 |
| 漫画 | 永田諒 |
| 監督 | 城定秀夫 |
| 出演 | 佐藤二朗 , 丸山隆平 , MEGUMI , 佐々木蔵之介 ほか |
| 配給 | キノフィルムズ |
| 公式サイト | 公式サイトはこちら |
ファミリーレストランで白昼の連続殺人が起こります。防犯カメラが捉えたのは、凶器を手にしていないように見える坊主頭の中年男。 容疑者として浮かび上がったのは、11年前に万引きで補導された山田太郎でした。やがて彼の自宅からは、腐乱した女性の遺体が見つかります。名もなき怪物と化した男の希望と絶望、そして狂気を描く、謎とタブーに満ちたサイコバイオレンスです。
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【原案の印象】斬新な発想に惹かれて

Q. 原作をお読みになった際の感想についてお聞かせください 城定監督 専業の脚本家が書いたものではないので、第一印象としては「ちょっと変わった本だな」と思いました。ただ、発想にはすごく斬新なものがあって。ここから直していけば「面白いものになるんじゃないかな」という感じで受け取りましたね。
【佐藤二朗との共同脚本】「監督の思うようにやってくれ」

Q. 本作は佐藤二朗さんとの共同脚本ですが、密にコミュニケーションを取りながらの制作だったのでしょうか 城定監督 そうですね、都度都度集まって、最終的には僕のほうでも筆を入れさせていただく、という形でやりました。佐藤さんは原作・脚本・主演という立場で、僕もそういう形で俳優と関わったことがなかったので、「どうなるのかな」という思いはありました。感覚も考えていることも僕とは違う人ですから、細かいところで軋轢があると嫌だな、という不安はあったんです。 でも佐藤さんが最初に「監督の思うようにやってくれ」と言ってくださって。脚本ではもちろんぶつかり合いもいくつもありましたが、現場はその意味ではスムーズでした。かといってまったく相談しないわけでもなく、わからないところはお互い聞き合ったり。 ふたりとも解釈をガッチリ決めていたわけではないので、現場で「これはどっちなんでしょうね」と話し合いながら、だんだん出来上がっていった感じですね。
【原作からの脚色】映画独自の“消えるルール”
Q. 原作からの脚色で重要視されていた部分についてお聞かせください 城定監督 変化を見たいなら、漫画が最初の脚本にかなり近いですね。もちろん漫画家さんがアレンジしているところもありますが、最初にいただいた脚本をもとに漫画を描いていて、映画はそこから別で進めていったので、違いがはっきり出ています。漫画と映画を見比べると、それぞれの魅力があって面白いと思います。 大きく変わった点としては、“消えるルール”のような設定です。今SNSでも話題になっていますが、あれは映画のほうでつけさせていただいた設定で。それを軸に直していくと、自然と脚本がこういう形になっていきました。
【セリフを削ぎ落とす】不気味さを“表情”で見せる

Q. 山田太郎のキャラクター造形や、原案からセリフを削った演出意図についてお聞かせください 城定監督 セリフ数を減らしたのが、一番最初のほうの変更点です。漫画では意味のないことをべらべら喋る、訳のわからないキャラクターのようになっていたのですが、それよりも、もっと不気味な感じを違う形で出したいという思いが、最初に本を読んだときにあって。 だから最初の発注としては「セリフを全部落としたほうがいいんじゃないですかね」というところから始まっています。 佐藤さんは台詞でバーッと言う魅力もありますが、表情で見せることにもすごい凄みがある方なので、そこで押していきたいなと考えました。脚本でセリフを削るのはその狙いなので脚本段階の話ですが、どういう表情にするかは都度都度です。 基本的には佐藤さんが作ってきたものを、僕がどう撮るか考えるやり方で。キャラクターの内面までは口を出さず、もう佐藤さんが山田太郎そのものという考え方ですよね。「山田太郎はこんなことしない」といったことは、僕がわかる領域ではないのかもしれない、という感覚はありました。
【“右手”の設定】タイトル『名無し』と能力をリンクさせる

Q. 映画ならではの要素として右手の設定がありますが、こだわりについてお聞かせください 城定監督 最初の台本では、バットで殴る、刃物が振っている間にパカパカと見える、というように、たまに凶器が見えたりするものでした。それも面白いと思ったのですが、ルールを決めないと、いつでもこちらが恣意的にできてしまって、観ている方も面白くない。だからちゃんとルールを作りましょう、と。 鏡など映るものには虚像として映る、というルールを決めたのと、一番大きいのは「名前が見えないものは消えない」という設定です。最初に台本を読んだとき、『名無し』というタイトルがどこにかかっているのかよくわからなくて。 名前がモチーフとして出てきているのに、太郎の能力とはあまり関係ないんじゃないか、と。ここを何とかリンクさせたほうがいいと僕のほうから提案して、最終的にこういう形になりました。
【巡査・照夫役/丸山隆平】裏表のない“いい人”

Q. 丸山隆平さん演じる巡査・照夫役の造形についてお聞かせください 城定監督 このキャラクターは、作中で一番裏表がなくて。メインのなかではすごくいい人で、そのままいい人、という感じなんですね。その意味では丸山さんそのものという感じなのですが、そのなかにちょっといい加減なところや軽いところが出ればいいかな、という思いで作りました。
【山田花子役/MEGUMI】原作とは違った花子の魅力

Q. MEGUMIさん演じる山田花子役の造形や印象についてお聞かせください 城定監督 原作とはそもそも太郎の設定が全然違うので、花子も違わざるを得ないというか。こちらは想像する期間が何十年とあって、原作はもっと若いですからね。だから原作の設定にはあまり引っ張られないでくれ、という感じでした。 MEGUMIさんは世の中では美のカリスマという印象なのに、こういう役をやってくださる。「本当にやってくれるのかな」という思いもあったのですが、すごく熱の入った感じでこの役を演じてくださって、感動しました。
【刑事・国枝役/佐々木蔵之介】台本を読み込むストイックさ

Q. 佐々木蔵之介さん演じる刑事・国枝役の印象についてお聞かせください 城定監督 すごくストイックで素敵な役者だな、と思いましたね。これぐらいのベテランだと、そんなに台本を読み込まなくてもできてしまう余裕がある方かなと思っていたのですが、すごく台本を読み込んでくださって。本当にセリフの細かいところで「ちょっとここがわからないんですけど」と聞いてくださる。そういう関わり方をしてくれて、すごくいいなと思いました。
【子役のキャスティング】『ふつうの子ども』からの急遽オファー

Q. 子役のキャスティングで印象的だったエピソードをお聞かせください 城定監督 基本的に子役はオーディションです。子ども時代の山田太郎を演じた和彦くんは、写真の段階で「この人かな」という思いがあって。会ってみたら、やはり普通の子どもとは違う雰囲気があって、「この子しかいない」という感じでした。

もうひとり、嶋田鉄太くんもオーディションなのですが、オーディション期間中にちょうど『ふつうの子ども』という映画がやっていて。観終わって「すごい役者がいる」と思い、プロデューサーに「嶋田鉄太くんどうですかね」とメールをしたら、プロデューサーも「いいですね」と。 「ちょっと年齢が合わないかな」とも思ったのですが、急遽オーディションに入ってもらって、嶋田さんになりました。『ふつうの子ども』からは、ほかにも何人か急遽お声がけしました。
【頭を剃るシーン】“変な髪型としか表現できない”狙い

Q. 山田太郎が頭を剃るシーンは『タクシードライバー』を意識されたのでしょうか。また、髪型の演出意図についてお聞かせください 城定監督 そう言われると、なんとなく僕も思いましたが、そんなには意識していなくて。撮りながら「『タクシードライバー』っぽいな」と思ったくらいで、それまでは気づいていませんでした。

髪型は、最初は坊主でいいかという話があったのですが、佐藤さんのほうから「かわいそうな感じにしたい」と。坊主だと普通にある髪型だから「何かない髪型がいい」とおっしゃって。 「じゃあ虎刈りですか」という話になり、「名前があっちゃいけない」というようなことも言い出して(笑)。「それは難しいな」となりながら、この髪型に落ち着きました。言うなら「変な髪型としか表現できないようにしたい」という狙いでしたね。
【バイオレンスの倫理観】描かないことで成立させる

Q. 山田太郎の倫理観のバランスについて、演出意図をお聞かせください 城定監督 太郎が子どもも手にかけているという設定はあってもいいけれど、それは絶対に表に出したくないところでした。元々は、見境なく手にかけるというキャラクターだったんです。そのあたりは調整しながら、直接的な描写はもちろん表に出さない。手にかけた事実そのものを表に出さなければいい、という形で、佐藤さんとしっかり話し合ってやりました。
【アクションシーン】CGに頼らない“生”の迫力
Q. 右手を使ったアクションシーンの演出意図や撮影秘話についてお聞かせください 城定監督 アクションシーン、商店街のシーンも、台本には「商店街で暴れる」くらいしかト書きが書かれていないなかで、僕としてはそこが見せ場だなと。全体を通して、この不条理スラッシャーのような、あまりジャンル分けできない作品の、本当にスラッシャーの面白さで見せる部分を作りたいと思っていたので、アクション部とも相談しながら一生懸命作っていきました。 なるべくCGを使ったものよりは生っぽいほうがいいので、現場でポンプを使ったり指示を出したりと、「その方向で出来る限りやろう」というやり方で進めました。
【花子とのラブシーン】かつてないグロテスクな“濡れ場”

Q. 山田太郎と花子の切ないラブシーンについて、撮影秘話があればお聞かせください 城定監督 これはもう本当に、感情をぶつけ合ってやってくれれば、動きとか細かいことは気にしないので、「やってみてください」というところでしかなかったんです。ふたりの熱がぶつかり合って、仕上がりを見て、これは想像以上にグロテスクな濡れ場だなと思いました。今まで撮ったことのないような濡れ場で。僕も数百の濡れ場を撮ってきていますが、今回はかつてないものが撮れたと思っています。
【映像表現】過去はアンバー、現代は冷たく
Q. 過去描写は温かみのある質感、絶望後は冷たい質感でしたが、その演出意図についてお聞かせください 城定監督 過去はちょっとアンバーの感じで、現代は冷たい質感の映像で。それははっきりした狙いでやっています。あとは過去は昭和なので、美術など細かいところをスタッフが本当に頑張って表現してくれました。細かいことを言うと、そこら中でみんながタバコを吸っている、といったことも含めてですね。
【影響を受けた作品】『悪魔のいけにえ』のような後ろめたい楽しさ

Q. スラッシャー映画として影響を受けた作品があればお聞かせください 城定監督 僕は『悪魔のいけにえ』みたいになればいいな、と準備中からずっと言っていました。尺もぴったり『悪魔のいけにえ』と同じ82分で。細かい理屈よりは、何か不条理な不気味さと、人が手にかけられていくのを楽しんで観てしまう、後ろめたい楽しさのようなもの。人間が映画に求めている原罪のようなものですよね。 ちょっと後ろめたいながらも面白いと思ってしまう。後から「これ何だったんだろうな」と——そんなふうになればいいな、と考えていました。
▼取材・文:増田慎吾


